第628話 サクラちゃん、いっきま~す♪

【視点:レイ】

 全面交戦となったレイ一行 VS 闇ギルドの暗殺者たちの戦いはレイ達の勝利となった。黒装束達は全員が気絶しており、今の所は起き上がる気配はない。


「……ふう」

 僕は黒装束達が起き上がる気配が無いことを確認すると、剣を鞘に納めて一息つく。そして仲間達に声を掛ける。


「これで片付いたかな? みんな、怪我とかは無い?」


「ええ、問題ありません」


「防御魔法とレイくんのお陰ね……ルナちゃんとノルンちゃんは大丈夫?」


 姉さんは背後で伏せていた二人に声を掛ける。


「あ、あれ……終わったの?」

「ルナが怖がってる間に終わったわよ」


 ルナは途中で怖くなってしゃがんで小さくなっていたようだ。

 ノルンは彼女の頭を撫でて慰める。


「ふえぇん、ごめん……」

「気にしてないわよ。普通は怖いものね……」

 ノルンはそういって彼女を慰める。


 そうしてる間に前衛で戦っていたレベッカとサクラちゃんも戻ってきた。


「ただいま戻りました」

「ふぁー疲れたー」

 二人は動き回ってかなり疲れていたようだ。特にサクラちゃんは汗だけで鎧の付け目を外して楽にしている。流石に無傷というわけにもいかなかったようで、彼女達の素肌の至る所に細々とした傷がついていた。


「二人ともお疲れ様。姉さん、回復してあげて」

「はいはーい、じゃあそっちに行くわね」


 姉さんは二人の元に走って行って、すぐに癒しの魔法を使用する。


「わー、気持ちいい……」

「ベルフラウ様の回復魔法は天下一品でございますね」

「うふふ、ありがとレベッカちゃん」


 姉さんはレベッカの褒め言葉に照れた表情で返す。


「それでこいつらどうしようか?」

 僕は気絶している黒装束の男たちに視線を向けて言った。


「ふむ、ひとまず縛り上げておきましょうか」

 レベッカは、手に持っていた槍を<限定転移>で消失させ、代わりに長い長いロープを取り出す。


「縛った後はどうしようかしら?」

「……そうですね。ここに大きな湖がありますね」

 姉さんの問いかけに、エミリアが意味ありげに湖の方を見ながら言った。


「レイとサクラ、その辺から大きそうな岩を運んできてくれませんか?」

「重石にして沈める気満々じゃん……」

「あ、バレてしまいました?」


 エミリアは悪戯っぽく舌を出しながら笑う。


「そこまですると流石に死んじゃうよ。悪人でも殺すのは良くない」


「レイだって戦闘中言ってたじゃないですか」


「アレはただの脅しだよっ!」


「じゃあどうします? とりあえずその辺に埋めておきます?」


「それも駄目だって」


 エミリアの提案を却下しながら、僕達は黒装束の男達を拘束していく。


「これでよしと……」


「では、とりあえず重石持ってきてください」


「だからダメだって!」


「でも、このままにしておくわけにはいかないでしょう。目を醒ましてまた襲って来たら面倒ですし……」


「それはそうだけど……」


「……二人とも、ちょっと落ち着いて」

 僕の制止を聞かずに実行しようとするエミリアに頭を悩ませていると、それを察したノルンが仲裁に入る。


「ここは、私に任せて」


「ノルン。どうするの?」


「湖に沈めるわ」


「いや、結局エミリアと同じじゃん!!」

 僕は思わず突っ込んでしまう。


「違うわよ。この湖、実は息が出来るの」

「……いや、そんな馬鹿な」


 ノルンの言葉に、僕は疑いの目を向ける。

 確かにこの湖の水は透明度が高く、底まではっきりと見える。だが、水深はかなり高くてここからだと水面までは10メートル近くはあるように思える。どういう原理で息が出来るか分からないが、少なくとも息継ぎしやすい深さでは無い。


