第646話 うるさいアンデッド

 前回までのあらすじ。

 森が火事になって骨が強襲してきた。 


『カッカッカ! 我が好敵手、レイよ! 再会を祝して、まずは挨拶代わりにこの我の配下であるスケルトンどもが相手になろうぞ!』


 ロドクは黒いローブを広げると周囲の空間が歪み、歪みの中から多数のスケルトンが出現した。


『さあ行けお前達、あの憎き神依木を破壊せよ!!』

 ロドクはそう言い、スケルトン達に命令を下す。


「な、何なのコイツ……!」

 普段冷静で淡々としているノルンも、目の前のテンションの高い骨の魔物を見て困惑した様子で漏らす。


「魔軍将ロドク……魔王軍の幹部的な立ち位置の魔物だよ。……正直、何度も会いたい相手じゃないね」

 僕はため息を吐きながらノルンたちに目の前の敵の正体を説明する。


「つまり、この森に攻撃を仕掛けてきたのは……!!」


『カカカカカカッ!! 我ら魔王軍の仕業というわけだな。いや、残党と言うべきか? 何せ、そこの勇者によって我らの将である魔王ナイアーラ様は倒されてしまったのだからなぁ……!!』


「……っ!」


 ロドクは愉快そうに笑いながら、ノルンの言葉に答える。

 自分達の将が倒されてしまったというのに、随分と楽しそうに話す奴だ。


「二人とも、話は後よ。まず、このうっとおしいスケルトン共を片付けましょう」


 セレナさんは冷静に目の前を見据えながら杖をかざす。


「――消えなさい」

 彼女はスケルトンの群れに向けて杖を振り下ろす。すると、スケルトンの群れに向かって赤い炎が迸り、骨の戦士たちは塵も残さずに灼熱の炎に焼かれていく。


『―――ほぅ!! これはまた、中々の使い手ではないか!! 流石、稀代の勇者よ。以前よりも更に強い配下を従えている!!』


 ロドクは愉快そうに笑いながら話す。


「誰が配下よ。ねぇ、義弟くん、コイツはいつもこんな感じなの?」


「……こいつが人を喰った態度なのはいつも通りだよ……本当に疲れる……」


 セレナさんの問いに、僕は額に手を当てて答える。こいつは他の魔王軍の配下と比較して、アンデッドの癖に妙に人間的というかよく喋る。


 こいつは【死霊術】と【召喚魔法】を扱う禁呪の魔物であり、その魔法のバリエーションの多さと威力は尋常じゃない。その上、アンデッドな為、異様にしぶといのも厄介だ。


 その魔法の多彩さとしぶとさで何度も交戦しているにも関わらず、今まで決着が付かなかった。


『カカカカカカっ!! そう言うでないわ勇者よ、我と貴様の仲ではないか!!』


「こっちはアンタとの縁なんかさっさと切りたいんだよ。っていうか、この場で物理的に斬ってやろうか!」


 僕は奴のテンションにイライラして奴に叫ぶ。


『カカカカカッ!! そう言って何度も斬られたが、我の身体は何度でも新調できるから斬り放題であるぞ』


「うるさいよ、バカっ!!! 死ね!!!!」


『アンデッドに死ねとは、洒落が利いておるな。カカカカカカッ!!!!!!』


「お前マジで黙れ!!」

 僕はロドクの言葉にブチ切れながら、地面を蹴ってジャンプしてロドク目掛けて一気に迫る。


『むっ!!』

「いい加減、成仏しろっ!!!!」


 僕は目の前のうるさいスケルトンに罵声を上げながら聖剣の力を解放。

 そして、聖剣に宿る蒼い光を攻撃力に転化して奴に斬り掛かる。


『―――我が配下よっ!!』

 ロドクはスケルトン達に命令を下す。すると、奴の周囲から羽の生えたスケルトン達が一斉に召喚され、僕に向かって空から襲い掛かってきた。


「その程度の魔物がいくら集まったところで――」


 僕は聖剣の力を一気に解放させ――


「――僕の敵じゃない!!」

 眼前で群れを成して集まるスケルトン達を、まとめて薙ぎ払うように剣を一閃させる。瞬間、スケルトン達は光によって一瞬で浄化され、その先にいるロドク本体も、光によって一瞬で焼き尽くされる。


 ―――と思ったのだが、光が差す直前にその姿が突然消失する。


「どこにっ!?」

『カカカっ、こっちだ、勇者よ!!!』

「!?」


 ロドクの声が上から聞こえる。僕は上を向くと、いつの間にか空中に浮かび、黒いローブをはためかせているスケルトンの姿があった。


『今回は貴様と決着を付けるのが目的ではないのでな。まずは、先に要件を済ませるとしよう!!』

「何っ!?」


 ロドクはそう言って、手に持っていた杖を上空へ掲げる。すると、神依木に寄り添って隠れていたノルンが、本人の意思とは無関係に体が浮かび上がり、空に連れ去られて行く。


「こ、これは……!!」


 ノルンは身体をジタバタと動かして抵抗しようとするが、本人の抵抗もむなしくその身体はロドクに引き寄せられていく。


「ロドク、何のつもりだ!!!」


『カカッ、見て分からぬか、我がその聖木の攻撃を加えた理由はこれが理由よ!! ノルンといったか?新たな主様の生贄になってもらうために、我らの居城……魔王城へ招待してやろう!!』


 ロドクのその言葉に、僕とセレナさんは驚愕する。


「新たな主様……? そんな事、させるか!!」

 僕は聖剣から光の斬撃を放ち、上空でノルンを引き寄せているロドクに攻撃する。しかし奴は、その攻撃を黒いローブを翻しながら、周囲に闇のオーラを展開し、その光のオーラを防ぎきる。


「……っ」


『そう急くな、勇者よ。勇者と我の戦いは、このような場所には相応しくなかろう?」


「そういう問題じゃないんだよっ! ノルンを返せ!!」


『カカカッ、断る。貴様との決着は、我らの居城で行うとしようぞ!!』


「ふざけるな!!」


『カカッ、ではさらばだ!! 我が好敵手よ!!』

 ロドクはそう言って、ノルンを自分の近くに引き寄せる。そして、杖を向けて掲げる。


『門よ、開け!!』

 次の瞬間、奴の上空に禍々しい門が開く。その門の先は、真っ暗で何も見えない深淵の世界が広がっている。


「―――そ、それは、まさか……!!」

 セレナさんは奴の魔法を見て驚愕した表情を浮かべる。


『さぁ、ノルンよ。我と一緒に魔王城へ』

「い、嫌よ!!」


 ノルンは、ロドクに引っ張られながらも必死に抵抗する。


「――ノルンっ!!」

 僕は、苦手な飛行魔法を使用して、一気に空を飛んでノルンに迫る。


『邪魔であるぞ!!』

 ロドクは、僕に腕を向ける。すると、その腕の掌から闇のエネルギーが放たれる。


「邪魔なのはそっちなんだよっ!!!」

 僕はロドクの攻撃を無視し、一気に速度を上げて詰め寄りノルンの手を掴む。


「捕まえたっ!」


「れ、レイ……! ……後ろっ!!」

 ノルンが叫ぶ。次の瞬間、僕のすぐ背後にロドクの影が迫る。


『仕方あるまい……では、まず貴様の意識を刈り取るとしようぞ』

 ロドクはそう言いながら、何処から取り出したのか鋭い大鎌をその手に握っていた。


「っ!?」


 ロドクは、その大鎌で僕の背中を斬り裂くべく腕を振るう。僕はノルンだけは守ろうと彼女を抱きしめて目を瞑って痛みに耐えようと身構えるのだが……。


「義弟くん!!」

 だが、その前にセレナさんの放った雷の魔法が降り注ぐ。彼女の攻撃は攻撃範囲を狭めており、僕達には直撃しなかったが確実にロドクを対象に入れていた。


『……ぬぅ!?』

 ロドクは僕の攻撃を中断し即座にその攻撃の回避に専念する。が、ロドクが移動した場所に、セレナさんは続いて氷の飛礫による追撃を始める。


『カカッ、小賢しい真似を!!』

 ロドクは再び回避行動を取るが今度はその着地点に炎の矢が降り注ぐ。さほどランクの高い魔法ではないが、セレナさんの隙の無い攻撃魔法の連打によってロドクは空中を飛び回る。


