第704話 仲間入り

 食事を終えた僕達は早速王宮に向かうため、宿を出る。


「じゃあ、皆、行ってきます」


「皆、お留守番お願いね」


 僕とカレンさんが手を振って皆に告げ、外に出ようとするとエミリアがフラフラとこちらに付いてくる。


「エミリア、大丈夫?」


「は、はい……裏に馬車を用意して納品の準備をしておきました。取りに行きますね……」


 エミリアは僕の問いかけにそう答えて、寝ぼけたような足取りでフラフラを歩いていく。


「……大丈夫そうには見えないなぁ」


「手伝ってあげましょ」


 彼女を心配して、僕とカレンさんはエミリアの後に付いて行った。その後、エミリアがノルンと協力して用意した馬車の荷台に漏れが無いかを確認して馬車を引いて王宮に向かう。荷台の薬品に不備がないようにゆっくりと馬車を進ませ王宮の門まで辿り着いた。すると見張りの兵士数人がこちらにやってきた為、僕達は足を止める。


「陛下に依頼されたポーション250個と霊薬50個、納品しに来ました。陛下にお目通りをお願いします」


「エミリア・カトレット様でございますね。馬車の荷台の中身を拝見させて頂きますが宜しいか?」


「ええ」


 兵士の一人の言葉にエミリアは頷く。僕とカレンさんは荷台からポーションと霊薬が入った箱を順番に兵士達に渡し、確認してもらう。


「はい、確かに依頼されていた品物を確認致しました」


「では、私はこれで……」


「え、帰るの?」


 エミリアがそのまま帰ろうとするので僕は声を掛ける。すると、エミリアがノルン以上に眠そうな表情でこちらを見る。


「……」


 無言でこちらを見つめるため、僕もちょっと悪い気がしてきた。


「……あ、うん、悪かったよ」


「帰ってゆっくり眠りなさいな、エミリア」


「はい……自室に戻って眠ってきます……では」


 エミリアはそう言って飛行魔法で空を飛んで帰って行った。


「では、カレン様、レイ様、こちらへどうぞ。陛下がお待ちです」


 僕とカレンさんの二人は兵士の一人に案内されて王宮内を進み、国王陛下が待つ謁見の間へと向かった。謁見の間に入り、奥へと進む。


「やぁ、二人とも。よく来てくれたね」


「陛下、お久しぶりです」


「グラン国王陛下、今回の謁見を認めていただき感謝しますわ」


 僕達はそう言いながら片膝を崩して首を垂れる。


「ああ、楽にしてくれていいよ」


 陛下の言葉で僕達は頭を上げて立ち上がる。


「先程連絡があった。エミリア君が依頼の品を持ってきてくれたようだね」


「はい」


「やはり彼女は私が見込んだだけの事はある。彼女の姉のセレナ君も少し前に同じように依頼を済ませて送ってきてくれたよ。姉妹共々優秀な調合師だ」


 僕達はグラン陛下のお褒めの言葉に、自然と笑みがこぼれる。


「もちろん、君達二人だがね。キミ達は私が期待していた以上の活躍をしてくれる。王国にとっても非常に心強い事だ」


「ありがたいお言葉でございます」


 陛下の言葉にカレンさんは深々と頭を下げながら返答する。僕も彼女の横で頭を下げて彼の言葉に感謝する。


「さて本題に入ろう……まずはカレン君の方だな」


 陛下はそう言って「パンッ」と謁見の間に響き渡るほどの大きさで手を叩く。


「?」


 僕はその行動に困惑するのだが、少ししてから謁見の間の背後にある扉が開いた。そこから意外な人物が入ってきた。


 その人物は、今朝までまで世話になっていた男性だった。


「ジンガさん!?」

 その人物は、レベッカの槍を作り直してくれた鍛冶師のジンガさんだった。しかし、何故彼がここに?


「久しぶり……ではないな、今朝がた別れたばかりだったか」


 ジンガさんはフッと笑みを漏らして言った。


「彼の紹介は必要ないだろう。ジンガ殿は、カレン君が頼んで仕事を引き受けてくれて王都に来てくれたのだ」


「……そうなんですか、カレンさん?」


 陛下の言葉に確認を取るように彼女に問いかける。


「ええ、説得には少し苦労したけどね……」


「ふん……」


 ジンガさんはカレンさんの言葉に対してぶっきらぼうに返事する。


「ジンガ殿は聖剣や神合金の槍を完全に復元してくれるほどの腕前を持った鍛冶職人だ。彼は暫くの間、魔王軍との決戦が終わるまで、わが軍の為にハンマーを振るってくれることになったのだ。これでわが軍の装備も整うだろう」


