第709話 女子会から追い出されるレイくん

 カシムさんと別れた後、僕は足早に宿に戻って、昼食の際に皆に声を掛けて話すことにした。


「明日、カレンさんと一緒にエアリアルに行くよ」


 僕がそう一言告げると、姉さん達は驚いた表情をした。


「……なんで?」


「……あ、うん。皆は会議に参加していなかったから事情が分かんないよね。今、説明するよ」


 ロクな説明もせずに本題に入ったことを反省して改めて会議で陛下に聞いたことを説明する。そして、自分の意思でカレンさんを手助けする為に付いていくことを決めた事を告げる。


「なるほど……いいんじゃないかしら?」


「ふむ……カレン様はまだ復帰したばかりでしょうし、レイ様のお気持ちも分からなくはないです」


 一応、僕の提案は受け入れてくれそうだ。


「ただ、私達はその国の事何も知らないから、邪魔になったりしないかな?」


「それは……」


 ルナの疑問に即答できずに言葉に詰まってしまった。すると、エミリアが彼女の頭に手を当てて言った。


「まぁいいじゃないですか、ルナ」


「エミリアちゃん」


「私も魔法都市エアリアルには一度行ってみたいと思ってましたし、この世界の事を学ぶにはいい経験になると思いますよ。ルナだって興味が無いわけじゃないでしょう?」


「う、うん……話で聞いてると凄そうな場所だよね。街が空に浮かんでるんでしょ? まるでおとぎ話みたい……」


「……そうね、私も興味はあるわ」


 ルナだけじゃなくて眠そうな顔をしていたノルンも肯定的な反応を示す。


「レイくん、魔法都市エアリアルはいつ出発する予定なの?」


「陛下とカレンさんのやり取りを聞くかぎり、明日の午後から転移魔法と飛行魔法を併用して向かうって言ってたよ。だけど……」


「だけど?」


「……冷静に考えると、カレンさんにまだ許可貰ってないんだよね。『僕達も連れてってほしい』って言ってこなくちゃ」


「なら、今から許可を取りに行きましょうか」


 エミリアはそう言いながら膝に乗っけていたとんがり帽子を被る。


「一緒に来るの?」


「ええ、今日一緒に薬の運搬を手伝ってくれたお礼を言うのを忘れてましたからね」

 

 エミリアと僕は椅子から立ち上がる。


「じゃあ、今から許可を取ってくるね」

「カレンさんによろしくね~」


 僕は姉さん達に見送られて、エミリアと共にカレンさんの家へ向かった。そして、ドアをノックして声を掛ける。


「カレンさん、いるー?」

「お土産持ってきましたよー」


 僕の言葉にエミリアが追加で声を掛ける。すると、家の中から足音が近づいて来て、すぐに扉が開かれた。


「いらっしゃい二人とも。今、明日の仕事の準備でちょっと忙しかったんだけど、どうしたの?」


「その件で話がしたいんだけど……」


「あと、これお土産です。レベッカが渡してくれって言ってました」


 そう言いながら、エミリアはクッキーが入ってそうな箱をカレンさんに手渡す。


「ありがとう……って、なにこれ」


「スーパー何とかって魚の切り身です」


「まさかの魚!? 普通、お土産ってお菓子とかそういうの渡すでしょ!?」


「量が多すぎて腐ってしまいそうなんですよ……折角なので貰っておいてくださいな」


「あ、そう……まぁ貰っておくわね……ありがと……」


 カレンさんは遠い目をして箱を受け取る。


「これを渡すために来たわけじゃないでしょ。何の用なの?」


「明日、僕達もカレンさんと一緒にエアリアルに行きたいんだけど」


「え……? あんなところにわざわざ行きたいの?」


 カレンさんは心底意外そうな顔をした。


「私も、もっとエアリアルの都市を見てみたいですし」


「……まぁ、いいけどね。それじゃあ、私から陛下に連絡を入れておくわ」


「良かった……それじゃあ明日また来るね」


 僕はそれだけ言って帰ろうとするのだが……。


「ちょっと待って二人とも」


「ん?」


「何ですか、カレン?」


 カレンさんの呼び止めに僕とエミリアは振り返る。


「あの……その……二人って……」


 カレンさんは僕達に何か質問をしようとするのだが……。


「や、やっぱり、何でもない……」


「???」


「……」


 カレンさんは首を横に振って、どこかばつが悪そうに視線を逸らす。そんな彼女の態度にエミリアと僕は顔を見合わせた。


「……ふむ」

 エミリアはカレンさんをジッと見て何かを察したように頷いた。


「レイは先に帰っててください。私は雑談でもしてから帰りますので」


「え、それなら僕も……」


「所謂、【女子会】的なやつですが、レイも混ざりたいです?」


「……止めとく」


 エミリアの笑顔が少し怖い……ここは素直に引くべきだろう。


「分かったよ……先に帰ってるね」


 僕は二人に見送られながら帰路についた。

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