第693話 クラーケン討伐に行こう!
オーガ達の討伐を終えた後。僕はルナに頼んで魔法を使ってもらい身体に付着したオーガの返り血を洗い流していた。
そして、魔法の水で身体を拭き終えた後――
「ご、ごめんなさいでした!」
僕達が一息ついていると、突然ミーシャちゃんとアリスちゃんが僕達に頭を下げて謝罪をした。
「えっ?」
「ボク達がもっと頼りになればレイさんやカレンさんにあんなに負担掛けずに済んだのに、それなのにボクとアリスは怯えて腰を抜かしてばかりでした……本当にごめんなさい……」
「アリスも……もうちょっとちゃんと戦えたら良かったのに……」
二人は落ち込んだ表情で僕達に頭を下げ続けていた。どうやら、僕やカレンさんがオーガ達と戦っている間、何も出来なかったことが心に残っていたらしい。
そんな二人を見て、皆は顔を見合わせる。
「あ~……いや、頭を上げて二人とも」
「うん、私達も別に気にしてないから」
僕もカレンさんも困った顔で二人の肩に手を置く。
「というか、僕は二人に嫌われてしまったかと思ったんだけど……」
「え?」「アリス達が?」
僕の言葉に二人がキョトンとした顔をする。
「ほら、僕がオーガロードを倒した後……」
「……あ! あれは温厚なレイさんが容赦なく敵を切り刻んだ事を驚いてただけで……!」
「迫力あったよねぇ……普段のレイさんと比べると、目を細めて真剣な表情してたからカッコよかったよ!」
ミーシャちゃんは顔を真っ赤にして言い、アリスちゃんは興奮したように両手の拳を握って目を輝かせていた。
「そ、そう……。嫌われたんじゃなくて良かったよ」
「良かったですね、レイ様……。さて、そろそろ次の依頼に向かいましょうか」
レベッカがそう言って、僕達はギルドから貰った地図の写しを拡げる。
「えっと……次は………」
残った依頼で今日やっておきたいものはいくつかあるが、オーガの群れの殲滅に比べると難易度の低いものばかりだ。どれもそれなりの数の魔物の討伐ではあるが、今回のミーシャちゃん達の動きを見るなり十分に行けるだろう。
「……よし、ルナ。今から次の場所に向かおう」
「分かった」
ルナは少し離れて<竜化>を使用して身体を大型の竜に変化させる。
『もう行けるよー』
「うん、ありがとう。さ、皆も乗って。
次からの依頼はミーシャちゃんとアリスちゃんに活躍してもらうからよろしくね」
「分かりました!」
「うん!」
その日の依頼は二人が張り切ってくれたお陰で、随分ペースを上げて消化することが出来た。
そして次の日。
小粒の依頼を終わらせた僕達は、最後の依頼を終わらせるために南の港町へと赴いていた。港町まで向かうと潮風と潮の香りが僕の身体に染み込んでくる。
港に到着するとそこには沢山の船が停泊していた。
どの船も巨大水棲生物『クラーケン』の被害を受けており船を出せずにいた。
僕達はそのクラーケンを討伐の依頼に来たのだ。
「……あの人かな。すいませーん!」
「……ん?」
僕は停泊していた船の一つの船員に話しかける。日に焼けていて頭にバンダナを巻いた30代くらいの男性だ。僕が声を掛けると男性がこちらに気付いて向かってくる。
「すみません、冒険者ギルドの依頼で来たのですが……」
「お、アンタらか! やれやれ、随分待つ羽目になったな。
……ええと、リーダーの名前は『サクライ・レイ』で合ってるか?」
「はい、僕の名前です」
「そうか。俺はこの船の船長のスネイクだ」
「よろしくお願いします。この船でクラーケンの討伐に行くんですか?」
「その予定だ。実は前の船はクラーケンの野郎にぶっ壊されちまってな。これは旧型の船だがこれしか用意できなかった。少し窮屈かもしれないが、我慢してくれ」
「分かりました。ではお世話になります」
「おおう、不満も言わずに受けてくれてこっちも助かるぜ。さ、乗りな。クラーケンの出る場所まで連れてってやる」
僕達はスネイク船長に先導されながら船に乗り込む。
「おぉ……」
甲板から改めて見るが、思ったより大きい。全長15メートルはあるんじゃないだろうか。日本で言うと中型のフェリーくらいの大きさの船だった。
甲板には木箱や樽が大量に積まれており、それを囲むようにロープが張られている。今は船員さん達が荷物の積み下ろしをしている最中だ。
「……それじゃ、よろしくお願いします」
「あいよ!」
僕はスネイク船長に挨拶した後、船はすぐに動き出す。そして、二時間ほど経過し、僕達は案内された船室で休憩していると……。
――突然、船が大きく揺れ始めた。
「わ、わ、何事ですか!?」
「いったーい!! アリス、お尻ぶつけた!!」
ミーシャちゃんとアリスちゃんが目を回しながら立ち上がる。
「こ、これは……」
カレンさんが何かに気付いたように窓から外を覗き込む。
「……!? 皆様! 窓の外を御覧になって下さいまし!」
レベッカの叫びに全員が慌てて窓に張り付くように外を見る。
僕もそこから外の景色を見てみると、そこには巨大なクラーケンの姿があった。クラーケンの複数の触手が海から身を乗り出して船に絡まっており、甲板に向かって攻撃を加えている光景だった。
このまま放っておくと船をひっくり返されてしまう。
