第688話 ゴーレム君、即座に沈む
ワイバーン討伐の依頼を終えた僕達は、討伐の証明となるドラゴンの角や部位を回収してから一旦街に戻る。
その後、ルナとアリスとミーシャの三人は先に少し遅めの昼食を摂ってもらい、残った三人でギルドで報酬の精算を行うために冒険者ギルドに向かう。
僕を含めた三人は冒険者ギルドに入り、代表して僕は受付のお姉さんに話しかける。
「北の山脈に現れたワイバーンの群れの討伐を終えたので清算お願いします。これが証拠の品です」
証拠の品であるドラゴンの角や爪の部位を受付のカウンターにドンと置く。
「えぇ、ワイバーンの群れですか……では、少々お待ちください」
お姉さんは席を立って奥に行くと、しばらくして書類を持って戻ってくる。
「では確認しますね。えっと……ワイバーン討伐数は全部で25体ですね」
僕はその言葉に頷く。
「はい、ただその内一体は上位種と思われる一回り大きなワイバーンが居ました」
「……そのワイバーンの特徴を教えて頂きますか?」
「ええと、鱗が焼けたように真っ黒で、角が他よりも二回りほど長かったように思います。あと、頭が良いみたいで見え見えの陽動には中々引っかかってくれなくて討伐が最後になりました」
「……も、もしかしてそれってギガントワイバーンでは!?」
受付のお姉さんが驚いた顔をして声を上げる。それと同時に周りが静まり返った後、今度はザワザワと騒がしくなった。
「ギガントワイバーン?」
「最近、新種として発見されたワイバーンの最上位種の名称です。真っ黒な鱗に鋭く長い角、それに人間と同等以上の知性を併せ持つ、ワイバーン種にはこれまで居なかった『龍王級』と噂されるワイバーンです」
「へー、そんな凄い種類だったんだ」
僕は感心したように呟く。すると、受付のお姉さんが興奮したように言った。
「まさか龍王級のワイバーンが率いているとは……。申し訳ありません、こちらの不手際で報酬を上乗せいたします」
「え、本当ですか?」
「はい。本来B級+の高難易度任務だったのですが、訂正して今回はA級の依頼として扱わせて頂きます。報酬額の上乗せは元の金貨30枚から更に30枚上乗せして金貨60枚として如何でしょうか?」
「え、倍!?」
僕は思わず声を上げる。ワイバーン討伐で金貨60枚なんてとんでもない大金だ。
「あら、思ったよりも当たりの依頼を引けたわね」
カレンさんがご機嫌そうに微笑む。お陰で金銭に少し余裕が出来そうだ。
しかし、カレンさんは続けて言った。
「でも、『龍王級』のドラゴン相手なのにA級なのかしら? 本来、そのレベルの相手なら『最重要特別任務』に値する『S級』に該当するんじゃない?」
「申し訳ございません。カレン様の仰る通りなのですが、何せワイバーンの群れを討伐する依頼でしたので、ここ支部の依頼に留まっておりました。即座にそれほどの報酬をお渡しするのであれば、本部のゼロタウンでもないと……」
「あら、そうなの?」
受付のお姉さんの言葉にカレンさんは少し不満そうに声を漏らす。
「ですが、『龍殺し』の称号授与はこの支部であっても可能です。ギガントワイバーンの討伐をされたのはどなたでしょうか?」
龍殺しの称号……。一定以上のドラゴンを討伐した際に与えられる称号で、これがある高難易度の依頼が優先的に回されるようになるらしい。あと、報酬に色が付くとも聞いたことがある。
それ以外にも、二つ名として『龍殺し』の名の異名が付いて冒険者界隈で有名になるとか……。
「えっと……レベッカですけど」
僕達の視線が、この中でもアリスちゃんの次に小柄なレベッカに集中する。
「では、ここにサインをお願いします。それとしばらくお時間宜しいでしょうか、レベッカ様。ギガントワイバーンを討伐した際の細かな戦闘記録を取らせてください。あと、可能なら少し身体も調べさせて頂きます」
「え? あ、構いませんが……」
どうやらこの支部でも『龍殺し』の称号授与の為に色々とすることがあるらしい。
「では、他の方は三時間ほどお待ち頂いて宜しいでしょうか」
「三時間!?」
僕は受付のお姉さんの言葉に驚き、思わず声を上げる。
「はい、別室で色々と調べますので」
受付のお姉さんは当然のように言う。
「困ったな。他にも受けている依頼がいくつもあるんだけど……」
僕はレベッカはチラリと見る。
「……」
レベッカは寂しそうに無言でこちらを見ている!
「(こ、この視線は……『レベッカを置いて行かれるのですか、レイ様……わたくし寂しいのです……』という、レベッカのメッセージ!)」
「(いや、気のせいよ)」
カレンさんがこちらにジト目を向けてくる。僕はカレンさんの視線をスルーしてカウンターのお姉さんに話しかける。
「一応確認だけど、付き添いは必須なの?」
「はい、詳細の齟齬があると後々面倒なので、付き添いの方は最低一人残って頂けると……その後、また1時間ほど時間を取らせて頂くことに……」
「……それなら仕方ないわね。私が付き添いとして残ることにするわ」
カレンさんはそう言ってこちらを見る。
「ここは私に任せて良いわよ。レイ君は今の間に他の三人を連れて細かい依頼をお願いして良い?」
「うーんと……レベッカはそれで構わない?」
カレンの言葉を聞いて、僕は当事者のレベッカに質問する。
レベッカはコクリと頷き、「ご迷惑おかけします。レイ様」と申し訳無さそうに頭を下げた。
「じゃあ、カレンさんはレベッカを頼むよ」
僕はカレンさんにそうお願いしてカウンターから離れた。こうして、僕達は各々冒険者ギルドで依頼を受ける為に一旦分かれることになったのだった。
◆◆◆
「さてと……」
レベッカをカレンに任せてギルドから出た僕は、待たせているルナ達を探す。彼女達が回ってそうな飲食店を探すと、外の飲食店の窓から彼女達の姿が見えたので自分も中に入ることにする。
「お待たせ、三人とも」
僕が声を掛けると、三人はこちらに振り向く。
「あ、サクライくん」
僕の姿を見たルナが嬉しそうに手を振る。良いお店が見つかったらしい。
三人のテーブルに着いて僕も適当に食べ物を注文し、少し時間が経つとすぐに店員さんがトレーに乗せて食事を運んできた。
僕達は食事をしながら会話を始める。
「カレンさんとレベッカちゃんは一緒じゃないの?」
「僕達が倒したワイバーンの一匹が『龍王級』の魔物だったらしくて」
「龍王?」
「ドラゴン系統の最強種らしいよ。そいつにレベッカが止めを刺したことで『竜殺し』の称号の授与が貰えることになったんだ」
「へぇー、凄いね! レベッカちゃん!」
ルナは自分のことのように嬉しそうに言う。
「だけどその手続きに時間が掛かることになって……この後は僕達四人で依頼をこなすことになるよ」
「えっ」
「えっ?」
雑談していたミーシャとアリスの二人が驚いたようにこちらを見てくる。
「あ、心配しなくても大丈夫だよ。二人が抜けた状態で流石にそんな難しい依頼に行くつもりはないから。今日は簡単な依頼だけに留めておこう。ワイバーンの群れ討伐で少しはお金に余裕も出来たし」
僕はそう言って、持っていた依頼書を取り出す。人数も少ないことだし、今日の依頼は3つくらいだけ消化することにしよう。
「……よし、ゴブリン討伐とコボルト討伐、それに山の麓に出現した巨大なゴーレムの討伐、この辺りならいいかな」
「きょ、巨大ゴーレム?」
「普通のゴーレムよりは討伐難易度が1ランクほど高いけどまぁ大丈夫だよ」
もし、三人の手に余るようなら三人には避難してもらって僕が単独で討伐するつもりだ。ただアリスちゃんとミーシャちゃんを鍛えてあげてほしいって話だから、出来れば参加してほしい。
「……という事なんだけど、ミーシャちゃんとアリスちゃんも大丈夫?」
「うー……カレンさんが居ないとちょっと不安……」
「せめてサクラお姉様が居れば……」
……む、どうやら僕だけだと頼りなく思われているらしい。
「分かった。ゴーレムは僕だけで戦うよ。三人は見てるだけで大丈夫」
「うえっ!?」
「いや、流石にそれは……」
ミーシャとアリスが慌てて声をあげる。だが僕は譲らずに言う。
「大丈夫だよ二人共。……まぁ見てて」
二人は困ったように顔を見合わせるのだった。
◆◆◆
──そして、僕達は依頼を消化するために街の外までやって来た。
ちなみに、カレンさんとレベッカが食事抜きにならないように店を出た時にお土産を買って二人に届けてある。
というわけで少し時間を程掛けて山の麓までやってきた。麓まで来ると突然周囲に地震が発生し、ただの瓦礫だと思っていた崩れた大岩が巨大な岩で出来た魔物に変わっていく。
「あ、アレがゴーレム!?」
ゴーレムを始めて見たルナが驚いた声で言う。
