第652話 あっけない結末
これまでのあらすじ。
魔軍将ロドクの正体がレイによって看破され、レイとロドクは決着を付けるべくぶつかり合う。勇者としての力を完成させたレイの力は圧倒的で、如何に魔軍将ロドクでも敗北は必至と思われたが、彼は切り札として強力?な魔物を召喚する。
その魔物を見て、レイは思わず目を見開く。
「……え?」
「あれは……」
セレナも目を見開きながら呟く。
彼女達の目線の先に現れたモンスターは――――
『きゅ?』
・・・・・・・・・・・・?
「「「は?」」」
レイとノルンとセレナの声がハモる。
現れた魔物は……『可愛らしい』水色の小さなドラゴンであった。ドラゴンキッズよりも更に一回り小さく、ドラゴンらしい鋭い爪と牙も持ち合わせてはいない。
その代わり、その体表は氷で覆われており、瞳もサファイアのように輝いている。ドラゴンキッズよりも更に小さい竜は幼竜のドラゴンの赤ちゃんだった。
『か、カカカカカカ…………!驚嘆したか、勇者よ!』
ロドクは高らかに笑う。いや、むしろ震えを誤魔化して無理矢理笑っているように見えた。もしや、ロドク本人の意思に反しているのではないか……?
そう思えるほどのロドクの動揺っぷりに対して、彼の召喚した魔物は……。
『きゅー♪』
可愛らしい鳴き声で小さな翼を頑張って羽ばたかせながらノルンの傍まで飛んでいく。
「え、ええと……?」
ノルンは目の前の幼竜に擦り寄られて戸惑った表情をレイに向ける。彼女の近くにいるセレナも、攻撃して良いのか少々戸惑った様子で、杖だけ幼竜に向けて何も出来ずにいた。
「……これは何のつもりだ?」
レイは剣を構えながら、呆れた顔でロドクに問う。
『……その生き物は、氷龍(スノードラゴン)と呼ばれる冷気を自在に操るドラゴンだ』
「いや、聞きたいのはそこじゃなくて」
『貴様の疑問は、何故こんな幼くていたいけな幼い竜を呼び出したのかという話であろう?カッカッカッ……素直に質問に答えるとでも思ったか……?』
ロドクは、誰もが苦し紛れにしか聞こえないそんな戯言を口にする。セレナはロドクの戯言を聞いて、苛立ったように声を張り上げて言った。
「ふざけているのかしら……? まさか、こんな子供の竜で義弟くんや私を倒せるとでも思ったの?」
「あ、あの……セレナ……この子、なんとかして……私から離れようとしないんだけど……」
ノルンは自身の髪や胸元に擦り寄っては甘えてくる目の前の竜の相手をするので精一杯のようで、セレナに助けを求める。
『カッカッカッ……それはそうだろうとも……』
そんな彼女達を見たロドクは、未だに誤魔化そうとしているのか、勝ち誇ったようにカタカタと顎の骨を鳴らす。
……いや、それは本当に誤魔化しだろうか?
最初の反応から察して、ロドクの呼び出したこの幼竜は、奴の意図しない魔物だと考えていた。だが、こんな狡猾な男が、この土壇場になってこのようなミスを犯すだろうか?
