第654話 戻る平穏
これまでのあらすじ。神依木を巡る戦いの黒幕は、レイ達の因縁の相手、魔軍将ロドクだった。レイはノルンを守りながら、一騎打ちの戦いの末にロドクを追い込み打ち倒すことに成功する。
そして、ロドクの過去と彼の願いを知ることになる。
ロドクがこれまで暗躍していた本当の目的は、【次元の門】を開け、様々な世界に渡り歩き、自分が本当に望んだ世界を新たな可能性として見つけ出すことだったのだ。ロドクは最後に、自分を介錯するようにレイに願う。
そして、レイは彼の願いを聞き届ける。
『さらばだ、我が友よ』
ロドクの最期の言葉、それは親友への別れの言葉だった。
次の瞬間、レイの聖剣が振りかぶられ、彼の首が宙を舞った。
そして、満ちる光。
今まで輪廻に逆らっていたロドクの魂は、この瞬間に天へと昇っていく。彼はその罪を煉獄の炎によって焼かれ、全ての罪を洗い流してから輪廻の輪へと戻ってゆくのだ。
「……さよなら、ロドク」
レイはロドクの魂を見送った後、仲間達に振り向く。
その表情はとても悲しげで、とても寂しそうだった。
「皆……」
「……レイ様」
レベッカは、彼を見て思った。
この人は、敵である彼に対して憐憫の情を抱いている。
彼の瞳が語っていた。
こんな結末は望んでいなかった。
どういう形であれ、彼らを引き合わせてあげたかったと。
だが、彼は語らない。
彼は悲し気な表情を胸にしまい、いつものように自分達に微笑む。
「……終わったよ、皆」
「……はい」
「これで、ロドクが企てた全ての陰謀は阻止された。後は―――」
レイは静かにそう言って、神依木を見上げる。
「……この大樹を助けよう」
レイは、目を閉じて自身の聖剣、蒼い星を地面に突き立てる。
そして、言葉を紡ぐ。
今より行うのは、聖剣の加護を借りて本来あるべき姿へと戻す大魔法。
以前、これを使った時はカレンの力が無ければ不可能だった。
だが今のレイなら単独でその力を行使できる。
「――この手に掴む、聖剣、蒼い星よ。その蒼穹の光をここに―――」
『……』
レイの詠唱と当時に、蒼い星に宿る意思が彼に従い、その聖なる青い光が溢れだす。彼と聖剣を中心に、青白い光が彼の周囲に円陣を描いていき、その光はやがて森全体を侵食していく。
それに共鳴するかのように神依木も光に包まれていく。その光はレイに流れていき、レイはその光を感じてポツリと言葉を漏らす。
「……ありがと、エミリア」
彼の口元が笑みの形を浮かべる。
神依木の中で大樹を維持していたエミリアが彼に力を貸しているのだ。
その様子を、彼の仲間達は静かに見守る。
「聖剣に導かれし光の輝きよ。理に従い世界を正しき形に。僕は願う、理を超えた更なる先の道しるべに進むことを――」
彼の詠唱が進むと、周囲の光がたんぽぽの綿のように宙に浮かび上がりはじめる。その光は空に大きく舞い上がり、空に小さな光の雲を形成していく。
まるで降り注ぐ粉雪のように、森と大陸全土に光の粒子が降り注ぐ。
「……おお、この美しい雪は……」
フォレス大陸の統治者、アウスト・フォレス・クーザリオン国王は、その光の粒子を城門の窓から目撃し、その身を震わせる。
「ようやく、我が国に戻ってこられたのですね……神よ……」
フォレス国王は、その場で跪き祈りを捧げる。国王が跪くその光景を目撃した、城の兵士たちも彼に続くように跪き、祈りを捧げた。
そして、光の粒子はフォレス大陸全土へと降り注ぎ続ける。
その光景に人々は感動し、その美しい光景を目に焼き付けるように見つめ続けた。
同じく同時期、レイ達勇者一行だけに頼るわけにはいかない。そう思い、ロウと彼に賛同した兵士達は、彼らの後を追って来ていたのだ。そして彼らも国王と同じく、森の中からその幻想的な光景を目の当たりにしていた。
「美しい……これが、フォレス国王が望んでいた『神』の降臨なのだろうか……?」
「……」
ロウ達は感動したようにその光の粒子を見ていた。
しかし、ここで足を止めている場合ではないと、彼は思い直す。
「まるで夢のような奇跡だが、我らも責務がある。先へ進もう」
「ハッ!!」
ロウの言葉に、兵士達も感動から覚めて我に返り、再びレイ達を追いかけるように更に奥へと足を踏み入れた。
そして、レイの詠唱は続く。
「―――僕は願う、出来ることなら、この国で犠牲になった人達に全て救いを――――」
その言葉と同時に、光の粒は同時に弾け飛ぶ。
瞬間、空にヒビが入り、やがてガラスが割れるような音を立てながら世界が砕け散る。光消えたと同時に、曇っていた空が晴れて青空へと変わる。そして、生気を失っていた森の樹木は活力を取り戻し始める。
「<万象流転>」
そして、大魔法はここに完成する。
死の寸前まで追い込まれていた深き森は、青青しい新緑の森へとその姿を変貌させた。せき止められていたマナも元通り流れ込んでいき、マナの精霊たちも再び森に戻っていく、森の動物たちも、そのマナが戻ってきたことに喜びの声を上げる。
鳥たちのさえずる声、木々のざわめき、そして動物たちの鳴き声。森は、再び命で溢れる場所となったのだ。
大魔法を終えたレイは、静かに、ゆっくりと目を開く。
「……これで、この森は全部元通り」
レイの言葉に仲間達は歓喜の声を上げ、皆はレイの頑張りを褒め称える。特にノルンは彼に感謝してもしきれないほどで、レイにお礼を言いながら大粒の涙を流していた。
そんな彼女をレイは、彼女の頭に手を当てて優しく撫でる。
「こ、子供扱いしないで……」
「あはは……ごめん……つい………」
レイも彼女が1000年の時を生きた女性だと理解はしていた。
だが、その見た目があまりにも幼く儚いため、つい子供を慰めるように頭を撫でてしまったのだ。そして、レイの謝罪を聞いて「ムッ」とした表情をするノルンもまた可愛らしい。
と、疲労困憊だったレイがノルンに癒されていると……。
―――ぱぁぁぁぁぁ
生気を取り戻した神依木が再び輝き出す。
次の瞬間、神依木の正面に、一人の人物が現れた。
その人物は―――
「……ああ、疲れたー」
その人物は、神依木の中で樹を支え続けていたエミリアだった。
「エミリアちゃん」
「エミリア様、ご無事で!!」
「あー、ようやくエミリアさん帰ってきた……これで安心……」
エミリアを見た仲間達は、一様に彼女の名前を叫ぶ。
そして、彼女の姉であるセレナは、エミリアを見て……何故か号泣していた。
仲間に自分の名前を呼ばれたことで、フラフラとしていたエミリアの視線が、姉の姿を捉える。
「……皆……それに、セレナ?」
自分の名前を呼ぶ妹に、セレナは涙を流しながらも微笑む。
「エミリア……お疲れ様……」
「うん……ありがとう、セレナ姉……それに、久しぶりですね……」
二人は見つめ合い、微笑みあう。
そんな姉妹の感動の再会を邪魔しないようにと、自然と彼女達の前に道を作る仲間達。そんな彼らの気遣いに気付いたのか、エミリアも仲間達にも笑みを向ける。
「レイお疲れ様です……。神依木の中から見てましたよ」
「そうだったんだ……エミリアも力を貸してくれてありがと」
レイは照れくさそうに、彼女にお礼を言う。エミリアは、レイが単独で発動した<万象流転>の魔法を影ながらサポートしていたのだ。
「さて、これで全部解決ですね……帰りましょうか」
エミリアはクタクタの様子でそう言った。
レイ達はその様子を見て笑い合い、彼女の言葉に同意する。
「と、その前に……」
ノルンは呟きながら、神依木の前まで歩いてからこちらを振り向く。
「最後の片付け、しないとね」
ノルンはそう言って、指をパチンと鳴らす。すると、森の一部の地面がゴオオと音を立てて、大穴が開いた。その穴の中を覗き込むと、ここまでの道のりで倒してきた闇ギルドの構成員たちが噴水のように飛び出してくる。
「わっ!!」
それに驚いたレイ達は思わず身構えるが、彼らは全員気絶しているようで地面に放り出されても彼らは身じろぎするだけで起き上がる事は無かった。
「ちゃんと全員生かしておいたわよ。レイが埋めたロイド・リベリオンって男もね」
「助かるよ、ノルン」
国の兵士たちがレイ達の前に到着し、彼ら闇ギルドの構成員とリーダーのロドク・リベリオンが捕縛されることになった。
そして、この国の騒動はこれで一旦解決となる。
レイ達は森から出てフォシールに戻り、身体を休めることにした。
余談だが、レイ達が国から去った後、闇ギルドの長であるロイド・リベリオンは国家転覆罪として死刑を言い渡され、1年以内に刑が執行されることが確定した。また、彼の伴侶である女性も居たのだが、彼女に関しては彼が捕まると同時に消息不明となった。
その後、彼女の姿を見た者は誰も居ない……。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます