第684話 ミーシャちゃん勇者相手に頑張る!
街に着くと、僕達は荷物を置くために全員分の宿を取る。
部屋割は僕が個室、レベッカ、カレン、ルナの三人部屋、それにミーシャとアリスの二人部屋だ。僕以外女性しか居ないので宿を取る時は神経を使う。
その後、ロビーで全員が合流してから冒険者ギルドに向かう。
ここの冒険者ギルドで掲載されている依頼は本元であるゼロタウンのものも混じってるため比較的数が多い。
しかし、街の設備が最低限しか整っていないため滞在してる冒険者の数はあんまり多くないようだ。その分、依頼の取り合いが少ないというメリットもある。
冒険者ギルドに入ると掲示板に掲載されている依頼書を全員で見繕う。
「……足りない資金って全部でいくらだっけ?」
「修理代は金貨五百枚、宝石分で百枚は減額されるはずだけど、それでも私達の手持ちを全部合わせても金貨三百枚に少し届かない位ね……」
「ミーシャ様とアリス様を鍛えて成長が実感できるくらい強くなれば、金貨五十枚まけて頂けるそうでございますが……」
「えっと、それだと残り金額は……」
僕が計算していると、カレンさんが「まぁ、ざっと金貨百枚くらいね」と答えてくれた。
「うーん、短期間で金貨百枚かぁ……」
「ふむ……無茶な依頼でも受けぬ限り数日での達成は困難でございますね」
「む、無茶な依頼? えっと、私、まともな戦闘経験ないから勘弁してほしいかなーって、あはは……」
レベッカの言葉にルナは焦ったように笑いながらそう言った。
「今回、ルナはどっちかというと移動担当かな。短期間で複数の依頼を受ける為に、色々な場所を竜化して、飛んでもらわないといけないから」
「そうね。ルナちゃんにも実戦経験積んでほしいところだけど……」
カレンさんはルナから視線を外してミーシャちゃんの方を見る。
「どっちかというとこっちの方が緊急案件だからね……はぁ、金貨五十枚の為とはいえ面倒な依頼を引き受けちゃったわ……」
カレンさんは溜め息を吐いて、ルナと一緒に依頼書を見ながら相談を始めた。
「ふむ、レイ様、わたくし達が依頼書を見繕っている間に、ミーシャ様とアリス様の事を見てあげては如何でしょうか?」
「え、どゆこと?」
「森を出る際に『模擬戦をする』というお話をしていたかと」
「あ、そっか」
自分が言ったことを思い出してミーシャとアリスの二人と向き合う。
ミーシャちゃんは僕に視線を向けられて、ビクッと身体を揺らす。
「……えっと、模擬戦」
「い、い、い、い、いえ、ボク如きにそんな!!」
「ミーシャ様、レイ様が見て下さるのであれば、是非お受けするべきかと」
「う……」
レベッカの言葉にミーシャちゃんは言葉に詰まる。
しかし、ちらりとカレンさんを見ると、彼女は何も言わずに頷いた。
「……わ、分かりました。お願いします」
「よし……じゃあ、アリスちゃんも一緒に来てくれる?」
「アリスは普通に戦えるよ?」
アリスちゃんは僕にキョトンとした可愛らしい表情を向ける。
「うん、魔法が十分使えるのは分かってる。だけど、実際二人がどう戦うか見てないから、その確認も含めて……ね」
模擬戦とはいうが、実際のところは連携の確認だ。
これから数日は僕達四人と一緒に行動する以上、連携は必須だ。
「(まぁ、模擬戦で二人の実力を見てから連携に生かすってのが本来の流れなんだけど……)」
ミーシャとアリスちゃんの二人は僕の真意には気付いていないようだ。
「というわけで、表に出よう」
「お、お、お、お、表に!? 『……外に出ようぜ、キレちまったよ……』的な意味ですか!?」
「………」
大丈夫だろうか、この子。
◆◆◆
僕は怯えるミーシャちゃんと何処か面白がってるアリスちゃんの二人を連れて街の外に出た。
