第640話 全力で喧嘩を売るレイくん

【視点:レイ】

 これまでのあらすじ。

 笑顔で煽り散らかすレイと、それにブチギレるロイド・リベリオン。


「俺に一度敗北した分際で!! 死ぬがいい!!」

 そう叫びながら、男は巨大な大剣を何度もこちらに振りかぶる。


「(うわっ、こわっ!!)」

 兜で顔を表情は分からないが、奴の口調からして怒り心頭だろう。その雰囲気だけでもこちらからすれば相当なプレッシャーで挑発する側の僕も一苦労だ。


 しかし、怒りが混ざってるせいか奴の剣筋は荒く、奴の攻撃に合わせてこちらが身を逸らしたり剣で軌道を逸らすだけで致命傷は避けることが出来た。それでも剣圧が凄まじいため、僕は何度も奴の大剣から放たれる衝撃波を喰らってしまう。


 一撃でも攻撃を喰らえばその時点で僕の負けだ。その恐怖に僕の心拍数が自然に上昇していくのが分かる。……が、それでも余裕を見せて戦う必要がある。

 心では一撃一撃におっかなびっくりしながらも、表面上は強気な素振りを見せつつ、奴の攻撃をいなし続ける。


「……っ!!」

 そして、奴の息が切れて攻撃が止まった所で再び攻勢に出る。


「(確か、レベッカが言うには……!!)」

 僕は少し前に貰ったレベッカの助言を思い出す。思い出しながら、奴の目で追えない速度で接近し、奴の顔面目掛けて剣先を向けて一突きを行う。


「――!?」

 ロイドは僕の直線的な一撃を回避しようと首を横に動かす。だが、それと同時に奴が剣を動かした方向に剣を横に薙ぐ。突き攻撃を回避した瞬間に、即座に薙ぎ払いに切り替える二段構えの応用技である。


「――ぐっ!!」

 ロイド・リベリオンはまんまと引っ掛かり、奴の兜の側面に直撃。

 その衝撃に奴の兜は勢いよく吹き飛んだ。


「……く、くそっ!!」

 兜が吹き飛んだロイド・リベリオンは傷を負った箇所を手で押さえながら後ろに下がる。


「(……ちょっと、やりすぎたかな……?)」

 レベッカの話だと奴は脳天を槍で貫かれたのに平然としていたとか。多少加減したが、彼女の言葉を信じていつもより剣を深くめり込ませてしまった。


 僕は相手の様子を伺う。

 奴の右眼の下辺りを大きく斬り裂いており、血が大量に流れている。


 だが、如何なる魔法か。

 奴の顔の傷がまるで逆再生のように見る見るうちに治っていく。

 そして数秒後、奴が手で抑えた傷口は完全に塞がっていた。


 奴は回復を終えると多少息を乱しながら立ち上がる。


「なるほど、致命傷を負わせても生きてるわけだ……大した回復力だね」


 僕がそう言うと、ロイド・リベリオンは息を乱しながら言った。


「……これで分かっただろう。貴様がいくら俺に攻撃を仕掛けようが、俺は即座に回復する。つまり、貴様にハナから勝ち目など無い」


「ふーん、そっか。でもさぁ……」

 僕は彼に目線を向けながら聖剣に自身の魔力を流し込む。

 そして、僕の聖剣は魔力の炎を纏って周囲に業火を立ち上らせる。


「折角だし、やれるだけやってみるよ。見た感じ、痛みはありそうだもんね」

「……っ、戯言を!!」


 僕の挑発に、ロイドは怒りに身を任せながら再び僕に向けて剣を振りかぶる。が、何度も言うようだが、奴の剣は重さゆえに振りが遅い。


 幾度も奴の動きを経験した僕は、攻撃の始動を見た瞬間からでも余裕で先手が取れる。そして奴が初撃を繰り出すと同時に、僕は奴の鎧の上から炎を纏った聖剣を振り下ろした。


「――!?ぐぁあああっっ!!」

 僕の聖剣は、防御態勢に入ったロイド・リベリオンの漆黒の鎧ごと焼き斬り始めた。

 ロイド・リベリオンの体には激痛が走り、悲痛な叫び声を上げる。


 先程まで拮抗していた勝負は完全にこちらに傾いていた。

 

