第621話 レイくん、別の意味で覚醒する
一方、その頃……。
【敵陣営視点:ロイド(兵士長)】
盗賊二人は、まるで誰かに指示されたように俺達に戦いを挑んできた。
最初は雑魚だと思い、ロイド兵士達を適当にけしかけた。だが、盗賊二人は何かの加護を得ているかのようで勇猛に動き回り部下を次々と倒していった。
「はっはっは、弱い弱い!!」
「なんだぁ? 兵士の恰好してる割には統率が取れてねぇな。お前ら、本当に国の兵士なのか?」
部下達が倒れていく中、ロイドは少し焦っていた。
「(……このままやられたんじゃ、俺の立つ瀬がないな)」
ロイドはノルンの予想した通り、本来は闇ギルドに属する人間だった。彼はフォレス王国にスパイとして入り込み、これまで国王に従うフリをして闇ギルドに情報を渡していた。
そのため、彼は愛国心など欠片も持ち合わせておらず、フォレス王に対して何の情も持ちあわせては居ない。
しかし、ロイドは仮にも【兵士長】という座まで上り詰めた実力者。そして、彼に従う部下達は、ロイド自身が鍛えた精鋭でもあった。彼は部下を気遣うほどの人格者では無いが、ロイドは部下達をボコボコにされて自分の指導力を貶された気分になり不愉快になっていた。
「……俺が相手だ」
ロイドは鞘に納めた剣を取り出し、良い気になっている盗賊二人に突きつける。
「お? アンタが大将か?」
「へへっ、今の俺達に敵じゃねえよ。なんせ俺たちはノルン様の加護があるからな!」
盗賊たちは、妙に自信ありげだ。
ノルンという聞いたこともない人物に何かされたようだが……。
「良いから掛かって来い。貴様らを後悔させてやる」
ロイドは、盗賊二人を挑発する様に剣を持っていない左手の指をクイっと動かした。
「なら遠慮なく行くぜ! おいっ、まずは俺がやるぞ!」
「分かったよ。ほれ、行ってこい」
盗賊の一人が、大柄な体格を活かしてこちらに向かってきた。
「喰らえっ!」
男は巨大な斧を振り被って直線的に攻めてくる。
「チッ!」
ロイドはその攻撃を横に躱し、右手の剣で盗賊の右わき腹を切り裂く。
「ぐわっ!!」
男は痛みで声を漏らし、その場に膝をつく。
「はっ、大したことないな」
部下がやられてどれほどの実力者かと思っていたが大した相手じゃない。
ロイドはそう思い、軽く油断してしまう。
「おい、大丈夫か!?」
もう一人の男は、仲間の方に駆け寄っていく。
「畜生、いてえええええっ!」
「馬鹿野郎っ!! てめぇ、マイホームが欲しくないのかよっ!!」
「欲しい、欲しいが……痛てぇもんは痛てぇんだよ! ふざけんなバカやろー!!」
盗賊二人は意味の分からない事で喧嘩をし始める。
「……下らん、そんなに家が欲しければ、あの世で死神にでも家を作ってもらうんだな」
ロイドはため息を吐きながら、右手の剣を振り上げる。
が、その瞬間を狙ったのか、痛がっていた盗賊がロイドに飛び掛かってきた。
「おらあっ!!」
「なにっ!?」
「隙だらけなんだよ、このクソがぁ!」
盗賊の男が叫ぶ。
まさか、コイツ……わざと痛がって俺の油断を誘った!?
