第690話 後輩が出来て嬉しいレイくん達

 次の日の朝、テーブルを挟んで六人での食事中――


「ふぁぁぁぁぁぁ……」

「ふぁぁぁぁぁぁ……」


 僕とミーシャちゃんがまるで合わせたかのようにお互いの欠伸が被る。結局、徹夜で剣の稽古に励んでしまい、そのまま早朝を迎えてしまった。


「二人とも凄い欠伸ね……もしかして、あの後ずっとやってたの?」


 僕達の欠伸を横目で聞いてカレンさんが苦笑する。


「う、うん……つい熱が入っちゃって……」


「えへへ……レイさんのお陰で随分と自信が持てるようになりました」


 同じく眠そうにしていたミーシャちゃんは彼女は笑いながら話す。

 実際に一緒に稽古してみて分かったが、彼女はかなり体力がある。稽古を終えて1時間30分ほど眠って、今食事をしてるというのに僕より元気そうだ。


「でもなんでカレンさんはボク達が稽古してたことを知ってたんです?」

「え、えーと……」


 ミーシャちゃんに質問されたカレンさんは誤魔化そうとするが……。


「カレンさん、実は昨日こっそり見てたんだよ」

「ちょっ、レイ君!?」


「え、そうだったんですか? なんで……?」

「そ、それは……」


 もう、折角二人の仲直りの機会を作ろうとしたのに。いざとなるとカレンさんが言い出せなくて話が止まってしまう。これは僕が後押ししないとね。


「カレンさんは、ミーシャが無茶しないか心配で見守ってくれてたんだよ」

「レイ君! シーッ!」


 カレンさんは僕の言葉を慌てて遮るが既に遅い。ミーシャちゃんは僕の言葉をバッチリ聞こえていて驚いたのか、目をパチクリさせていた。


「ボクの事を心配してくれたんですか?」

「……まぁ、その………」


 カレンさんは視線を逸らして頬を軽く掻く。


「ありがとうございます、カレンさん」

「……良いわよ、別に」


 カレンさんはミーシャちゃんと目を合わせないが微かに頬を赤らめていた。ミーシャちゃんも嬉しそうに笑っていた。


「(……これで少しは仲直り出来たかな)」


 二人を見て僕は少し僕は安堵した。


「ふふふ、どうやらお二人の距離が縮まったようでございますね」


 向かいの席に座って食事をしていたレベッカが微笑ましそうに二人を見ていた。


「だと良いけどね……レベッカ達は昨日何してたの?」


 僕がそう質問すると、レベッカの代わりに彼女の隣に座っていたルナが身を乗り出して話し始める。


「聞いてサクライくん! 昨日、レベッカちゃんに瞑想メディテーションのやり方を教わったんだよ!!」


「うんうん、教え方が上手くてアリスも色々勉強になったの♪」


 ルナとアリスはレベッカの挟んで「イエーイ!」と手を合わせて盛り上がる。


「随分と仲良くなったね」


「ふふふ……はい、でございます。ルナ様は人間の姿に戻ってもアリス様を気が合うようで……わたくし、少しばかり嫉妬してしまいます」


 レベッカは女の子二人を見てまるで母親のような目線で微笑む。


「そのお陰でちょっとだけマナの扱い方が上手くなったんだよ!」


「アリスも詠唱時間が短くなったの♪

 あ、そうだ。レベッカさんに聞いたんだけど、昨日レイさんが使ってた魔法、あれ<極大魔法>ってやつなんだよね?」


 昨日の魔法?ワイバーンの時に使った神の雷インディグネイトの事だろうか。


「うん、そう呼ばれてるね」


「アリスもその極大魔法ってやつ使ってみたい!」


「(あれってそんな気軽に使える魔法なんだろうか……?)」


 僕の使える極大魔法は、ルナの以前の姿だった雷龍を通して習得したものだ。


 そうでなければ僕はあんな魔法の才能なんか無いし、エミリアも特殊な魔導書を解読してようやく習得出来たと聞いている。自力習得なんて相当才能がないと不可能じゃないだろうか。


「んー、まぁ時間があればエミリア辺りに聞いてみるよ」


「お願いねー、アリスもあんなドーン!!バーン!!!って感じで無双してみたいの♪」


 極大魔法を使いたい理由がだいぶかなりいい加減だった。


「それで、今日は昨日で行けなかった依頼を纏めて受けたいと思ってるよ」


 僕は鞄に纏めておいた依頼書を数枚取り出す。


「とりあえず、一番やっておきたい依頼はこれかな」


 僕は内の一枚を取り出して皆に見やすいようにテーブルの真ん中に置く。


【オーガロード率いるオーガの群れの殲滅】


 街の開拓の際に村人が移動し、跡地となった廃村にオーガの群れが住み着いた為、近隣の村から討伐依頼が舞い込んできた。オーガは力や体力などが高い上に上位の魔物は再生能力を持っており、また統率の取れた動きをするので非常に厄介だ。