「実際に潜ってみればわかるわ」

「ノルンが嘘を言うとは思えないけど……」


「なら……そうね。サクラ、試しに湖の中に入ってみて」

「え、わたしですか?」

 サクラちゃんは言われた通りに湖の前に歩いていき、鎧を全て外す。


「ちょ、サクラちゃん何を?」

「サクラちゃん、いっきま~す♪」


 ―――ドボン。

 そして、サクラちゃんは綺麗なフォームで湖の中へダイブした。


「…………」

 あまりの出来事に一瞬思考停止してしまう。そして数秒後。


「サ、サクラちゃん!?」


 慌てて駆け寄り湖面を覗き込む。

 すると、サクラちゃんは湖の中でこっちを見上げて手を振っていた。


「レイさ……ガボガボ……中でも息が……ガボガボ……出来ますよー」

「……喋ってる」


 彼女が普通に話している事に唖然とする。

 サクラちゃんはそのままこっちに泳いできて湖から顔を出す。


「ぷはっ! 汗かいた身体に水浴びは気持ちいいですねぇー♪」


「サクラちゃん、大丈夫だった?」


「はい♪ 水の中でも問題なく呼吸出来ますよー♪」


「……マジで?」

 僕は、試しに湖に顔を付けてみる。

 そして彼女の言う通りに呼吸が出来ていることを確認して驚く。


「……本当だ。これどうなってるの?」

 僕はノルンを見る。彼女は無表情ながらも満足げにコクリとうなずいた。


「この湖の中に咲いている水中花が酸素を生成してるのよ」

「へえ……」

 僕はもう一度湖の中を覗いてみる。すると、確かに底の方に沢山の青色の水中花が咲いていた。よく見ると水中花の周りには気泡が沢山出ている。


「レイさん、満足したので手を貸してもらえます?」

「あ、うん」


 僕は彼女の手を掴んでこちらに引き上げる。


「それにしてもびしょびしょですねー、ちゃんと乾くかなぁ……」

 サクラちゃんは言いながらベタ付いた衣服を摘まんで引っ張っている。

 そこから彼女の年齢の割に大きなモノが……。


「あ……っ!」

 僕は思わず、後ろを振り向いて彼女から視線を逸らす。


「?」

 サクラちゃんは無頓着なせいか、それとも気にしていないのか、濡れた胸元を手で引っ張りながら、僕の様子を不思議そうな顔をしていた。


「……サ、サクラ。こっちに来て下さい、服を乾かします」

「はーい」


 エミリアは僕に気を利かせてくれたのだろう。彼女の手を引っ張って少し離れた場所に移動して、炎の魔法を使って火を起こす。


「……助かった」

 サクラちゃんは僕よりも年下だけど、外見で言えば立派なレベルの美少女だ。

 幼児体型なレベッカと比較すると目のやり場に困る。


「……じいー」「っ!」

 視線を感じたので、振り向くとレベッカが何か言いたそうな表情をしていた。


「レイ様、何かわたくしに言いたいことが?」


「な……何でもないよ。レベッカはいつまでも可愛いよね」


「……普段なら褒められてると思うのですが、今のは褒め言葉には聞こえませんでした。レイ様、わたくしに何か要望でも?」


「あ、あはははは……」

 レベッカはジト目で睨み付けてくる。


「じー………」

「ははは……………あの、レベッカ……許して……」

 僕がそう懇願すると、レベッカはムッと表情を変えて怒った感じに眉を軽く上に釣り上げる。


「レイ様、サクラ様の胸を凝視していましたよね。わたくしとお比べになりましたか?」

「うぐ……」


 どうやら、先程の彼女とのやり取りを見ていたようだ。流石レベッカだ。日頃から僕の行動をよく見ている。感心してる場合じゃないけど。


「レイさん。そんなの見てたんですか!?」

 エミリアの魔法で付けた焚火で身体を乾かしてたサクラちゃんは、ちょっと顔を赤らめて自身の胸を抑える。


「ごめん、つい……」

「もう、エッチです!」

 サクラちゃんに怒られてしまった。


「……サクライくんもちゃんと男の子なんだね」

「それはそうでしょう。むしろあの年齢で女性に何を思わない方が異常よ」


 ルナの呟きに、様子を見ていたノルンが呆れた様子で言った。


「ノルンちゃん、なんか大人みたいだね?」

「一応、私は大人よ。今はそれどころじゃないから言わなかったけど……」

「えっ」


 ノルンの言葉を聞いて、ルナは目を丸くする。


「それよりも皆、放っておくとそのうちこの人達目覚めるわよ」


 姉さんは先程から放置されている黒装束の男達を見ながら言う。


「この湖に放り込んでおけば死ぬことは無いのは分かったでしょ? エミリアの言う通り沈めて落としておきましょう」


 ノルンは姉さんの言葉にそう返事を返す。エミリアは僕を見てどや顔で言った。


「レイ、森の主(?)の許可を得ましたよ!」

「……まぁ……死なないなら良いけど」


 その後、僕達は気絶している黒装束達を全員湖の底に沈めた。全員縛っておいたので泳いで上がることも出来ない。自分でやっといてなんだけど鬼の所業である。


「さ、先を急ぎましょう」

「ええ、この先にセレナが……」

 エミリアはノルンに頷き、再び歩き出す。僕達も、彼女達の後を付いて行った。


『………』

 しかし、僕達は気付かなかった。

 僕達と黒装束の戦いをずっと観察していた存在が居たことに――。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る