第627話 正義が勝つ
神依木に向かうために広大な森を進むレイ達。
大きな湖を見つけ、僕達の目的とする神依木はもう少しだと聞かされる。
そこにはエミリアの姉のセレナさんも居るらしい。そのことをノルンに教えられたレイ達は早足で先へ進もうとするのだが、待ち構えていた闇ギルドの黒装束達に襲撃されてしまう。
【三人称視点:レイ一行】
「ルナ、ノルン、二人は下がって!! レベッカ、サクラは前衛をお願い! 姉さんとエミリアは後方から全体のサポートと攻撃魔法!!」
「了解です!!」
「おっけー!」
「はい、お任せくださいまし!」
「いっきますよー♪」
エミリア、ベルフラウ、レベッカ、サクラの四人はそれぞれ僕の指示通りに動き出す。そして、ルナとノルンは言われた通り素直に後ろに下がる。
レイ達の背後は湖だ。
背水の陣で追い込まれているものの、逆に言えば背後からの奇襲はほぼ不可能。
ノルンとルナは最後尾に居ればひとまず安全だろうとレイは判断している。
「
まずは、ベルフラウが杖を振って魔法を発動させ広範囲に防御壁を張る。これで敵の武器攻撃が被弾したとしてもダメージが軽減され、囲まれたとしても多少の時間稼ぎになる。
「さぁ……私の魔法に耐えられますか……!
――風よ、無数の敵を切り裂く刃となりて、立ち塞がる敵を薙ぎ倒せ!!」
続いて、エミリアは全身に魔力を纏わせて、無数の風の刃を飛ばす。それらの刃は上空から降り注ぎ、闇ギルドの黒装束達にランダムに直撃していく。
「ぐはっ!?」
エミリアの風魔法が直撃した敵達は身体を深く切り裂かれてバタバタと倒れていく。彼女の魔法以前と比べて目に見えて威力に上昇しており、風の刃の一つ一つが鋭利な刃物のように研ぎ澄まされていた。しかし、錬度の高い手練れもそれなりに紛れており彼らは完全回避といかないまでも彼女の攻撃を紙一重で躱していく。
「いてっ、何だ今のは……!」
「……ちっ、遠距離系の魔法使いがいやがるのか!!」
黒装束達は舌打ちをしながらエミリアを睨み付けて彼女を警戒し始める。しかし、エミリアの攻撃はあくまでけん制だ。つまり、本命の動きを通すための目晦ましである。
「――おや、エミリア様ばかり気を取られていて良いのですか?」
「――闇ギルドさん、ワキが甘いですよっ!!」
エミリアが注意を引き付けている間に、サクラとレベッカがそれぞれ黒装束達の背後に回り込んでそれぞれ一人ずつ斬りかかる。
「がはっ……!」
「がふっ……!」
黒装束達は二人によって背中を斬られて血を流しながら倒れる。
サクラとレベッカは、最前線で暴れ回る前衛だ。彼女達は機動力が高く、並の戦士相手なら容易に背後に回り込むことが出来る。サクラは双剣、レベッカは槍を自分の身体のように扱えるほど技量が高いため、多人数相手でも決して遅れを取らない。
「このガキ共……!」
黒装束達は回り込んできたサクラとレベッカの存在に気付き、複数は彼女達に標的を変える。だが、サクラもレベッカは集中狙いされることを前提で、自身に<速度強化>の魔法を掛けており、彼らの追撃を難なく避ける。
「はああああっ!!!」
当然だがパーティのリーダーであるレイも率先して戦う。サクラやレベッカと違って、敵陣に飛び出さずにエミリア達から前に出た場所で中衛を位置取り剣を振るう。
レイの役割は接近してきた相手の撃退だ。彼は積極的に相手の命を奪わないが、近づく相手には容赦なく剣技と攻撃魔法を使い分けてパーティを守護する。
「……くっ!」
彼と交戦を続ける黒装束達は、彼を突破できずに数で攻めようとするが……。
「
「そこっ! 植物操作!!」
しかし、そこは歴戦の冒険者達。彼を集中狙いしようとすると、後衛のエミリアとベルフラウがレイを援護に回る。彼女達の攻撃魔法と束縛の攻撃によって、黒装束達は動きを封じられてしまう。動きの止まった彼らはその瞬間に、レイによって瞬く間に切り裂かれて戦闘不能に陥ってしまう。
「二人とも援護ありがとう」
レイは彼女達にお礼を言いながら切り捨てた敵達を見下ろす。
男達は斬られたものの、まだ息があった。
「生きてるなら良かった。でも、動かないでね。動いたら湖に沈めるから」
「ヒィィィ!?」
レイの軽い脅しに男達は必死に首を縦に振ってその場でふさぎ込む。
どのみち、治療しないと彼らはもう戦えないだろう。
「……私の森の湖にそんなの沈めてほしくないわ」
「の、ノルンちゃんってば……」
エミリア達に守られてるノルンはレイの一言に小さく呟き、ルナは苦笑する。
そして、サクラとレベッカに気を取られている黒装束達もまた苦戦を強いられていた。
「くそっ、逃げるな!!」
「何だこいつらすばしっこい!!」
黒装束達は、のらりくらりと自分達の攻撃を回避し続ける二人に翻弄され続ける。
二人は彼らの目を引きつけながら、敵陣を駆け回り確実に戦力を削っていく。
「レベッカさーん、どっちがどれだけ倒したか競いませんっ?」
「ふふ、構いませんが、わたくしは手強いですよ?」
二人は武器を振いながら笑顔を崩さずに会話する。その様子に、黒装束達は自分達がまともに相手されていないことに激高し、強引にでも彼女達を仕留めに掛かる。
だが、それは彼女達の作戦。
黒装束達が自分達に目が行けば行くほど、レイ達から目が離れてしまう。
という事は、つまり―――
「
「
「
レイ、エミリア、ベルフラウの三人が、翻弄されている敵達を魔法で一気に攻め立てる。レイは黒装束達の頭上から雷を落とし、エミリアは黒装束達を包み込むような業火の魔法で襲い掛かる。さらに、ベルフラウの魔法で黒装束達の中心で圧縮された空気の塊が弾けて強烈な爆風を巻き起こした。
「「「ぐあああああああ!!!」」」
黒装束達はレイ達の作戦にまんまと嵌り数を減らしていく。いくら数で優位を取られていても個々の能力は圧倒的にレイ達が上回る。
レイ達は冒険者基準のランクで言えば、それぞれが最上級クラスかそれ以上。黒装束の一人一人は、身体能力こそあるが、冒険者基準では中堅程度だろう。しかし、黒装束達も自分達ではまともに太刀打ちできないと気付いたのか、少しずつ冷静になり始めた。
「クソッ、好き放題やりやがって!!」
「おい、落ち着け。ひとまず暴れ回る二人は無視しろ。それよりもあいつらだ」
黒装束の男達は、後衛に位置しているエミリア達に視線を移す。
「厄介なのは前に出て来ないあいつらだ。まずあっちを仕留めるぞ。あの緑髪のメスガキと地味な女は目立って動かねぇし、どっちかを人質にすれば……」
「へ、なるほど……人質を盾にすれば『正義の味方の勇者ご一行様』は身動きが取れなくなる訳だ」
一人の男が他の仲間に指示を出すと、彼らは一斉にエミリアとベルフラウの方に標的を変える。彼が指示を出すと、武器を持つ黒装束達はボウガンを構え、それ以外の黒装束達は掌から闇のエネルギーを集中させ始める。
「エミリアちゃん、何か来るわ!」
「……っ!」
ベルフラウとエミリアは自分達が標的にされていることに気付いて身構える。
それと同時に、黒装束達のリーダー格の男が叫んだ。
「今だ、うてぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
その声と同時に無数の矢や闇の魔力弾がエミリア達に向けて放たれる。そして、彼女達の近くに飛んでいった魔力弾が爆発を引き起こし砂煙が巻き起こる。
「え、エミリア様っ!!」
「ベルフラウさん!!」
レベッカとサクラの焦った声が響き渡る。
だが、男達はそんな彼女達の声を聞いて愉悦に心を震わせて叫ぶ。
「ははは、やったぞ!!」
「跡形も残らないか、万一助かっても矢で串刺しだ!!」
「残念だったなぁ!! 次はお前らだよっ!!」
黒装束達は勝利を確信して高笑いする。だが、次の瞬間。
「…………あ?」
「…………は?」
男達は目の前の光景を見て呆然とする。
なぜなら、エミリア達の前に突如として巨大な光の壁が現れたからだ。
そして、その光の壁を出現させたのは……。
「れ、レイくん……助かったぁ……」
「間に合ってよかったよ。大丈夫、エミリア、姉さん?」
そこには青白く光り輝く聖剣を携えたレイの姿があった。彼らの正面に出現した光の壁は、レイの所持する
「ナイスですよ、助かりました」
「レイくん、ありがとうね~」
エミリアとベルフラウの無事を確認し、レイは安堵の表情を浮かべる。
そして、レイはそのまま黒装束達を睨みつける。
「……よくも、仲間をやろうとしてくれたな!」
レイは安堵の表情を怒りの表情に変えて、手に持つ聖剣を両手で持ち替えて、頭上に掲げる。
「―――聖剣技」
すると、聖剣がさらに輝きを増していき、それに呼応するようにレイの身体に光のオーラが纏われていく。
「
レイは、そのまま振り下ろすように聖剣を振るい、聖なる衝撃波を放つ。その一撃は、まるで彗星のように煌めきながら黒装束達に直撃した。
「ぎゃああ!?」
「ぐあああああっ!!!?」
「な、なんだこの威力は!?」
「ひいいいっ!!」
「ば、馬鹿なああああ!!」
黒装束達はその一撃を受けて吹き飛ばされ、次々と倒れていった。
「お、おい冗談だろ……」
「あいつが一番強かったのか………!」
「そ、そうだ、仲間を呼ぼう。きっと助けてくれるはず……!!」
彼らの力に怯え始めた一部の者は狼煙を上げ始める。
どうやら、煙を焚いて別の仲間達を呼ぶつもりのようだ。
「流石にこれ以上仲間を呼ばれると面倒ですね」
「よし、ならこのまま一気に押し切って勝負を付けよう」
ここでようやくレイが前衛に加わり始める。それからはもう一方的だった。
サクラとレベッカの二名だけでも苦戦していた闇ギルドの黒装束達は、それ以上の強さを秘めているレイが加わったことで、さらに劣勢に立たされてしまう。
そして、大して時間も掛からないうちに黒装束達は彼らに打ち倒された。
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