第657話 帰国
次の日、レイ達は帰国の為にフォレスの港町へ来ていた。
本来、定期船の出発は二日後だったのだが、フォレス国王の計らいで特別に一日早く出港準備を済ませてくれたのだ。港には豪華な装飾が施された船が一隻鎮座しており、これは王族専用の物らしいのだが国王様のせめてもの贈り物だと言っていた。
「フォレス国王陛下、この度はお世話になりました」
レイ達は見送りに来てくれた国王様と、彼らの護衛である兵士の方々に礼をする。
「いいや、世話になったのはむしろこちらの方だ。我らが長年悩まされていた敵対組織の闇ギルドの幹部を全て捕らえることが出来ただけではなく、悲願であった神依木の発見、そして―――」
フォレス国王はその場で片膝を付いて深々と頭を下げて言った。
「―――我らフォレスの新たな主、護国神ノルン様……」
「……随分と仰々しい態度ね……アウスト・フォレス・クーザリオン現国王」
ノルンは国王様の自分に対する態度に苦笑する。
「何を仰いますか。貴女様は我々が待ち望んでいた主神。貴方様に仕えることが出来ることに、これ以上の喜びがあろうか!」
「……相変わらず神頼みな国なのだから……。……いい、フォレス国王。確かに私はあなた達の信仰を一身に受けて神同然の存在になっているわ。でも、元はただの人間よ。今の私にこの国を導くだけの力は無い……だから―――」
ノルンは国王様に向けて、どこか寂しげに微笑む。
「これからは、神様に頼らずあなた達の力で道を切り開いていきなさい。何だかんだであなた達フォレスの民は神が不在の間もこの国をずっと統治し続けていた。この1000年見守っていた巫女の私が言うのよ。自信を持ちなさい」
「……か、神よ……」
フォレス国王は感極まって涙ぐむ。そんな様子を見ていたレイは、幼女に説得される国王様というシュールな光景を見て微妙な気分になっていた。
「フォレス国王、私達はもう行く。心配しなくても私はあなた達をいつも見守ってるし、もし道を違えるようならこれからはちゃんと注意しに行くわ。
これからは神に祈る事よりも、貴方が民を導いてより良い国を目指して。……あ、あともうちょっと他国との交流を取り入れた方が良い。いつまでも古い風習に拘って鎖国を続けると時代の流れに取り残されてしまうわ」
「は、はい! ありがとうございます神よ!」
フォレス国王はノルンとレイ達に深く頭を下げた。
そして、船は出航する。僕達は見送ってくれた彼らに手を振って別れを告げた。
◆◆◆
「ふぅ……」
船のデッキで一息吐いているノルンは、どこか寂しげだ。
「……やっぱり、国を離れるのは辛い?」
「まぁね……これでも国に愛着あるのよ。それに、私が積極的に国に関わらなかったのも責任あるし……」
「それは、樹になってたから仕方ないんじゃない?」
「一応、やろうと思えば語り掛けることは出来たのよ。夢の中でお告げという形で」
「そうだったの?」
「ええ……でも、それ以上何か出来たわけじゃないから……。結局は、彼らがいつまでも居なくなった神様に縋り付くのをただ黙って見ているだけだったわ」
ノルンはどこか自嘲するように笑う。
「でも、これからはノルンは積極的に関わりに行くんでしょ?」
「まぁ……頼られたら力を貸してあげるつもり。……さて、他の皆は船の中に入ったんでしょ、私達も行きましょう」
「うん」
僕は頷いて彼女の手を握る。ノルンは、手を握る僕を見て言った。
「ねぇ、レイってもしかして私のこと好きなの?」
「誤解を恐れずに言うと好きだけど、そういう意味じゃないよ」
「私に構ってくれてるってこと? 私が見た目通りの子供じゃないのはわかってるでしょ?」
「……でも、なんか放っておけなくて」
「ふうん。レイは年上のお姉さんが好きなのかしら?」
「年上なのは間違いないけど、どちらかといえば年の近い妹みたいな……って、何言わせるの」
「ふふ、ごめんごめん」
ノルンはクスクスと笑う。僕は溜息を吐いて彼女の手を引っ張った。
「ほら、行くよ」
「はいはい」
僕が手を引いて船の中に入っていった。
【視点:エミリア】
「……ふむふむ……やはり仲がいいわね、あの二人……」
「………」
レイとセレナが船内で入っていく後ろから、セレナと私はコソコソと彼らを追っかけていました。何やってるんでしょう、私は……。
「あの、セレナ姉。本気でやるつもりですか?」
「勿論よ、ミリー。彼……義弟くんの本命が誰なのか、ハッキリさせておかないといけないでしょう?」
「い、いや……まぁ、確かに、私も気にはなっていますけど……」
私は、苦笑しながら心の中で考える。
「(……そもそも、私が懸念しているレイの本命の相手はここに居ないカレンの事なのですが……)」
昨日具体的に誰と言わなかったのが理由で、この姉は色々と勘違いをしてしまった。
私がセレナ姉に恋愛相談をした後、姉はこう言ったのだ。
『明日、義弟くんの様子を一日探りましょう』
……もう、何故そうなった?という疑問が浮かんで仕方が無かった。
ただ、セレナ姉が私の事を一番に考えて行動してくれることが嬉しくて、結局反対できずに巻き込まれてしまいました。
そして、現在。セレナ姉は私とレイの関係をどうにか進展させたいようで、まずはライバルの調査という話らしいです。
「さ、ミリー、義弟くんを追うわよ」
「あ、はい……」
……正直、この行為に意味があるかは分かりませんが。
「(……でも、レイの本当の気持ちを知りたいですし……私も少し踏み出してみましょうか……)」
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