第644話 助けてエミリア
一方、その頃……。
闇ギルドの首魁である不死身の肉体を持つロイド・リベリオンを生き埋めに打ち破ったレイ達。
レイとルナは目的を果たして仲間の所に戻ろうとしていた。
【視点:レイ】
『ね、サクライくん。神依木の方でなんかオーラみたいなのを感じたんだけど』
ドラゴンになって空を飛んでいたルナが背中の僕に語り掛けてきた。にしても、ドラゴンの顔で普通の女の子の声が聞こえてくるのはややシュールだ。
「オーラ? もしかして、さっき感じた魔力の事?」
数分前、突然僕達の誰とも該当しない魔力の発生を遠くから感知出来た。
その後、何らかの魔法の発動を感知したが、今の所正体は不明だ。
『あれが魔力っていうんだね。私には、何かがボアーッって感じで噴き上がってたように見えたんだけど』
「魔法を使わないとそんな風に見えるかもね。……でもなんだろうね、姉さん達の魔力でも魔法でも無かったと思うんだけど……」
『もしかして、例の「敵」かな?』
「……可能性はあるね。ちょっと急ごう」
僕は、ルナの言葉を信じて急いで皆の所に戻ろうと、飛行速度を上げる。
「!?」
しかし、戻る途中で別の魔力を感じ取った。
「待ったルナ、止まって!」
『えっ!?』
僕の指示を受けてルナは空中で静止する。
急停止したせいか、若干体勢が崩れそうになるが、なんとか持ち直した。
『ちょっとサクライくん!?』
「ごめん、ちょっと気になる魔力を感じたんだ」
僕はそう言いながら、感知した方向を凝視する。
「(……動いてる。人間じゃないな……)」
先程、土葬したロイド・リベリオンかと思ったが彼ではない。
かといって闇ギルドの誰かという事も無さそうだ。
「(……わざとか?)」
何者か確証は得られないが、その気配はまるで僕達を誘導するかのように動いている。しかし、神依木で感じた魔力の正体も気になる。
「………」
『……サクライくん、どうしたの?』
ルナに問いかけられて、僕はどう動くべきか考える。
「……いや、戻ろう。まずは神依木の事が気になる」
『な、なんだったの……?』
ルナは首を振って納得いかなそうだったが、素直に言う事を聞いてくれてそのまま目的地に向かってくれた。
・・・
レイとルナが去ってから―――
『……ふむ、この程度の誘導には引っかからぬか……。流石、我が好敵手よ……カッカッカッカッカッ!!!』
何者かが、顎が大きく外れたような乾いた笑い声を上げる。
しかし、その存在はすぐに笑いを止めて冷静に次の手段を模索し始める。
『ふむ、ならばそこいらの屍でも使うか。いやいや、あやつら相手ではもはや足止めにすらなるまい……。ならば、召喚魔法を使うか、あるいは―――』
・・・
途中で感じた魔力の行方を警戒しながら、レイとルナは予定通り仲間の居る場所で戻った。
「ただいまー」
皆が居る場所に戻ると、僕はルナの背中から飛び降りて地上に着地する。どうやら、闇ギルドとの戦いは終わったらしく仲間だけがその場に待機していた。
ただ、一人だけ僕の知らない人物が紛れ込んでいた。
「(……あの人は誰だろう?)」
地面スレスレまで黒髪が伸びてる綺麗な女性だった。姉さん達と普通に話しているように見えた為、少なくとも敵ではないだろう。
「あ、あのー」
僕はその女性に話し掛けようとしたのだが、
「レイくん、おかえりー♪」「ぐはっ!」
僕の姿を見るなり、姉さんが感激したようで僕に飛びついてきた。
「た、ただいま姉さん……苦しいよ」
「ご、ごめん! つい嬉しくて!」
姉さんはハッとして僕から離れる。
「お帰りなさいませ、レイ様。無事で何よりでございます」
「あのロイドとかいう悪い人は倒せたんですか?」
姉さんが離れると、交代でレベッカとサクラちゃんが僕に話し掛けてくる。
「うん、なんとかなったよ」
「どうやって倒したのですか? あのロイドという男、わたくしが額をぶち抜いても死ななかったのですが」
「前も聞いたけど……レベッカも結構エグイことするね……まぁ、結局アイツは死んではいないよ。動けなくしたからもう襲ってこないと思う」
「そうなんですか? 流石、レイ様でございますね!」
レベッカは目をキラキラさせながらそう言った。土葬したって言ったらどういう反応されてしまうのだろうか。竜化して戻ってきたルナにさっきからジト目で見られてるのが気になる。
「……ところで、さっきから気になってたんだけど……」
僕は、先程から気になっていた長い黒髪の女性に目を向ける。
「あの、どちら様ですか……?」
「……」
黒髪の女性は、僕をジッと睨み付けたまま無言で何も言わない。
「(こ、怖い……)」
身長170cmくらいだろうか、僕よりも長身だけど綺麗な女の人だった。だけど、さっきから何故か目を細くして僕を睨み付けている。
理由は分からないけど、怒らせてしまったのだろうか……。
すると、隣に立っていたノルンが慌ててこっちに向かってきた。
ノルンはちょっとバツが悪そうな表情で、僕に向かって「ごめんね、紹介が遅れたわ」と言って謝罪する。
「ノルン、この人は?」
「紹介するわ。この人が、あなた達が探してた『セレナ・カトレット』、つまりエミリアのお姉さんよ」
「この人が!?」
確かに、エミリアと同じ黒髪に黒い瞳、それに口元とか顔の輪郭が彼女に何処となく似ている。僕が彼女の事を見ていると、仲間達もこちらにやってきて、サクラちゃんが口を開く。
「レイさん、凄いんですよ! セレナさん、わたし達が闇ギルドと戦ってる時に突然現れて、凄い魔法で一気に片付けちゃったんですっ♪」
「ま……まぁ、私達も危うく彼女に片付けられちゃうところだったけどね……」
「エミリア様に勝るとも劣らない凄まじい魔力でございました」
サクラちゃんの言葉に、姉さんとレベッカ補足を入れる。
彼女達の話を聞いて、僕は再び彼女に視線を向けて少し頭を下げる。
「そうだったんだ……。あの、初めまして。僕、サクライ・レイといいます。エミリアとは、同じ冒険者仲間として一緒に行動させてもらっています」
「……」
挨拶する僕に対して、セレナさんは相変わらず無言のままだ。無言で僕を睨み付けて……何故か、今は若干困惑気味な顔をしてるのが気になるけど、僕は挨拶を続ける。
「えっと……エミリアからセレナさんの話は何度か聞いています。彼女がいつも目標にしていた魔法使いさんだって……僕もお会いできてうれしいです……」
そう言って、僕は手を伸ばして握手を求める。すると―――
「―――アナタ」
セレナさんは、初めて僕に話し掛けてくれた。
「はい、なんですか?」
彼女は僕をジッと見つめてこういった。
「……男の子……よね?」
「…………はい?」
僕は、彼女の言葉の意味が分からなかった。
「あ、あの……どういう事でしょうか……?」
「いえ、ごめんなさいね。少し男の子っぽい鎧を着てるから、てっきり男の子だと思っちゃったわ。私、実はあんまり視力が良くなくて、顔をじっと見ないとよく分からないの……ちょっと、アナタの顔を近くで覗かせてくれない?」
「え、あ、どぞ……」
僕は、セレナさんから顔を少し近づけた。
なんでそんな事するんだろう……と不思議に思いながらも、彼女の言葉を待った。
「なるほど……」
セレナさんはそう言って、納得したように頷く。そして――
「……間違いない、女の子ね!」
「違いますよっ!?」
僕は思わず大きな声を出してしまった。
すると、セレナさんは物凄くショックを受けた顔をした。
「そ、そんな……まさか両性だとでもいうの!?」
「男ですよっ!!!!!」
「え、男………? え……?」
「いや、そんな本気で困惑しないでくださいよ!?」
セレナさんにこの世の終わりみたいな顔をされた。
「じゃあ、性転換したのね!」
「そんなわけないでしょっ! 僕、男ですから!!」
僕は思わずセレナさんに近付いて、彼女の肩を揺さぶった。その弾みで二人の顔が急激に近づく。
「あ、その……ごめんなさい」
想像以上に近付いてしまって、セレナさんの綺麗で艶やかな顔が間近に迫る。僕は、顔を赤らめてしまってすぐに後ろに下がる。よくよく見ると、彼女は美人なだけじゃなくて服装もやたら色っぽかった。
スカートは結構ギリギリのラインで太ももを露出してるし、肩の辺りは赤いマントで誤魔化してるけど、胸元とか谷間とか腋辺りが丸見えである。
「……(じ~っ)」
「な、なんですか……?」
セレナさんが急に僕を見てくるので、僕は戸惑う。
「男……その割に、顔が小さいし身長も低いわね……」
「失礼だな、この人っ!!」
初対面で何失礼な事言ってるんだこの人!
「それに首も細いし、女顔だし、声も男の人っぽくないし……」
「………」
セレナさんは、僕の顔をまじまじと見てはぶつぶつと呟いている。
「(……僕って、そんな女顔してるだろうか?)」
確かに、昔はそういう風に揶揄われたこともある。でも今は、以前よりも筋肉が付いたし(大して変わらない)、身長も伸びたし(セレナより低い)、顔も男らしくなった(中性的な顔に磨きが掛かった)。
声も、自分では分からないけど、男らしいはず……と思う。
……自信が無くなってきた。
僕は振り向いて、仲間達に質問する。
「……僕って男にしか見えないよね?」
するとノルンを含めた四人は、十秒程度たっぷり間を置いてから……。
「えっと……レイくんはカッコいいよ?」
「男性でも女性でもレイ様の凛々しさに変わりないかと」
「んー、ぶっちゃけ、どっちでもいい感じ♪」
「……ごめんなさい、最初は普通に分からなかったわ」
姉さん、レベッカ、サクラちゃん、そしてノルンは、各々にそう答えた。
「(なんでだよっ!?)」
僕は、またしても納得いかない答えが返ってきて、心の中で叫ぶ。
すると、ようやく事態を把握したセレナさんが口を開く。
「……ごめんなさいね。アナタって男の子なのよね?」
「わ、分かってくれて良かったです」
僕はホッとして胸をなでおろす。
「……という事は、エミリアの彼氏なの?」
「……」
女疑惑が解消されたら次はこっち!?
「……ええ、まぁ……」
一応、付き合ってるのは確かである。なお、関係は全く進んでいない。
「そうなのね……」
セレナさんは、またしても腕を組んで目を瞑ってうんうんと頷いた。そして――
「……私、アナタとエミリアの交際を全力で応援するわね!」
「あれっ、意外と好感触!?」
「だって、エミリアがアナタと結婚したらアナタが私の義弟になるんだもの。……ふふふ」
セレナさんは、ちょっと危ない目付きでそう呟いた。そんなアレなやり取りが続いて、本題に入るのはそれから数分要したのだった。
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