第686話 一番働いてるのはルナ
僕達が休憩しているとレベッカ達が依頼書の束を抱えてこちらにやってきた。彼女達が持ってきた依頼の数は合計10枚。とりあえず近場で報酬が高いものを選択して持ってきたらしい。
まず、目を引くのは北の山脈に現れたワイバーンの群れの討伐である。
これの討伐報酬は金貨30枚とかなりの高額な依頼だ。次に南の港周辺に現れたクラーケンの討伐。これの依頼報酬は金貨18枚とこちらも中々高額である。
次に報酬が高いのは、近隣の廃村を根城にしたオーガロード率いるオーガの群れの殲滅、こちらは金貨12枚だ。
それよりも少し落ちて金貨9枚で巨大ゴーレムの討伐。それ以外にも草原や荒野に現れた強力なモンスターの討伐の依頼が4件。どれも金貨4~5枚程度の報酬になっている。他2つは小粒なものが多く、ゴブリンやコボルトなどの討伐依頼だ。
「……全部討伐を済ませたとして、合計金貨90枚か……」
「目的の金額より少し足りないけど、仕方ないわ。残り分はどうにかして工面しましょう」
僕の呟きにカレンさんが答える。
「でも、南の港のクラーケンって海に居るんだよね。アリス達は船なんか持ってないよ」
「船員さんに船を出してもらうしかないかなぁ」
アリスちゃんの疑問にミーシャちゃんが答える。
「そ、それよりワイバーンって……」
ルナは不安そうに一枚の依頼書を手に取って見つめる。
「ワイバーンはドラゴンの事よ。翼で空を飛んでるから対処が限られるし、集団行動するから討伐難易度が高いのよ。今みたいな緊急時じゃないと私でも相手にしたくないわね」
カレンさんはルナの持ってる依頼書を見つめながらルナの疑問に答える。
「か、カレンさんも苦戦するの!?」
ミーシャちゃんがカレンさんを見上げて驚いたような顔をする。
「別に私だって無敵ってわけじゃない。ドラゴン系のモンスターなんて強くて当然だし誰だって苦戦するわ」
「ふむ……その通りでございますね。わたくし達も1週間ほど前にに大きなドラゴンと戦って倒すのに苦労しました」
「え!?」
カレンさんの言葉に同意して頷くレベッカを見てミーシャちゃんは驚く。だが、ミーシャちゃんが気になってその話を詳しく聞こうとしたところで、彼女は別の依頼書に目を通しながら会話を始める。
「ただ、ドラゴンの討伐は緊急性が高いのです。万一ドラゴンが人里にも出没すると被害が甚大なので早く対処しなければ犠牲者が出てしまうのですよ」
「で、でも…ボク達で勝てるの?」
「アリス達……流石にドラゴン相手はちょっと……すごく強いんでしょ?」
ミーシャちゃんとアリスちゃんは相手がドラゴンと聞いて尻込みする。
「カレンさん、ワイバーンってそんなに強かったっけ?」
「そうねぇ……地上に降りてきてくれたら大したことないんだけど、空を飛ぶから攻撃が当たりにくいのよ」
「じゃあ飛行魔法使う?」
「翼を持つドラゴン相手だと良手とは言えないわね。
こっちにはルナちゃんが居るからある程度対等に戦えるかもしれないけど……。ルナちゃんって
カレンさんがルナに質問すると、ルナは首を横にブンブン振る。
「なら<竜化>したルナちゃんにレベッカが騎乗して、弓矢で攻撃してもらうのが一番早いかしら?」
「わたくしもその案で構いませんが、皆様はどうされるのですか?」
「そうね……私やレイ君、それにアリスちゃんは魔法で攻撃する形になると思う」
「……あの、ボクは?」
ミーシャちゃんは不安そうな顔をして自分を指差す。
「お留守番ね」
「そ、そんなぁ……」
ミーシャちゃんは情けない声を上げる。
「まぁ、今回はあくまでも緊急時の対応だしね。あまり大げさな戦力は必要ないわ。留守番とは言ったけど、何かあった時に人を呼びに行くとか役割はあるはずだから、アンタも一緒に来ても良いわよ」
「うぅ……分かりました」
自分が戦力外と通告されてミーシャちゃんはショックを受けた様子だったが、それでも渋々カレンさんの言葉に頷く。
「ワイバーンはそれでいいとして、クラーケンはちょっと後回しかな」
「う、うん……港の人と話し合って船を出してもらうのも時間掛かりそうだもんね」
僕の言葉にルナも頷く。
「よし、じゃあ決まったところで行こうか」
「ええ」
「はーい」
「はいでございます」
