第641話 誰?
これまでのあらすじ。不死身の相手なので手加減せずに攻めたら、敵さんを怒らせすぎて本気を出させてしまったので吹き飛ばしました。以上。
「だ、旦那ぁ!!!」
「くっ……まさかロイドがやられてしまうとは……!!」
傀儡となっていない自我のある黒装束達は、ロイド・リベリオンが敗北を喫したことで驚きを隠せない様子で動揺していた。
「やったー♪」
「流石レイ様でございます」
「私はレイくんが勝つって信じてたわよ?」
サクラ、レベッカ、姉さんの三人は安心したように言った。
「……」
ノルンだけは、神依木の方を見て不安そうな顔をしている。中に入ったエミリアとセレナさんのことを心配しているのだろう。その様子をルナは心配そうに見つめている。
僕は仲間達が無事な事を確認すると、気を取り直して
「これで死んだって事は、無いよね……?」
『あれだけ派手にふっ飛ばして死んでなかったら異常だけど、傀儡状態にされてる死体達はまだ動いてるわ。十中八九生きてるでしょうね』
「……ホッ」
ロイドがまだ生きていることに安堵する。
『安心してる場合じゃないわ。あれだけの攻撃を受けて死なないなら奴の言う不死身は本物よ。貴方が散々煽って精神を乱したお陰で、思惑通り奴は冷静さを欠いていたけど、時間を置いて冷静さを取り戻したら面倒よ』
「そうだね、追いかけないと」
しかし、僕が追いかけようとすると黒装束達が前に立ちはだかる。
「行かせると思うのか!」
「傀儡共、こいつらをやっちまえ!!」
「グルルルルルルルルル!!!」
黒装束の一人が傀儡となった死体に命令を下す。ロイド本人の指示では無いため、あまり積極的では無さそうだったが、傀儡はこちらをジロリと見てじりじりと近づいてくる。
「ちっ……!」
僕は仕方なく強引に突破する為に剣を構える。
しかし、僕の背後からレベッカとサクラの二人が飛び出して、僕を守るように敵達の前に立ち塞がる。
「レイ様、ここはわたくし達に!」
「あのロイドっていう悪い奴を追いかけてくださいっ!」
二人は武器を構えて目の前の敵達に向かっていく。
「二人とも……」
僕が二人の姿を見て、行くかどうか迷っていると後ろから肩を叩かれる。背後を見ると準備を終えた姉さんが僕の肩に手を当てていた。
「姉さん」
「ここは私達に任せて。あいつを放っておくわけにはいかないでしょ?」
姉さんは敵達に視線を移してそう僕に言う。僕は頷いて確認を行う。
「あいつを追いかけるよ。姉さん、こいつらどうにかできそう?」
チラリと傀儡となった黒装束達に視線を向けてから再び姉さんに視線を戻して質問する。こいつらが<死霊術>で操られてるのは分かっている。一度、死霊術を解除したことのある姉さんなら突破可能なはずだ。
しかし、姉さんは「うん」と頷いた後に微妙な表情をして言った。
「……だけど変な感じね。あのロイド・リベリオンが術を掛けてるのは間違いないのだけど、他に操ってる奴が別に居るみたい。仮に術者が死んでも、傀儡の状態は中途半端にしか解除されないわ。それでも私なら強引に可能よ。任せて」
「助かるよ。……でも、それだと他に黒幕が居るってこと?」
「ええ。しかもロイドよりも格上の術士の可能性が高い。ロイドが不死身なのもそいつが別の術でサポートしてるかもしれないわ」
姉さんは、そう推測して僕に言った。
「黒幕が誰か分かる?」
「レイくんなら、もう気付いてるんじゃないかしら?」
姉さんはそう言いながら、ノルンが寄り添ってる神依木に視線を移す。
「あの大樹を狙った『敵』の正体。この闇ギルドが同じタイミングで攻めてきた事も、多分偶然じゃない。もしかしたら、そいつが姿を現すかもしれないわ」
「……アイツか」
僕は、以前に戦った『敵』を思い出す。
姉さんも僕も、同じ『敵』を思い浮かべているだろう。
何度も交戦しているが、『アイツ』とは未だに決着が付いていない。そいつが今回の一件に絡んでいるとしたら、僕達にも無関係とはいえないだろう。
「レイくんなら単独でもアイツに引けを取らないだろうけど、アイツは狡猾だから正面から戦ってくれるとは思えないわ。でも、逃がしても厄介ね」
「……そうだね、アイツにこれ以上暗躍されても困るし決着を付けないと」
僕は姉さんにそれだけ告げると、ロイド・リベリオンが吹き飛んでいった方に走り出す。その途中で空から影がこちらに飛んでくる。上空を見上げると竜化したルナの姿があった。
「ルナ!」
僕は彼女の名前を叫んでその背中にジャンプして飛び乗る。
「ま、待て!」
黒装束達は、ドラゴンに乗った僕を追いかけようとするが、それをレベッカ達が足止めする。
「あなた方の相手はわたくし達でございますよ」
「ルナさん、レイさんの事お願いね♪」
二人はそう言って、僕を追おうとする黒装束達の前に立ち塞がった。
「ルナ! 行こう!」
『うん!!』
僕の指示にルナは翼を羽ばたかせて空を飛ぶ。
そして、僕達は戦線を離脱して吹っ飛んでいったロイドの捜索を始めた。
◆◆◆
【三人称視点:ベルフラウ、レベッカ、サクラ、ノルン】
レイ達がロイドの捜索に向かってからの話。彼女達はレイとルナの後姿を見送った後、黒装束と傀儡の死体達と対峙していた。
「たあああああっ!!!」
「てやあああっ!!!」