「報酬も高いってのもあるけど、これもそれなりに重要度が高いから早めに消化しておきたいね」


「ふむ……ワイバーンとは別の意味で厄介な魔物でございますね」


「単独での脅威度は低いけど、人減の集落を襲うこともある厄介な存在だしね……近隣の村の依頼だし、緊急性も高いでしょう」


 僕の言葉にレベッカとカレンさんが同意する。


「敵数が不明だから、きちんとした作戦を立てようと思うんだけど……」


 僕はそう言いながら話を続ける。


「まず僕とミーシャちゃんが前列。中列にルナとアリスちゃん。後列にカレンさんとレベッカで進むつもり。廃村は人の手が入ってないから草木に足が取られやすい。歩くときは気を付けながら進んでね。

 オーガが簡単なトラップを張ってる可能性がある。もし沼地や水たまりを見つけてもトラップが設置されてる可能性があるから絶対に入らない事。

 僕とミーシャちゃんが先頭を進んでいくから他の四人は周りに注意しながら付いてきて」


 僕は手早くそう話す。すると、ミーシャちゃんが手を挙げる。


「どうしてボクが前列なんですか?

 足場が悪いなら僕は歩くのが遅くなると思うんですけど……」


「うん、それは勿論考慮に入れてる。だけどレベッカは近接武器の槍を持ってないから前に出るのは危ない。アリスとルナは守りも弱いから論外。

 そうなると前列が出来るのは守りを固めている僕か、カレンさんか、ミーシャちゃんの誰かが受け持った方が良いんだ」


「な、なるほど……」


「はいはーい、質問」


 ミーシャちゃんが納得すると、今度はアリスちゃんが質問してくる。


「じゃあ、なんでカレンさんが後列なの?」


「良い質問だね。敵に挟み撃ちにされた時や後方からの奇襲対策だよ。

 もし後列が守りの弱いメンバーで固めた場合、背後から攻撃を喰らえば、守りの弱い後列は最悪一撃で倒される可能性がある。そこで――」


 僕は続きを話そうとするが、カレンさんが「私が話すわ」と引き継ぐ。


「私が後列の場合、最悪攻撃を受けても即死する可能性が低い。いえ、戦士系の技能を持ってる私であれば、不意打ちに事前に気付ける可能性もある。

 前列と後列の守りを固めて、守りの弱い魔法使いを中列に配置することで、いざとなれば私達が壁になって、中列のアリスちゃん達に敵をまとめて薙ぎ倒してもらうってプランよね? レイ君」


