第705話 おじさん二人
「さて、実は他にもキミ達に紹介したい者達も居るのだが」
陛下はそう言って謁見の間にいる兵士達を一度見てから、僕達に言った。
「彼女達以外の紹介ですか?」
「うむ、実は……」
陛下はそう言いかけて一度口を閉ざした。すると謁見の間の奥にあった扉が開いた。すると、そこから二人の人影が歩いてくるのが見えた。
「あの人達は……!?」
人影を確認した僕は驚きの声を上げてしまう。何故なら、二人は僕の記憶の中にある人物だったからだ。一人はガタイの良い大柄の男性、もう一人は細身の長身の男性だ。
「紹介しよう。彼らはサイドの街で組織された公認の冒険者グループ、<特務隊>の隊長ウォッカ、そして副隊長のリカルドだ」
「おう、特務隊の隊長ウオッカだ」
「……同じく、特務隊の副隊長リカルドだ」
「彼らの直下の特務隊面々と、同じくサイドの組織である<調査隊>の面々が加わることになった。今回紹介したのは、主に戦闘で活躍してもらう<特務隊>の上位二名だ」
グラン陛下は彼らについてそう説明する。
「リカルドさん、ウオッカさん!!!」
僕は彼らの方に走って行ってその両名の手を握る。
「久しぶりだな、レイ少年。剣の鍛錬、怠らず励んでいるか?」
「おう、元気そうじゃねーか。しっかし、相変わらず小せぇなぁ……ちゃんとメシ喰ってるか?」
二人はそう言って僕の頭をワシャワシャと撫でる。
「はい、おかげさまで……」
「そうか、ならいい」
「おめぇの雄姿は聞いてるぜ。魔王を一度は倒したんだってな、俺達の見込んだ通りの男だったぜ、お前はよう!!」
ガタイの良いウオッカさんが僕の背中をバシバシと叩く。
「あ、ありがとうございます……っ、て痛いですよ!!」
「わははははは!!! いくら強くても見た目がこうじゃなあ、少しは俺みたいに身体を鍛えやがれっ!!」
「おい、ウオッカ……少年が困っているだろう」
リカルドさんはウオッカさんの首根っこを摑んで僕から引きはがす。
「おぉ、すまんすまん! お前やそこのルミナリア嬢はともかく、他のメンツとは初対面だったな」
ウオッカさんはそう言って豪胆な笑みを浮かべて、陛下達の方を向いて大声で言った。
「俺ぁウオッカ・ゴッツだ。見ての通り力自慢よ。一応、<特務隊>の隊長なんてもんをやってるが、俺は本来バリバリ前衛で斬った張ったをするのが大得意なんだ。まぁよろしく頼むわ、少年少女達よぉ、わっはっはっはっはっ!!!!!!!!」
ウオッカさんは外見のイメージ通り豪快な笑い声を上げる。
「私はリカルド・ガーランドだ。<特務隊>の副隊長を務めさせてもらっている。それなりに剣の心得があるが、まだまだ未熟の身……よろしく頼む」
リカルドさんはウオッカさんとは対照的に、静かに淡々と自己紹介をする。
「ふえぇぇぇぇ……」
すると僕の背後から何とも気の抜けるような声が聞こえてきたので振り返ると、そこにはルミナリアが二人の男性を見て圧倒されているミーシャちゃんとアリスちゃんの姿があった。
「……あん?どうした嬢ちゃん達。リカルドの
「……どうみても無神経なお前のその態度に引いているんだろう。少しは自重しろ」
リカルドさんはウオッカさんの言葉を即座に否定する。その様子を見て陛下は朗らかに笑う。
「ふむ、<特務隊>の話はカレン君から聞いていたが、中々に個性派な人物だな。しかし、君達には期待しているぞ」
「はっ、俺達にお任せあれってなもんよ!!」
「承知致しました陛下。我ら<特務隊>、そして<調査隊>はこれより貴方の下でお仕えします」
リカルドさんが陛下に跪いてそう告げる。するとウオッカさんもそれに倣うように跪いた。
「よし、では君たちの着任を歓迎しよう。面を上げてくれ」
グラン陛下がそう言うと二人は立ち上がった。するとそこにミーシャちゃんがトコトコ歩いていき二人に話しかけた。
「……あの! 貴方達は有名な冒険者だと聞いています、どうか宜しくお願いします!」
ミーシャちゃんはウオッカさんとリカルドさんを見上げながらそう言った。リカルドさんは彼女をジッと見つめて言った。
「……少女よ。名は?」
「み、ミーシャです……!!!」
「……こんな少女が戦列に加わっているとは……戦乱の世とはいとも容易く幼い命が散っていくもの……我らが盾となって守らねば……」
「え……えっ……?」
「おい、リカルド。お前ガキにそんなこと言うんじゃねぇよ!」
ウオッカさんがリカルドさんの言葉に顔をしかめながら彼をたしなめる。しかし彼はそんなことは気にもせずミーシャちゃんをじっと見つめる。
「良い名前だ。……しかし、その命、大事にしろ……」
リカルドさんはそう言ってミーシャちゃんの頭に手を乗せて優しく撫でた。
「は、はい……」
ミーシャちゃんは頭を撫でられた部分を自分の手で押さえて、微かに顔を赤らめていた。
「……さて、紹介が終わったところで、次の話をしたいのだが……」
グラン陛下はそう言って、話題を次の話に切り替える。
「次の話?」
「うむ、実は協力者は彼らだけではない。ここにはまだ集まっていないが、この国や別の大陸の兵士や冒険者達も通達をしておいたのだ。
――人間と魔物の最終決戦が近い。腕に覚えのある猛者達よ、我こそはと思う者はこの私の元に集結せよ――と」
グラン陛下はそう言って謁見の間全体を見渡すように視線を動かした。
「戦いは既に終盤、既に一度はレイ君が魔王を討ち倒し、魔王軍は半壊に近い状態にあった。しかし、魔王軍は過去の亡霊たる先々代の亡骸とその魂を回収し、新たな魔王として祭り上げ、新生魔王軍として再起を図った。これにより戦力は増強しており、再びその勢力を盛り返してきている」
「じゃあ、やっぱり最終決戦は避けられないのですね……」
カレンさんが陛下に尋ねる。
「うむ。……魔王軍の拠点へと我らの兵団は調査に入ったのだが、やはりと言うべきか、旧魔王軍と現魔王軍の戦力が集結して以前よりも強大になっているという。……今の戦力では、こちらが不利だ」
グラン陛下は拳をギュッと握りしめる。
「だからこそ、我らは今一度集まり戦力の増強を図らねばならない。その一環として、各地の猛者をかき集めて戦力を集中させ―――魔王軍の拠点へと一斉に攻め込むのだ。
この戦いは、人間という種が生き残るための最後の決戦となる。各国が一致団結せねば、何度でも蘇る魔王軍に対抗など出来るはずもない」
「……グラン陛下、そこまで考えて……」
「……レイ君、以前、キミは私に質問したな。『魔物との戦いは決して終わらせることは出来ないのか……?』と。当時の私は、未来永劫先の事まで考える余裕が無かったが……もし、出来るのであれば、こんな虚しい戦いは、我らの代で終わらせたいと思っている。……皆、私に力を貸してくれ」
グラン陛下はそう言って、僕達に頭を下げた。
「当然です、陛下」
カレンさんが力強い声で陛下の言葉に応えた。そして他の皆も首を縦に振る。
「うむ……感謝する。では、次に今後の行動について話そう……」
グラン陛下はそう言って、これからのことについて話し出した。
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