「皆、行こう!!」
僕はそう叫んでガラス扉を開けて甲板に飛び出す。続けて仲間達も船室から飛び出し、他の船員たちを庇うようにクラーケンの前に立ちはだかる。
「た、たすけてくれぇぇぇ!!」
「スネイクさん!!」
この船の船長であるスネイクさんはクラーケンの触手によって掴まれて宙に浮かされてグルグル巻きにされていた。
「てやぁぁぁぁ!!」
僕は気合いを入れ直して聖剣を抜き、クラーケンの触手を一刀両断する。触手を両断すると掴まれていたスネイクさんが落ちてくるので僕は風の魔法を使って落下の衝撃を緩和させる。
「大丈夫ですか!?」
「お、おう……助かった……だが、このままだと船が沈んじまうぞ。何とかしてアイツを追い返さねえと!!」
「後は僕達に任せて、船員さん達を下がらせてください!」
「すまねぇ……! 聞いたか野郎ども!! 後はこの人達に任せて、俺達は一気に引き離せるように船を動かす準備をしておけ!!」
スネイクさんが声を張り上げて船員達に指示を飛ばす。その声を聞いて、船室から次々と船員達が甲板に飛び出し、荷物を運び出して避難の準備を始める。
「皆、どうにかしてコイツを船から引き剥がそう!」
「ええ、このままだと私達も船と一緒に海に落とされてしまうわ」
僕とカレンさんは聖剣を構えて斬り掛かる。しかし、クラーケンは他の触手を犠牲にすることで僕の一撃を防ぎ、続けて振り下ろされたカレンさんの剣も絡めとられてしまう。
「嘘っ!?」
危うく剣を取られそうになったカレンさんは慌てて剣を掴んで触手から剣を引き抜いて後ろに下がる。僕は続けて攻撃をするのだが、クラーケンの身体は全身濡れてヌルヌルしており攻撃が上手く決まらずすり抜けてしまう。
「……っ、ダメだ。物理攻撃だと時間が掛かりそう」
「レイ様、一旦お下がりください!!」
レベッカは壁を背中にして船の揺れに対策しながら矢を放つ。放った矢は触手の一本で絡め取られてしまうが、その隙に僕とカレンさんはなんとか敵の射程から抜け出すことに成功する。
「ミーシャ、アリス、ルナ、腰を抜かしてる場合じゃないわよ!!」
カレンさんは揺れで立っていられず床に伏せていた三人に大声で呼びかける。
カレンさんに激励を受けたミーシャとアリスはなんとか立ち上がるが、ルナだけは揺れに耐えきれず船室の床に突っ伏したままだった。
「ルナ、大丈夫!?」
僕は慌ててルナに駆け寄って彼女を立ち上がらせる。
「う、動けない……グラグラし過ぎだよぉ……」
「……仕方ない。ルナは船から落とされないように何処かに掴まってて」
「ご、ごめん、サクライくん……」
そう言うとルナはよろよろと歩いて船員さんの所にまで避難する。
「アリスちゃん、魔法でどうにか追い返せない!?」
「や、やってみるけど……地面が揺れて魔法に集中できないよぉ!」
アリスちゃんは詠唱しようとするのだが、クラーケンが暴れるたびに船が大きく傾いて揺れが起こって中断してしまう。
「……なら!!」
僕はアリスちゃんの傍まで駆けて行き、彼女をお姫様抱っこする。
「わ、わ!!」
「僕が抑えている間に何とか詠唱して!!」
その間、何度も船が揺れるが、気合で耐えて揺れを軽減させる。
「うぅ、恥ずかしいけど……アリスがやらなきゃ!!
アリスちゃんが魔法を発動させると、クラーケンの頭上に雷の槍が出現し、その身体を貫くと同時に激しく感電させる。
『―――っ!!』
だが、思ったよりも効果があったのか、クラーケンの身体がビクリと大きく身を震わせ一瞬動きが止まり、船に絡まっていた触手が解け始める。
「カレンさん、ミーシャちゃん!!」
僕は叫ぶと二人は意を得たとばかりに同時に飛び掛かって剣で斬りかかる。二人はクラーケンの本体をバッサリと斬り裂き、クラーケンの身体から血が飛び散る。
『――――っっっっ!!!』
クラーケンは激痛で身体を大きく捻らせ、そのまま船から距離を取る。
同時に、船の自由が効くようになったため、船員さん達が大きく動き出す。
「今だ、この海域から離脱するぞ!!!!」
スネイクさんが船員たち指示を出し、船は急速反転してクラーケンから距離を取り始める。
「これで船はなんとか大丈夫そうだけど……」
「まだ倒せてないわね……レイ君、聖剣技で一気に仕留めましょう」
「そうだね」
僕とカレンさんは一斉に剣を構えて力を解放し始める。しかし……。
『――っ!!』
クラーケンは嫌な予感を覚えたのか、いきなり自ら距離を取り始めてそのまま海に潜っていった。
「逃げられたっ!?」
「アリスが
アリスちゃんはそう言いながら、自分の足で立って詠唱を始める。
「――索敵開始、索敵範囲は半径500、深海500の範囲………」
ブツブツと口にしながらアリスちゃんは杖を光らせて
「……駄目、索敵範囲から逃げちゃった」
そう言うとアリスちゃんはその場でペタリと座り込む。
「……逃げられたか」
「まぁ、とりあえず追い返せて窮地は脱したわね……」
僕達は武器を収めて全員で船員さんの所に戻る。そして、逃げられたことを報告すると、船の修理も兼ねて一度港に戻ることとなった。
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