レベッカとサクラは、武器を手にして敵達と交戦していた。
レベッカは槍を素早く突き出し、急所を突いて敵を屠っていく。一方でサクラも双剣で敵の攻撃を流しながら、隙を見て確実に敵を仕留めていく。
だが、傀儡となった方は彼女達が何度倒そうが再び動き出す。
「やはり厄介ですね……」
「せめてエミリアさんがここに居れば有利に戦えるんですけどぉ……!!」
奮闘し敵達を圧倒するが、さしもの歴戦の冒険者の彼女達と言えど、数の力にはどうしても苦戦してしまう。
しかし、彼女達も無策で戦っているだけでは無い。
黒装束達に掛かっている<死霊術>を解呪可能なベルフラウが本命だ。
二人の役割は、彼女の術が終わるまでの時間稼ぎである。
「――輪廻を否定し、世の摂理を崩し、偽りの生を授かる者よ、去りなさい」
ベルフラウが手をかざすと、彼女が時間を掛けて形成していた結界が一気に発動し彼らの周囲に光が満ち溢れる。
その光は生あるものには何の影響をもたらさない。しかし、ロイドの死霊術によって突き動かされていた傀儡たちは、その光を身に受けると突然動きが止まる。次の瞬間、傀儡達の身体に黒い靄のようなモノが浮かび上がり霧散していく。
傀儡達は糸の切れた人形の如く次々とその場に崩れ落ちていった。
本来の<死霊術>の解呪は、術者本人を倒さねば解けない。
しかし、ベルフラウはその過程をすっ飛ばして強制的に術を解くことが出来るのだ。それは、彼女が本来持っていた女神としての<権能>が人間の使用する魔法の更に上位の存在であることに起因する。
<権能>とは世界を管理する神としての能力。反則技と呼べる代物である。ベルフラウが行った<死霊術>の強制解除はその最たる例だ。
もっとも、彼女のそれは『疑似的に再現した権能』と言った方が正しい。既に女神では無い彼女はそこまでの権能を行使できず、その身に残った僅かな神気と人間になってから得た魔力で強引に再現している。
「ど、どういう事だ!? 傀儡達がいきなり動かなくなったぞ!!」
「くそ……ロイドは何処だ。術を掛け直して貰わないと、我々は……!!」
<死霊術>を封じられた黒装束達は、仲間が人形のように動けなくなったのを目の当たりにして狼狽え始める。
それも当然、闇ギルドの構成員である彼らは、人間としての基準であれば確かに強いが不死身でも何でもない。
彼女達の手心があるお陰でまだ死なずに済んでいるが、傀儡達が居なければ彼らの力では到底太刀打ちできないのだ。
「ベルフラウさん、凄い!」
「ふむ、術の効果が無くなったことで、敵陣営に動揺が広がっておりますね」
前衛のサクラとレベッカは、敵の動揺を見逃さず一気に押し込んでいく。こうなってしまえば後は時間の問題だ。リーダー不在、かつ傀儡の手助けが無い闇ギルドの構成員など彼女達にとって相手にもならない。
「死霊術が封じられたのであれば、もう貴方達の負けは見えたも同然です。大人しく、投降してください」
ベルフラウは女神パワーで身体を発光させながら空を飛び、黒装束達に向けながら、降伏勧告を行う。やたら後光が差しているため威厳は十分だ。
しかし、闇ギルドの構成員である彼らはそれでも屈しない。伊達にフォレス王国と長きにわたって対立していただけあり、強情かつ諦めが悪かった。
「ふざけるな! 我々がお前らに屈するものか!!」
「……そうですか、それは残念ですね」
黒装束達の降伏勧告に応えない意思を見せると、ベルフラウは残念そうに目を伏せる。
「(――もう、面倒だし、一気に殲滅しちゃおうかしら……)」
ベルフラウは元女神様だが、今はレイの姉代わりの人間である。神様の時にあった人間に対する慈悲や愛着、博愛の精神などは殆どレイや仲間達だけに向けられている。
――つまり、目の前の人間達に対する慈悲など存在しない。
「―――仕方ありません。では、これで終わりです」
たまには元女神らしく彼女自身が戦いを終わらせようと、ベルフラウは手を向けて魔法の詠唱を始めた。加減はするが、少なくとも全員を身動きさせない程度の権能を使用するつもりでいる。
だが、彼女がそれを放とうと神気を高めようとした時……。
「っ!!!」
「これはっ………!」
突如、彼女達の背後から膨大な魔力の波動が吹き荒れ、彼女達の意識をそちらに向けさせた。
「何、何ですか!?」
サクラは驚きの声を上げるが、今の魔力の放出はベルフラウの力では無い。
だが、その魔力の波動は彼女達には覚えのないものだった。
そして、次の瞬間――
「———私の眠りを呼び覚ます者は誰………?」
聞き覚えのない妖艶な女性の声が、まるで永い眠りに目覚めた魔女のような
口ぶりで、ベルフラウ達の背後から聞こえてきた。
「っ……」
ベルフラウ達は戦慄した。この魔力の波動は只者では無いと。
しかし、振り向かずにはいられなかった。その声の主を確認せずにはいられなかったのだ。それは、レベッカもサクラも同じだったようで、ゆっくりと後ろを振り返る。
そこには――
「……誰?」
「……誰でしょう?」
「んーと、誰かに似ているような……?」
そこには、何処かの誰かに似た雰囲気を持つ。
魔道士風の衣装を纏った長い黒髪の美女が立っていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます