第660話 修行?

【視点:ルナ】


 私はルナ。元の名前はつばきかえで(椿楓)と言います。

 私は、気が弱くて身体が弱くて、クラスの中でも男子女子問わずイジメの対象でした。最初はなんで私ばっかりこんな目に……って思ってたんですけど、クラスで唯一私を庇ってくれた人が居たんです。


 それが、桜井鈴くんです。


 彼は私がイジメられてた時に助けてくれました。彼は私なんかと違って凄く心が強くて、優しくて、頭も良くて……そんな桜井くんにずっと憧れていました。


 でも、私を庇ってくれたばかりに、今度は桜井くんが……。


 数カ月後、彼は登校拒否になってしまったんです。

 後で、担任の先生に聞いたんですが、彼も髪の事や出生で昔からイジメられていたらしく、先生も何とかイジメを無くそうと頑張ってくれてたみたいなんですが、それでも止まらなくて……。


 更に数カ月後……彼が交通事故で亡くなったことを学校で知りました。

 私は、何も手に付かなくなってずっと泣いていました。


 それから、私は……。


 ……その後、私はとある経緯でこの世界で転生しました。

 ですが、神様の手違いで人間じゃなくてドラゴンとして転生してしまいました。


 最初の方は地獄みたいな毎日で、嫌なことも沢山ありました。


 でも私にとってそんな辛い日々も終わりを迎えました。なんと、交通事故に遭った桜井鈴くんがこの世界に転生してきたのです。


 それから色々大変だったけど、私はこうして人間の姿に戻ることが出来て、今は桜井くんと旅をしています。



 そして、彼と再び交流して改めて自分の気持ちを理解しました。



 告白します。

 私、桜井鈴くんの事が好きです。



 ………。


 こ、心の中の独白なのに、恥ずかしい……。


 ……こほん。


 彼とこの世界で出会った時、私はドラゴンの姿でした。

 なんで女の子の姿じゃないんだろう……私は神様を恨みました。


 その後、私はこうして人の姿に戻ること出来ましたが、今はもう彼に告白する気はありません。


 彼には、既にエミリアさんという彼女が居たんです。

 何なら彼の周りには、彼に好意を抱く女性が沢山居て、しかも皆凄く美人です。


 正直、私とレベルが違いすぎます。


 でもいいんです。私は、こうして彼と旅をしているだけでも幸せですから。


 私はずっと片思いを貫くんです。……ぐすん。


 ……あ、話の本筋から逸れちゃいましたね。


 今回の話は、フォレス大陸での冒険を終えて、船でファストゲート大陸に帰国するまでの出来事です。



 フォレス大陸を離れて丸一日ほど経過した頃。私は勇気を出して雑談室のテーブルを囲んで会話していた仲間達にお願いをしました。


「『私も、皆のように一緒に戦いたい』……で、ございますか?」

「うん!」

 私はレベッカちゃんの言葉に強く頷く。


 私は、<竜化>というドラゴンに変身する能力はある。だけど、人の姿の時は普通の女の子のままで、今回の冒険でも皆の足手まといになってました。


 それじゃあ駄目なんです。桜井くんに守ってもらえるのは嬉しいけど、彼の枷にはなりたくない。せめて自分の身は自分で守れるようになりたい。


 出来ることなら、<竜化>以外の事でも彼の力になってあげたい。


「ふむ……ですが……」

 レベッカちゃんは私を見ながら口元に手をやって何かを考えます。


「(……う、可愛い……)」

 こうして彼女を見てると、まるで西洋の人形のような整った顔立ち、長く美しい銀髪に透き通るような白い肌。一つ一つの動作に気品が溢れ、その佇まいはお姫様のようです。


 こんな子が、今の桜井くんの妹ポジションにいるのだからどうしようもない……。


 私が勝手に落ち込んでると、レベッカちゃんの隣で座っていたエミリアさんが言いました。


「……うーん、気持ちは分かるのですが……。ルナは、今まで扱った武器とかありますか?」


「な、ないけどぉ……」


 私が小さく呟くと、エミリアさんは少し考えてから言いました。


「……なら難しいですね。見た感じ、あまり身体を鍛えているようには思えませんし……」


 そう言いながら、エミリアさんは私の身体をチラリと見ます。


「(は、恥ずかしい……)」


 目の前のエミリアさんなんて美人だしスタイル良いしカッコいいし、それに桜井くんと付き合ってるし、私にとってあまりにも遠い雲の上の人です。


 その点、私は運動とか苦手で、身長もあんまり高くない。二の腕のプニプニしてるし、足も太いし、お腹なんてぷよぷよです。


 エミリアさんに、私の全身をくまなく観察されて顔から火が出るくらい恥ずかしいです。


「(あうぅ)」


 き、気まずい。エミリアさんの視線が痛いです……!

 私が少し涙目になりながら視線を逸らすと、エミリアさんは言いました。


「まぁ、武器とかは追々考えるとして……」

「……?」


 私は不思議に思いながら首を傾げると――


「ルナがレイの役に立ちたいって気持ちは伝わってきます。なら、貴女の出来ることをこれから少しずつ探っていきましょうか」


「あ、ありがとう!」


 私は嬉しくて笑顔でエミリアさんにお礼を言う。

 そこに、私の隣で話を聞いていたサクラちゃんが言いました。


「うーんと、なら四人で色々相談しましょうか」

「う、うん……サクラちゃんありがとう」


 私はニコニコと話を聞いてくれているサクラちゃんにもお礼を言う。


「そうですねぇ。運動神経があんまり良くないなら、まず魔法の素質を探るべきですね」


「<竜化>という特殊な魔法が使える以上、他にもルナ様だけの特殊能力が隠されているかもしれません」


「あ、それはありえますねー♪」


 三人は私を見て、何か良い方法が無いか話し合ってくれる。

 私はそれが嬉しくて、顔が緩むのを感じながら三人の話を聞いていました。


「それじゃあ色々試してみましょうか」

「おー♪」

「おー……で、ございます」

「お、おー?」


 私は、盛り上がる二人に続いて小さくお返事しながら、心の中で決意する。


 ……うん! 私も頑張って強くなるんだ!


「(よーし、頑張るぞー!!)」

 こうして私は、皆と一緒に強くなる事を誓ったのでした。

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