第671話 打ち砕く二つの閃光
「カレンさん、ノルン、ここは僕に任せて」
僕は二人に指示して聖剣を構えて、影の魔物に突進。
「
『……任せて!』
僕は相棒の蒼い星に声を掛けて、勢いのままに影の魔物に斬り掛かる。影の魔物はカレンさんから視線を僕に切り替えて、剣を構えたまま僕から視線を逸らさずに身構える。
「……っ!!」
相手がカレンさんのコピーという事を考えるのであれば、僕の攻撃は軽く受け流されてしまうだろう。だけど、蒼い星の力があれば……。
「やああああああ!!」
僕は自分の身体に蒼い星の魔力を纏わせて、更に速度を上げて影の魔物に斬り掛かる。予想通り軽く弾かれて、すぐに反撃してくる―――が、
「<疾風斬>」
弾かれたと同時に、僕は自身の数少ない剣技を使用。瞬間的に、僕の剣が早回ししたように速度を増し、影の魔物の死角に二撃目を叩き込む。これが決まれば、トドメには至らずとも腕にダメージを与えて動きを鈍く出来る。
――だが、相手が悪かった。
影の魔物はまるで予知していたかのように流麗な動きで後ろに下がりながら身体を半回転。回転したと同時に手を捻って流れるように剣を動かし僕の高速の二連撃攻撃に間に合わせて、防御されてしまう。
「っ!!!」
だが、諦めず僕は追撃を加える。疾風斬を放った直後、今度は自身の最高の速度を出すために蒼の星のブーストを使って自身の両脚を強化。
これにより、次の一撃は僕の最高速度の攻撃を撃ち出せる。
「秘技――<三連斬>」
僕が習得済の数少ない対人技の一つ。体のバネを最大限に生かし剣を無駄なく動かすことで可能な、右腕・胴体・左腕をほぼ同時に貫く神速の連撃。
本来、この技は魔物相手ではただの三段攻撃だが、対人となると話は別。まともに食らえば致命的なダメージを受けて戦闘続行不可能になるが、何処かの部位を重点的に防御しようとすると、疎かになった部位を狙い撃ちが出来る為、相手は全ての部位を正確に防御することを求められる。
『ほぼ』同時に三カ所を貫くこの技をガードしきれる者など多くない。
……なのだが、金属同士がぶつかり合う反響音が瞬時に三回響き渡る。僕の三連撃は、目の前の影の魔物に全て正確に狙いを付けてほぼ一瞬で放ったのだが、全てはじき返されてしまう。
「――っ!!」
かなり自信のあった攻撃なのだが、今の攻撃を完璧に見切られたことに僕は思わず動揺してしまう。
『レイ、落ち着いて!』「!」
蒼い星の声を聞いて、僕は冷静さを取り戻す。次の瞬間、影の魔物は僕の喉元を狙うように長剣を突きつけてくる。
「(大丈夫!)」
冷静さを取り戻せばこの攻撃は容易に回避できる。僕は一歩下がったうえで、魔物の剣に合わせるように自身の剣をぶつけて魔物の剣の軌道を僅かにズラす。魔物の突き攻撃は空振りになり、僕は半歩踏み込んで魔物の懐に入る。
「
『了解!』
僕は聖剣に声を掛けると同時に<蒼い星>の刀身から爆発的なオーラが発生。オーラを攻撃加速に利用して、影の魔物の腹辺りに剣を叩きつける。
だが、流石カレンさんのコピーと言うべきか。完全な防御は不可能と見たのか、魔物は身体を引いて、自身の長剣を柄と刀身の二カ所を両手で横に持って盾にして僕の攻撃を防ぎに掛かる。だが、ブーストが掛かった僕の攻撃をガードしきれずに大きく吹き飛ばした。
影の魔物は壁際まで吹き飛んで、堪えるものの十数メートルの距離が離すことが出来た。この距離であれば、大技を放つ為の十分な時間を稼げる。
「聖剣技―――」
聖剣のオーラを集束させ剣を頭上に構える。
そして振り下ろすと同時に聖剣に溜めこんだエネルギーを放出させる。