「ここなら迷惑掛からないかな……」
周囲の建物から離れてるし、依頼を受けて旅立とうとする冒険者達もこちらを気にする様子は無い。派手に戦うつもりはないけど、ここなら周囲に被害が飛ぶようなことも無いだろう。
「じゃ、まずはミーシャちゃんだね。アリスちゃんは座って見学でもしてて」
「はーい」
「は、はい……」
アリスちゃんは丁度良さそうな近くの岩にハンカチを乗せてその上にちょこんと座る。
ミーシャちゃんは緊張した面持ちで返事をして、剣と盾を構えて僕を見る。僕は鞘から聖剣を抜いて両手で構える。
「そんなに緊張しないで、力を見るだけだから」
「は、はい!」
僕がそう言うと、ミーシャちゃんは余計に緊張した顔で返事をする。
「じゃあ、行くよ」
「……はい!」
彼女の返事を聞いてから僕は彼女に正面から斬りかかろうとする。が、ミーシャちゃんは「ヒィィ!!」と叫びながら涙目で後ろに二、三歩後退して盾を突き出して構える。
「(怖がられてるのかな……)」
僕は一旦足を止めて、剣を鞘に納める。
「ミーシャちゃん、そんなに僕の事が怖い? 自分で言うのも可笑しいけど、別段僕は怖い顔はしてないと思うんだけど……」
むしろ周りの仲間達からは女顔とか言われるくらいだ。ミーシャちゃんが仮に男嫌いでも、ここまで警戒される理由が分からない。
「え、えっと……その……」
僕がそう言うと、ミーシャちゃんは申し訳なさそうに呟く。
すると、見学していたアリスちゃんが言った。
「ミーシャは元々怖がりなの。昔は戦闘が始まると相手がゴブリンでも真っ先に逃げちゃうくらいヘタレだったんだよ」
「ちょ!? アリス!!」
「……へー」
僕はミーシャちゃんに視線を向けながら、鞘に納めた聖剣を再び抜く。
すると、彼女の肩がビクッと震えた。
「……今までどうやって戦ってたの?」
「サクラが居る時はサクラが前衛に出て、アリスが魔法でサポートして、ミーシャは適当に魔物に突っ込んで逃げ回ってたよ」
「あ、あはは……」
アリスちゃんの言葉にミーシャちゃんは誤魔化すように苦笑いする。
「でも、それだとミーシャちゃんは何の役に立って無いような……?」
「うぐ……!」
「ううん、ミーシャは体力あって頑丈だから丁度良い囮になるの。だから意外と成立してたよ」
なるほど、タンク兼囮役って事か。ただ、そんな作戦で戦ってた事を平然と話すアリスちゃんは見た目の可愛さとは裏腹に意外と腹黒いのかもしれない。
「ミーシャちゃん……今まで大変だったんだね……」
「……」
僕の労わる様な言葉に、ミーシャちゃんは遠い目をして無言になった。
「サクラちゃんが居ない時は?」
「ミーシャに
「……大体、そんな感じです」
やっぱり、恐怖で身体が竦んで動けないって感じかな。しかし、<狂戦士化>ってエミリアから聞いた時に危ない魔法だと聞いてたんだけど……。
「アリスちゃん、
「ちゃんと調整して使ってるよ。でもミーシャってば、それを使ってようやくトントンくらいなんだよね」
「そ、そうなの?」
ミーシャちゃんの方を見ると彼女は申し訳なさそうに顔を俯かせる。
「危険性は無いの?」
「普通の
「うーん、それならちょっと使ってみてあげて?」
「オッケー」
アリスちゃんは元気に返事をすると立ち上がって彼女に杖を向ける。
「――戦神の加護をちょこっとだけ与え給えー
アリスちゃんが魔法を唱えると、ミーシャちゃんは「……っ!」と呻いて一瞬だけ身体を震わせた。そして、ミーシャちゃんは言った。
「よっしゃあああああ、バッチこいですぅぅぅぅぅ!!!!!」
ミーシャちゃんは迫真の顔で叫びながら剣をブンブンと振る。
「ほらね?」
「……う、うん……」
