第663話 ノルンちゃん超有能
ウィンドが体調を崩したと聞いて嫌な予感を覚えたレイはノルンを連れて仲間より先に王都に向かう。ルナは二人だけなら負担が殆ど無いらしく、七人背中に乗せていた時と比べて倍以上のスピードでグングンと進んでいく。
あっという間に王都イディアルシークに到着した。レイ、ルナ、ノルンの三人は王都に到着すると、すぐにカレンとウィンドが入院している魔法病院へ向かう。
【視点:レイ】
病院に入ると受付の傍で僕が見知った人物を発見する。
「ジュンさん!」
僕が彼の名前を呼ぶと、こちらに気付いた男性がこちらを振り向く。茶髪の長身で精悍な男性。以前、僕がお世話になった自由騎士団の団員のジュンさんだ。
「おお、レイ。さっき、団長が迎えに行ったと思ってたんだが、もう着いたのか」
ジュンさんは僕を見て意外そうな声で言った。
ここまで急いできたので、僕達は息を切らしていた。特に運動が得意じゃないルナはノルンに身体を支えられてしんどそうにしている。
「……実は、ちょっとフライングしてきまして……。あの、ウィンドさんは?」
僕が息も絶え絶えに質問すると、ジュンさんは顔を険しくしていった。
「ああ、突然倒れて驚いたぜ。今、治療中なんだが、ひとまず病室に案内するよ」
「お願いします!!」
「よし……行こう……って、そこの二人もお前の知り合いか?」
ジュンさんは僕の後ろのソファーで息を整えてるルナと、そのルナの背中をさすっているノルンに視線を向ける。
「二人も僕の仲間です」
「どっちも新顔だな……。俺は、ジュンだ。よろしく」
ジュンさんはニヒルに笑って自己紹介する。
「あ、あの……私は……ルナです……よ、よろしく……」
「ノルンよ。……ルナ、無理しないで少し休んでなさい」
「う、うん……」
ルナはノルンに言われるがまま、息を整えるためソファーに座る。
「皆、走って来たんでちょっと休憩してるんです」
「そうか……なら、その子だけ休んでから後で来るか?」
「い、いえ……大丈夫です」
ルナは深呼吸をして呼吸を整える。そして、彼女は立ち上がってこちらにやってきた。
「なら、案内するぜ」
「はい」
僕はルナと一緒にジュンさんの後ろに付いて行く。
ノルンも僕の後ろに付いて来ていた。
病室に着くまでの間、僕とジュンさんは軽い近況報告を行っていた。その後ろに、ルナとノルンが付いてくる。ルナは初めて来る場所で人が多いせいか、緊張している様子だった。
「そっか、副団長の為に頑張ってくれたんだな」
「ええ、後は魔王を倒すだけです」
僕はそう言いながらジュンさんに視線を移す。すると、ジュンさんは僕を間の抜けた表情で見ていた。精悍な顔立ちでこの表情はなんか似合わない。
「お前、なんか前と変わったな」
「え、……そうですか?」
「謙虚さが少し減って自信が付いたように見えるな」
そういう風に言われるとちょっと人として良くない気がする。
「でも、そっちの方が俺は良いと思うぜ」
「あ、ありがとうございます」
僕は少し照れながら礼を言う。
「……にしても」
ジュンさんは少しだけ足を止めて後ろを歩く少女二人に視線をやり、すぐに僕に戻す。そして、僕に近寄ってきて肘を僕に向けてきた。
「お前、いっつも女を連れてんな?」
「誤解ですよっ!?」
僕は慌てて否定するが、ジュンさんのニヒルな笑みは消えない。
「はっはっは! 冗談だ」
「勘弁してくださいよー……」
僕はため息を吐きながら言う。その後ろではノルンが僕とジュンさんのやりとりを見て笑っていた。そんなやり取りをしつつ、僕達は病室に到着した。
「この部屋で治療を受けているよ」
「ありがとうございます」
僕はすぐにウィンドさんがいる扉の近くまで駆けていく。
すると、それに気付いたのか扉が少しだけ開いた。
「おや?」
すると、中に居たとお医者さんらしき白衣を着た壮年の男性が出てくる。
「ここの患者さんの知り合いかな?」
「あ、はい……。あの、ウィンドさんは……?」
「ああ、彼女の事か」
すると、お医者さんは扉を閉めて、僕達と向き合った。
「他の患者さんの面会中に突然胸の発作が起こったらしく、彼女に一緒にいたリーサという女性に助けを求められて緊急入院になったのだけど、今は落ち着いて眠っているよ」
「そうでしたか……。その、一緒に居たリーサさんの様子はどうでしたか?」
リーサとはカレンさんのお世話係の女性だ。本当の所、リーサさんとカレンさんの関係はそれだけでないのだけど今は割愛しておく。
彼女も僕と同じく<半身反魂術>を受け入れた女性だ。その為、ウィンドさんと同じく彼女も倒れてしまう危険性がある。
「ん? リーサさんならウィンドさんの事も凄く心配していたよ」
「いえ、それも気になるのですが、彼女自身は大丈夫なのかなって」
「ああ、心労でという事かな? 一応、彼女も無理をして倒れてしまうかもと診察を受けてもらったが、特に異常は無さそうだったよ」
「そうでしたか……安心しました」
「しかし、ウィンドさんの症状はなんなんだろうね。心労で倒れたのかと思ったのだが、そうでもないようだし……」
お医者さんはそう呟き、思案するように言った。
「とりあえず、彼女の目が覚めたら事情を聞いてみよう。キミ達は面会かな? 少しくらいの時間なら構わないが、彼女は眠っているからあまり長居しないようにね」
「あ、はい。ありがとうございます」
僕がそうお礼を言うと、お医者さんは扉を開けてくれた。
「それでは失礼します」
僕は後ろで立っていた二人に声をかけて一緒に中に入る。そして、個室の病室のベッドで横になるウィンドさんを見た。普段の衣装と違い今の彼女は長い髪を解いて紫の患者衣を身に付けていた。今は目を瞑ってスヤスヤと眠っている。
「では、私はこれで。もし彼女に何かあったら呼んでください」
「はい、ありがとうございます」
僕達はお医者さんにお礼を言うと、お医者さんは軽く頭を下げて病室から出ていった。
「この人って……」
「この人がウィンドさんだよ。サクラちゃんとカレンの魔法のお師匠なんだって」
僕はノルンの疑問に答えて軽く解説をする。
「ノルン、彼女にも僕にしたようにお願いできる?」
「分かったわ」
僕の言葉に応じて、ノルンは前に出てベッドに眠る彼女の傍に寄る。
「おいおい、何をする気だ?」
事情を知らないジュンさんは慌てたように言った。
「大丈夫です。彼女に任せれば……」
「任せるって言ったって……お医者さんに無断で治療でもする気か?」
「いえ、治療というか……」
何と答えようか迷って、助けを求めるようにノルンに視線を戻すと――
ノルンは彼女の上着を脱がしていた。
「ちょっ!?」
「うおうっ!!!」
僕が驚愕の声を上げると同時にジュンさんも驚いていた。上着を脱がされたウィンドさんは、下着姿になっていた。白いキャミソールに紫のレース素材のブラジャーだった。
「ちょ、ノルンちゃん。ダメだよ、男の人が居るんだから!」
ルナは慌てて止めるが、ノルンは特に気にせずに彼女の上半身に手を当てる。
「ノルン、何やってんの!?」
すると、ノルンはウィンドさんの上半身を手で触りながら平然とした顔で答えた。
「彼女の治療よ。貴方にもやったでしょ?」
「いや、そうだけど、いきなり脱がすとは思わなくて……」
「……五月蠅いわね。居づらいなら病室から出ていけばいいでしょう、集中できないわ」
ノルンはジト目でこちらを見てからすぐに視線を戻す。
「ど、どうする。レイ」
「いや、どうするって言っても……?」
女性が下着姿になってる部屋で僕達男が居座るのは紳士的じゃない。
僕は出ようと扉に向かうのだが……。
―――ガシッ
何故かジュンさんに手を掴まれて遮られた。
「良いのか、レイ!?」「えっ」
何言ってんだこの人。
「いくら普段怪しい人物でも、これほどの美人の女の下着姿を見て何も思わないのか、お前は!! お前、それでも男か!!」
「ええ……」
僕はドン引きしながら答える。
その間、ルナが僕達を呆れたように見ている。
「ジュンさん何言ってんですか、ほら一緒に出ますよ」
僕は彼の手を掴んで強引に引きずって行こうとするが、ジュンはそれを必死に止めて足に力を入れる。
「ちょっと待て、レイ。お前淡泊すぎるぞ!」
「いや、淡泊って。何ですかそれ」
「あれか、お前の周りは女だらけだから女の下着姿くらい見慣れてるってわけか」