「うん、空気中に漂うマナが魔物の影響で変質したもので、無機物に憑りついてあんな感じになるんだって」
「あ、あの……レイさん、本当に滅茶苦茶大きいんですけど!?」
ミーシャちゃんがゴーレムの巨大さに動揺したように声を上げる。ゴーレムの大きさは大体8メートルくらいの高さだった。
平均だと2~3メートルということは考えるなら、なるほど確かに巨大というだけある。
「みたいだね。危ないから三人はもっと後ろに下がってて」
「ってぇ、本当に一人でやる気なの!?」
「うん、というかむしろこの相手だと多分一人の方がやりやすい―――」
と、僕が言い掛けたところで僕の真上に影が掛かった。
「レイさん危ない!!!」
アリスちゃんの悲鳴にも似た声が響く。僕が真上を見ると、ゴーレムの大きな手が太陽の光を遮って僕の上空真上に差し出されており――――
次の瞬間、その大きな手が僕の居る地上に向けて勢いよく叩きつけられる。
◆
【三人称視点】
「……っ!?」
「サクライくん!!」
「そ、そんなっ!!!」
地を揺るがすほどの衝撃と共に、巨大ゴーレムの手がレイの居た場所に叩きつけられた。その攻撃を見ていた三人は、余りの衝撃に自分達が地面に転がりながらも思わず悲鳴を漏らす。
だが、当のレイは――
「よっと」
ゴーレムの一撃を躱していた。そして、軽やかに地面に着地する。
「危なかった……流石に戦闘中油断し過ぎたね」
あははと言いながらレイは笑う。
「え、えぇー!? 今、どうやって躱したの!?」
「絶対死んだかと思った……」
「ぜ、絶対ぺちゃんこになって潰されたと……よ、よかった……サクライくん……!」
ルナは気が抜けて抜けて再び腰を地面に降ろす。
「さて、早速やらかしちゃったけど、少しは皆の前でカッコいいとこ見せないとね」
レイはそう言いながら腰に掛けた鞘から剣を抜いて構える。
「……ん、何、
レイは剣に向けて何やらボヤいていた。
「レイさん、誰と喋ってるの?」
「た、多分、聖剣かな……?」
答えた彼女は聖剣の事は詳しくないが、彼が剣に向けて何度も話しかけてる場面を見ている。こちらには聞こえないが剣の方から話しかけられたのだろう。
「相手は大きくてもただのゴーレムだし、こんな相手―――」
レイは相変わらず剣と会話をしていたが、巨大ゴーレムはレイの方に大きな足を向けて踏み潰そうと動き出す。
「あ、危な——」
「大丈夫だよ」
レイがポツリと呟く。そして、次の瞬間だった。レイの剣が突然燃え盛り、一瞬赤い剣閃が迸ったかと思えば、巨大ゴーレムの足がバラバラに崩れ落ちていった。
その足は地面に落ちる前に炎に包まれており、地上に落ちた瞬間、蒸発して消えていった。
「は?」
その光景を見ていたルナ達が思わず呆けた声を出した。何が起こったのか理解が出来なかったのだ。
片足を失ったゴーレムはその巨体を支えきれずに、『ゴォオオオオッ』と大きく音を立てながら崩れ落ちた。
『ゴゥオオオオオオオオォォォ!!!』
悲鳴とも何とも言えないゴーレムの奇怪な声が響き渡る。ゴーレムは再び立ち上がろうとするのだが、その巨体を片足で立ち上がるなど到底不可能。ゴーレムは前のめりに倒れて地面に這いつくばる。
そこにレイが歩いていきゴーレムに燃え盛る剣を突きつける。
「――<
レイは小さく一言呟く。次の瞬間、巨大ゴーレムの中心から巨大な炎の塊が出現し、ゴーレムの体を飲み込む。そして数秒後に大爆発が起こり、巨大ゴーレムの残骸が周囲に飛び散った。爆発の中心となった場所は抉れてクレーターのようになっており、巨大ゴーレムの姿は跡形もない。
レイは剣を鞘に納めてルナ達の元まで戻ってくる。
「終わったよ。これで少しは僕の事認めてくれると嬉しいな」
そう言って、爽やかに笑う彼を見てミーシャとアリスは顔を強張らせながら思った。
「(こ、この人、カレンさんよりも強くない!?)」
「(強すぎ……! ていうか、今の爆発なんだったの……?)」
「???」
二人の強張った顔を見て、一仕事終えたレイは不思議そうにしながら首を傾げるのであった。その後、レイの強さを知ったことで二人はテキパキと依頼をこなすのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます