第650話 ルナちゃんがんばるよ!
【三人称視点:ベルフラウ、レベッカ、サクラ、ルナ】
一方その頃、ベルフラウ達はドラゴンキッズ達の火龍と戦いを繰り広げていた。
ルナはベルフラウの指示で高度を下げ、それを追いかけてきた火龍の高度が下がったところでレベッカは弓に持ち替えて地上からママ竜を撃ち抜く。
「グギャアアアッ!!」
火龍は痛みに悲鳴を上げながら高度をさらに下げていき、ようやく射程が届く範囲まで落ちてきた所でサクラが樹の上の伝って大ジャンプ。彼女の抜群の身体能力と風魔法を活かした空中ジャンプで親竜の射程まで届かせることに成功した。
そして、火龍の背中を取り、得意の双剣による連続攻撃で親竜の動きを鈍らせる。
「グオゥッ!!」
だが、火龍はルナの翼の攻撃を受けて弱りつつもサクラに反撃し、その尾を薙ぎ払って彼女を吹き飛ばす。
「わわっ……!」
地上に叩きつけられる寸前、サクラは身を捻って着地し再び跳躍する。
「サクラちゃん!!
ルナの背中に乗って戦況を俯瞰していたベルフラウは、彼女に追撃が来ないよう攻撃魔法を火龍に向かって解き放つ。魔力を空気を凝縮したその大砲の一撃は、空気が破裂したような轟音を迸らせて火龍の頭に直撃させた。
その衝撃で飛んでいた火龍はバランスを崩して墜落した。
「グギャッ!?」
地上に叩き落としさえすれば、彼女達も真っ向勝負が出来るというもの。
サクラとレベッカは火龍が墜落するのを見届けた後、落ちた地点に急いで向かう。
その光景を確認したベルフラウはルナに向かって言った。
「ルナちゃん、私は地上に降りる。アナタはこのまま待機して、あのママ竜さんがまた空に飛びあがろうとしたらけん制お願い!」
『オッケーです!!』
ルナはドラゴンの首をコクンと動かす。ベルフラウは、女神パワーと呼称する光のオーラを纏いながらそのまま地上に着地。ルナは言われた通りに上空に待機しながら地上を見下ろして火龍の動きを警戒する。
「グオオオオオオオオゥ……!!」
親竜は地面に墜落した後、翼を広げて再び空に飛び立とうと咆哮しながら飛び立とうとする。
だがそれをさせまいレベッカが弓を番え矢を放ち、火龍を射貫く。それに合わせてサクラが、素早く動いて剣を構えて親竜に飛び掛かる。
そこは火龍、やられっぱなしではない。サクラの姿を瞳で捕らえた瞬間、ドラゴンは深呼吸しその大きな口から灼熱の炎を吐き出す。
「くっ……!」
サクラは攻撃を中断して、両手を前に突き出し風魔法を発動させ、ドラゴンの炎に対抗する。しかし、咄嗟の魔法では火龍の炎に対抗しきれずにその炎に飲み込まれてしまう。
「サクラちゃん!!!!」
炎に巻き込まれたサクラを目の当たりにしたベルフラウは彼女の名前を叫ぶ。だが、火龍の猛攻は続く。更に炎の出力を上げて目の前の敵全てを焼き尽くさんとする。
だが、その時。
「―――ミリク様、わたくしにお力を!!」
レベッカの凛のした声が響き渡る。そして、次の瞬間―――
「
レベッカの詠唱完了と同時に、火龍の周囲に地割れが起き始め、火龍の巨体がまるで押し潰されたかのように陥没し始める。
「グオオォッ!!??」
突然、自分の周囲の圧力が増して自身の身体が圧し潰されていく事に戸惑いながら咆哮する火龍。
レベッカの放った魔法は、彼女の得意とする重力魔法の更に上位の魔法だ。
周囲の空間を圧縮し、更に重力魔法でその空間内の空気すら圧縮する。対象が魔法に抵抗すればするほどその魔法の威力は比例して増していくという恐ろしいものだ。
火龍は翼を広げて逃れようとするも、既に周囲の空は完全にレベッカの魔法によって支配されてしまい、逃げ出す事が出来ない。
「ベルフラウ様、今のうちにサクラ様を!」
「!!!」
レベッカの言葉にベルフラウはハッとして、慌ててサクラの所に駆けつける。
「サクラちゃん! 大丈夫!?」
そして、火龍に潰される前になんとか彼女の手を引いて救う事に成功するのだった。
『グオゥッ!!?』
その間にも、レベッカは更に力を引き出して火龍に更に重力魔法の負荷を掛けていく。もはやこの空間内ではまともに動く事もままならない状態だった。その圧力に負けてとうとう地面にひれ伏してしまう。
「サクラちゃん、待ってて!!」
火龍の元からサクラを引き離したベルフラウはサクラを寝かせて、彼女にありったけの回復魔法を使用する。
サクラは直前に手で顔を庇い、身体を小さく丸めていたために火龍の炎に直撃する事なく済んでいた。
しかし彼女の攻撃のダメージは大きく、その意識を手放していた。
『す、凄い……!』
上空で彼女達の戦いを見ていたルナはポツリと漏らす。レベッカの放った魔法は、あの巨体の火龍の動きを完全に封じ込めて身動きを取れなくしていた。
だが、その魔法を以ってしても火龍は未だ健在だ。彼女が魔法を解除しようものなら、弱体化はあれど即座に動き出して反撃をしてくるだろう。
「……っ!!」
レベッカは重力魔法の維持に全力を注ぐ。