次の瞬間、ロドクの目が光る。僕はそれを見て一瞬遅れて叫んだ。
「ノルン、そいつから離れて!!」
「……え?」
だが、手遅れだった。
幼竜は、小さく開いた口からノルンにに向けて氷のブレスを吐き出していた。小さな子供な為、威力は微々たるものだが、油断しきっていたノルンはそのブレスを正面から浴びてしまい、その小さな身体が凍り付いてしまった。
芯から凍り付いたわけではないため手足の自由を奪われた程度だが、それでもノルンは身動きが取れなくなってしまう。
「ノルンっ!!!」
彼女の傍に居たセレナは叫び、幼竜に向けて遠慮なく攻撃魔法を解き放つ。だが、彼女が魔法を放ったと同時に、幼竜とノルンの姿がその場から消え失せる。
「なっ!!」
『賭けではあったが、やはり下手な強力な魔物よりも、油断を誘えるそのドラゴンを使って正解であったな』
ロドクの称賛と同時に、幼竜と凍り付いたノルンがロドクの後ろに現れる。
「!!」
『幼竜よ、その娘が気に入ったか? ならば、我が用意したその「門」を潜るがよい!!』
ロドクは上空に維持していた
「ノルン、今、僕が助けに!!」
レイはそれを追おうとロドクを無視して跳ぼうとするが、ロドクが立ちはだかり『そうはさせんぞ!!』と言いながらレイとセレナ目掛けて無数の魔力弾を展開し、雨のように二人に降り注がせる。
「ぐっ!!!」
「っ、この……!!」
レイとセレナはロドクの攻撃を防ぐが、その間に時間を稼がれて幼竜は『門』の近くにまで到達してしまう。そして――――
『さぁ、行け!! その娘さえ手に入れば、我々の勝利よ!!』
ロドクは高らかに勝利宣言を行う。
だが、幼竜が『門』を潜り抜けようとした瞬間―――
――ぼよんっ
幼竜の身体を、弾力のある何かに押し返されてしまった。
『きゅー?』
幼竜は不思議そうに身体を見ると、門の周りに紫色の膜のようなモノができていることに気が付いた。
『――――は?』
その様子を見たロドクは、今までの余裕を失い、間抜けな声を出して呆然と立ち尽くす。
『きゅっ、きゅー?』
そんなロドクの様子などお構いなしに、幼竜は可愛らしい鳴き声を上げながら何度も『門』に入ろうとするが、同じくボヨンボヨンと弾力のある何かに跳ね返される。
『なんだその膜は……?』
ロドクは不思議そうにしている幼竜に問いかけるが、幼竜も分からないのか首を傾げるような仕草をする。
そんな様子を傍で見ていたレイも呆然として呟く。
「あれは……」
レイが呟くと、セレナが彼の隣まで歩み寄り、幼竜を見上げながら語る。
「……
セレナさんは解説しながら、幼竜に杖を向けて
『きゅうっ!?』
彼女の放った魔力の矢は幼竜の頭に直撃して幼竜は目を回しながらそのまま落下してくる。同時に開放されたノルンも落下してくるが、セレナはそれを見越したように飛行魔法で空に飛びあがり、落ちてくるノルンの小さな身体を優しく受け止める。
「キャッチ……! ごめんなさいね、すっかり油断してしまってたわ」
「し、死ぬかと思った……」
ノルンが安堵したようにセレナの腕の中で脱力していると、そのすぐ横に幼竜が通り過ぎていき自然落下で地上に激突した。
『きゅ……きゅうううううう………』
幼竜は、目を回して気絶している。
ロドクは、そんな幼竜を苦々しく見下ろしながら声を荒げた。
『お……おのれぇぇ!!』
ロドクは、自身の策があっさりと阻止されたことに憤り、セレナとノルン目掛けて襲い掛かろうとする。だが、怒りのあまり彼はもっとも注意を向ける相手から目を逸らしてしまっていた。
「――自分の相手が誰だが忘れたか、ロドク」
『っ!!』
次の瞬間、レイの聖剣がロドクの肋骨と腸骨を繋ぐ部分を容赦なく一文字に斬り裂く。その一撃を受け、ロドクの上半身と下半身が二つに分かれてしまう。
『こ、この我が……こんな…………』
ロドクは地面に倒れると、自身から離れた下半身に視線を向けて苦しそうに蠢く。
「……ロドク、これで終わりだ」
レイは、倒れたロドクの上半身に剣を突きつけた。
『……ぐ……』
完全に追い込まれてしまったロドクは、レイの言葉に何も反論出来ず、自らの運命を受け入れるしかなかった。
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