「その通り、流石カレンさん」


 カレンさんは僕の言わんとしていることを先読みして説明してくれた。


「カレンさん、サクライくんの作戦を知ってたの?」


 ルナは疑問に思ったのかカレンさんに質問を投げかける。


「いえ、でもレイ君ならそこまで見えてると思ってね」


 カレンさんは僕にウィンクする。彼女に信頼されてると思えば嬉しい限りだ。


「……ふふ、ではアリス様、ミーシャ様、ルナ様、ここで一つわたくしから問題を提示させて頂きます」


 話を聞いていたレベッカが微笑みながらそう彼女達に言った。


「アリス、クイズは大好きだよ」

「問題……ですか?」

「なになに、レベッカちゃん」


 三人がそれに反応して、レベッカの次の言葉を待つ。


「レイ様とカレン様が敢えて言わなかった理由がもう一つございます。

 前列と後列の配置の理由……もっと具体的に言えば、ミーシャ様を前列に、カレン様とわたくしを後列に置いた理由を改めて考えてみてくださいまし」


 レベッカはそう言うと手をパチンと叩く。


「ミーシャちゃんを前列に置いた理由……?」

「カレンちゃんとレベッカちゃんは後列においた理由……?」

「えーと……んー……なんだろう……」


 三人は考え込む。しかし、答えが浮かばないようで、ミーシャちゃんはレベッカに回答を求める。


「すいません、ボクにも分かりません……」

「ふふ、ではヒントでございます」


 レベッカは人差し指を立てて答える。


「ミーシャ様とカレン様のお二人は、わたくしの見立てでは防御力は同程度だと思われます。しかし、お二人には他の要素で決定的な違いがございます。

 それはわたくしが後列に配置された理由にも該当するのでございますが……その違いを理解すれば、すぐに回答に辿り着くと思いますよ♪」


 レベッカは楽しそうに言った。


「レベッカ。そのヒントだと、ルナはともかく二人には難しいかも?」

「おや、そうでございますか?」


 レベッカは僕の言葉にキョトンとした顔で反応する。予想通りというべきか、アリスちゃんとミーシャちゃんは今のヒントもピンと来なかったようだ。


 そして、ルナは……。


「……カレンさんとミーシャちゃんの違い……う、うーん……」


 ……ルナも分からないようだ。ちょっと難易度が高すぎたかもしれない。


「なら僕の方からも問題を出してみるよ。これの答えがそのままヒントに繋がると思う」


 僕は少しだけ考えてから、こういう問題を出してみる。


『僕達6人がフル装備状態で100メートル走を行ったとします。1位と2位は誰と誰になるでしょうか?』


「……なるほど、これなら分かりやすいかもね」


 カレンさんは僕の問題に感心したように笑う。


「……あ、分かった!」


 そしてルナはすぐに答えに辿り着いたようだ。

 ルナは椅子から立ち上がって僕の方に歩いてきて耳元で囁く。


「一位は……二位は……で、合ってる?」


「うん、正解」思わずルナの頭を撫でる。「それに正解したならレベッカの問題の意味も分かるよ」と続ける。


 するとルナは「うーん」と考えてから少しして「あ!分かった」と嬉しそうに言った。


「後で纏めて答えを発表するから、ルナはそれまで二人に教えないでね」

「分かった!」


 ルナは返事をして自分の椅子に戻っていった。


 そして、それから五分程考えて――


「あ、分かりました!!」「アリス、分かった!!」


 二人はほぼ同時に声を上げる。

 が、同時だったためお互い対抗意識を持って睨み合う。


「アリスが先に分かったんだから!!」

「ち、違うよ。ボクが少し早かった!!」


 二人は言い争いを始めたが、カレンさんが「喧嘩は駄目よ」と注意する。


「で、答えはなんだったのかしら?」


 カレンさんの言葉に二人は睨み合っていたのを止め、お互い気まずそうにしながら席に着く。


「では、アリスちゃんから言ってくださいまし」

「一位はカレンさん、二位はレベッカさん」


「……では、ミーシャ様」

「一位はレベッカさん、二位はカレンさん……ですか?」


 二人の回答は似通っているが微妙に違っていた。だが、今回の問題に関していえばどちらも正解だ。


「うん、二人とも正解だよ」「え」「えっ?」


 僕がそう話すと、アリスちゃんとミーシャちゃんは戸惑った声を出す。


「一位か二位の順位付けは問題じゃないんだ。重要なのはその二人の配置」


「配置……」


「……というと、レベッカさんの問題の話ですか?」


「そう。二人とも僕は後列に配置してるよね?」


「……あ、確かに!」


 ミーシャちゃんは分かりやすくポンと手を叩いて反応してくれた。


「で、追加で問題……というより、ミーシャちゃんに質問。僕がさっき言った『100メートル走』でミーシャちゃんは何番目位になると思う?」


「えっと……。レベッカさん一位、カレンさん二位、レイさん三位……その後にボクが来るかな?」


「えー、アリスの方が足早いもん!!」


 ミーシャちゃんの呟きに、自分が彼女より遅いと言われたのが気に入らなかったのか、アリスちゃんは子供っぽく不満を言う。


「その場合、私は問答無用で最下位だね……うぅ……運動不足がぁ……」


 そして、ミーシャとアリスが四位争いする前提の場合、最下位確定なルナが悲しそうに笑って落ち込んでいた。


「まぁ、そういうことだね」


「……あー! アリス答え分かっちゃった!!」


 そこまで聞いてアリスは答えに辿り着いたようだ。


「ミーシャが前列、カレンさんとレベッカさんが後列の理由。

 答えは二人の足が速いのが理由。足が速いから足場の悪い場所でもちゃんとついて来られるからって事なんだね!!」


「……ふふ、アリス様。大正解でございます」


「えへへ、やったー」


 アリスは嬉しそうに椅子の上でジタバタと手足を動かす。そして、それを見たミーシャちゃんは少し悔しそうにしていた。


「ルナは正解だった?」


「うん! サクライくんが『ルナはともかく二人には難しいかも?』って言った理由も分かる。要するに、私の方が両方との付き合いが長いから答えに辿り着きやすいって事だよね!」


「その通りだよ。今回のクイズ、一番に正解に辿り着いたのはルナだね」


「やったー♪」


「う、ルナに負けた……」


「ぼ、ボクだけ答えが分からなかった……」


 僕とルナが手を叩くと、アリスとミーシャは悔しそうにしていた。こうして、僕達は楽しく話をしながらこの後に向けて作戦を共有するのだった。

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