第630話 驚き戸惑う勇者達

 あと一歩というところで僕達は再び闇のギルドの妨害を受けてしまう。その闇ギルドを指揮する男は、ロウさんを傷付けた兵士長であり、隠れ処で以前僕達に襲い掛かってきた謎の男だった。


「良いか、目的はそのノルンとかいうガキだ! そいつさえ確保すれば、後は全員殺して構わん」

「「了解」」

 黒装束達は、一斉にノルンに向かって飛びかかる。


「させるかっ!!!」

 僕はノルンの前に出て剣を構えて敵達の攻撃を一身に受け止める。


「……っ!!」

 流石に多人数の攻撃を一気に受け止めようとすると、僕の身体では負担が大きい。


「……っ、レイ、大丈夫?」

「大丈夫……この程度なら問題ないよ」

 心配するノルンに返事をしながら、僕は、敵の攻撃をガードする。僕はそこから気合一閃、黒装束達相手に力を込めて敵達を押しこんで後退させる。


「ぐおっ!!」

「ちっ」


 黒装束達はバランスを崩しそうになり、後ろに後退して態勢を立て直す。


「……大したものだ。流石、勇者殿。だが、いつまでも持つかな? この数はいくら貴様でも厳しいだろう」


「そう思った時点で、アンタの実力が知れるねっ!!」


 僕は叫びながら剣を振り上げる。

 聖剣の力を解放させ、その剣を青白い光に包み込ませる。


聖爆裂破ッホーリーブラスト!!」

 聖なる光の斬撃が、敵の集団へと放たれ、その光に巻き込まれた黒装束数人が吹き飛ばされる。


「……何だ、その攻撃は?」

 兵士長は、僕が放った技を見て驚く。


「敵に答える理由が無い。……特に、仲間だった人を躊躇もなく殺しに掛かる救いようがない悪党にはねっ!!」


 僕は怒りの感情を向けて兵士長に返事を返す。この男はキザったらしく格好付けているが、救いようのない外道だと分かっている。何を語るつもりもない。


 だが、兵士長は「ククク……」と笑い、自らが付けていた仮面を外す。

 仮面を外した男は額に十字傷のある壮年の男性だった。


「ロウの事か……。くく、奴も俺がせっかく鍛えてやったというのに。いつまで経っても俺の考えに従わない無能だったな」


「やっぱり、ロウさんを斬り捨てたのはお前だったか!」

「俺に歯向かうような約多立たずを生かしておく価値など無い。

 ……そういえば、奴の死体が無かった。貴様らが奴の死に様を看取ったのか? ……随分と、無駄な事をしたな」


「―――っ!! 」

 その言葉を聞いて、僕の心の中で何かが切れたような気がした。


「貴様っ……!!!」


「仲間に対して何たる非道な行いを……外道めっ!!!!」


 僕とレベッカは兵士長の言葉に激怒する。周囲に多数の敵達がいるから即座に踏み出せないが、もし奴一人だったら即座に切り捨てに行くところだ。

 

 だが、僕達二人はまだ冷静さを残している方だった。

 僕達の仲間の一人、サクラは男の言葉を聞いた瞬間に飛び掛かっていた。


「――許さない」

「――!?」

 兵士長は、背後から恐ろしい殺気を感じたのか、即座に抜刀して背後を振り向く。だが、瞬時に背後に回ったサクラちゃんの双剣は男よりも遥かに速く――


「成敗」

 サクラの双剣が煌めき、次の瞬間には兵士長の身体を左右から容赦なく斬り裂く。


「……な、に……?」

 兵士長は信じられないという表情で、両脇腹から大量の血液を噴水のように迸りながら絶望の表情で地面に倒れる。彼の倒れた場所から大量の血が流れて大地を赤黒く染めていく。


「お……俺が……こんな、あっけなく………」

「悪党には当然の結末です」


 サクラは、冷たい目で倒れた兵士長を見下す。

 そして彼女がその双剣を鞘に納めると同時に周囲が騒がしくなった。


「なっ……!」

「ろ、ロイドが一撃でやられたっ!?」

「こいつら……ただ者じゃないぞっ!!」


 黒装束達はリーダーが一瞬にして倒された事に動揺し始める。

 僕達もサクラちゃんの躊躇ない行動に驚いていたが、すぐに正気に戻る。

 そして、僕は大きく叫ぶ。


「みんな、いまだっ!!」

「!!」


 僕の言葉に仲間達は状況をすぐに把握して、残った敵達に向かっていく。

 そして、僕も彼女達から一歩遅れて動き出す。


「ぐ……っ!」

「どうする、撤退するか!?」

「いや……!!」


 黒装束達は、僕達とやり合うか迷った末にこちらに向かってきた。


「姉さん、ルナとノルンをお願い!」

「任されたわっ!」


 姉さんはノルンたちの前に立って敵達と交戦を始める。そして彼女達を任せた僕も、前線で戦うサクラちゃんやレベッカと同様に黒装束達と戦闘を開始する。


 レベッカはスピードに物を言わせて大立ち回りを見せ、サクラは兵士長を瞬殺した時のように敵を一人ずつ確実に戦闘不能にしていく。彼女達よりも装甲が厚い僕は被弾覚悟で集団に突っ込んでいき、聖剣を力を以って確実に数を減らす。


