第680話 友達の友達

 神合金の槍を修理しに来たレイ達一行。

 しかし、腕利きの鍛冶職人が苦言を呈すほどに劣化が激しく断られてしまった。

 そんな時、レイはあることを思い付くのだった。


 僕達は一旦武具屋の外に出る。


「あ、帰ってきた」

「ようやく終わりました? 遅かったですね」


 外に出るとベンチに座っていた姉さんとエミリアに声を掛けられる。


「ただいま、ちょっと遅くなった」

 僕はそう返事をする。エミリアと姉さんは僕に視線を向けた後、背後のルナの衣装が変わってる事に気付いたのかルナを見て話しかける。


「その衣装……」

「ルナちゃん、似合ってるわぁ」

「えへ、ありがとうございますー……」


 二人に褒められてルナは照れ臭そうにはにかむ。


「レイが買ってあげたんですか?」

「うん、でも衣装のコーディネートは僕じゃわからなくて、カレンさんとサクラちゃんに頼んだんだ」


 僕は振り返って後ろの当事者二人に視線を移す。

 二人はにこやかに手を振っていた。


「似合いますよ。初心者魔法使いって感じで昔の私を思い出します」


「えへへありがとー、エミリアさん」


「……エミリアの衣装って、昔とあんまり変わらないような……」


 今も昔もずっと変わらない安定のとんがり帽子とマントのスタイルである。僕がぼやいているとノルンがスッと前に歩いてきて二人の前に立つ。


「なんですか、ノルン」

「どうしたの、ノルンちゃん」

「………」


 ノルンは何も言わずにジト目で二人を睨む。


「……?」

「……あ、ノルンちゃんも髪飾りが変わってるわね?」

「本当だ、可愛いですね」


「……そう。ありがとう」


 二人が気付いてノルンの髪飾りを褒めると、ノルンはクールな表情に切り替えてこっちに戻ってきた。


「(気付いてほしかったのか……)」

「(ノルンちゃん可愛い……)」

「(素直な方では無いのですね……)」

「(何この子可愛い……)」

「(ノルンさん、ツンデレー♪)」


 後ろで見ていた僕達は追わず笑ってしまう。


「ところで、例の武器はどうなったんです?」

「実は……」


 僕はさっきレベッカに聞いた話を説明する。そして、それと一緒に僕は皆に一つの提案をする。


「ふむ、レイの聖剣を修理してくれた人に会いに行くと」

「ジンガさんね。今も元気かしら?」


 以前、ジンガという森に住んでいる鍛冶師さんに会ったことがある。色々偶然が重なって僕は彼に気に入られて何度か武器と防具を作ってもらった。


「なるほど、あのご老人ね……」


「ちょっと場所は遠いですけど、わたしの<移送転移魔法陣>で瞬間移動できますね♪」


「うん、実はサクラちゃんにそれを頼もうと思ってたんだ」


「えへへ、任せてください♪」


 サクラちゃんは嬉しそうに胸を張る。そうと決まると僕達は王都を出て目立たない近くの草原へと向かう。


 そこでサクラちゃんとエミリアが協力して<移送転移魔法陣>という特殊な魔法陣を描き、転移先をジンガさんの住んでいる森の中へ繋げる。


「出来ましたよ」


「これでバッチリ行けるはず♪」


「ありがとう、二人共」


「ところで誰が行くんですか? ただ、槍の修理を依頼するだけなら人数は要らないと思いますけど……」


 エミリアは僕に質問する。

 特に考えて無かった僕は皆に意見を聞いてみる。


「当然ですがわたくしは行きます」


「僕もジンガさんに挨拶したいし付いていくよ」


「私も……久しぶりにあの人に会いに行こうかしら」


 依頼主であるレベッカは当然として、僕とカレンさんも個人的な理由で同行することになった。


「私は今後の準備があるので王都で買い物がしたいですね……そうだ、サクラ、買い物に付き合ってください」


「わたしですか? 私も先輩たちに着いていきたいなぁって」


「結構な量の買い物するから男手が必要なんです」


「わたし男じゃないですよ!?」


「失礼、下手な男よりも力のあるサクラに来てくれると助かるんですが……」


「あ、はい。そういうことなら……」

 エミリアとサクラちゃんは二人で買い物に出かけることになった。しかし、サクラちゃんは「わたし、そんな怪力ですか?」と不満を漏らしていた。


「ノルンは……」

「私は部屋に帰って寝る」


 ノルンは取り付く島もなかった。姉さんは苦笑して「陛下から指示があるかもしれないからお姉ちゃんも戻るわ」と言って一緒に宿と戻る事になった。


 残るはルナだけだが……僕は彼女をも誘ってみる。


「ルナ、一緒に来る?」

「良いの?」

「うん、ちょっと森の中を歩くことになるけど……」


 彼女は、杖をギュッと握りしめて僕を見る。


「行く!」


 ルナはコクッと頷いて僕の誘いを受け入れた。

 僕、レベッカ、カレンさん、ルナの四人だけで向かうことになった。


「それじゃあ行ってくるね」


 僕達は二人が作ってくれた移送転移魔法陣の中に入り、彼女達と別れる。

 次の瞬間、景色が一瞬にして変わり、僕達は森の中へ転移した。


「……本当に森の中だ」


 ルナは周囲をソワソワとしながら見渡して、驚いていた。


「では参りましょうか、皆様。森の中なので足元にお気を付けくださいまし、ルナ様」

「あ、うん!」


 レベッカが先陣を切って歩きだし、僕達はそれに続く。以前、森の中を浄化したこともあって森の中で魔物に遭遇することも無く程なくしてすぐにジンガさんの住居に辿り着いた。


 しかし家に近付いて庭の方に歩いていくと、見慣れない二人の少女の姿があった。



「てやー!!」「たぁー!!」


 片方は剣と盾を持って構える白髪の三つ編み少女、もう片方は杖を両手に持っている金髪ツインテ少女。二人は向かい合って騒ぎながらわちゃわちゃと動き回っている。


「てやぁぁぁぁ!!」

「……」

「たぁぁぁあぁあああ!!」

「……」


 対人を意識した模擬戦なのだろうが声だけ張り上げて動きが少ない。互いに本気で当てないようにしてるためか、必要以上の距離で寸止めを繰り返しており臨場感も何もあったもんじゃない。


 どうやら基礎的な防御練習をしてるっぽいけど、これだと子供のじゃれ合いだ。


「……おままごとかしら?」

「ふふ、微笑ましいではございませんか」


 カレンさんの呟きにレベッカが微笑みながら答える。すると二人はこちらに気付いて動きを止めると振り向いて、「おままごとじゃない!」と声を揃えて叫ぶ。


 そこで、僕は彼女達が自分達の知り合いだと気付いた。


「あれ、もしかしてミーシャちゃん?」


「それに、杖を持っている方は、確か……アリス様……でございましたか?」


「え? ……って、うわぁぁぁぁ!!」


 ミーシャちゃんが僕達の仲間の一人、カレンさんを目にして叫びながら後ずさる。


「か、か、カレン………さん!」


「え、本当? あ、本当にカレンさんだー!」


 ミーシャちゃんはカレンさんを見て怯え、逆にアリスちゃんはカレンさんを見て人懐っこそうに駆け寄ってきた。


「久しぶりね、二人とも」


 カレンさんは傍に寄ってきたアリスちゃんを頭を撫でて、その後に若干冷めた目で地面に尻餅をついているミーシャちゃんに視線を向ける。


「ここにカレンさんが居るって事は、もしかしてサクラも?」

「残念だけど、今日はここに来てないわ。連れて来てあげれば良かったわね」

「そっかー」


 金髪ツインテ少女のアリスちゃんはホッとした表情をする。


「じゃあそこにいるのはもしかして、レイさん?」

「あ、うん。久しぶりー」


 僕は軽く笑って手を振って答える。この子達は、アリスとミーシャ。サクラちゃんの友達だ。サクラちゃんが僕達とパーティを組むまでは彼女達二人と行動を共にしていたらしい。


 ミーシャとアリスの二人はこちらに歩いてきて頭を下げる。


「レイさん、お久しぶりです」


「サクラは元気ですか?」


「うん、久しぶり。サクラちゃんは元気だよ」


「今日のレイさんは女の子じゃないんですね」


「あはは、何言ってるのかな。僕はずっと男だよ」


 何言ってるんだろうね、この子達は。僕はどこからどうみても男だろうに。


「……レイ君、薬で女の子だったことを無かったことにしたいのね……」


「……冷静に考えると、黒歴史にしかならないもんね」


「おいたわしや……レイ様……」


 三人はちょっと黙ってて欲しい。


「久しぶりだねぇ、アリスちゃん」


 ルナも僕と同じように彼女達に手を振る。しかし、二人は怪訝な反応をする。


「え、誰?」


「会ったことありましたか?」


「う……酷い……確かに、以前はこの姿じゃなかったけどぉ」


 ルナは忘れられてて落ち込んでいた。以前と姿が違うので分からなくても仕方ない。


「それで、なんで二人はここに?」


「ここの人がミーシャのお爺さんだって聞いて」


「今、ボク達はお爺ちゃんの家でお世話になってるんです」


「本当は街に泊まれたら良いんだけど、宿代が高くて……」


「なるほど……」


 以前に、僕達も森の近くの街に宿泊したことがある。あの宿は大風呂があって部屋の内装も広くて食事も豪華なのだけど、普通の宿と比べる倍以上の料金を取られた。彼女達二人には負担が大きかったのかもしれない。


「あ、そうだ。 カレンさんとレイさん達はどうしてここに?」


 ミーシャちゃんが思い出したように質問する。そういえば、まだ説明してなかったね。


「お仕事の依頼。ミーシャちゃん、お爺ちゃん今大丈夫?」


「あ、大丈夫です。今、呼んできますね」


 ミーシャちゃんが家の方へ駆け出していく。しばらくして、ジンガさんとミーシャちゃんに連れられて僕達は家の中に入った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る