第711話 空の旅
次の日―――
レイ達は準備を整えてから王宮へ集合する。向かう場所はいつもの謁見の間では無く、地下にある転移魔法を使用する為に用意された広間だ。
そこには、大小合わせていくつかの完成された魔法陣が設置されている。
「皆さん、待ってましたよ」
僕達がその部屋に入ると、身支度を整えた王宮魔道士のウィンドさんから声が掛かる。彼女の隣には、カレンさんとサクラちゃんも居る。
「お待たせしてごめんなさい……サクラちゃんも居るんだね」
僕は何故か若干落ち込んだ表情をしていたサクラちゃんに声を掛ける。
「レイさん……よよよ……」
「どうかしたの?」
「昨日、レイさん達がエアリアルに向かうことになって、何故かわたしも道連れにされちゃいました……」
彼女はそう言いながらウィンドさんの方に視線をズラし、泣き真似して抗議する。しかし、当のウィンドさんは彼女の視線をスルーする。
「カレンさんも、昨日は突然ごめんね?」
「う、ううん……全然いいのよ、むしろ私は嬉しかったから……!」
「そう?」
僕の言葉にカレンさんは何故か頬を赤らめて慌てて話し始める。 カレンさんが顔を真っ赤にしているのが気になるが、機嫌は悪く無さそうだ。
「ウィンド様、今日はよろしくお願い致します」
「ええ、よろしくお願いします」
ウィンドさんは、僕達を見て妙に満面の笑みを浮かべて言う。
「昨日カレンから突然連絡があって少し驚きましたが、私は歓迎しますよ。勇者であるレイさんが来るのは都合がいいかもしれません」
「えっと……もしかして、僕、なんか都合よくこき使われたりします?」
「いえいえ、とんでもない。むしろ、私の方こそ貴方には感謝しないといけませんから」
「?」
僕は彼女の言葉に首を傾げる。……なんだか、あまり良い予感がしないのは気のせいだろうか。
「では皆さん、こちらへ」
ウィンドさんは僕達を手招きして歩き出す。そして、一つの大きな魔法陣に案内される。
「この移送転移魔法陣から向かいます」
ウィンドさんはそう言って魔法陣の中に入っていくので僕たちも彼女に続いて中に入る。
「では、忘れ物はありませんね? 一度エアリアルに入国すると丸一日は帰ってこれませんよ」
ウィンドさんがここにいる全員に確認をするが、全員頷く。
「それでは―――転送開始」
ウィンドさんがそういうと魔法陣の周囲が点滅する。
――次の瞬間、僕達は何処かの山の頂上らしき場所に立っていた。
「うわっ、高っ!?」
眼下に広がる景色に僕は思わず声を上げる。僕の視界には広大な緑豊かな大地と遠くに湖が見えた。
「おお……すっごい絶景ねぇ」
姉さんは山の頂上から見る景色を見て喜んでいた。その隣では、姉さんと同じように景色を堪能して目を輝かせているルナの姿もある。
しかし、そんなルナの様子にレベッカとエミリアは疑問に覚えていた。
「ルナ様はこのような光景には慣れているのでは?」
「確かに……」
「え、なんで?」
レベッカの質問にルナは頭を傾げる。
「ほら、ルナはドラゴンですし……」
「雷龍の頃は、自由気ままに空を駆けていたように思えました。ですので、このような光景は日常的に見てらしたのでは……」
「んー、サクライくんと出会うまでの雷龍の時の記憶って曖昧だったから……えへへ……」
「……なるほど」
「ふむ……以前のルナ様は暴走していらしたようでございますし、無理もありませんね……」
エミリアとレベッカは彼女の言葉を聞いて納得する。
「ねぇ、レイ」「ん?」
僕の袖が引っ張られる。下を見ると眠そうな目をしたノルンが僕を見上げていた。
「何、ノルン?」
「魔法都市エアリアルに直接転移するんじゃなくて、何故こんな場所に出てくるの?」
「ああ、そういう事か……直接は転送できないらしいから」
僕は彼女と一緒に空を見上げる。
上空には大きな雲が浮かんでおり、それが陽光を遮っていた。
「あの雲かな……ウィンドさん?」
「ええ、その通りですよ。あの雲の中に私達が向かう魔法都市が隠されています。あの周囲の雲も、魔法都市を隠すために生み出された魔法です」
「雲の中に街が……?」
ノルンは目を細めてその雲を凝視する。
「それでは早速移動しましょうか」
ウィンドさんはそう言うと魔法杖に跨って飛び上がる。
「ここからは飛行魔法を使って直接向かいます。準備は良いですか?」
「あ、待ってください。ルナが<竜化>すれば―――」
「それはダメです。魔法都市の人々に敵襲と勘違いされてしまえば私達は容赦なく攻撃されてしまいます」
「……分かりました」
僕はルナに謝りつつ、ウィンドさんの指示に従って僕達は彼女の後に続く。そして、魔法都市エアリアルが隠された雲の中へと飛び込んだのであった。
◆◆◆
「―――<天候操作>という魔法があります」
飛行魔法で空を飛んで、作り出された雲の中を進む僕達にウィンドさんがまるで魔法の授業を行うかのようにそう語りかける。
「その魔法は、この雲のように天気を魔法で作り出して外界から隠してしまうというものなんです」
ウィンドさんは雲の中を先導しながら説明を続ける。
「しかし、魔力の消費が激しいので、頻繁に使われることはありません。この魔法を使用するにはあまりにも膨大な魔力が必要になるんです」
彼女はそう言いながら何かを見つけるとそれ目掛けて直進する。
「膨大ってどれくらい必要なんですか?」
「魔法使い一人で行使するのは相当難しいとだけ言っておきましょうか」
サクラちゃんの質問に、ウィンドさんは端的に答える。
「……一年間、天候操作を維持するには、成熟した魔法使い百人分の全魔力を換算したくらいの消費量って感じかしらね」
僕に両腕で抱きかかえられていたノルンはポツリとそう声を漏らした。
「ノルン、知ってるの?」
「私が神依木になってた時、本来冬の気候が存在しないフォレス大陸が異常気象で、半年間は雪が降り続けてたことがあったの。
そのせいで作物は育たず、国民は飢えに苦しんでね……だから私はその異常気象を解決する為に、ため込んでいた魔力を解放して、フォレス大陸の周りだけ通常の状態に戻したの」
「へええ……でも、百人分って……」
「あくまで一年間維持させるための魔力よ。普通の人間の状態だったら無理だったわ。魔法で自然現象を具現化するのはそれくらい難しいって事よ」
僕達がそんな話をしていると、ウィンドさんがピタリと止まる。
「ここです、皆さん」
そう言って彼女が指さす先には、大きな雲の切れ目があった。その向こう側には何か浮かんだ巨大なものが見え隠れしている。
「今から雲を吹き飛ばしますので、少々お待ちください」
彼女はそう言うと杖の先端から緑の光が放たれる。すると、そこから圧力のある強烈な風が発生して雲を一気に吹き飛ばす。
その先には、大地の一部が切り離されたかのように浮かび上がった小島があった。その小島の上には、まるで巨大な山のように都市が存在していた。
「あれが……魔法都市エアリアル……」
僕は目の前の光景に息を吞む。その都市は、地上の王都に比べると随分と時代が進んでいるように見えた。
「行きましょう、あれが私達の目的地です」
ウィンドさんはそう言って僕達よりも先にエアリアルへと飛んでいく。僕達も彼女の後を追って魔法都市へと向かうのであった。
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