 エミリアは飛行魔法で空に浮かび上がり、攻撃魔法で僕達を援護してくれる。姉さんは、ノルンとルナの近くから動かずに接近してくる敵だけを魔法で弾き飛ばしていく。


 こうなれば戦況は確実に僕達に優位だ。

 敵の数は五十人以上、少し前に戦った百以上の集団よりも圧倒的に錬度は高い。

 だが、それでも僕らにとってはさほど脅威ではない。

 僕は聖剣の力を解放したまま、次々と敵を戦闘不能にさせていった。


 ……しかし、戦況はそう単純なものでは無かった。


 僕は敵を何十人か倒したところで、息を整える為に地面に膝を付けて呼吸を整えていた。だが、そこにエミリアの切羽詰まった声が空から響き渡る。


「レイ、油断しないでくださいっ!! 倒れた敵がっ!!」

「!!」

 彼女の声に、僕は弾かれたように立ち上がって後ろを振り向く。そこには倒したはずの黒装束の男達が、ボロボロの状態で立ち上がり、血走った眼で切り掛かってきた。


「なっ……!!!」

「シャアアアアアアアアア!!」

「しねえええええええええ!!!!!」

「く!!」


 僕は半ば反射的に剣を盾にして彼らの攻撃を防ぐ。


「(……一体、どうなってる!?)」

 彼らは至る所から出血しながら狂気染みた表情で僕に仕掛けてきた。


 まるで、ゾンビやバーサーカーだ。確かに命を取るほどの怪我は負わせていなかったが、それでも彼らは足や横腹を深く斬り裂かれまともに立っていられないはず。だが、彼らは回復魔法で治療された様子もなく、傷口からは大量の血を流しながら、鬼のような形相で襲ってくる。


「シャアッッ!!」

「っ!!」


 僕は、咄嵯の判断で剣を横に薙ぎ、二人の黒装束を同時に吹き飛ばす。

 しかし、それで終わりではなかった。


「……ぐっ!!」

「こ、これは………!!」

「ど、どうなってるんですか………!?」

 戦っていたレベッカとサクラが、緊迫した声で叫ぶ。それもそのはず、今まで倒した黒装束達がゾンビのように身体を引きずりながら動き始めたのだ。


「い、一体どうなってるの……?」

「何者かに、操られてる……? だけど、何処にそんな存在が……?」


 震えるルナの言葉に、ノルンは冷静に状況を判断して推測する。


「くくくくく…………」

 その時、遠くから誰かの笑い声が聞こえた。


「――!!」

「何奴っ!?」

 レベッカが叫ぶ。その声の方向を振り向くと、サクラが倒したはずの兵士長が不敵に笑っていた。


「なんで生きてるんですかっ!? わたし、確実に止めを刺したはずなのに!!」

「それに、あれほどの重症を負ったにもかかわらず、傷が癒えてます……!」


 サクラとエミリアが驚愕の声を上げる。

 それを聞いて、兵士長は笑うのを止めると口を開く。


「あぁ……。そこの女に深く抉られておかげで死ぬところだった。だが、俺にはこの通り切り札があったんだよ……」


「……切り札?」


「そうさ、見るがいい………!!」


 男がそう叫ぶと彼の周囲が屈折したかのように歪み始める。 そしてその歪んだ場所から黒いホールのような穴が出現して、そこから黒いオーラが噴出し、彼の肉体を包んでいく。


「な、なんだ……!?」

「あれは……!!!」

 僕は、彼の変貌を見て驚き、僕達は彼が纏う魔力を感じて警戒を強める。


「ぐおおおおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!」

 男は口から血を大量に噴き出しながら獣のように叫び始める。そして、その暗闇が彼の身体の中に入り込み始めた。そして、数秒後に彼は全身に漆黒の鎧を纏っていた。


「見たか、これが俺の力だ。……俺の名前は、ロイド・リべリオン!!!! この国に乱世をもたらす者よ!!! 俺は、この力を以って覇王となりて、力で全ての国を支配するっ!!」


「ロイド……リべリオン………!!」

「覇王……!」


 僕達は、目の前の兵士長の恐るべき姿を見て驚く。


「……さぁ、俺の部下共……!! そいつらを殺すのだ……!! 安心しろ……貴様たちが倒れても俺が肉体を操って動かしてやる……!!」


「ぐおおおおっ!!」

「シャアアアア!!」


 黒装束達が再び起き上がると、兵士達は雄叫びを上げながら再び僕達に襲いかかってきた。


「くっ!」

「姉さん!」

「分かってるわ! ノルンちゃんとルナちゃんは、私が護るっ!!!」


 姉さんは自身を中心に光の結界を張り巡らせる。


「いつまで持つか見物だな……。だが、勇者……サクライ・レイ。貴様は俺が殺してやるっっ!!!」


「……っ!!!」


「覇王として生まれ変わった俺の力、現代の勇者相手にどれほど通用するか、試させてもらうとしようか!!」

 ロイド・リべリオンは両手を合わせて、正面に黒いオーラを固めていく。そして、それが徐々に形を作っていき、全長二メートルは超える巨大な漆黒の大剣を作り出した。


「ふはははははははっっ!!」

「っ!!」


 僕は、狂気に塗れた表情で大剣を片手で軽々と振り回す彼に戦慄する。


「レイ、気を付けてっ!!」

 ノルンは彼女にしては焦った声で僕を名前を叫ぶ。


「分かってる……!!!」

 目の前の相手の力は全くの未知数だ。何より、僕は目の前の敵に対して激しい怒りを感じている。手加減などしてやるものか。


「――行くよ、蒼い星ブルースフィア

『――了解』

 僕は信頼する相棒に声を掛けて、目の前の敵と相対する。

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