 レイとロイドは身体能力だけ見ればそこまで離れていない。勇者として能力と聖剣によるブーストを抜きにして考えるなら僅差と言ってもいい。


 しかし、レイは殆どそれらの力を使わずにロイドを圧倒している。純粋な本人の技量と成長速度によるものであるが、それ以上にレイは、以前の彼との戦いで動きを完全見切ってしまっていた。


 何より、今のレイはカレンに貰った激励でテンションが最高潮だ。

 端的に換言すれば、今のレイは絶好調だった。


「……やっぱりダメージがあるみたいだね。

 不死身って言ってたけど、それならそれでやりようはありそうだ」


 僕は剣を構え直して、ダメージに苦しんでいるロイド・リベリオンを見据える。そして、一歩前に出て無防備な奴の腹部に蹴りを一発喰らわせる。


「ぐっ、がっ」

 ロイド・リベリオンは、蹴られた衝撃で後ずさりしながら苦しそうにする。

 不死身の肉体でも疲労と痛みはあるらしい。


「どうしたの? 覇王だの国王だの偉そうに言ってた割には随分と弱いじゃん。最初に僕に勝てたのはただの偶然だったみたいだね」


 僕は、ここぞとばかりに奴を挑発。

 すると、ロイド・リベリオンは苛立つような表情になる。


「――調子に乗るなよ、小僧がッ!!」


 ロイド・リベリオンは、落ちていた兜を被り直して、大剣を地面に突き刺す。

 そして、空いた両手から漆黒のオーラを発生させる。


「これは……っ!!」


 以前に喰らった一撃だ。

 流石にまともに受けるわけにはいかず後方に跳んで数メートルの距離を取る。


「貴様を戦闘不能に追い込んだ一撃だ。これで沈めぇぇぇぇ!!」


 次の瞬間、奴の掌から闇の奔流が迸り僕に一直線に放たれる。


「レイ様っ!!」

「危ないっ!!!!」

 仲間達の僕を心配する声が背後から聞こえてくる。


 奴の闇の奔流はまともに食らえば以前の二の舞だ。

 流石に今回は喰らうわけにはいかない。即座に聖剣に指示を出す。


「――蒼い星、防御」

『了解』

「――ッ!!」


 聖剣が青白く発光すると同時に、闇の奔流が僕に直撃――すると思われたが、まるで光のバリアに遮られるように闇の奔流が四方八方に拡散した。


「ば、馬鹿な……っ!?」

 自身の必殺技を簡単に防がれたロイド・リベリオンは驚愕の表情を浮かべている。


「危ない危ない、まともに食らったらまた意識を飛ばされるところだったね」

「き、貴様。今のどうやって!?」


 僕は、動揺しているロイド・リベリオンに挑発の為に、わざと焦らせて質問する。


「あれ、もしかして聖剣を知らないの?」

「せ、聖剣……?」


 冗談で言ったんだけど、どうやら本当に知識が無いようだ。

 覇王だのなんだの名乗ってる割に自信が扱う魔法も聖剣の事も知らない。

 経緯はともかく、相当な実力者には間違いないのだけど……。


「……ならじゃあ、これが魔法剣だって事も、当然知らないよね?」


 僕は自身の聖剣に纏わせてる炎の魔力を増大させて構える。


「――っ!!」

「ちなみにこれ、僕の国では当たり前の魔法技術だよ」

 僕の指摘に、ロイド・リベリオンは驚きの表情を浮かべる。

 

「まぁ、嘘なんだけど」

 実際は僕のオリジナルで前例が殆ど無い魔法技術らしい。


「……っ、舐めやがって……!!」

「……ま、いっか。じゃあ行くよ」


 僕は、そう呟きながら聖剣を構える。

 ……フリをして聖剣を手放し、初速の技能で一気に接近する。


「――はやい!?」

 ロイドは突然接近してきた僕に驚いたのか一歩後ろに下がる。だが、それ以上の動きが間に合わなかったようだ。僕は、そのまま素早く懐に入り込んで、敢えて剣を使わずに拳で奴の顔面を殴りつける。


「ぐっ!?」

 僕の拳で顔面を殴られたロイド・リベリオンは、数メートルは吹っ飛んで地面を転がり、ゴロゴロと転がる。


「き、貴様……!!」

 奴は兜が外れて再び露わになった素顔で僕を睨みつける。

 その表情は、怒りも含まれているが、困惑を帯びた表情だった。


 どうやら、彼も少しずつ気付いてきたようだ。僕が今まで力を温存して本気で戦っていなかったことに。そして自分の方が圧倒的強者だと慢心して、目が曇っていたことにも。

 

「(……そろそろ心を折りに行くタイミングだろうか?)」

 体力的に余裕があるとはいえ、不死身のこいつの攻略法は分かっていない。ここからは僕も実力を見せて圧倒して戦意を喪失させる目的に切り替える必要がある。


 ……僕は、ふぅと息を吐いて奴を睨み付けて言った。


「……ロイド・リベリオン。アンタ、弱いね」

「なっ……!?」


 僕の挑発に、ロイド・リベリオンは怒りを露わにする。


「俺のどこが弱いって!?」

 奴は立ち上がりながら僕に問いかける。

 だが、僕は更に奴の怒りを煽るように事実を突きつける。


「全部だよ。リーチの取り方も下手だし、使い慣れてないせいだろうけど大剣の軌道が単純すぎて読みやすい。まるで、子供相手の稽古みたいだった。

 それに、魔法の使い方もただ全力で放つだけで工夫もないし、自分に自信があり過ぎるせいか防御がロクに出来てない。以前に襲ってきた時の方がまだ戦い方が理に適っててマシだったよ」


「い、言わせておけば……!!」


「っていうか、こんな実力でよく兵士長になれたね? もしかして王様に媚びへつらって今の立場を貰ったのかな。闇ギルドのスパイって大変なんだね。プライドとか無いの?」


「き、貴様ァアアアアッ!!」


 僕の攻撃で傷付いた体を奮い立たせながら、奴は怒りを抑えきれない表情で剣を構える。どうやらここまで煽ればそろそろ限界っぽい。


 僕は、挑発した事が原因で激昂しているロイド・リベリオンの様子にニヤリと笑う。


「(よしよし、作戦通り)」

 僕は心の中でガッツポーズを取る。


「これほど俺を愚弄した奴は貴様が初めてだ!! いいだろう、見せてやろう! 覇王の力を……ッ!!」

 ロイド・リベリオンは、そう叫ぶと全身に闇のオーラを纏い始める。

 だが、それが溜まりきる前に、再び接近し奴の顔面を殴り飛ばす。


「ぐはっ!?」

 ロイド・リベリオンは僕に殴られて地面に倒れ伏す。

 怒り狂ってるせいか、本当に隙だらけだ。


「……悪いけど、こっから加減する気は無いよ。

 アンタが僕達に負けを認めて謝罪するまでずっと一方的に行かせてもらうから。……ああ、そういえば不死身だっけ?

