第655話 幕間1

【視点:レイ】

 フォシールに帰ってから、僕達は国王の使いの者がやってきて王城に呼ばれた。フォレス国王は僕達に失礼な対応をしてしまったと謝罪をしてくれたのち、僕達を英雄として国民に紹介したいと申し出てきたが、僕達はやるべきことがあると言ってそれを断った。


 フォレス国王はさぞ残念そうだったが、せめてもの報酬として、僕達には莫大な金と宝石の詰まった宝箱をくれた。別にお金の為にやったわけじゃないので、僕はそれも断りたかったのだけど……。


「義弟くんは要らないの? じゃあ、私が貰おうかしら」


「こら、止めなさいセレナ姉! ……レイ、うちの姉が調子に乗りますので、ちゃんと受け取ってください」


「あ、うん……。国王様、有り難く頂戴します」


 結局、押し切られる形で報酬を受け取ることになった。その後、僕達は案内され、一日だけ王城で宿泊することになった。食事は豪華な物で、皆、目を輝かせながら大満足な食事を摂ることができた。


 その日の夜……。


 ―――トントン

「―――レイ、入るわ」


 僕の部屋の扉のノック音と同時に、抑揚の小さい少女の声が響いてくる。その声の主はノルンだった。彼女は、僕に用があると言って、僕に会いに来たらしい。


「どうぞ」

 僕が扉の方に向きながら返事をすると、ノルンは扉を開け静かに部屋の中に入ってきた。


「どうしたの、ノルン」

「少し、話があるのだけど……」


 そう言いながら、ノルンは僕の部屋の中に入りベッドに腰掛ける。

 僕は部屋のドアを閉めて、彼女の正面に座って話を聞く。


「私もあなた達に付いて行くわ」


「良いの?」


「ええ、私の力が必要なのでしょう? あなた達の大事な人……カレンって人の所に私を連れて行ってくれれば、今の私の力で治してあげられるわ」


「助かるよ……でも、この国から離れて大丈夫なの?」


「セレナがくれたこの体のお陰で今は自由に歩き回れるから大丈夫。今回の一件で私は<信仰>を得ることが出来たから、例えここに居なくてもこの国の人達を見守るくらい出来るようになったの」


「信仰って確か、人が神様に感謝されることで得られる力みたいなものだったよね。ノルンは神様じゃないのになんで?」


「それは、あなたのお陰ね」


「僕?」


「そう……あなたが最後に使った大魔法が切っ掛けなのだけど。

 あの魔法のお陰で、この国の人達が、皆一様に『神の奇跡によって起こされた現象』だって思ってくれたのよ。

 知っての通りこの国の神様はもう居ないのだけど、長い間私が神様の代理として過ごしたのが理由で、信仰の先が全て私に向けられたことになったの」


「え、となると今のノルンって……」


「代理じゃなくて、本当に神様になってしまった、という事になるわ。……まぁ、この世界を管理する上位神二柱に比べると幾分か劣る存在なのだけどね」


 ノルンは、「ふふっ」と少し得意そうに僕にそう言ってくる。


「あ、でもそれはあなたのお陰でもあるわね。試しに、私の代わりに、この信仰を受け取って神様になってみる?」


「神様って何をするの?」


「そうね。まずこの大陸の人達の名前と住所と顔を全部記憶して個人情報を管理するの」


 何処かの市役所かな?


「あとは、困っている人が居たらその人が助けられるように神様アンテナを張って<信仰>を常に獲得できるようにしておくの。そして、国の人達に解決できない事案があった時だけ、解決に乗り出すの。目立つのは厳禁よ、誰も居ないところでこっそりとね」


「ふむふむ……神様アンテナ……?」


 僕はノルンの神様になった場合の行動を真面目に聞いていた。

 しかし、僕のその様子が面白かったのかノルンはクスッと笑い出す。


「今の全部冗談よ」

「えっ!?」


「レイがそんなに真面目に私の話を聞いてくれるから、つい意地悪したくなっちゃった」


 ノルンはそう言って、おどけた様に笑う。


「でも、私が今、この国の神様同然の状態なのは事実。その力を得られたのは全部あなた達のお陰よ……本当にありがとう」


 そう言って、ノルンは穏やかな笑顔を浮かべた。


 その笑みを見て、僕は――――


「……頭撫でて良い?」

「……その反応はおかしいと思うのだけど」


 ちょっと困惑した表情のノルンだったが、すぐに「仕方ないわね」と言って自分の隣をポンポンと手で叩く。


「ここに座って」

「?」


 言われた通り、ノルンの隣に移動して僕もベッドに腰掛ける。


「乗るわね」

「乗る?」


 ノルンは僕の返事を待たずに、何故か僕の膝の上にちょこんと乗っかった。


「さ、撫でていいわよ」

「あ、うん……」

 僕はノルンのその言葉に促されるままに彼女の頭を撫でる。ノルンは僕に頭を撫でられるのが気持ち良いのか、目を細めて本当に猫みたいな子である。


「……ね、ノルン」


「ん?」


「……やっぱり、その子供の身体気に入ってるでしょ?」


「……若いっていいわよね」


 ノルンはしみじみとした口調でそう答える。


「本当は1000歳のおばあちゃんだもんね」


「心はもっと若いわ。今の若者たちの流行にもきっと付いていけるはず」


「そうだと良いね」

 その発言が何処となく年寄り臭い事は言わないでおく。

 僕達二人は、そんな風に他愛ない話をしながら穏やかな夜を過ごしていた。

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