第647話 逃げ惑う女子中学生と女神様

【三人称視点:ベルフラウ、レベッカ、サクラ、ルナ】


 一方、その頃――


 彼女達は、竜化したルナの背に乗って突然火の手の上がった場所に急行していた。するとそこには、今まで森には居なかった凶暴な動物達が森の上空で口から火を吐いて、周囲の木々を焼き払っていた。


「あれは火龍!?」


「成体程の大きさではありませんが、赤いウロコとツバサを持つ火を吐くトカゲ……ドラゴンキッズでございますね……」


「ドラゴンがこんな森に……どうやって……!?」


 サクラは目の前にいる生物を見て驚く。ドラゴンキッズは簡単に言えば独り立ちする前のドラゴンの子供である。彼らは成体になる前に親元から離れ、ある程度成長すると群れを離れて単独で狩りを行いながら成長する。


 しかし、彼らの生息地域は限定されている。

 本来なら火山帯などの危険な場所に生息しており、彼ら火龍が多く生息する火山は『竜の谷』と呼ばれている。しかし、こんな小国の森の深部に棲息するなどあり得ないのだ。


「と、とにかく、あれを止めましょう!」


「ええ、このまま放っておけば、火が他の樹木に燃え広がって森中が火で包まれてしまいます!」


「行きましょう……ッ!!」


 レベッカの号令に、レベッカとサクラはルナの背中から飛び降りて降下する。途中、レベッカとサクラは空中で武器を持ち替えて、空を飛び回っていたドラゴン達に急接近する。


 身体能力優れる二人は、落下しながらも体のバランスを取って加速し、空を飛ぶドラゴンキッズたちにそれぞれ槍と双剣を振るう。


「やぁあああああああああああ!!」

「はぁああああああ!!」


『グギャ!?』

『キキィイイイイッ!!』

 レベッカとサクラの攻撃は、ドラゴンキッズたちに直撃し、その体を深く抉る。ドラゴンキッズたちは致命的なダメージを負ったことで、羽ばたきを止めてそのまま地上へと落下していく。レベッカ達は、ドラゴンキッズの身体を足場にして近くの樹の飛び移り難を逃れた。


「流石、レベッカちゃんとサクラちゃん!」

『今、上空で軌道を変えつつ加速したような……2人とも、どんな鍛え方してるんだろう……』


 ベルフラウとルナは、落ちながら空中で自在に動いていた二人に感心したように呟いた。


 更に、地上に降りた二人は、他の残党のドラゴン達に臆さず超スピードで近づいて、その小さな身体から考えられない程の凄まじい威力の槍と剣でドラゴンキッズたちを仕留めていく。


