第695話 生態系破壊ビーム

 近海で仕損じた巨大クラーケンが仲間を連れて港に襲い掛かってきた。僕達は、町の人達に避難を促しながら陸に上がってきた魔物達を撃退していく。がが、敵のボスである巨大クラーケン海に浮かんでいた船に触手を巻きつけて、あろうことか僕達の方に投げ飛ばしてきた。


「ちょっ!?」

「う、嘘!!」


 僕とカレンさんはこっちに目掛けて飛んでくる船を見て驚愕する。

 絶体絶命のピンチに、僕達は―――!!


「てええええやぁぁぁぁぁ!!」


 僕は目の前に飛んできた船目掛けて聖剣技を発動させる。蒼い斬撃が剣から放たれると、飛んできた船が粉々に吹き飛んで直撃を避けることが出来た。


「あ、危なかった……」 


 即座に聖剣の力で吹き飛ばさないと僕達はぺちゃんこになってたかもしれない。


「ありがとうレイ君、助かった」


「それにしても、凄まじいパワーでございますね……」


「うん、海の時はあっさり逃げたからそこまで強くないと思ったんだけど、全然そんな事ないね……」


 巨大クラーケンを睨みつけながら僕は聖剣を構える。


「厄介ね……アイツ一匹ならともかく、他の魔物の数が多すぎる。今はミーシャたちや船員さんが雑魚たちを抑えて何とか港で処理出来てるけど、もし町の方まで魔物で溢れたら大パニックよ」


「あの巨大クラーケンが司令塔であれば、親玉を潰せば楽になるかもですが……そう簡単にはやらせてくれないでしょうね」


「ともかく、考えるより先に攻撃だよ!」

 剣に炎の魔力を纏わせて海上の巨大クラーケンを対象に剣を振り上げる。


 振り下ろすと同時に炎の魔力が巨大な炎を噴き上げて巨大クラーケンとその周囲を巻き込んでいく。次の瞬間、海上で大爆発が起こる。


「……やったかしら?」

「……どうでしょうか」


 カレンさんの呟きに、爆発の煙から顔を庇いながらレベッカは海面を睨み付けて言う。煙が少し晴れてから海面の様子を凝視すると、そこにはあれほど居た子クラーケンと巨大クラーケンの姿がすっかり消えていた。


 一瞬、倒したかと僕は喜んだのだが……。すぐに海面の底から暗い影が浮かんでくる。すると大きな水飛沫を上げて巨大クラーケンが海面から姿を現した。


「!?」


 僕達が驚愕して言葉を失っていると、巨大クラーケンは船の残骸や木箱をその巨体で持ち上げて投げつけてきた。


「皆、避けて!!」


 僕は慌てて叫んで回避行動を行う。


 だが、海面を呆然と眺めていた船員さん達は反応が少し遅れてしまい、直撃こそ避けたが、掠めた木材の破片などで何人か怪我を負ってしまう。


「くそ……海の中だから水中に逃げれば攻撃も通らないってわけか……!」


「レイ君の魔法剣すら回避されるのは想定以上に厄介よ」


「次はわたくしがやってみます!!」


 レベッカはそう宣言して弓を構えて矢を放つ。巨大クラーケンの中心を狙った攻撃の為、簡単に回避は出来ないはず。しかし、巨大クラーケンは水中に逃げることなく矢を触手で叩き落としてから、こちらに向かって墨を吐いて攻撃してきた。


「うわっ!?」

「くっ!」


 カレンさんと僕は慌てて回避するが、レベッカは射撃後の隙で僅かに反応が遅れて顔に隅を受けてしまう。


「め、目が……」

「大丈夫、レベッカちゃん……!? 」


 カレンさんが慌ててレベッカの元に駆けて行ってハンカチで彼女の顔を拭い、続けて回復魔法を使用する。


「この……<火球>ファイアボール!!」


 レベッカを攻撃されて怒った僕は、巨大クラーケンに向けて火球を間髪入れずに連発して放つのだが、巨大クラーケンはすぐに海の中へ逃げていってしまう。代わりにその周囲に漂っていた子クラーケンが僕の火球の餌食になって黒焦げになった。


「くそ……また逃げられたか」


「闇雲に攻撃しても海に逃げちゃうし、正面から攻撃しても触手で簡単に防がれちゃうわね……」


「ぐぬぬ……わたくしの矢も防がれてしまいました……不覚です……」


 墨を拭い落したレベッカがこちらに戻ってきて悔しそうに呟く。


「レベッカちゃん、今はそんな事よりもあの化け物を倒す方法を考えましょう」


「はっ! そうでした。わたくしとしたことがムキになって冷静さを欠いていたようです……」


 レベッカはそう言って反省する。


「カレンさん、こうなったら僕とカレンさんで同時に聖剣技を撃って海面を纏めて消し飛ばそう!!」


「容赦ない全力ブッパね……まぁ手段を選んでる場合じゃないか」


「決まりだね。僕とカレンさんで左右から巨大クラーケンを聖剣技で攻撃する」


 僕は聖剣を構えて巨大な触手でこちらに攻撃を繰り出してくる巨大クラーケンの巨体を睨み付ける。


「はぁ!!」


 カレンさんは気合の声と共に聖剣に魔力を注ぎ込み、斬撃を放って迫ってきた触手を薙ぎ払う。次に僕とレベッカがそれぞれ得意な攻撃魔法を放つ。


<上級雷撃魔法>ギガスパーク

<巨岩降下>コメット


 僕は強力な雷撃を巨大クラーケンの頭上に、レベッカは周囲の船や樽などの瓦礫を魔法で集約し巨大な岩の塊を作り出す。一斉に巨大クラーケン目掛けて攻撃を浴びせる。予想通り、巨大クラーケンと子クラーケンたちは海の中に避難して攻撃を回避する。


