第638話 慢心
そして、奴らはやってきた。
敵の首魁は、漆黒の闇を身に纏う戦士、ロイド・リベリオン。
そして彼に付き従う闇ギルドの黒装束の暗殺者たち。
だが、暗殺者たちは、ロイドの<死霊術>によって死体になっても操られている哀れな人形たちと化していた。
「……ほう、俺達を待ち構えているとは」
ロイド・リベリオンは僕達を一望し、クククと低く笑う。
「俺が倒した勇者も意識を取り戻したか。だが、数が減っているな……途中で何処かで行き倒れたか……?」
「……」
ロイドがそう言うと、彼の取り巻きの黒装束達は彼と同じように笑う。
ロイドの言っているのはエミリアの事だろう。彼女は今、姉のセレナ・カトレットを助ける為に魔法で神依木と融合し内部に潜り込んでいる。
無事かどうかは分からないがエミリアには何か考えがあるのだろう。不安ではあるが今は彼女抜きで戦う必要が出てくる。
「……随分と挑発してくれるわね。理想を見失った亡者たちの分際で……」
ノルンは彼の言葉に、あからさまに嫌悪した表情に変えて、侮蔑の言葉を吐く。すると、ロイドはノルンの方に視線を向けて言った。
「どうやら、ガキが座っている大樹が貴様らの探していた【神依木】のようだな。丁度いい、俺達もその木を探していた。貴様たちを皆殺しにして、そのノルンというガキを生け捕りにした後にじっくり調べさせてもらおう」
その言葉に僕達の表情が一気に険しくなる。
今、神依木の中にはエミリアとセレナさんの二人がいる。奴らの目的は分からないが、万一傷付けられでもしたら彼女達がどうなってしまうか分からない。
そもそも、何故こいつらは神依木を狙っているのだろう?
「……アンタ、なんでこの樹を狙ってるんだ。闇ギルドがフォレス王国と水面下で対立してたのはノルンから聞いた。だけど、この樹は何も関係ないだろう?」
「ふ、貴様ら余所者には分かるまい。その樹はフォレス王国がどんな国宝よりも最重要視され血眼で探していたものだ。先に我ら闇ギルドの手に渡ってしまえば、国としての権威が失墜する。
そして、我らが先に手にしてしまえば、今の国王の信用を大きく失墜させることが出来る。その混乱に乗じて国は我ら闇ギルドが乗っ取ってやろう!!」
ロイドはそう言うと、両手を大きく広げて天を見上げる。
「……そうとも、この俺がこの国の王だ。貴様らは、新たな国の建国の為の生贄となれ!!」
ロイド・リベリオンがそう叫ぶと同時に、黒装束達が武器を取り出して戦闘態勢に入る。
「皆、あの黒装束達の相手は任せたよ」
僕は仲間に他の敵達を任せて、敵の大将のロイド・リベリオンに剣を向ける。
……さて、カレンさんのアドバイスを実践してみようか。
僕は、彼女の言葉を思い出しながら、敢えて尊大で挑発的な態度で男に言葉を掛ける。
「……ロイド・リベリオン。元騎士としてアンタに決闘を挑む。……逃げないよね?」
僕がそう言うと、ロイドは愉快そうに笑った。
「クク、流石勇者殿、俺に完膚なきまでに負けたというのに、随分と自信がおありのようだ。しかし、騎士か…………良いだろう、貴様ら、手を出すなよ」
ロイド・リベリオンはそう言って取り巻きと傀儡たちを下がらせる。
「―――元自由騎士団副団長、サクライ・レイ」
僕は奴を真っすぐに睨み付けながら名乗りを上げる。
「騎士の流儀というやつか。良いだろう……お遊びに付き合ってやる。
我が名は、ロイド・リベリオン。今日より、この大陸の支配者となりて、王となる男だ!!」
ロイドはそう言って高笑いをしながらその身に闇をオーラを全身から発生させる。
その闇のオーラは剣を形作り、再び巨大な漆黒の大剣を手の中に出現させた。
「来い、勇者!!」
ロイドがそう叫ぶと同時に、僕は地を蹴って一気に接近した。そして、その勢いのまま、ロイドの大剣を横から思い切り剣で叩く。鈍い金属音と共に、僕の剣と奴の大剣が激しくぶつかり合い火花を散らせる。
「はぁあああああッッ!」
「はぁああああッッッ!」
僕達はお互いに吼えながら、全力で剣を振り続ける。
ロイドの大剣と僕の剣がぶつかり合うたびに、激しい金属音が鳴り響く。
◆◆◆
「……っ!」
「レイ様……!!」
「……」
ベルフラウ、レベッカ、サクラの三人は彼とロイド・リベリオンの戦いを静かに見守る。彼女達の役割は、他の敵達にレイの一騎打ちの邪魔をさせないことだ。
今、ロイドの仲間達は彼の命令を忠実に守っているが、それがいつまで続くか分からない。もし戦況が傾けば、ロイド・リベリオンは間違いなく部下をけしかけてくる。
いくらレイであってもあれほどの数相手にすれば勝ち目がない。相手が死を超越した不死身の集団であるのなら猶更だ。もし、そんな状況になった時、レベッカとサクラは真っ先に飛び出して彼らと戦う。
だが、ベルフラウはレイから別の仕事を頼まれていた。
「(――フローネ様、未熟な私に力を貸してください)」
ベルフラウは心の中で、自身が尊敬する先輩女神様の顔を浮かべながら準備を始める。
「(ロイド・リベリオンの使用している魔法は<死霊術>……権能を使用すれば打ち破れるはず……!)」
ベルフラウは、強く念じながら静かに権能を発動する。彼女の身は僅かな『神気』を纏い、彼女を中心にして周囲のフィールドを少しずつ神気で侵食していく。
今の彼女は既に人の身だ。故に、彼女が使用できる権能には限界がある。
その身を人の身に落としたため信仰を得られずに、彼女は自身の魔力を応用して疑似的に権能を再現している。
彼女がもっとも得意とする<空間転移>も権能そのままではなく苦心して編み出した模倣技術である。
そして、彼女が今から行うのは<死霊術>の解除。以前、同じ術を使用していた強大な敵と戦った時と同じように、彼女はその術を強引に解除する。
……だが、少々腑に落ちないことがあった。
「(……おかしいわね、彼らに掛かっている術……あの男が……というよりは……)」
ベルフラウは、ロイドに<死霊術>を掛けられた男達をジッと見つめ、やがてその違和感に気が付いた。
「(……なるほど、そういうことね)」
そして、彼女は理解する。この闇ギルドが使用している力の源が何処か別の場所から流れていることを。しかし彼女のやることは何も変わらない。
「(……さ、頑張りましょう。ベルフラウ、貴女はやればできる子よ)」
ベルフラウは自身をそう奮い立たせて、権能の力を更に強めていった。
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