第698話 最終試練終了のお知らせ
ジンガの最後の課題としてミーシャとアリスはレベッカと戦うことになった。
「――よし、では始めろ」
ジンガさんの掛け声と同時にジンガさんは後ろに下がる。
ミーシャちゃんとアリスちゃんも武器を構え、レベッカはそれを見ながらも彼女自身も槍を構える。ミーシャちゃんとアリスはお互いを見つめ合った後、レベッカを見て走り出す。
「やぁあああああああ!!」
まずミーシャちゃんは剣を振り上げてレベッカに突撃して剣を振り上げる。彼女にしては素早い動きだが、レベッカはそれを軽く身を翻して躱して槍で反撃を繰り出そうと試みる。
「
しかし、後衛のアリスちゃんがレベッカの反撃を潰すように魔法を繰り出す。使用する魔法は
一発一発の大きさは僕との模擬戦にに使った
……まともに受ければ、の話だが。
「お二人とも、良い気迫でございますね。このレベッカ、少しだけ闘争本能が疼いてしまいます」
レベッカはそう言って、槍を両手に持って頭上で回転させて飛んできた火球を薙ぎ払う。
「ええ!?」「うそ!?」
四つの内の二つの火球がレベッカの槍で一瞬に霧散する。その様子にミーシャちゃんとアリスちゃんは驚愕するがそれだけではない。
少し遅れて飛んできた二つの火球をレベッカは槍の棒部分で受け止めて、そのままこちらに弾き返してきた。
「何それっ!?」「危ないっ!」
弾き返された火球二つはアリスちゃんの飛んでいき、間一髪のところでミーシャちゃんが割って入って盾で防御する。
「ミーシャ様、良い動きでございますよ。それに、アリス様も一度に四つの火球を放つとは、かなりの修練を修めておられるのですね」
レベッカは盾で防ぎきったミーシャと、強力な魔法を放ったアリスを見て小さく拍手を送る。その表情はどうみても戦ってる当事者には思えないほど緩んでおり、彼女がまるで本気を出してないことが窺える。
「さてさてミーシャ様。ご祖父様が見ておられますし、驚き立ち止まっている場合では無いのでは?」
「っ!!」
ミーシャはチラリと横目で腕を組んでこちらを見ているジンガ様を見る。焦ったミーシャちゃんは何も考えずにレベッカに接近して剣の一撃を繰り出す。
「ふむ、焦っていては相手の芯を捉えるのは難しいかと?」
だが、その一撃もレベッカはひらりと躱しながらアドバイスまでする。舐めプと言われても仕方ないが、それほどまでに実力が離れているということだ。
「てやぁぁぁぁぁぁ!!」
だが、ミーシャちゃんは諦めない。
剣術はまだまだ未熟だが、それでも果敢にレベッカを攻め立てる。
「ふふ、剣の腕はまだまだですが……!」
「あうっ!!」
レベッカはそう言って槍の棒の部分でミーシャちゃんの剣を弾き飛ばす。
それと同時に、ミーシャちゃんは体勢を崩してよろめく。
「
その隙を庇うようにアリスちゃんが横に動く。彼女は杖を振るって水を一直線に打ち出す魔法をレベッカだけに当たるように繰り出す。
その勢いは凄まじく、レベッカ程度の体重なら軽く吹き飛ばせてしまうだろう。
「なるほど、水の圧力で弾き飛ばす魔法でございますね」
レベッカはすぐさま彼女の意図を把握し、一瞬だけ目を瞑る。
「
次の瞬間、レベッカの目の前に石の壁を出現させ、アリスちゃんの水圧の攻撃を難なく防ぐ。
「あっ!」
アリスちゃんは口を押えて驚いた表情を浮かべる。石壁を魔法で砕くことは出来たものの、威力が足りずレベッカに届くことは無かった。
「良いタイミングでございます、アリス様。ですが、威力という面においては一歩足りないようでございますね」
レベッカは相変わらず笑顔だ。しかし、次の瞬間、アリスちゃんは「ニコッ」と笑う。次の瞬間、今の攻防の隙にレベッカの背後に回っていたミーシャちゃんによって、レベッカの槍が上に弾かれた。
「!!」「隙あり!」
槍を上空に弾かれたレベッカは僅かに目を見開き、ミーシャちゃんはその隙を狙ってレベッカの胴体目掛けて剣を横に薙ぎ払う。
「素晴らしいタイミングでございます」
レベッカは全く動揺せず一言口にする。
次の瞬間、レベッカの足元に「トンッ」と軽い音がしたと思ったら、レベッカの身体が上に跳んで数メートル浮き上がる。
それによりミーシャちゃんの不意打ち攻撃を軽く回避、そしてレベッカはそのまま空中で回転して、少し離れた場所に軽く着地する。
同時に、宙に弾かれた自身の槍をちゃっかり回収しており、その手にはしっかり槍が握られていた。
「……嘘でしょ?」
「……あわわ……レベッカさん、こんなに強かったの?」
アリスちゃんとミーシャちゃんは今の攻防で取るつもりだったのだろう。
