第710話 友情と恋愛の狭間の争い
【視点:エミリア】
レイを見送った後、私エミリアはカレンと一緒にテーブルを囲んでお茶会を開いていました。
「お茶はアールグレイでいい?」
「ええ、お願いします」
私の言葉を聞いて、カレンは二人分のお茶を淹れてくれます。そして、私達二人はそれぞれ椅子に座って話を始めました。
「エミリアとこうして内緒話をするのは久しぶりね」
「ですね……カレンは意識を失ってたので期間が開いてしまいました」
「……でもこうして戻ってこれたわけだし、これから皆の役に立てるように頑張るわ」
「そんなに気にしなくてもいいのに……体調は問題なさそうですか?」
「身体に圧し掛かってたモノは殆ど消えた感じ。だけどノルンが言うには呪いの完全解呪まではいってないから再発の危険性は僅かながら残ってるって話……ちょっと心配ね」
「もし兆候があったら今度はちゃんと話してくださいね。前回、貴女が突然意識を失った時、皆、死にそうな顔をしてたんですから……」
「それは……ゴメン……」
カレンは申し訳なさそうに頭を下げました。
「別に怒ってませんよ。ただ、あの時貴女が倒れた時、私も含めて皆が皆ショックを受けたという事だけは覚えておいてください。特に、サクラの落ち込みっぷりは見てられませんでしたよ……」
「……分かったわ。サクラにもちゃんと謝っておかないとね。それと、ありがとう……」
「私はお礼を言われるようなことはしてませんけどね……皆を立ち直らせてくれたのはレイですし……」
私はテーブルの上に置かれたティーカップを手に取り、アールグレイの香りを楽しむ。……うん、とても良い香りです。
「それでエミリア……そろそろ本題に入りたいんだけど?」
「ええ……カレンが聞きたいのは、多分こういう話ですよね」
私は一旦言葉を区切って、呼吸を整える。
「”私とレイが何処まで進展してるか?”……って話で合ってます?」
「……うん、合ってる」
カレンは恥ずかしそうに顔を俯かせました。顔を赤らめてるカレンは、女の私から見ても本当に可愛いですね。ちょっとムカつきます。
「気になってるみたいだから表明しておきますが、私は以前レイから告白を受けています。そして私も一応後から了承しています。ここまではOK?」
「それはまぁ、何となく気付いてたけど……」
「……ただ、それ以降全く進展はありませんね……というのも、レイの方が誰かさんの方にご執心って感じで、全く私への扱いが雑なので」
「誰かさんって、誰よ……」
「本当、誰でしょうね……」
私はジト目で彼女を睨んでから、視線を外して窓から空を眺める。空に流れる雲をゆっくり眺めながら、以前にレイに告白された時の事を思い出す。
『僕はエミリアの事が好きなんだ。仲間としてだけじゃなくて、気になる異性としてエミリアの事が……』
あの時のレイは顔を真っ赤にして可愛かったです……。その少し前は彼のちょっと男らしい部分も垣間見えてドキドキしてました。
「……何、ニヤけてるのかしら。私に対してマウントでも取りに来たの?」
「そういうわけじゃないですよ。ちょっとレイに告白された時の事を思い出してただけです」
「やっぱりマウント取りに来てるじゃない……羨ましい話ね……」
「違いますって……。っていうか、カレンも気持ちを全然隠そうともしなくなりましたね。前は『エミリアのお気に入りを私が取るわけにはいかないでしょ~?』とか意地悪な笑みを浮かべながら、自分はさも興味ありませんとか言いたげだったのに」
「う……それは……」
カレンは言葉を詰まらせた後、誤魔化すようにアールグレイの紅茶を一口飲んでから、ゆっくりと話を続ける。
「……もう、認めるわ。私、
「……友人がまさかの恋敵になってしまうとは……これでレベッカに続いて二人目……いや、ベルフラウとルナを含めれば四人ですか……」
「……レイ君、意外とモテるわよね。やっぱりあの子の人柄かしら」
「私としては、男の子にしては女々しいところがお気に入りだったんですが……カレンはアイツのどういう所が好きだったんです?」
「……私を……抱きしめてくれた時が切っ掛けかしら」
「……は?(ピキッ)」
思わず指に力が入って紅茶のカップにヒビが入ってしまいました。
「……それに、一緒にベッドで寝た時も、寝顔がとっても可愛らしくて……」
「待て待て待て、待ってください! もしかして、私が想像してるよりずっと進んでたりしたんですか!?」
「ど、どうしたの!? そんな怖い顔になって……」
「いや、だって抱きしめたとか、寝たとか、どうみても私より関係進んでるじゃないですか!!」
「え……? あ………!!」
カレンの顔がどんどん赤く染まっていきます。
今になって自分の言ったことの意味に気付いたようです。
「ち、違うのよ!? 一緒のベッドで寝たのは、貴女がレイ君と宿泊部屋を取り替えたのが理由だし、抱きしめてもらったのは、落ち込んでた私を慰めてもらった時の話!! 別に、そんな変な意味じゃないから!!」
「嘘、絶対嘘です!! 実は内緒でレイとアレコレよろしくやってるんでしょ!? この泥棒猫!!!」
「はぁ!? アレコレって何よ?」
「そりゃあ、アレですよ。ベッドの上で―――」
「言わなくていいわ、分かったから!!」
「……で、本当に何もやってないんですか? 今の間に言っておいた方が良いですよ?」
「う……別に、そんな大したことは……」
カレンは顔を真っ赤にしながら、テーブルに身を乗り出して私の耳元でゴニョゴニョと呟きます。
「(ゴニョゴニョ)」
「ふむふむ………なるほど……」
「(コクン……)」
「良かった……そのくらいならセーフ……な、わけないでしょう!?」
「ッ!?(ビクゥ)」
私の声に驚いたのか、カレンはビクッと身体を震わせた。
「全く……貴女が変な事言うからつい大声出しちゃったじゃないですか。大体、私とレイが付き合ってること知っててよくそんな事を……」
「そんな事っていうほど大したことはしてないでしょ……」
ちなみにカレンが何をしたのかは伏せておきます。
「悪いとは思ってるわ、ごめんなさい。でも、付き合ってから進展無かったのは貴女が彼との付き合い方を変えなかったのが理由でしょ?
