第703話 ご飯を食べよう
エミリア達が部屋から出てきて1時間半後――
「……う、うーん……」
床に突っ伏して眠っていたエミリアが身じろぎして顔を上げる。
「……あ、あれ……ここ、部屋じゃない……?」
「おはよう、エミリア」
僕が声をかけると、エミリアはハッと顔を上げて辺りをキョロキョロと見回す。
「エミリアはだいぶ疲れてたみたいだね。ノルンに抱きついて横になったらそのまま寝ちゃったんだよ」
「……っ!? ……あ、そ……そうでしたか」
エミリアは顔を赤くして恥ずかしそうに俯く。
「まだ眠ってなくて大丈夫なの?」と傍で座っていたノルンは彼女を気遣う。
「……少し目が冴えました。ちょっと顔を洗ってきますね」
そう言いながらエミリアは眠い目を擦りながら立ち上がるとレベッカも同じく立ち上がる。
「ではわたくしがお付き添い致します」
「ありがとう、レベッカ」
エミリアはレベッカにお礼を言って二人で部屋を出ていった。
「じゃあ、そろそろ食事の準備が終わるころだと思うから行ってくるね」
そう言ってルナとノルンだけを部屋に残して姉さんの元へ向かった。
「姉さん、手伝うよ……ってカレンさん?」
台所に行くと、そこには姉さんだけではなくカレンさんの姿もあった。いつの間にか帰ってきていたようだ。
「レイ君、ただいま。ベルフラウさんが張り切ってみたいだから私も食事の準備を手伝ってるのよ」
カレンさんはこちらを振り向いてそう言った。言葉通り、カレンさんはエプロン姿で姉さんの作った食事の盛り付けをしていた。
「丁度良いわ、レイくん。皆を呼んできてくれる?」
「うん、分かった」
僕は皆を呼んでくるため、大部屋に引き返す。部屋に戻ると顔を洗いに行ったエミリア達も戻ってきていたので一言声を掛ける。
「皆、食事の準備が出来たよー!!」
「はーい……」
若干寝ぼけているのか、エミリアは間延びした口調で返事をしてのろのろと動き出す。僕達は彼女を見守りながら姉さん達が待つ食堂へ向かった。
◆◆◆
「「「「「「いただきまーす」」」」」」」
こうして、僕、姉さん、エミリア、レベッカ、カレンさん、ルナ、ノルンの七人で一つのテーブルを囲んで食事をする。
「うん、やっぱり姉さんのお料理は美味しいね!」
僕はしみじみと言いながら姉さんの手料理のフライドポテトを頬張る。
「うふふ、ありがとう。おかわりは沢山あるから皆もお姉ちゃんの料理をいっぱい食べてね」
姉さんは皆に喜んで食べて貰って機嫌が良さそうだ。
「これだけの人数揃って食事も久しぶりでございますね。出来れば、サクラ様もお誘いしたかったのですが……」
「あー、サクラちゃんは今お仕事で缶詰だからねぇ」
姉さんはレベッカの言葉に苦笑いで答える。その時バタンと宿の入り口の扉が開いた。誰かと思ったのだが、今話していたサクラちゃん本人だった。
「みっなさーん! サクラも来ましたよーー!!」
扉から、大きな荷物を持ったサクラが意気揚々と入ってくる。
「あれ、サクラちゃん? 仕事はどうしたの?」
「団長さんを魔法で眠らせて逃げてきました!!」
「「「…………」」」
僕達はサクラの答えに呆れて言葉が出ない。
「……サクラ、全く、貴女って子は……」
彼女に副団長を後任したカレンさんは呆れたように言い、すぐに彼女に微笑む。
「待ってて、サクラの分も用意してあげる」
「細かい事気にせず受け入れてくれるカレン先輩だいすきー♪」
サクラちゃんはカレンさんに抱き着いて頭をスリスリする。そうして、彼女を迎えて総勢8人で再び食事が再開される。エミリアとサクラちゃんはしばらく仕事でずっと拘束状態だったせいか、酷くお腹が空いており次々と料理を平らげていく。
「サクラ様、そんなに焦って食べたら喉に詰まらせますよ」
「よっぽどお腹空いてたのね……」
レベッカと姉さんはそう言いながら彼女達の皿に追加で料理を盛っていく。
「ノルンちゃんとルナちゃん、二人もいっぱい食べていいのよ。育ち盛りだし……」
「あはは……どうも……」
「……私は見た目だけ子供なだけよ」
ルナは笑顔で答え、ノルンは相変わらず無表情で淡々と食べてる。
「あはは、皆いっぱい食べるわねー」
「皆、お食事中は行儀良くしなさいな……」