 息も付かせぬ怒涛の連続魔法だが、ロドクはそれでも余裕があるようで、独特の『カカカッ』という笑い声と共に空中高速で移動し彼女の魔法を避けていく。


『この程度の魔法では我にはダメージすら与えられん。露出の激しい魔法使いよっ!!』


 その言葉にセレナさんは一瞬不機嫌そうな顔をするが、すぐにその口元が笑みに変わって強気に言い返す。


「ええ、そうでしょうね。だって、この魔法は時間稼ぎだもの」

『なぬっ!?』


 ロドクはその言葉に反応し、僕達がさっきまで居た場所に視線を移す。しかし、既に僕達は安全な地上に退避しており、僕はノルンの手を握って彼女を保護していた。


『……ふむ、我が気を取られている間に抜け目なく退避しよったか。見事な連携ではないか、勇者よ』

 ロドクは感心したように話すのだが、僕は全くもって嬉しくない。


「ノルン、怪我はない?」

「た、助かったわ……レイ。でも、私、完全に足手まといね……」


 ノルンは自分の無力さを嘆き、悔しそうな表情を浮かべる。僕は、そんな彼女の頭を撫でて慰めながらも、今の状況を考える。


「(ノルンが狙われてるとなると厄介だな。彼女を守りながら二人で戦うのは結構骨が折れそうだ……それに―――)」


 僕は、奴の上空に浮かんでいる『門』に視線を移す。


「(あれはなんだ……? 魔法が不発に終わったのにずっと残ったままだ……)」


 僕は『門』を睨みながら、その魔法の正体を考える。セレナさんはあの魔法を見て驚いていた。もしかしたら知っているのかもしれない。


「セレナさん、あの魔法の事を知ってるんですか……?」


「知ってるも何も……あれは、禁呪魔法の一つ……【混沌の大門】カオスゲートよ」


「か、カオスゲート?」


 その奇妙な名前の魔法に、僕は首を傾げる。


「混沌の大門は、この世界に無数に存在する空間の『歪み』を利用して道を作る魔法よ。多分、あいつの居城に繋がってるんでしょうけど……」


 セレナさんはそう言って『門』の先を睨み付ける。


『ふむ、そこの魔法使いは、我ら魔王軍の居城へ興味がおありのようだ』


「別に、あなた達魔王軍の事なんて興味はないわ。私が興味を示したのは、その失われた魔法に対する知識よ」


『ほほぅ、知識を望むか! なれば、我と同じくアンデッドに―――』


「誰がなるか!!」

「なるわけないでしょう!!」


 ロドクの言葉に、僕とセレナさんは同時に叫ぶ。

 叫んでから、僕は深呼吸して息を整えて、一歩前に出る。


「レイ?」

「……セレナさん。ノルンをお願いして良いですか?」


 僕はノルン手を離すと、聖剣を抜いてロドクに切っ先を向ける。


「義弟くん……まさか一人でやる気?」


「出来れば、仲間と一緒に戦いたいところなんですが、今は僕達三人だけです。あいつは、いざとなれば死霊術で魔物を操って遠隔でノルンを襲うことも出来るはず……だから、僕達二人とも戦闘に専念してるといつ不意を突かれるか分かりません」


『カカカッ……! 我の事をよぉく観察しておるわ!!』

 ロドクはそう言って、僕に拍手を送る。


「アンタに褒められても何も嬉しくない。……さっき、森から火の手が上がったのもアンタの仕業か。どうせ、僕達を誘導してその隙にノルンを浚う気だったんだろ?」


『それも見破られていたかっ!! 勇者よ、貴様は実に鋭い男である!!』

「ああ、そう……」


 僕は少しうんざりしたように溜息を吐く。こいつと話していると本当に疲れる。


「……義弟くん」

 そんな僕を見て、セレナさんが不安げな表情を浮かべる。……というかこの人は、いつまで僕を義弟と呼ぶつもりなのだろうか?


「……大丈夫。僕はこいつには負けませんから」


 僕は、二人を安心させるように断言して、ロドクの前に立つ。


『……』

「……」

 僕とロドクは互いに無言になって睨み合う。そして―――


 僕は剣を用いて奴に斬り掛かり、奴は死霊術を用いて僕の攻撃を防ぎに掛かる。

 こうして、僕とロドクの三度目の一騎打ちが幕を開けた。

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