第682話 お姉ちゃんに心配掛けたくないレイくん
その日の夜。
僕達は一旦魔法陣で帰宅して仲間と合流する事にした。そして、夕食の時間に僕は姉さん達とテーブルで向かい合って食事をする際に事情を話す。
「明日から金策に出掛けるから、しばらくは別行動を取ろうと思うよ」
「金策? 何それ」
「レベッカの槍の修理費用が掛かりそうなんだ。修理に三日くらい掛かるし、その間に冒険者ギルドでお金を稼ぐつもり」
そう言いながら、僕は左隣で食事してるレベッカに視線を向ける。
「ベルフラウ様達は、わたくし達が留守の間、戦いの準備を進めていただけると助かります」
レベッカはペコリと頭を下げて向かいの姉さんとエミリアにお願いする。
「私達は行かなくていいの?」
「いや、現地で他の冒険者達と組む予定で居るから人数は間に合ってるんだ。僕とレベッカとカレンさんとルナが居れば十分だよ」
「そうですか? まぁ、私は調合と魔道具の準備に忙しいから助かりますけど……」
エミリアは僕の話を聞きながらそう語る。魔王討伐の準備に当たって僕達は陛下に頼みごとを受けていた。そのうちの一つが、回復系の消費アイテムの量産だ。
陛下は魔王軍の拠点に騎士達を派遣させて一気に攻め落とす予定でいる。
しかし、物資や人員の補給が困難な為、準備が整うまで魔王軍に対して攻勢に出ることが出来ない。そこで、回復アイテムの量産は国にとって必要となる物資だった。
そこでエミリアとセレナさんの出番だ。二人は<調合>という専門技術を扱え、薬草などから強力なポーションや霊薬などの回復アイテムを量産できる。
しかし、調合での量産は時間が掛かるため、少なくとも数日は仕事に掛かりになってしまうから彼女達はしばらく目立って動けない。
戦争が近いこの国は現状、魔王軍に襲われる可能性もある。
最悪の事態を考えるなら僕達全員が王都から離れることだけは避けたい。なので、今回は僕達だけで済ませる必要がある。
「……ふーん、ところで修理費用はいくら掛かるの?」
食事を先に終えたノルンは、夕食後のコーヒーを口にしながら僕に質問する。
「……あの」
「……ええと」
「……その」
僕、レベッカ、ルナは顔を見合わせて曖昧に笑う。
「……一斉に黙ったわね。わざわざ金策に向かう辺り切羽詰まってるのかしら?」
「え、そうなの?」
ノルンの言葉に姉さんが不安そうな表情をする。
「だ、大丈夫。姉さんに負担を掛けるつもりはないから!」
「そ、そうでございます。今回はわたくし達だけで対処するつもりですので!」
僕とレベッカは、姉さんに心配させまいと必死に誤魔化す。
「ふーん……。まぁ、大丈夫ならいいけど……」
なんとか誤魔化せただろうか……?
「……なんか怪しいですけどまぁいいです。それよりも、さっき現地の冒険者とか言ってましたが、私達以外のメンバーにアテはあるんですか?」
「うん、サクラちゃんの友達のミーシャとアリスって子達。今、ジンガさんの家を拠点にしてるみたいでどうせなら連れてって鍛えてやってほしいって言われちゃった」
「……ああ、そんな子達居ましたね。でも、あの子達、サクラタウンがホームタウンじゃありませんでしたか? なんでそんな場所に?」
「ミーシャちゃんはジンガさんの孫だからね。それに、前の移送転移魔法陣がそのままだったから時々遊びに行ってたみたい」
「あー、あの緑の人の?」
「そうそう、ウィンドさん」
「あの人も緊急入院してたみたいですけど無事に退院したみたいですね。今は陛下の命令で空を飛び回ってるとか」
「空?」
なんだろう。魔王軍の偵察にでも向かってるんだろうか?
「いえ、そういうわけじゃないようです。【エアリアル】という国の協力を仰ぐために使者として飛び回ってるそうです」
「それは大変そうだね……でも、エアリアルか……」
以前、陛下と謁見した時にチラリと名前を聞いた。確か……。
「空に浮かぶ空中都市国家……だっけ? 前に、王都が魔王軍の軍勢に襲われた時にも協力を仰いだって話だよね」
「ええ、魔道具の力で国そのものを空に浮かべるとはスケールが違いますよね」
「そのような国と親交を結ばれているとは……国王陛下の人望が伺えます」
レベッカは感心したように言った。
「なにそれ、私初耳よ」
ノルン興味を示したのか、僕達の話に割り込んでくる。
「ノルンも知らなかったの?」
そういえば、前の謁見の時はノルンは居なかったっけ。
「知らないわ。最近の国は魔道具で空を飛んだりするのね……フォレス王国は時代の変化に乏しい国だったのかしら」
ノルンはうーんと唸りながら「フォレス国王に魔道具の研究を提案すべきかしらね」と呟く。彼女の呟きにルナは「ノルンちゃんも大変だね」と言った。
「まぁそういう事で、僕達は明日から数日別行動って事で」
「分かりました。サクラは連れて行かないんですか?」
「あー、それなんだけどね……」
僕はミーシャちゃんとアリスちゃんに言われたことを思い出す。
『今回の件、サクラお姉様にはご内密に……!』
『アリス達がここで特訓してるのはサクラに内緒なの!』
……という話だ。彼女達はサクラちゃんの仲間であると同時に、冒険者として高みであるサクラちゃんにライバル心を抱いている。
彼女達の気持ちは分かるから、僕も了承した。
「あの子達、サクラに内緒で特訓したいんだってさ」
「そういう事ですか……」
エミリアは納得したように頷いた。
そして僕達は食事を終えて、明日に備えて部屋で休むことにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます