第694話 絶体絶命!?

 僕達が乗る船が巨大クラーケンの襲撃を受けてしまった。なんとか追い返すことに成功したものの、クラーケンに止めを刺すことが出来ず、船も被害を受けてしまったことで一度港に戻ることになった。そして三時間ほど時間を掛けて港に帰投する。


「あっちゃあ、ダメだなこれは。動力部にヒビが入って水が混ざって当分動かせねぇ。よくここまで持ったもんだぜ……」


 港で甲板で船を点検していたスネイクさんが顔をしかめる。僕達が乗っているこの船は元々旧型で、大型船に比べると耐久力は低かったらしい。そのため、クラーケンの一撃を食らってしまった際、船の耐久力を超えてしまい船が破損してしまったようだ。


「スネイクさん……その……」


 僕は申し訳なさそうにスネイクさんに話しかける。


「あぁ、気にすんなって……アンタらのせいじゃねえ。いきなり襲撃受けちまったしあの状況じゃ仕方ねぇ。それにしてもあの化け物を逃がしちまうとはなぁ……。この船も当分は修理で出せねぇし……どうしたもんかねぇ」


 スネイクさんは頭のバンダナを取って頭を掻き毟る。


「すまねぇが、再討伐に向かうにしても船がねえ。俺が知り合いの船の持ち主に頼み込んでみるから、アンタらはしばらく待機してくれるか? もし無理そうなら後日って事になるが……」


「ふむ……足が無ければ、あの海の巨大生物の討伐は無理ですね……」


「そうねぇ……何とか他の手段が見つかればいいのだけど……」


 レベッカとカレンさんはやれやれといった具合にため息をつく。


「えっと……どうする、サクライくん?」


 二人の会話を聞いていたルナが僕に聞いてくる。


「そうだねぇ……港にボーっと立ってると船員さん達の迷惑になるし、食事でも食べに行こうか」


「あー、それは構わないんだが……クラーケンに漁を妨害されているせいで、港町名物の魚料理は、どの店もあんまり期待しない方が良いと思うぜ……」


 スネイクさんは苦笑しながら言った。


「えー、お魚食べられないの!? アリス、楽しみにしてたのにー!」


「アリス、無茶言っちゃダメだよ。他、船の人達困ってるから……あの、ごめんなさい」


 駄々をこねるアリスを諭すようにミーシャちゃんが言って、彼女の代わりに近くの船員さん達に謝罪する。


「気にすんなって。折角の都会から港に来たのなら新鮮な魚の一匹二匹は食べたいだろうしな……すまねえなお嬢ちゃん」


「むー」


 スネイクさんは相手が子供だからか、いかつい表情を崩して笑う。


「もしかしたら一軒くらい良いお店があるかもしれませんし、時間もありますから回ってみます」


「そうかい……まぁ残ってる可能性もゼロじゃねえからな」


「それじゃ、いってみましょうか。とりあえず宿の手配はしないといけないわね」


 こうして、僕達は今日の夕飯をどうするか話し合いながら港町の宿に向かうこととなった。三十分後、近くの宿屋に予約を取った僕達は港の近くのお店の一つに来ていた。


 結局、新鮮な魚料理は無理だったが、魔法で冷凍保存した魚料理を出してくれるお店を宿の店主が教えてくれたため、僕達はそこで食事をすることになった。


 最初はアリスちゃんが不満そうだったが、味に関しては決して悪いものでは無かったため機嫌を直したようだ。食事を終えて僕達はデザートを摘みながら今後の事を話し合ってる時、突然外が騒がしくなった。


「なんだろう……?」


 突然聞こえてきた悲鳴や怒鳴り声に僕とカレンさんは席から立ち上がる。


「何か外が騒がしくない?」

「ちょっと見てきましょうか……」


 僕達は席を立って会計を済ませて外に様子を見に行くことにした。外に出ると、港に居た船員さん達が港町の人達に大声で何かを呼びかけている。


「凄い剣幕だね、何があったのかな?」

「あ、あの……ボク、凄く嫌な予感がビンビンしてるんですけど……」


 アリスちゃんが不安そうに話していると、それに輪をかけて不安そうなミーシャちゃんが僕の袖を引っ張って言った。


 そして、船員さんの一人が僕達の事に気付いて、こちらに凄い剣幕で走ってくる。


「あ、アンタら、今すぐ港の方に向かってくれ。俺たちは港町の人達を避難させるからよ!!」


「落ち着いて。一体何があったの?」


「巨大クラーケンが……俺達の船をつけてここまで襲い掛かってきたんだ!!!」


「えっ!?」


「しかもそれだけじゃねえ!! あの魔物、自分の仲間を連れて港に集結してきたんだよ!!」


 船員さんの話を聞いた仲間達が驚きの表情をして、すぐに僕に視線を向ける。


「数はどれくらいですか!?」


「わかんねぇ……あのクラーケンの子供なんだろうが、アイツに似た小さいのが港の方に何十体も集まって海から上がってきそうなんだ!! 今は俺達が魔道具を使って抑えてるが……」


「……っ、皆、急いで向かおう!」


 僕は船員さんが指さした方へ走り出す。僕達が向かっている最中も港の方では轟音が鳴り響いており、その度に港町の人達の悲鳴や怒号が聞こえてくる。


 そして、しばらく走ると巨大なクラーケンが海から長い触手を伸ばして船の残骸やら木箱などが絡みついている光景が目に入った。そして、その周りにはクラーケンそっくりの小さな魔物も沢山引き連れている。既に何体かは陸上に上がってしまったようだ。


「た、たすけてくれぇぇぇ!!」

「うわぁぁぁぁぁぁ!!」


 手近な木の棒などで応戦していた船員さん達だが、さしもクラーケンも群れには手も足も出ないようでこちらに向かって多数の人達が逃げてくる。


 中には、雷撃を発生させるような魔道具を使用して対抗してる人も居たが、固定砲台のように使う武器の為、クラーケンたちに接近されるとどうしようもないようだ。


「彼らを助けなければ!!」


 レベッカは<限定転移>で弓と矢を取り出し、矢を放って陸に上がってくるクラーケンの子供達を海へ追い返していく。


「よし、僕達もレベッカに続こう!」

「はぁぁぁぁぁ!!」


 カレンさんが聖剣を構えて突撃し、クラーケンの子供を次々と両断する。


 彼女の動き相変わらず流麗で動きで素早い。僕も彼女と同じように突っ込んで船員さん達に襲い掛かろうとしているクラーケンの子供達を仕留めていく。


<初級炎魔法>ファイア<初級炎魔法>ファイア<初級炎魔法>ファイア!!」


 ルナが買ったばかりの杖を構えてクラーケンの子供達に何度も弱い魔法を連発する。この魔物達は炎が弱点らしく、彼女の魔法に押されて子供達は港から海の方に逃げていく。


「ミーシャ、アリスとルナを守って!!」

「う、うん!!」


 アリスの言葉でミーシャがルナとアリスの前に立って迫りくるクラーケンの子供達に立ち向かう。クラーケンの子供達は墨を吐いたり触手を伸ばしたりなど、中々に厄介な攻撃をしてくるが、ミーシャちゃんはそれらを盾で上手く防いで反撃していく。


 そして、彼女が時間を稼いでいる間にアリスちゃんが強力な魔法で纏めて攻撃を行う。


「地獄の業火よ、アリスの呼びかけに応えて!!<上級獄炎魔法>インフェルノ!!!」


 今の彼女が使用できる中で、切り札を除けば最強クラスの攻撃魔法。彼女の足元に半径2メートル程度の大きさの赤い六芒星の魔法陣が出現、そこから猛烈な炎が吹き荒れて、クラーケンの子供達を次々と燃やし尽くしていく。


「やったぁ!! 今のでかなり倒したよ!!」


 アリスちゃんは嬉しそうにピョンピョンと跳ねる。一発で10体近くのクラーケンの子供達を一瞬で燃やし尽くしたことで、周囲の人達も大歓声を上げる。


「す、すげぇ……あのお嬢ちゃんちっちゃいのにとんでもねぇ魔法使いだ……」


「おう……あの中では未熟そうに見えたのに、人は見掛けによらねぇなぁ……」


「むー、アリスは未熟じゃないもん!!」


 船員さん達の言葉にアリスちゃんがほっぺたを膨らませて怒る。


「わ、悪かったって……だけど、これは助かりそうだぜ」

「だな……」


 逃げてきた人達も僕の仲間達の姿を見て安心したのか、ホッとした表情をしている。このまま頑張れば何とかなるかと思いきや……。


「な、なんだアイツ!? 」


 そんな叫び声が上がり僕達がそちらを向くと、敵の親玉である巨大なクラーケンが港に停泊していた船を複数の触手で持ち上げていた。


「っ!?」


 僕達が乗っていた船に比べれば小さい全長8メートル程度の大きさだが、それでも相当な重量があるはずだ。それを触手だけであんな風に持ち上げるなんて……!!


 だが、その驚きはすぐに恐怖に変わる。

 なんと巨大クラーケンは、その船をこちらに放り投げてきたのだ。


「ちょっ!?」

「う、嘘!!」


 僕とカレンさんはこっちに目掛けて飛んでくる船を見て驚愕する。


 絶体絶命のピンチに、僕達は―――!!

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