確かに、今までと比べてかなりアグレッシブな印象を受ける。
「
「本来ならそうだけど、アリスの
「さぁレイさん、何処からでも掛かってきやがれですってー!!」
「……」
と、とりあえず、怯えて動けなかったのがある程度克服できてたって事で良いのだろうか……。
「……まぁ、良いか。とりあえず行くよ」
「来いオラァァァァーですー!!」
ミーシャちゃんのテンションの差にやや気圧されながら僕は彼女に斬り掛かっていく。しかし、ミーシャちゃんは僕の剣に合わせて盾を動かして上手くガード。そのままもう片方の手の剣で斬り掛かってくる。
「っ」
僕はそれを後ろに飛んで躱す。しかし、ミーシャちゃんもそれに合わせて追撃してくる。
「(思ったよりも剣の振りが速いし、軽いな……)」
盾も軽々と扱えているようだ。狂戦士化の効果で能力は上がってないはずだけど、今の彼女はかなりパワフルで力強い。
僕は剣を構え直し今度は先程とは違った角度で攻める。
最初は剣のリーチを活かしてギリギリの距離からの突き攻撃、その次に初速を少し利用して加速して接近した素早い薙ぎ払い、更にそこからの連撃。
しかし、ミーシャちゃんはそれらの攻撃を盾で上手くガードする。
ある程度攻撃を試してから、僕の動きが落ち着いたところでミーシャちゃんが反撃に転じてきた。
「っらあああ!!」
ミーシャちゃんは大振りに振り下ろし、僕は軌道から身を逸らして回避する。その後、更に剣の向きを変えて横に薙ぎ払ってくる。
しかし、片手で剣を持っているせいか動きが全体的に大ぶりだ。そのせいで軌道が読みやすい。
僕は彼女の動きに合わせて聖剣で受け止める。しかし、ミーシャちゃんは怯まずに盾を掴むもう片方の手を素早く動かしてくる。
「シールドバッシュ!!!」
「!!」
盾を相手の顔面にぶつけて怯ませる技だ。僕も一時期盾を使ってたことがあったので、それが盾技である事は知っている。
だが、動きがかなり早くスムーズだ。狂戦士化しても身体能力が上がってないという話だけどブースト無しでこの動きなら彼女は相当能力が高い。
しかし、経験値の差でこの攻撃は僕に通用しない。
「っと、危ないね」
当然、技の存在を知っていれば対処法だって分かる。僕は眼前に迫る盾を下から蹴り上げてから顔を軽く逸らすだけで直撃を避ける。
一方、突然盾の均整を失ったミーシャちゃんはバランスを崩して後ろに倒れそうになる。
「っ!!」
しかし、彼女は持っていた盾を放棄して、両脚に力を込めて転倒を防ぐ。更に、残った剣を両手で構えて迫ってくる。
「うおおおおおおおぉぉぉぉぉ!!!」
彼女の声は普段は可愛らしいのだが、今の叫び声はまるで獣の遠吠えのようだ。剣を構えて迫ってくるその勢いはまさに狂戦士と呼ぶべきだろう。
見た目とは裏腹に、魔法の加護を受けた彼女は中々の戦士だ。
だけど、彼女の特攻は今回に関しては失敗だ。
「見事……って言いたいけど」
僕は苦笑して、一瞬だけ彼女が放棄して投げ捨てた足元の盾に視線を移す。そして、ミーシャちゃんが僕の射程に入る寸前に、軽く足を伸ばしてつま先で彼女が捨てた盾を蹴飛ばす。
「あ!?」
ミーシャちゃんは蹴飛ばされた盾が自分の進路に飛んでくるのを驚愕の表情を浮かべ、咄嗟に剣でそれを弾き飛ばす。
次の瞬間、盾の後ろで剣を構えていた僕は彼女が剣を振りかぶった硬直を狙う。そして、その首筋に剣先を向けて、そこで剣を寸止めする。
「はい、僕の勝ち」「―――っ!!」
ミーシャちゃんは息を呑んで目を見開く。すると、緊張が解けたのかバタンと後ろに倒れ込み、「負けたー!!!」と足をバタバタさせて悔しがった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます