第658話 冒涜的な組み合わせ

 エミリアとセレナが調査という名目でレイを尾行してる時、レイはノルンはその事を知らず、皆が待つ船内の食堂へと向かっていた。


【視点:レイ】


「みんな、お待たせ」


「少し風に当たってて遅れてしまったわ、ごめんなさいね」

 食堂に到着した僕とノルンは、食堂で待っていた仲間達に向けて声を掛ける。


「あ、レイくん」


「申し訳ございません、レイ様。お腹が空いてしまい先に食事を始めてしまいました」


「レイさん達もどうですか? ここのコックさんの料理、美味しいですよー♪」


「二人とも、私の両隣が空いてるよー」


 そこで、姉さん、レベッカ、サクラちゃん、ルナの4人は、大きなテーブルを囲んで椅子に座って既に食事を始めていた。


 三人は、レイが入った時にはいくつかの食器が空になっており、特にレベッカは何度もコックさんに料理を頼んでいるようだ。


 彼女の目の前に既に5枚もの空になった食器が重ねられており、更には追加の注文までしていた。


「(……一体どれだけ食べるんだろう……)」

 僕はそう思いながら、ルナに誘われるがままに彼女の隣の椅子に腰掛ける。


「ノルンも食べる?」

「私は眠いから食事はパスよ。先に休んでるわね」

 

ノルンはそう言うと、僕の返事を待たずに食堂を後にした。その背中を見送ってるとふと気づく。エミリアとセレナさんがここに居ない。既に部屋に戻って休んでいるのだろうか?


「姉さん、エミリア達知らない?」

「え、エミリアちゃん? あの子なら、そこに―――」


 姉さんがそう言って、食堂の入り口の方を指差す。しかし―――


「……あれ? さっきまでそこでこっちを見てたんだけど……?」

「んー? わたしも確かに見たんだけどなぁ……?」


 姉さんとサクラちゃんが、不思議そうな顔で首を傾げている。


【視点:エミリア】


 レイ達が振り向いた時、エミリア達は慌てて部屋の隅に隠れて魔法で姿を消していました。


「ふう、危ない危ない……危うくバレちゃうところだったわ」


 セレナはホッとした様子でそう呟く。

 しかし、エミリアは呆れた様子で彼女に言った。


「あの、セレナ姉。わざわざ隠れる意味あります?」


 一緒に食事をして彼を近くで見ていればいいだろうに。


「何を言ってるのよミリー、こういうのはこっそりと後をつけないと駄目よ。ちゃんと尾行して相手を追跡しないと!」


「……そうですね」

 セレナのどこかズレた回答に、もう何を言っても無駄だと思った私は溜息を吐いた。


「(……そういえば、セレナ姉は形から入るタイプでしたね)」

 占いを始めた時も、彼女は星占いの本を丸暗記して、それらしい水晶やカードなどの道具を作ってまでいた。彼女の使用する占いは自身のマナを使った魔法なので、そんな小道具必要ないはずのですが……。


「さ、ミリー。携帯食品を用意しておいたから食べなさい。尾行の必需品よ!」

 そう言って、セレナ姉は私に謎の携帯食品を渡してくる。


「セレナ姉、これ何です?」


「おにぎりよ」


「具は?」


「カ○リーメ○トよ」


「……」


 私は無言でセレナ姉の顔におにぎりをぶん投げた。どこの世界に、白米の中にカ○リーメ○トを入れたおにぎりを携帯食品として売っているのか。


「何するのよミリー! せっかく作ったのに!」


「この馬鹿姉!! それなら普通にカ○リーメ○トを渡せばいいでしょう!?何故おにぎりの中に入れたんですか!」


「え、でもミリー。このお菓子好きでしょ? ちっちゃいころ、『わー、ミリー。カ○リーメ○トだいすきー♪』って喜んで食べてたじゃない」


「アンタは一体いくつの時の事を言ってんですか!!」

 私が5歳の頃に喜んで食べていたカ○リーメ○トを、この人は今でも覚えていたらしい。だからといっておにぎりの中に入れるな。


「え、でも昔『あまーいお菓子をおにぎりやお鍋に入れたらとっても美味しいと思うの♪』って言ってたわよね?」


「なんでそんなこと覚えてるんですか!? 」


 確かに、カ○リーメ○トを入れると美味しいかもしれないと思った時期が私にもありました。だけどそんな子供の戯言覚えられてても困ります。


「ほらミリー、食べ物粗末にしちゃダメでしょ? ちゃんと食べて」


「食べませんよ! そんな物を口に入れたら余計に喉が渇くのでいりません!」


 私はそう言ってセレナ姉から渡された携帯食品を突き返す。

 そんな風に私とセレナ姉が騒いでいると……。


「二人とも、こんな隅っこで、何を押し付け合ってるんですか?」

 不思議そうに私達を見つめるサクラが声を掛けてきた。


「あ、ごめんなさいねサクラちゃん……ほら、ミリー。隠れて食べるんだから何か食べないと」

「いや、だから食べませんから!!」


 セレナ姉はそう言って私の口におにぎりを押し付けるが、私はそれを手で払い除ける。


「え、隠れて?」

 サクラは不思議そうに頭を傾げる。


「い、いえ……何でもないんですよ、サクラ。あははははは……」

 私はそう笑ってごまかします。


 というか、魔法で姿を隠していた筈なのに簡単に見つかってしまいました。

 どうも騒いでいた間に<消失>の魔法が消えてしまったようです。


 という事は、つまり……。

 目の前のサクラだけでなく、尾行対象のレイにも丸見えという事で……。

 こちらを不審そうな目で見るレイと目が合ってしまいました。


「あ……」

「???」


 レイは、困惑した表情で私を見ています。

 私は見つかったショックで固まってしまい、それに気付いたセレナ姉は。


「て、撤退!!」

 そう叫びながら、私を背中に背負って<消失>の魔法を使って走り出しました。


【視点:レイ】


「……今のはなんだったんだろう?」

「さぁ……?」


 僕は、一瞬こちらを見たルナと顔を見合わせる。

 再び後ろに視線を戻すと、エミリア達は既に食堂を出た後で誰も居なかった。


「ふむ、姉妹水入らずで、何か遊戯に興じておられるのでしょうか」


 正面に視線を戻すと、料理を平らげて口元をハンカチで拭くレベッカの姿があった。

 ちなみに、彼女の前に積み上げられたお皿の数は十枚を超えていた。


 ……もう既に、彼女が食べた量に僕は言葉が出ない。


「(……一体あの体のどこにあれだけの食べ物が入ったんだろう……?)」

 その疑問が消えない内に、レベッカは再び食事を再開していた。


 ◆


【視点:エミリア】


「失敗したから次の手よ!」

「もう止めません?」


 セレナ姉は諦めずに次の手を考える。私はもう疲れたので、セレナ姉にそれとなく言ってみます。


「何を言ってるのミリー! まだ初日よ!これから挽回するわ!」

 セレナ姉は拳を握って意気込むが、とても不安です。


「……そうよ。よく考えたら、私達はスパイでも暗殺者でもないんだから尾行なんて向いてないわ」


「何当たり前な事言ってるんですかね、この姉は……」


「ミリー、こうなったら仕方ないわ。今度は私が更に一肌脱いであげる!」


「この姉は何枚脱げば気が済むんだろう……」


 私は呆れながらそう呟きます。


「……で、どんな手を考えたんですか?」

「ふっふっふ……それはね……」


 セレナ姉はどや顔を披露しながら不敵に微笑むのでした。

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