私もレベッカちゃんもずっと二人を見守ってたのに何の進展も無さそうだったし、アレじゃあレイ君だって可哀想よ。エミリアの事を聞いたら若干落ち込んだ表情を見せることもあったし、少しくらい私がフォローしてあげても良いじゃない」
「うぐ……でも、それは私だけじゃなくてレイが積極的に来ないのが悪いんですよ」
「あの子がそこまで積極的にくる子じゃないくらい分かってるでしょ。私達がリードしてあげるくらいしないと……」
「……全く、レイの彼女でもないのにお節介ですね」
私は椅子から立ち上がり、テーブルを迂回してカレンの隣へ行きます。そして、彼女の肩に優しく手を置きます。
「……エミリア?」
「この際、はっきりさせてみませんか? レイは私とカレン……どっちの方が好きなのかって事を……」
「……!!」
カレンの表情が強張ります。私の言わんとしていることを察したのでしょう。しかし、カレンは私の言葉の意図を察しても頷くことはしませんでした。
「……」
「……知りたくないんですか?」
私は彼女にそう問いかけます。
「……今のままじゃ駄目なの?」
「……え?」
カレンの口から出た予想外の一言に、今度は私が驚きました。私が彼女の言葉の意味を測りかねずに呆然としていると、カレンは静かに話し始めました。
「……恋愛って答えが出ると全てが終わってしまうと思うの。仮にレイ君に答えを出してもらったとして、選ばれなかった方はどうなるの? 次の日、同じように顔を合わせることが出来る? 私はそんなの無理、きっとレイ君ともエミリアとも顔を合わせられなくなっちゃう」
「それは……」
「……だから、私はこのままの関係が続くだけでいいと思ってるの。今の関係を壊してまで答えなんか知りたくない」
「……そう、ですか」
私はそう声を絞り出しながらカレンの向かいの席に戻ります。
カレンの選択は逃げでしかないと思いました。ですが、彼女は臆病だから逃げてるのではなく、その先にあるモノを考えてこの結論を出したのです。
彼女の選択は私にとっては不服ですが、同時に共感出来てしまう話でもあります。
「(……結局、私がレイにはっきりと返事をしなかったのも……カレンと同じ理由なのかもしれませんね)」
レイとの関係が進展しないのは、レイがヘタレなのが理由じゃない。
私も含めてみんな、今の関係が心地いいから……。
「……はぁ」「……はぁ」
カレンと私のため息がシンクロする。
「……ヘタレ」
「……貴女もでしょう、エミリア」
カレンは私にジト目を向けながらそう言いました。
「……何だか馬鹿らしくなってきちゃったわ」
「そうですね、私もです」
私達は互いに見つめ合うと、なんだかおかしくなってきて思わず笑ってしまいました。
「……じゃあ、カレン。少し勝負の内容を変えてみませんか?」
「勝負の内容?」
「ええ……私は、レイがどちらが好きなのか確かめたいとずっと考えてたのですが、貴女と話して考えが変わりました」
「どう変わったの?」
「それが勝負の内容です……。ズバリ、どっちがレイを落とすかの勝負です」
「なっ!?」
カレンの顔が一気に赤く染まる。どうやら彼女はこういう話には弱いらしいですね……。
「勿論、本気で勝負をする以上、お互いズルは無しです」
「そ、それは……」
「どうしますか? 受けますか?」
私はカレンに判断を委ねます。正直言って私に勝算はあるのか微妙な所ですが、彼に惹かれている彼女がどうするのかも気になるのです。
そんな私の思惑を見通したのか、カレンは表情を引き締めて……ゆっくりと答えました。
「そんなの、決まってるじゃない」
カレンはそう言いながらテーブルの先にいる私の方に腕を伸ばして拳を突きつけます。
「……受けて立つわよ、私の恋のライバル」
「……それでこそ、私の友人です。……よろしく頼みますよ」
私も同じように自分の拳を突き出し、カレンの拳と軽くぶつけます。
「さて、そうと決まれば作戦を考えないとですね」
「そうね……それでエミリアはどんな感じで行くつもりなの?」
「私は……ってライバルに言ってどうするんです!?」
「別に良いじゃない。そっちは付き合ってるんだから有利な立場でしょ?」
「そういう問題でも無くて……」
そうして、私達は日が落ちるまでお互いの腹の探り合いをしたのでした。
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