だが、彼女達の連携はレベッカの身体能力を上回れずに空振りに終わった。
「……エグイわね、レベッカちゃん」
「……うん」
分かりきってたことだが、レベッカは二人より圧倒的に強い。
ミーシャちゃんは勿論、アリスちゃんも彼女から学べることは多いだろう。
武器を使った戦闘も、単純な魔法の扱いでも二人の上をゆく。
「では、ここからはわたくしも槍を振るわせて頂きますね」
「!!」
レベッカの言葉に反応し弾かれたようにミーシャちゃんはアリスちゃんの前に出て構える。アリスちゃんもミーシャちゃんの邪魔にならないように、二人から距離を取って魔法の準備を行う。
「では―――」
次の瞬間、レベッカの姿が消える。
少なくともミーシャとアリスの二人に彼女の動きが見えなかった。
だが、僕とカレンさんはレベッカの動きを正確に把握しており、そのままレベッカは彼女達の背後に回り込み、後衛のアリスちゃんの前に現れる。
そして、その喉元に槍の先端を向け――
「チェックメイ―――」
「
「っ!?」
レベッカのいう声は、アリスちゃんの魔法の発動によって遮られた。彼女の足元から勢いよく炎が噴き上げられ、レベッカも僅かながらその炎を浴びてしまい、次の瞬間、たまらず後方に大きく跳ぶ。
「おお!」
「やるわね!!」
「今の凄い、何やったの!?」
僕の感嘆の声、カレンさんの称賛、ルナは初めて見た魔法に驚いている。
アリスちゃんの今の魔法は炎属性の設置系攻撃魔法だ。
以前、僕は彼女達と手合わせした時に、彼女の視野が狭い事を指摘して臨機応変に対応できるようにとアドバイスをした。
彼女はこの手合わせで見事にそれを克服出来た。おそらく姿が消えた瞬間、自分が狙われることが分かったのだろう。山を張ったうえで即座に発動させたことが功を為したといえる。
更にレベッカの脚は彼女の魔法によってダメージを負った。これで少しは彼女の敏捷さを削ぐことが出来ただろう。
ミーシャちゃんも一瞬状況が飲み込めず呆然としていたが、すぐに正気に戻り、地上に降りたレベッカに向かって攻撃を加える。
レベッカは、まさかの一撃を受けたことで多少驚いていたものの、すぐに表情を切り替えてミーシャちゃんの攻撃に応じる。
ミーシャちゃんの攻撃を一撃防いだ後、レベッカは槍の若干緩やかな薙ぎ攻撃と若干遅めの突きを複数回繰り出す。すぐさま自分の攻撃を反撃されたミーシャちゃんは、掠り傷を何度も受けながら必死になってその攻撃を防ぐ。
アリスちゃんの攻撃によるダメージが影響しているかは定かではないが、この瞬間、ミーシャちゃんは単独でレベッカと渡り合えていた。だが、それも時間の問題。彼女の槍は非常に徐々に速度を上げている。このまま拮抗状態が長く続くことは無いだろう。
「……ほぅ」
ジンガさんは彼女達の戦いぶりを静かに観察していた。
「(……単純な技量も上がっているが、狂戦士化無しで臆せず戦えている……なにより、常に仲間を最優先に守ろうとするその姿勢……見事だな……)」
ジンガさんは二人の戦いぶりを見て、笑みを深めていた。そして、ミーシャちゃんが必死にレベッカを抑えていると、アリスちゃんが更なる詠唱を始める。
「大気に舞う原子よ、集まり極寒の氷壁と化せ。目の前の敵を牢獄に閉じ込め、永久の眠りへと誘え!」
アリスちゃんの周囲から、今までの彼女から感じた事ないほどの魔力が溢れだす。そしてアリスちゃんが叫ぶ。
「ミーシャ!!」「うん!!」
レベッカの攻撃を何とか盾で弾き、その隙にミーシャちゃんはレベッカから距離を取る。
「
次の瞬間、レベッカの周囲の気温が極端に低下し、彼女の全身が体温低下により一気に重くなり、手足から徐々に凍り付いていく。
「―――これは」
レベッカがその攻撃魔法に驚愕の表情を浮かべる。
対象の周囲を急速に冷凍させ、その身体を心身から凍結させるという恐ろしい技もので、まだ魔法使いとしては上位に僅かに届かないアリスちゃんが放つには過剰すぎる威力だが……ミーシャちゃんとの二人の連携がこれに繋がったのだろう。
そして、今のレベッカは手足が凍り付いて動ける状態では無かった。
「てやああああ!!」
そこにミーシャちゃんが全力で距離を詰めて、彼女の首筋に剣先を当てる。
それを最後に、ジンガさんは終了の宣言をした。
「……か、勝てた……?」
「……あれだけ強かった相手に……?」
ミーシャちゃんとアリスちゃんは互いに見つめ合う。
「「やったああああああああああああああ!!!」」
二人は抱き合ってぴょんぴょんと足をばたつかせて、喜びを爆発させた。
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