「――
そして、そのエネルギーは破壊の光エネルギーとなって、周囲の地表を焦がしながら一直線に影の魔物に向かっていく。
この技は広範囲の殲滅技で回避が困難だ。一度発動してしまえば、同等のエネルギーをぶつけるか、転移魔法などで逃走しない限りまず直撃は避けられない。
「これは決まったかしら……?」
背後で見ていたノルンも、この技の発動を見てそう声を漏らす。
だが、その隣で見守っていたカレンさんは……。
「……駄目、レイ君、その技は……!!」
カレンさんがそう叫んだ瞬間、僕は見た。
目の前の影の魔物が、僕と全く同じ動きをして剣を振り下ろした瞬間を。
『
次の瞬間、影の魔物は僕が使用した聖剣技と全く同じ技を放つ。振り下ろされた聖剣から光エネルギーが放出され――僕の放った
「……嘘」
唖然とした声を漏らすノルン。それは僕も同じだ。僕が使用した
その威力は僕と完全に拮抗。互いの破壊のエネルギーが周囲を削っていき、十秒ほど経過してから互いの技の放った技同士は相殺し合い、消滅する。
影の魔物が放つ光エネルギーと僕の放った光エネルギーが衝突した余波で、視界の先の地形が完全に抉られてしまっている。
僕は、この惨状に呆然としていたが……。
「レイ、前見て!!」
「!!」
ノルンの言葉に正気に戻り、影の魔物の動きを見る。
影は、剣を地面に突き立てて、両手の掌を組んで印を組むように動かす。
「あれは、もしかして<印詠唱>……?」
「……っ、不味いわ!!」
ノルンの呟きに、カレンさんは慌てたで反応する。そして、目の前の影の魔物と同じような動きでカレンさんも手を動かして詠唱を始める。
――そして、互いの詠唱が響き合う。
『――地を這う穢れし魂達を包み込む光芒よ。天を貫き天界を門を開く、清浄なる閃光にて彼の者を光の剣にて打ち砕け』
「――地を這う穢れし魂達を包み込む光芒よ。天を貫き天界を門を開く、清浄なる閃光にて彼の者を光の剣にて打ち砕け!!」
全く同一の詠唱。印を組みながら、互いに詠唱を続けて、高濃度に圧縮した魔力の塊が頭上に出来上がる。
次の瞬間、お互いの魔力が形作り、膨大な魔力が爆発して光の魔法が顕現する。
『――光よ、今解き放て
「――光よ、今解き放て
発動するのは極大魔法に分類される光属性の最上位の攻撃魔法。
対魔物に特化した攻撃魔法ではあるものの、その威力は十分に絶大。次の瞬間、カレンさんと影の魔物の周囲に光の魔法陣が浮き上がり、天をも貫く光の柱が出現する。
「くっ!!」
視界が真っ白に染まる瞬間、僕は聖剣を目の前に掲げて防御体勢を取る。次の瞬間、僕とカレンさんとノルンの三人がいる周囲一帯を莫大な光のエネルギーで包まれる。
そして、周囲の音の一切が搔き消え、十数秒経過してようやく僕達の聴覚と視覚が戻った。
「一体、どうなった……?」
同種の極大魔法と極大魔法のぶつかり合い。当然、同等のエネルギーの衝突となり、互いにその魔法のエネルギーが相殺されてしまったようだ。
影の魔物は大きなダメージを受けた様子は無く、同じくカレンさんも……。
「カレンっ!!」
影の魔物と極大魔法の撃ち合いを演じたカレンさんが身体を揺らしてその場に倒れ伏す。すぐにノルンが彼女の元に駆けつけてその身を抱き起こす。
「しっかりして、どうしたの!?」
「無茶したわ……今の身体で……極大魔法は……負担だったみたい……」
カレンさんはそう呟いて、静かに意識を落とす。
「ノルン、カレンさんはっ!?」
「……大丈夫、意識を失っただけ……」