「僕とカレンさんは準備をするから、レベッカは奴が浮上する瞬間を見張ってて欲しい。もし、出て来そうになったから僕達に合図を」


「了解しました」


「じゃあ、カレンさん。少し離れて技の準備を」


「ええ!!」


 僕とカレンさんは頷き合い、それぞれ10メートルくらい離れて目の前の海を睨み付ける。そして聖剣を構えて、それぞれ魔力を込め始める。


 それから海が静かになって十数秒後………。


「―――来た」


 <鷹の目>の技能を使用して海を睨んでいたレベッカが呟く。僕達も既に聖剣に魔力を込めて準備万端だ。後は、レベッカがタイミングと場所を教えてくれれば……。


「来ます!! 南南西、距離5……3……1!!」


 レベッカの叫び声と共に、巨大なクラーケンが大きな水飛沫を立てて海面にその姿を現す。僕は狙いを定めてタイミングを計る。そして……!!


<蒼穹の光の波動>グランブルーブラスト!!」

<聖極光破斬>ディバインブレード!!」


 僕とカレンさんは同時に自身が使える最強の聖剣技を解き放つ。

 僕は青、カレンさんは混じり気のない真っ白な光を剣から放ち、それが巨大クラーケンの頭上で重なり合い眩いばかりの光の奔流となり、周囲の海水を巻き上げ、敵の周囲全てを飲み込んでいく。


 そして、光の奔流が収まり周囲の光景がはっきりしていくと……。


「……やった?」

「……多分、ね」


 僕達は三人は再び集まって海を眺める。そこには、元通り静かな海に戻っており、大量に沸いていた子クラーケンの群れもきれいさっぱり消えていた。


 一応、海の中に再び身を隠したかもしれないと警戒していたが、どうやら完全に消滅したようで巨大クラーケンは浮かんでこなかった。


「……ほっ、倒せたみたい」


 僕がそう呟くと、陸での戦いを終えたミーシャちゃん達や船の乗組員さん達が港の方に戻ってきた。


「おい、どうなったんだ? さっき、空が輝いたと同時に物凄い音が聞こえたんだが……」

「あの馬鹿デカいクラーケンは何処行った?」


 スネイクさんが僕に質問をしてくる。彼も町を守るために奮闘していたようで、手に漁獲用の銛を持っており、身体は汗と切り傷と墨だらけになっていた。


「なんとか倒せました……」


「マジか!! よくやってくれた、アンタ達はこの港町の英雄だよ!!」


 僕の返事を聞くと、スネイクさんは嬉しそうに笑いながら僕をバンバンと叩いてきた。


「痛たた……えっと、町の方はどうですか? 陸に上がったクラーケンの子供達は……」


「大丈夫だ。アンタの仲間の子達も必死に頑張ってくれたからな。俺達海の男も負けてられないさ、全部ブッ倒してやった。なぁ!?」


「おう!!」


「 いや~こりゃあ酒盛りでも始めないと割に合わねぇぞ!!」


「アンタ達には世話になった。ギルドに支払った報酬だけじゃ俺達の気が済まねぇし、今夜の酒代は俺達が奢らせてもらうぜ?」


「え……あ、ありがとうございます」


 僕は町の人達の優しさに胸が熱くなる。そんな僕達の様子を見ていたミーシャちゃん達も嬉しそうに話しかけてくる。


「ボクも町の人達に感謝されて嬉しかったですぅ」


「ふふーん♪ アリスなんか助けたお婆ちゃんに飴ちゃん貰ったんだから」


「私も少しは役に立てたかなぁ……?」


 最後に話したルナはちょっと自信無さげだった。


「何言ってんだ、ルナの嬢ちゃん。嬢ちゃんも魔法で魔物を何体も倒してたし、避難が遅れて怪我した人を回復魔法で治療してくれただろ? 嬢ちゃんもこの町じゃ英雄さ!!」


「そうそう、俺達はすげぇ感謝してるんだからな!!」


「そんな若いのに大したもんだよ。器量も悪くないし将来べっぴんさんになるぞ」


「ふぇぇ……褒め過ぎだよ……」


 海の男達に持て囃されてルナはたじたじになっていた。その様子に僕達は思わず頬が緩んでしまう。


「皆さん、ありがとうございます。僕達はこの後、ギルドに帰宅しますが、もし再び遊びに来たら声をかけて下さいね」


「おいおい、そりゃねえぜ!」


「え?」


 僕が返答に戸惑うと、スネイクさんは「ハッハッハッ」と笑いながら言った。


「アンタ達は冒険者、俺達は海の男だが、この町では共に肩を並べて港の為に戦った! なら、俺達は戦友だ!! だったらこの出会いと町を救った祝いも兼ねて、今日は宴と行こうじゃないか!!」


「僕達はこの港の人間じゃないのに、良いんですか……?」


「おおーい、ここまで言わせておいて断る気じゃあないだろうな!?」

「スネイクさん……」


 町の人達にここまで言われてしまってはさすがに断ることは出来なかった。僕はカレンさんにこの事を伝えると「別に良いんじゃない?」と言う。


「おーし、決まった!! 野郎ども、今夜は宴だ。この港町の英雄たちを俺たちなりに盛大にもてなしてやんぞ!!」


「「「うおぉぉぉぉ!!!」」」


 スネイクさんの言葉に町の人達が雄叫びを上げる。こうして僕達はこの町を救った英雄として、宴の席に招かれることになったのだった。

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