「うん!」
元気よく皆が返事をする中、その後ろでミーシャちゃんが寂しそうに俯いていた。
「(……後でフォローを入れておかないと)」
カレンさんは言わなかったが彼女が戦力外なのは実力不足が理由じゃない。
単純に戦士であるミーシャちゃんは空を飛ぶワイバーン相手に相性が悪いためだ。今回は出番が無かったとしても、他の依頼では必ず彼女は活躍してくれるはずだ。
「それじゃあ、変身するね」
ルナはそう言いながら身体を輝かせながら美しい月の竜に変化させる。そして、彼女の了解を得てから彼女の背中に乗って目的の北の山脈へ飛ぶ。
「うわぁ……すごい眺め」
ルナの背中に乗って空を飛んでいるミーシャちゃんが、眼下に広がる絶景に思わず感嘆の声を上げる。ルナは山脈の上空を旋回しながら目的のワイバーンを探すと、直ぐにその姿を見つける。
「(いた)」
僕は双眼鏡でワイバーンの数と位置を確認してから皆に声を掛ける。
「ワイバーンの数が想像以上に多いね。見えてる範囲でも20体以上だ」
「20体以上……その数だと、流石に正面から戦うのは厳しいわね」
カレンさんも双眼鏡で確認してから、僕に同意する。
「ワイバーンって群れで活動するものなの?」
ルナの背中に乗っているミーシャちゃんが首を傾げる。
「そうでございますね……小型のドラゴンは群れで活動するので、成長しても中型程度のワイバーンもその例に漏れないのかしれません。……でも、今回の場合は……」
レベッカが言葉を濁してワイバーンの群れを見る。その視線には警戒の色が濃く出ていた。
「……レイ様、双眼鏡を貸していただけますか?」
「うん」
僕は背後のミーシャに双眼鏡を一旦手渡して後ろのレベッカに双眼鏡を渡してもらう。双眼鏡を受け取ったレベッカは、片方の手で体のバランスを取って、もう片方の手で双眼鏡を覗きこむ。
「……やはりそうでしたか」
レベッカは一言だけ呟いてミーシャちゃんに双眼鏡を返す。
「何か分かった?」
「はい。正面のワイバーンたちの若干後方に、一回り程度大きく鱗の黒いワイバーンを確認しました。ワイバーンの上位種かと思われます。おそらく、あの大きなワイバーンが他のワイバーンを統率していると思われます」
「つまり、そいつが親玉ってことなの?」
レベッカの説明を聞いたアリスちゃんが質問すると、彼女は頷いてから続ける。
「恐らく単独でもかなり脅威になるかと。このまま接近すると、向こうがこちらに気付いて襲い掛かってくる可能性もあります」
「……山脈の何処かに先回りして迎え撃とうか?」
「良案だと思います、レイ様」
僕の提案をレベッカが賛同する。
「よし、じゃあルナはワイバーンの群れの後背に回って、僕達はそのワイバーンを迎え撃つ形で良い?」
『うん、移動するね』
僕の言葉にルナは頷く。そして、僕達はそのままゆっくりと旋回しながらワイバーン達が拠点にしてると思われる山脈の陰に回り込む。
そこで僕達は一旦着地して、ワイバーンたちの姿が目視できる岩陰に隠れる。そこには大きな卵が割れたような残骸があった。
その中に、まだ生まれていない大きな卵が一つ残っている。どうやらここがワイバーンの巣のようだ。
「……丁度この辺りで良いかな」
僕はワイバーンたちとの位置関係が把握しやすい場所を見つけて頭を働かせる。
「(分かったことはワイバーンの数は24体と大きい上位種が1体。ワイバーンたちは今は散ってる状態だけど、この山脈に巣を作ってるみたいだ)」
僕は事前に立てた作戦を反芻しながら頭を働かせる。
「(本来の作戦ならルナに騎乗したレベッカ空中から矢で仕掛けてもらって、僕達は魔法でサポートする役割だったけど、そのままの作戦だとレベッカとルナが危険過ぎる。あの数に上空で襲われたらひとたまりもない……となると)」
僕は背後のワイバーンの巣を振り返る。
「……よし、作戦が決まったよ。今から手短に伝えるから皆はそれに従って動いてほしい」
僕はそう言って皆の顔を伺う。作戦を伝えている間にワイバーン達が戻ってくる可能性も考慮して、ミーシャちゃんに双眼鏡を持たせて上空を見張っててもらい、その間に皆に作戦を伝えた。
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