ノルンは、彼女の命に別状がないことを確認し、軽く息を付く。ノルンは気を失ったカレンさんの頭を自身の膝に乗せて回復魔法を使用し始める。
僕もカレンさんが無事であることにホッとするものの、未だに目の前の魔物は健在だった。
「(……強い、圧倒的に……!!)」
影の魔物の強さは、はっきり言って異常だ。
おそらく、魔王呪いを受ける以前のカレンさんと同等。
聖剣技も、先程の極大魔法も、カレンさんに全く引けを取らない。
「……これは、本格的にヤバい相手だね。蒼い星……」
『……身体能力、魔力、所有する技能。全てが全盛期のカレン・フレイド・ルミナリアと同等……だけど、一つ違う点がある』
「……何?」
『あの魔物の動きのフローチャート。自由意志で行動選択しているわけじゃない。背後にあるあの大きなクリスタルの色が何度か変化しているのを私は目撃した。その度に影の魔物は行動を変化させている』
「つまり、あの魔物はクリスタルに操作されてる?」
『そういうこと。だとするならクリスタルに干渉することで、魔物の行動を制限出来るかもしれない』
蒼い星のその言葉に、ハッとする。
「……そうか、もしあのクリスタルが制御してるとするなら――」
『必ず奴の行動には「本体を守れ」という最優先命令が組まれているはず。なら、狙うのは魔物本体じゃなくて――』
「あのクリスタルってことか……!!」
そう結論付けて、僕は改めて影の魔物と対峙する。身体能力、魔力は全盛期のカレンさんと同等でも、クリスタルが制御しているならば、必ず隙がある。
『―――レイ、後ろを見て』
「!!」
蒼い星の指示に従って、僕は魔物の背後を見る。
すると、黒色だったクリスタルの色が点滅し始めて水色に変化する。
『戦いの中、私はクリスタルの動きに着目してた。あの影の魔物が接近戦を仕掛けてきた時は「紫色」、魔法を仕掛けてきた時は「緑色」、そして「水色」は聖剣技の合図よ』
「つまり、今からあの魔物は聖剣技を使用するって事か!」
僕が叫ぶと同時に、影の魔物に膨大な聖剣のエネルギーが集まり始める。
「(聖剣技に対抗するには聖剣技しかない!!)」
僕は、聖剣を構えて魔力と気を最大限に高める。そして、カレンさんの聖剣技を真似るように剣を振りかぶってその場で構える。
「(……だけど、今の僕の力では相殺が精一杯だ……)」
この夢の中の空間では、僕達三人の力が大きく制限されている。特に制限が厳しいのは魔力だが、身体能力も下がってしまっており、格下ならともかく、目の前の同格以上の相手には致命的だ。
そして、聖剣技の威力は、身体能力、魔力、そして聖剣の出力、全てに依存する。聖剣の能力だけはこちらが大きく上回っているが、魔力に関しては明らかにこっちが下回る状況。そこをカバーできなければ押し負けてしまう。
だが、そんな僕の心情が伝わったのか、僕の後ろからノルンの声が響いた。
「夢に集いし幻惑の妖精たちよ、私の声に集いなさい。目の前の勇敢なる者に、一時の天下無双の力をその身に――
ノルンが使用できる最大の強化魔法。その発動と同時に、僕の周囲に透明のオーラが発生する。
その効果は、レベッカの
「―――これなら、行ける!!」
僕はそう確信し、目の前の魔物を強く睨み付ける。
『
「
そして、再び同時に放たれる広範囲を殲滅する破壊のエネルギー。
僕達の放った聖剣技が、同じタイミングでぶつかり合う。だが、先程と違い、今度はこちらのエネルギーの出力が勝り、少しずつ影の魔物を押していく。
『……!!』
しかし、影の魔物はそれでもまだ終わらない。クリスタルからエネルギーを供給されているのか、彼女の聖剣技のエネルギーが僅かずつ増してきている。