「……本当は二度と戦争に力を貸すつもりなど無かったのだがな……」


 ジンガさんは陛下の言葉に苦々しそうな表情を浮かべて答える。すると陛下が少し申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「すまないジンガ殿……貴方の経歴は少し調べさせてもらった。貴方は過去に傭兵として戦争に参加し、その時に妻や戦友を失ったと聞いている。そんな貴方に鍛冶師としてまた戦争に参加してもらうことになる……その胸の内を押し殺して、力を貸してくれるとは感謝の言葉も無い」


 グラン陛下の言葉に耳を傾けて、ジンガさんはこちらの方を見る。


「……どうしました?」


「……お前たちや、孫を見て少し考えを改めた。俺は、妻や仲間達を死に追いやった戦争を憎んでいた。その気持ちは今も変わらない……が」


 そこでジンガさんは一度言葉を区切って、カレンさんの方を見ながら言った。


「……失ったものばかり見ていては仕方ない。今生きる未来の希望の為に、俺のような頭の固い年寄りが足を引っ張って、若き命を失わせる事などあってはならん。……そこの女はそう言って俺を説得したのさ」


「……ジンガ殿、私の失礼な言葉を受け入れてくれて感謝しますわ」


 ジンガさんの言葉を聞いて、カレンさんは穏やかな笑みを浮かべて彼に礼を言った。


「ジンガさん……」


「レイ……お前は死んではならんぞ。お前のような未来に繋ぐ勇気ある若者は、俺のような世捨て人やそこの年齢不詳の国王よりもよほど大事な存在なのだ。お前達若者は生きて未来を繋がねばならん」


「ちょっ、ジンガさん!?」


「……はは」


 陛下に対してジンガさんの失礼な発言に僕は焦ってしまうが、グラン陛下は思わず乾いた笑いを浮かべてしまう。


「ジンガ殿の考えは私も同意だ。私もこの椅子玉座に座って100年ほど経つが歳を取るほど実感する。私もかつて若者だったころは未来に希望を抱いて生きていた。若い命が消えていくのは、非常に心が痛むものだ」


「陛下まで……」


「なに、私もジンガ殿も命を捨てようというわけじゃない。だが、キミ達の命を犠牲にするくらいなら、私達もいざとなれば命を賭して戦うつもりでいる」


「グラン陛下……もしや、此度の戦場に……?」


 カレンさんは驚いた表情を浮かべる。


「あくまで万一の場合ではあるがな。今回の戦い、私は直接魔王軍の居城に攻め込むときに自ら指揮を執るつもりでいる」


「それはいけません! もし、陛下に何かあった場合、この国はどうなるのですか!?」


「カレン君……だが次の魔物との戦争に負けた場合、私が生きていようがいまいがこの国……いや、違うな。人間の未来が失われてしまう。その時、私が仮に生きていようが死んでいようが、どっちにしろこの国は終わりだ。ならば、せめて死ぬまで戦い抜くのが私の責任だと思っている」


「陛下……」


 陛下の言葉にカレンさんは言葉を詰まらせる。


「……すまない。少々感情的になってしまったな。話を戻そう。ジンガ殿に仕事を引き受けてもらい、彼の鍛冶の腕も見せてもらった。彼がいる限り、わが軍は万全の状態まで強化されるだろう」


 そう言ってグラン陛下はジンガさんの方を向き、笑みを浮かべる。


「それに、ここにきて頼もしい戦士たちが戦列に加わってくれることだしな」


「頼もしい戦士?」


「……入って来い。ミーシャ、アリス」


「え、まさか……!?」


 僕はジンガさんに言われて謁見の間に入ってきた二人に驚く。


「レイさん、お世話になります!」


「アリスだよー♪」


「ふ、二人とも……!?」


 僕達は予想外の人物の登場に驚く。カレンさんは彼女達を見て、僕と同じように驚いた表情を見せる。


「二人共、どうしてここに?」


 カレンさんの疑問に二人はそれぞれ答える。


「レイさんやサクラお姉様は、今回、命を賭けて魔王と戦うつもりなんですよね。ボクも微力ながら力になりたいです!」


「アリスもミーシャと同じ気持ちだよ。世界の命運を分ける戦いって聞いてワクワクしてるんだ」


「……二人とも、分かってるの? 下手すれば死ぬわよ?」


 カレンさんは、普段の彼女とは思えないほど低い声で二人に厳しい視線を向ける。


「……分かってます」


「……死ぬのは勿論嫌だよ? でもね、アリスは友達が命懸けで戦ってるのを知って何もしないほど臆病者じゃないの」


「……」


 二人はカレンさんの鋭い視線に一切ひるむことなく、彼女の瞳を見つめ返す。


「……まったく、この子達の思いを止めることなんかできないわね」


 カレンさんはそう呟いてから、一度大きく深呼吸する。そして二人に向けて笑顔を見せた。


「ようこそミーシャ、アリス。歓迎するわ……今日から二人とも私達と共に戦いましょう」


「はい!」「うんっ!」


 カレンさんの言葉に二人は頷いた。

 こうして、僕達に新たな頼もしい仲間達が加わることとなった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る