「流石、サクラ様。ドラゴン退治などお手の物でございますねっ!」

「レベッカさんこそ、まるで動きを読んでるみたいに的確に当ててますねっ、つよーい♪」


 二人は互いの健闘を称えつつ、次の獲物を狩る。

 その様子は幼いながらも歴戦の戦士のような貫禄を感じさせるものであった。


「これなら私の出番はなさそうねー」

 ベルフラウは、ルナの背に乗ったままのんびりした様子で言った。


『あの、ベルフラウさん。確かに、ドラゴン達は二人がどんどん倒していってますけど、一度燃え移った火の手がどんどん広がっているんですが……』


 ルナは、森の奥から次々と追加で現れるドラゴンキッズ達を見据えながら言う。


「そうね~……このままだと燃え広がる前に森林火災に発展しちゃうかも……」


『ど、どうしましょう!?』

 ベルフラウの返答を聞いて、ルナは焦った様子で声を上げる。


「大丈夫よ、こういう時こそ私の出番だから」

 ベルフラウは彼女にそう微笑んで、正面を向いて言葉を紡ぐ。


「―――さぁ、恵みの風よ……大自然の息吹をこの地に讃えなさい!!」

 ベルフラウはそう言って、両手を天に掲げる。


『ベルフラウさん、それって?』

「んーと、まぁ女神パワーってやつ?」

 ベルフラウはルナに可愛らしくウィンクを送って、詠唱を続ける。


「‟元”女神のベルフラウの名の下に、降り注げ―――<神の恵み>を!!」


 するとその時、天からぽつりぽつりと水滴が降り始めた。その数は徐々に増えていき――やがて雨となって森に降り注ぐ。


 そして、ベルフラウの詠唱に合わせて、彼女の『神気』を受けて雨は勢いを増して降り注ぎ始める。


「ふぅー、こんな感じかしらね?」


『べ、ベルフラウさん。雨を呼んじゃうなんて……もしかして、本当に神様だったの?』


「(……なんで、いつも信じてもらえないんだろう)」


 ベルフラウは、ちょっと落ち込んだ。しかし、ベルフラウの恵みの雨によって、森の炎は次第に鎮火されていき、周囲の温度も下がっていく。


「わー、雨ですよ、雨!!」

「雨の予兆など無かったと思うのですが、もしやベルフラウ様のお力でしょうか?」


 サクラとレベッカは、突然の雨に喜び戸惑いながらドラゴンキッズたちと戦っていた。


「しかし、これでこれ以上炎が燃え広がることもないでしょうね」

「ならこの子達を討伐すれば、問題解決ですねっ♪」


 サクラは子供のようにはしゃぎながら、嬉々としてドラゴンの群れに向かっていった。


「さ、サクラ様。流石に勇猛果敢過ぎでは……!?」

 レベッカは彼女の奔放さに多少呆れながらも、自身もドラゴンの群れへ飛び込んでいった。


「よしっ!後はサクラちゃんとレベッカちゃんが何とかしてくれるわ!」

 そう言ってベルフラウは二人の様子を見守ることにした。


 すると――


『え?きゃぁああ!?』

 そんな時、突如ルナが悲鳴を上げる。

 何事かと思い、ベルフラウは上を見上げると。


『………』

 彼女達の目の前には、巨体の大きな竜が鋭い目でこちらを睨んでいた。その大きさはレベッカ達が相手取っていたドラゴンとは比較にならないほど大きかった。


『ドラゴン……しかも、二人が倒してたちっちゃいのより全然大きい……』


「ママ竜かしらね……子供達を倒されて怒ってるのかしら……あははははははは、ごめんなさいね……」


 ベルフラウはそう言って、穏やかに笑いかけるが……。


『グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


 目の前のママ竜は、許すものかと咆哮を上げる。


『わ、すっごい怒ってる!!』


「ルナちゃん、ひとまず戦略的撤退よ!!」


『は、はい!!』

 ベルフラウはそう言ってルナの背中にしがみ付いて、ルナは急旋回して翼を羽ばたかせて飛び上がる。


『ギャオオオオ!!』

 ママ竜はルナの飛行速度についてくるように翼を羽ばたかせ、口から巨大な火球を吐き出してくる。


『わああああああああ!! ベルフラウさん、撃ってきましたよっ!! ドラゴンこわいこわい!!』


「落ち着いて、ルナちゃん! アナタも一応ドラゴンよっ!!」


『中身は普通の女子中学生ですぅ!!』


 ルナは必死になって高度を上げてママ竜からの攻撃を避けて逃げていった。


 一方、地上でドラゴンキッズを討伐していたレベッカ、サクラの二人は……。


『グギャアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!』


 上空から凄まじいドラゴンの咆哮が聞こえて、サクラとレベッカは驚いて空を見上げる。


「ちょ、レベッカさん、アレ!!」

「お、おっきなドラゴンでございますね……!」


 彼女達の目の前には、自分達が倒したドラゴン達とは比較にならない程巨大な火竜がルナを追っかけまわしていた。


 ルナは必死に翼を羽ばたかせて逃げていたが、徐々に体力が尽きて高度と速度を下げていく。彼女に掴まってるベルフラウも、あれだけの速度が出ていると身動きが取れずに振り落とされそうになっていた。


「こうしている場合ではございません。救援に向かいましょう!」

「オッケーです♪ ドラゴンスレイヤー目指して、いざ行かん!」


 レベッカとサクラはそう叫び、ルナたちを襲う巨大な竜を討伐するために戦場を駆けていった。

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