「違いますよっ!!」
誤解のないように言っておくが見慣れてるのは姉さん(女神様)くらいのものだ。それだって最初はドギマギしてたけど、最近は僕の前でも平然とだらしない恰好してるからあまり気にならなくなってる。
だから、特に免疫があるわけじゃないし女性関係には凄く奥手だと自覚している。
その奥手が原因でエミリアとの関係は全然進まないし、周囲から妙に気を遣われてる気がするのを感じてるくらいだ。
「それ言うならジュンさんはどうなんですか。団長と違ってモテないわけじゃないでしょ!?」
「いや、俺は女がいるが……」
「ならこんな風に他の女性の下着姿を覗いてて申し訳ないと思わないんですか……」
「いや、覗いてるわけじゃなくて意外といい女だなと……じゃなくて、もし彼女に異常があった時俺達が傍に居た方が良いだろ、だからここを離れちゃダメだ」
「最初にモロ本音言ってましたよね?」
「分かった、素直に言おう。俺は彼女の下着姿が見たいんだ」
「欲望に忠実過ぎるっ!!」
僕がツッコミを入れると、ジュンさんは僕の肩をポンと叩いてきた。
「分かってないなぁ……。男ってのは皆、心のどこかで女の下着姿なんて見たがってるんだよ」
「思ってないです」
「本当にそうか? あの美しい肢体と彼女を彩る艶めかしい薄着の姿を見て何も思わないのか?」
「………」
僕は彼女の白い肌に視線を移し、彼女の姿を―――
「……サクライくん、何見てるのかなぁ?」
ビクッ!? 気が付くと背後にルナが怒った顔で立っていた。
「良いから、二人とも出てってーーーー!!」
「ご、ごめん!!」
僕達はルナに追いやられるように病室を出ていった。最後にルナにドアを閉められて、ガチャリと音を立てて施錠されてしまった。
「もう、ジュンさんのせいですよ!!」
「おいおい、言われるまで出なかったのはお前の意思だろ」
「僕がジュンさんを止めなかったら、間違いなくあの場で目いっぱい楽しんだでしょ?」
「男なら当然だろ」
「最低ですね。女性の前で絶対言わないでくださいね」
僕はジト目で彼を見ながら言う。彼は苦笑いを浮かべながら答えた。
「冗談だよ、ちょっと和ませようと思ったんだ」
「本当かなぁ」
「……しかし、あの女の子はなんなんだ? 突然服を脱がし始めて彼女の身体に何かし始めたみたいだが……」
「ノルンの事ですか……」
「そうそう、そんな名前だったな。何をする気だったんだ?」
「それは―――」
僕が詳しい事を言おうとすると、再びドアからガチャリと音がした。
どうやらドアの施錠を外してくれたようだ。
恐る恐る僕がドアを開けると、ドアの隣には何とも言えない表情をしたルナが立っていた。どうやら彼女が施錠を外してくれたらしい。ベッドを見るとノルンの処置が終わったようで、ウィンドさんはちゃんと服を着た状態で横になっていた。
「……ちっ」
僕の後ろでジュンさんが悔しそうに舌打ちした。
僕はそれを無視して、ノルンの元へ向かう。
「終わった?」
「ええ、終わったわ。予想通り貴方と同じ」
「そう」
僕はホッと息を付く。
「これで彼女はしばらく問題ない。そのカレンさんって人の所に行きましょう」
「うん、お願い」
僕は彼女に頷いて、病室を後にする。
そして、僕達四人は病院の最上階にあるカレンさんの病室へと向かう。
その道中……。
「それにしてもノルンちゃん凄いね。魔法病院のお医者さんでも治せない病気を簡単に治せるなんて」
「ああ、驚いたぜ。一体何をやったんだ?」
ルナとジュンさんは感心する様に言った。
「別に……。ちょっとした魔法を使っただけよ」
ノルンは褒められて嬉しかったのか、ちょっとだけ耳元を赤く染めてぶっきらぼうに言った。
「ノルンは見た目小さいけど本当に凄い子なんだよ」
「小さいは余計……」
ノルンは僕の言葉に不満げに言葉を漏らす。
「ごめんごめん……ノルンは大人だもんね」
「分かってるならいいけど」
そんな風に話しながら僕達はカレンさんの病室に到着した。
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