だが、<空間圧縮 ―重圧―>は魔力の消費量が他の魔法の比では無い。長時間の発動は彼女自身にも危険が及ぶ。しかし、その覚悟で彼女は火龍の重力魔法を維持していた。
「サクラちゃん、お願い……!!」
ベルフラウはなんとか彼女の意識を取り戻させようと回復魔法の効果を更に強める。
その努力の甲斐もあってか、サクラの手がピクリと反応する。
「サクラちゃん!?」
「う、あれ…………わたし………?」
ぼんやりと彼女の目が開く。ベルフラウは回復魔法を一旦止め、サクラの意識が戻った事に安堵する。
「よかった……!!」
だが、それも一瞬の出来事だ。
そうこうしている間に火龍が重力魔法から抜け出そうとしている。
あの魔法に抵抗しているのだ。いくらレベッカの魔力が強力でもいつまでも保つわけではない。早く決着をつけねばと焦るベルフラウだが、その前に上空で影が差した。
何事かと思い、彼女は上を見上げる。
すると、上空で待機していたルナが高度を下げてこちらを見守っている。いや、違う。彼女は火龍に攻撃を仕掛けようとしていた。おそらくレベッカの魔法が破られると同時に彼女は動き出すつもりでいるのだ。
「ルナちゃん、ダメ! 危険だから下がって!!」
ベルフラウは咄嗟に声を上げて、彼女に下がるように促す。しかし、この状況下で彼女は引き下がるつもりはないようだ。
次の瞬間、火龍の身体が大きく動くと同時に、周囲にバチンと何かが激しく割れたような音が響く。
レベッカの<空間圧縮 ―重圧―>が破られてしまったのだ。そして、火龍は再びベルフラウ達に灼熱の炎を浴びせようと息を吸い込み始める。
だが、その瞬間……ルナがその火龍の首元目掛けて飛びついた。
「グギャアアアアアッ!?」
その首元を噛み砕かれた火龍は痛みに咆哮を上げながら、ルナを振り解こうと暴れ回る。しかし、ルナはそれを離さない。
今のルナは<竜化>したドラゴンの姿だが、その大きさは火龍と比較すると二回り小さい。しかし、その小さな身体で火龍の首元に張り付きながら牙を突き立て、そこから魔力を奪っていく。
「グギャアアッ!!」
『ぐ……ぐぐ……!!』
だが、勢いよく暴れ回る火龍の力にはやはり及ばず、ルナは抵抗の末に火龍によって地面に叩きつけられてしまう。そして火龍がルナに止めを刺そうと火龍は鋭い爪を振り上げる。
ルナは、殺されると思い覚悟を決める。
……しかし、彼女の想像する凄惨な展開にはならなかった。
何故なら、
「―――バックスタッブ!!」
目覚めたサクラが火龍の背後に回って飛び掛かり、その首に剣を叩きつけていた。
「グギャアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」
サクラの攻撃により、火龍の首筋から大量の熱いマグマのような血液が迸る。彼女の攻撃した箇所は、さきほどルナが決死の想いで噛みついた箇所であり、ドラゴンの牙によって付けられた傷口であった。
その傷は深く、マグマのような血液がボコボコと沸騰するように溢れ出ているが、それでも致命傷には至らない。だがサクラはまだ余力を残していた。
「―――精霊さん、私に力を貸して!!
ここに来ての自己強化、瞬間、彼女の勇者としての能力の後押しもあり、その攻撃力が爆発的に上昇する。
そして彼女は火龍の首筋に剣を突き立ててそのまま龍の首を抉る。
「グギャアァ!!」
そして、遂にドラゴンの首が切り落とされ、その命に終止符を打つ。首を失った火龍は断末魔の悲鳴を上げながら力無く地面に倒れ伏した。
「や、やった……!!」
サクラもまた先程のダメージが蓄積したせいか、力が抜けて崩れ落ちてしまう。だが、彼女が倒れそうになったところでベルフラウが駆け寄り、彼女を支える。
「サクラちゃん、お手柄よ!!」
「えへへ……サクラ、やりましたよ……ぶい♪」
ベルフラウに支えられながらも、彼女はVサインをして嬉しそうに微笑む。
「ルナちゃんも大丈夫? さっき酷い怪我してたみたいだけど……」
そして、ベルフラウはそこでルナの安否を心配する。
「だ、大丈夫……ですぅ……」
ルナは<竜化>が解けており、足がガクガクと震えていたが大怪我は負っていないようだった。そこに、くたびれた様子でレベッカが彼女達に歩み寄る。
「……ふぅ、皆様、お疲れ様でございます」
「レベッカちゃんもお疲れ。凄い魔法だったわね」
「ありがとうございます、ベルフラウ様。……ですが、思ったより苦戦してしまいましたね。やはり、レイ様とエミリア様が不在なのが痛いです……」
レベッカは力無く微笑みながら言う。
「ふふっ、まぁ仕方ないわよ」
「ですです……それじゃあ、わたし達も戻りましょー……あぅ……疲れた……」
「だね……! 早く帰って休もう」
四人は、火龍が倒れた事で元に戻った森の風景を眺めながらレイ達の元へ戻るのだった。
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