 ――試しに、首を撥ねてみたらどうなるんだろうね?」


「ッ!?」

 僕の挑発に、ロイド・リベリオンのこめかみがピクっと動く。そして、今度は奴の方から僕に近づいてきたため、僕は手放した聖剣を手元に戻して構える。


「うぉおおっ!!」

 奴は僕に斬りかかるために剣を振りかぶる。だが、僕はそれを聖剣で受け流す。

 怒りで剣先が震えており、漆黒の大剣の魔力も途切れかかっている。彼の魔力が限界近いのか、単純にまともに扱い切れてないのか分からないが攻める分には楽でいい。


「残念、当たらないよ」

 そして、そのまま流れるような動作で奴の背後に回り込むと剣を振り下ろす。炎を纏った一撃は、奴の漆黒の鎧を焼き切り、奴の背中をジュウジュウと焼きながら傷を付ける。


「ぐあああああああああああっ!!!!」

 ロイド・リベリオンは背中の痛みに絶叫してのたうち回る。


「そろそろ負けを認める?」

 僕はのたうち回るロイドの背中をツンツンと剣先で突きながらそう問う。

 自分でやっててなんだけど、これは相当な屈辱だろう。


「ふ、ふざっ――」「あっそ」

 奴の拒否の言葉を聞く前に、その背中を蹴り飛ばす。


「ぐはぁ!?」

 ゴロゴロと地面を転がり、そしてそのまま奴は仰向けに倒れ込む。


「ギブアップする?」

「………ぐ……」


 ロイド・リベリオンは、倒れた状態で悔しそうに僕に視線を向ける。


「……お、俺は……」

「ん?」


 ロイド・リベリオンは、僕の質問に答える代わりに、大剣に闇のオーラを収束させる。


「うぉおおおおっ!! 覇王、乱裂斬!!」


 そして、雄叫びと共に剣を横薙ぎに振るい闇の斬撃を飛ばす。


「あ、やば」

 僕はポツリと言葉を漏らして<風の盾>エアロシールドを使用する。飛んできた斬撃を風の盾と剣で軌道を逸らしながら、愛剣に言葉を掛ける。


「ゴメン。やり過ぎたかも……」

『……挑発し過ぎよ。加減を知っておきなさいな』

「……ど、どうしよ?」


 相棒の蒼い星にそう指摘され、僕は反省するしかなかった。どうやら、追い込み過ぎて奴を本気にさせてしまったらしい。奴の攻撃は周囲の自身の傀儡や仲間達を巻き込んで乱打してくる。


「だ、旦那ぁ!? 俺達にまで被害が……うぉっ!?」

 一人の太った黒装束の男がロイドに接近して諫めようとするが、彼の攻撃に巻き込まれてそのまま吹っ飛ばされてしまう。


「ちょっ、そっちは大丈夫!?」

 僕は防御しながら後ろの仲間達に声を掛ける。後ろを振り向くと、姉さんがレベッカとサクラちゃんの前に出て防御魔法を張り巡らせていた。


「オッケー♪ でも、レイくん、責任取ってね?」

 姉さんはこっちにサムズアップしながら笑いながら言った。僕は苦笑しつつ、再び正面を向いて目の前の敵に意識を向けた。


「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

 ロイド・リベリオンは、怒りに身を任せて部下の諫言を無視して何度も何度も技を放つ。その度に僕は防御に専念しながら後方に下がる。


蒼い星ブルースフィア、とりあえずアイツ吹っ飛ばそう!!」


『そうね、ここだと仲間を巻き込んでしまうわ』


「じゃあ、本気でやるよ」

 僕は、炎を纏った聖剣を構えて迎撃態勢を取る。


「……ところで、聖剣技と魔法剣って同時に使えるかな?」


『あなたが出来ると思えば出来るわよ』


「そっか、なら――」


 僕は、聖剣に自分の魔力を通す。すると、聖剣の刀身が炎を纏う。


『イメージよ、レイ』

「イメージ……ね。よし、それなら――」


 僕は自分のテンションを声に乗せて高らかに叫ぶ。

 技名を叫ぶなんて恥ずかしいけど、たまにはこういうのも悪くないだろう。


「聖剣技、炎舞聖天波!!!」

『……そのネーミングセンスはどうかと思うわ』

 蒼い星に余計な事言われた気がするが、僕は構わず炎を纏った聖剣で、奴の闇の斬撃を光と炎を纏った一撃で容易に斬り裂く。


「――なっ!?」

 奴は剣を構えて後退りながら闇の衝撃波を撃ち出すも僕はそれすらも斬り伏せていく。

 そして、そのまま間合いを詰める。


「――吹っ飛べ」

 そして、聖剣の光と自身の魔力を目の前の男にぶつける。

 次の瞬間には、奴の身体は遥か後方へと飛んで行った。


『……やり過ぎよ、レイ』「……だね」

 蒼い星の指摘に、僕は反省した。

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