「……っ!!」
徐々にこちらが優勢だったエネルギーの放出が拮抗に戻りつつある。
このまま撃ち合えば、初撃の時の二の舞だ。
だが、この勝負。こちらはまだ余力を残していた。
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
僕は最後の逆転の為に残しておいた聖剣のエネルギーを更に注ぎ込み、出力を上げる。
『!!』
影の魔物は突然膨れ上がったエネルギーに対抗できず、僕の聖剣技が完全に上回り、影の魔物を飲み込む。そして、影の魔物は大きく吹き飛ばされて地に伏せる。
『今よ、クリスタルを破壊しなさいっ!!』
「言われるまでもないっ!!」
僕は<初速>で一気に加速し、倒れた影の魔物を無視してクリスタルに突撃する。するとクリスタルが点滅し始め『赤色』に変化する。
「色が変わった!?」
『多分、「本体を守れ」という命令よ。無視してこのまま攻撃しなさい!!』
僕は彼女の指示通りそのまま突っ込む。だが、それまで完全に地に伏していた影の魔物は、突然マリオネットのように起き上がり、物凄い勢いで追いかけてきた。
「き、きたっ!!!」
『……不味いわね、このままだとクリスタルに攻撃する前にこちらに追いつかれてしまう』
「く……っ!!」
仕方なく僕は足を止めて再び影の魔物に向き合う。
そして、攻撃しようとした瞬間―――
「――私を忘れて貰っては困るわ」
ノルンの声が聞こえたと同時に、影の魔物が動きを止めてそちらを振り返る。
「<邪気封殺>」
ノルンの言葉と同時に、彼女の周囲の魔法陣から紙吹雪が吹き荒れて影の魔物に襲い掛かる。そして影の魔物は一時的に完全に動きを止めてしまう。
「今よ、レイ!!」
「助かる!!」
僕は彼女に礼を言って再び走り出す。そしてクリスタル目掛けて思い切り剣を振り上げる。ガキンッと大きな音が周囲に響きクリスタルに亀裂が入っていく。
しかし……。
「固すぎる……!」
力いっぱい力を込めたというのに、クリスタルに亀裂が入ったのは表面だけだった。
『諦めないで、レイ!』
「うん!」
僕は諦めずに何度も何度も剣でクリスタルの破壊を試みる。そうしてどんどん亀裂が入っていくが、その間にも影の魔物は少しずつ自由を取り戻していく。
「くそっ、間に合わない!!」
焦りのせいで僕はつい声を荒げてしまう。
「……大丈夫、レイ君」
「……え?」
その落ち着いた声に、僕は剣を振るうのを止めて後ろを見る。
そこには気絶していたカレンさんが立っていた。
「カレンさん……」
僕が彼女の名前を呼ぶと、カレンさんは微笑んで剣を持っていた僕の手を握る。
「レイ君、力を合わせればきっと壊せる。一緒にこの世界を脱出しましょう」
「……うん」
僕は彼女に頷いて、二人でクリスタルに向き合う。
そ二人で一つの聖剣を握り、残ったマナを聖剣に込め始める。
そして―――
「はぁぁぁっ!!」
「やぁぁぁぁっ!!」
カレンさんの蒼い光と、僕の青色に輝く光が混ざり合い、クリスタルに向かって飛ぶ。そして次の瞬間、二人の聖剣技が重なりあって一つになり、クリスタルを粉々に破壊する。
そして、影の魔物は苦しみだしてその身体が維持できずに消えていった。
「……終わった」
「……うん、これでこの空間も解除される」
カレンさんがそう呟くと、周囲の景色は白に塗りつぶされていった。そして、僕達三人と蒼い星は夢の世界から解放され、現実世界へと戻っていった……。
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