「ちぃ!」
ロイドは咄嵯にバックステップを踏み、男の斧を何とか避ける。
が、避けきれずに、ロイドは右腕に傷を負ってしまった。
「くっ!」
「へっへっへ……やったぜ」
「……舐めるなよ」
ロイドはそう呟くと、突然雰囲気が変わり始める。
「な、なんだぁ……?」
盗賊の一人が怪訝な顔をしてロイドを見つめる。
「――力を寄越せ」
ロイドがそう呟くと、傷口が一瞬で塞がり始める。
それと同時にロイドの周囲には混沌が螺旋のように渦巻いていた。
「なんだとぉ!?」
ロイドは自分の身体の変化を確認してニヤリと笑うと、今度は刀身に暗い闇のオーラを纏い始める。
「お、おい、相棒、こいつちょっとおかしいぞ」
「……ああ。悪鬼や羅刹みてぇな禍々しい気をビンビン感じやがる」
「……ふ、お前たちのような雑魚に、この力を使う気は無かったが……!!」
ロイドは、くっくっくと怪しく笑いながら言った。
「あの勇者共の前に、貴様らを餌食にしてやろう。感謝するがいい、この俺の手に掛かって死ぬことを!!」
ロイドは高らかに笑い、その身を更なる闇のオーラで纏わせていく。
……そして。
「……や、やべぇ」
「……おい、逃げるぞ」
ロイドのその姿を見た盗賊たちは、勝ち目がないと判断して即座に撤退を決意した。
――それから十分ほど経過し、ロイドは一人になってしまった。
盗賊たちは、勝ち目がないとみるや脱兎のごとく逃げていった。ロイドは折角全力を出したというのに、不完全燃焼のまま終わってしまい、不機嫌そうな表情をしていた。
「チッ、これでは俺の気が収まらん。……そうだ、勇者どもはどうした?」
ロイドは周囲を見渡すがそれらしい影はない。
が、盗賊と戦っている最中に探させていた部下が戻ってきた。
「ダンナァ! 勇者のクソ野郎ども、俺達を差し置いて森に行ったみたいですぜ」
「……何? 先に入った闇のギルドの連中だけでも問題なく始末可能だと思うが……仕方ない、俺一人で森に入る。お前は、そこらに転がってる部下共を叩き起こしてから後で来い」
「ヘイッ!」
部下はビシッと敬礼すると、気絶している部下達を蹴り飛ばし始めた。
「……さて、俺も行くとするか」
ロイドは部下に背を向けると、森の中へと入って行った。
もう一方、森の中を進むレイ達はというと……。
彼らは闇のギルドと遭遇以降、時折遭遇する他の構成員達と戦闘を繰り返す羽目になっていた。
【視点:レイ】
最初に闇ギルドの先兵と戦った直後の話。
兵士のロウは、国王様の元へ戻って報告を済ませると言ってきた。
「一人で大丈夫ですか?」
「問題ありません、勇者殿! 兵士長の裏切りを報告せねば国王様の命が危ぶまれます。自分は、これでも土地勘がありますので、気配を消しながら動くくらいは可能ですから!」
一刻も早く報告をすべきという彼の判断は間違いじゃない。僕達も自分達の目的を優先しないといけないし、ここは彼を信じて任せることにした。
そして、それ以降――
「しゃああああああ!!」
「しねえぇぇぇぇぇ!!」
相変わらず黒装束の怪しい恰好をした男達が襲ってくる。
僕達はその度に応戦していた。そして、4度目の襲撃を乗り越えて……。
「ぐあああああああ、まさかこの八ノ隊の
最後に立っていた男が、自分をアピールしながらその場に崩れ落ちて気絶する。
「はい、お疲れ様」
ノルンはそう言いながら両手を「パン」と叩くと、黒装束が倒れている地面が割れて、黒装束達が飲み込まれる。そして、その後何事もなく地面が元に戻っていく。
「さ、行きましょ」
ノルンはそう言いながら、疲れた様子もなく軽い足取りでどんどん先へと進んでいく。僕達は疲れ果てながらも、足を引きずって彼女の後を付いていく。
僕達は何度も発生する遭遇戦に疲労して判断力が鈍ってきていた。
「姉さん、僕、いいアイデア思い付いたんだけど……」
「え、どうしたのレイくん。なんか目が据わってるけど……」
「……いっそ、聖剣で森ごとふっ飛ばして追い払えばいいんじゃないかな……」
「わーーー、レイくんが壊れたあぁぁぁぁ!!」
僕のちょっとした発言に姉さんが過激に反応してしまった。
「ダメよ、サクライ・レイ」
そこにノルンが足を止め、淡々とした声で僕を言い咎めてきた。
「じょ、冗談だけどさぁ……そうしたくなるくらい面倒っていうか‥…」
「お優しいレイ様でも、一線を越えると過激な発言をするのですね。わたくし、レイ様の新たな一面を垣間見ることが出来て嬉しいです」
レベッカは何故か目をキラキラさせて喜んでいた。
そこにサクラちゃんが「うん、うん」と頷きながら言った。
「でもレイさんの気持ちも分かりますよー。こんなネチネチ何度もしつこく攻めてくる相手と長く付き合いたくないですしー、いっそ全部バーンって感じで終わらせたいですよねー」
「だよね、だよねっ!?」
「今のレイは普段のサクラ並にテンションが狂ってきてますね……」
「エミリアさん、それ、わたしが普段からテンションおかしいって言ってます?」
「そう言ってますね」
「むうぅ~!」
「み、皆……意外と元気だね……あはは」
案外賑やかな仲間達を見て、ルナは愛想笑いを浮かべる。
「……まだまだ元気そうね、あなた達」
僕達の様子を呆れた目で見つめるノルンはそう呟いた。
「全然元気じゃないんですけど!?」
「空元気を限界まで回してるだけですよっ!!」
僕とサクラちゃんは抗議の声を上げる。
しかしノルンは聞く耳を持たず、そのままスタスタと歩いて行ってしまう。
僕達は慌てて彼女を追いかける。そしてしばらく歩くと……。
「はい、また団体様登場よ。頑張って」
「……」
ノルンはそう言って後ずさりして僕達の後ろに後退していく。前を見ると、ついさっき見たような黒装束の団体様がこっちを見て叫んでいた。
「居たぞ、こいつが例の勇者一行だ!!」
「ヒャッハー!! 六ノ隊の俺達がこいつらを切り刻んでやるぜぇぇ!!」
「……………………はぁ」
僕はため息をつく。どうしてこうも、次から次に湧いて出てくるんだろう。
僕は仲間の為に命を賭けるのも厭わないし、それがたとえ苦難の道だったとしても全力で突き進む覚悟は持ってるつもりだ。そして、敵であってもなるべく相手の事を考えて頭を働かせる努力はしている。
だけど、この黒装束の意味分からない連中は別。こいつらは僕達の敵であるけど、正直僕達と直接対峙してるわけじゃなく成り行きで戦ってるだけの相手だ。
なら和解できるかと思うところだが、こいつらはこっちの言葉など聞きやしない。例えを挙げるなら、その辺でエンカウントする魔物と似た様なものである。
「……姉さん、良いよね?」
「え、何が……って、レイくん怖い怖い!! 冷静を超越して顔の筋肉が凍り付いて無表情になってるよっ!!」
僕が静かにそう言うと、姉さんが慌てた様子で僕の顔を覗き込む。そして、後ろではノルンが少し感心したように僕を見ている。まぁ、別に大したことじゃない。ただ、僕も流石にイラついてきたというだけだ。
「
僕は剣を抜きながら、聖剣の名前を呼ぶ。
『……何、レイ』
若干強張ったようなブルースフィアの声が僕の脳内に響き渡る。
「――聖剣解放、出力20%くらいなら死なないよね?」
『………あ、うん。あなたでもキレることがあるのね』
僕が聖剣を構えて戦闘態勢に入ると、黒装束達が一斉に襲い掛かってきた。
――――そして。
「――
レイの聖剣の力で、黒装束達に無数の光の槍が降り注ぐ。
「ぎゃああああああああああああああ!!!!!」
「まぶしいぃぃぃぃぃぃぃぃ!!!」
「うおおおおおおおおおおおっっ!!!」
「……あ、俺たち死んだわ」
――その日、森の一部では光の雨が時折何度も降り注いだという。
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