姉さんとカレンさんがそんな皆を見て微笑ましそうに笑う。僕は皆が楽しそうに食事をするのを眺めながら安らかに食事を楽しんだ。食事を終えた僕達は、皆で近況報告をすることにした。
「ひとまずレベッカの武器はちゃんと手に入ったよ」
「この槍でございます」
レベッカはそう言って立ち上がり、<限定転移>で新たな槍を召喚する。
「これがジンガ様に作り直して頂いたわたくしの新たな槍……その名も、【並無き無双の槍】でございます」
レベッカは全員に見えるように槍を掲げ、誇らしく言う。
「わー、なんだか黒くてカッコいい名前ですねー♪」
サクラちゃんは小学生みたいな感想を述べる。
「それで、その並無き……なんでしたっけ?」
「『並無き無双の槍』でございます。『並み居る武器では並び立つことが無く、戦場で振るえば一騎当千の如く敵を打倒する』……という、ジンガ様からのお言葉でございます」
レベッカは槍の説明をしてから、ジンガさんの真似なのか厳かな声で告げる。
「神合金とオリハルコンっていう最強の鉱石二つを使ってるだけあって性能は破格よ。聖剣みたいな能力は無いかもしれないけど、単純な武器性能や強度なら私達の聖剣を上回ってるかもね」
「これでレベッカも前みたいに前線で戦えるね」
「わたくしも皆様の御力になれるよう頑張って参ります」
レベッカは胸に手を当てながら頭を下げる。
「それで、修理費用はおいくらだったの?」
「あ、えーと……その……」
姉さんの質問に僕とレベッカは視線を逸らす。
「……カレンさん?」
「……だ、大丈夫よ。ちゃんと私達だけで支払い切れたから……」
「……ふーん、それでいくらだったの?」
「……金貨、五百枚」
「……………………………お姉ちゃん、気が遠くなりそう」
姉さんが頭を抑えて呟いた。本当にごめんなさい。
「……ま、まぁ僕達の方は良いとして、エミリア達はどうだったの?」
僕はこれ以上の追及を逃れるためにエミリアの方に話を逸らす。
「私ですか? ……期限ギリギリでしたけど、何とか陛下の要望には応えられたと思います。この後、馬車を使って依頼のポーションと霊薬を王宮の方に送り届ける予定です。……正直、ノルンが居なかったら間に合わなかったですね。ありがとうございます」
エミリアはノルンに頭を下げてお礼を言う。
「別に気にしなくて大丈夫よ。エミリアが主導してくれたから、私は言われたまま調合するだけで済んだし」
「素人に任せると言葉通りの指示すらこなせませんから……ノルンが器用な子で本当に助かりました」
「昔、経験があったから出来ただけよ。この程度の手伝いなら、いつでも呼んでくれて構わないわ」
ノルンはエミリアの言葉に淡々と答える。
「ノルンちゃんって凄く器用だよね」
「長く生きていればこれくらいわね……ルナも覚えれば出来るわよ」
ルナの褒め言葉にもノルンはクールに答える。
「それで話は変わるのだけど、サクラ」
「はい?」
カレンさんの質問に、サクラちゃんは呑気に返事をする。
「騎士団の仕事、ある程度は進められたの? ベルフラウさんの話では数日間、自室でずっと書類仕事やらされてたらしいけど……」
「むー、ホントですよ! わたし、身体を動かす以外の事は苦手なのにー! 団長さんってば普段はわたしよりもいい加減なのに仕事の時だけは大真面目なんですから、困りますよねー」
「……多分、今困ってるのは団長の方だよね」
僕は苦笑いしながらツッコむ。
「やっぱりカレンさんが副団長に戻った方が良いんじゃ……?」
「そ、そうね……後任のつもりで入れたレイ君は騎士団を退団しちゃったし、サクラはこんな感じだし……」
カレンさんは腕を組みながら悩まし気に呟く。
「あ、そうだ、思い出したわ。レイ君、後で私と一緒に王宮に付いて来てくれない?」
「いいけど、何かあるの?」
「うん、貴方に内緒で決めちゃったことが色々あってね。今後の事とかも含めて陛下に報告するのよ」
「なるほど。分かったよ」
僕は頷きながら返事をする。すると、エミリアが手を挙げて僕達に言った。
「それなら私も一緒に行きます。アイテムの納品もありますから二人に手伝ってほしいです」
「分かったわ」
「それなら三人で行こうか」
こうして僕達はこの後の段取りを決めて、食事の後片付けをした。
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