第620話 森の落とし穴

 森を散策するその道中、助けた兵士のロウは目を醒ました。

 彼は、突然上司の兵士長に襲われてしまい、命を落とす所だったらしい。

 

 何故襲われたのかロウ自身にも分からなかったが、謎の少女ノルンによって国の古い歴史を聞かされ、ロウを裏切った兵士長が【フォレス王国】と対立する【闇ギルド】の組織の者であることが推測された。


 そして、レイ達は【闇ギルド】と遭遇し戦闘になってしまう。

 しかし闇ギルドの人員は数こそ多いがさほど戦闘慣れしておらず、レイ達は少人数で連携しながらも戦いを有利に運んでいった。


 しかし、孤立していた兵士ロウは闇ギルドの一人と戦い劣勢になってしまう。


「あっちが騒がしいな。さて、雑魚と遊ぶのはこの辺にして終わらせるか」

 ロウと地に伏せた闇ギルドの一人の男は、余裕綽々といった様子でニヤリと笑う。

 腰に差していた短刀を再び引き抜き、ロウに止めを刺そうとする。


「……ッ、舐めんなぁああっ!!」

 ロウは怒りを込めて叫び、剣を振り上げる。


「無駄だよ」

 男は冷たく告げると、右手に持った短剣を振り上げる。

 そして、ロウの喉元に狙いを付けて一気に振り下ろした……はずだったのだが。



【視点:レイ】


 ―――ドゴオォ!!!

 ロウさんに止めを刺そうとした男の顔面に、僕の剣の鞘が直撃した。


「がふぅ!?」

 不意打ちで受けた衝撃によって、彼は体勢を大きく崩し仰向けに倒れる。


「ゆ、勇者殿!?」

「ロウさん、無事ですか!?」

 僕は倒れていたロウさんに声を掛けて、手を差し伸べる。


「か、かたじけない……勇者殿……」

 ロウさんは僕の手を取って立ち上がり、感謝の言葉を告げる。

 彼が無事であることを確認すると、僕は背後の仲間達の方を振り返る。


「レイさーん、こっちは終わりましたよー♪」

「闇ギルドとか偉そうに言ってましたが、雑魚ばっかりでしたね」

 サクラちゃんは僕の方に手を振り、エミリアは足元に転がっている黒装束の男達に冷たい視線を向けて言い放つ。


「こ、こいつら……」

「無念……」

 転がっている黒装束の男達は、仲間達の手によって倒されたようだ。

 黒装束達は、地面に身体を擦りつけて悔しそうな表情を浮かべている。


「み、皆、凄い……!」

「……なるほど、勇者って言われるだけあるのね」

 ルナは皆を尊敬した目で見つめ、ノルンは相変わらず淡々とした口調で呟く。


「さて、これで終わりかな……っと」

 僕は剣を鞘に納めようとしたのだが……。

 最後に吹っ飛ばした男が、顔の血を拭いながら起き上がった。

 僕達は警戒しながら男の方を睨んで武器を構え直す。


「こ、コノヤロウ……俺の、歯が……半分折れちまったじゃねぇか!!」

 男は口から大量の血を吐きながら、僕を恨みの目で見つめて短剣を強く握る。


「まだやる気?」

「闇ギルドの三ノ隊のかしらの俺がこの程度で終わるわけねぇだろうが!!」


 この人、一応リーダー格だったんだ……。

 僕は心の中でそう思いながらも、油断せずに相手の出方を伺う。


「(隙だらけに見えるけど、殺気だけは強いな)」

 僕は冷静に分析しながら、どう対処しようか考える。


「クソ、殺してやる……!!!」

 リーダーを名乗った黒装束の男は、素早い動きで僕に襲い掛かってくる。


「勇者殿、ここは自分が……!」

「ロウさんは休んでて、すぐ終わる!」


 僕は彼にそう言って、向かってくる黒装束を睨む。


「死ねええっ!」

 相手は叫ぶと同時に、手に持った短剣をこちらに投擲してきた。


「!」

 僕はそれを剣で軽く弾き飛ばす。が、それは囮だったようで、男は両手から闇のエネルギーを放出させて、それをレーザーのように僕に向けて放った。


 瞬間、僕は素早く横に動く。すると、僕がさっきまで立っていた地面がジュワっと焼ける様な不快な音が聞こえた。足元を見ると、黒く焦げて煙を上げていた。


「ちっ、避けられたか! だが、次で終わりだ」

 男は再び闇のエネルギーを両手に放出し始める。


「……そうだね。次で終わりだよ」

 僕は男にため息交じりで言葉を返し、一瞬で彼の目の前に移動する。


「なっ!?」

 男は驚いた表情を見せた後、僕の剣の柄による一撃を無防備に腹で受けてしまう。その男は、そのまま白目を剥いてぶっ倒れて気絶してしまった。


「お疲れ様、これで全員かな」

 こうして、僕達は闇ギルドの先兵相手に勝利を収めた。


「それにしても、この人、三ノ隊の頭とか言ってたよね」


 僕は剣を鞘に納めながら、さっき倒した男をチラリと見る。ロウさんは倒れている男の傍にしゃがみ込み、顔を覗き込む。


「自分、聞いた事があります。『闇ギルド』には十以上の隊があって活躍の序列によって数字が若くなるらしいです。特に三ノ隊からは、暗殺や戦闘などにも長けていて、闇ギルドの中でもトップクラスに強いと言われています」 


 ロウさんの話を聞いて、レベッカは興味深そうに黒装束の男を見つめる。


「ふむ……ではロウ様、この者は三ノ隊という事なので、それなりの実力者だったということでしょうか」


「かと思います」


「レイ様、どうでしたか?」

 レベッカはこちらを見てそう質問してきた。感想を聞いているようだ。


「……多分、強いんじゃないかな?」

「……『手応え無かった』という顔をしてらっしゃいますね?」


 ギクリ。


「いや……まぁ弱くはないと思うよ」

「つまり、強くは無かったと?」

「……」


 彼らは魔法の扱いも優れているようだし動きも早かった。しかし、集団行動を主軸に置いてるせいか単独での戦闘力は特筆すべきものは無かった。今倒した彼にしてもずば抜けているように感じなかった。


 多分、暗殺や諜報活動ばかりやってて、実戦は慣れていないのだろう。


「流石、勇者殿……闇ギルドの三ノ隊相手に、そこまで強気とは……!」

「いや、言ってない言ってない」

 唖然とするロウさんに、僕は慌てて否定する。


「油断は禁物ですよ、レイ。もしかしたら他の部隊もこの森の中に潜んで、私達の命を狙ってるかもしれませんし」


「言ってないけど……まぁ気を付けよう」

 エミリアは、僕達に警戒を呼びかけるように言う。

 僕は諦めて彼女の言葉に賛同する。


「ひとまず、こいつらを縛っておこう。姉さん、<植物操作>で――」

「その必要は無いわ」

 僕が姉さんに指示しようとすると、ノルンがこちらに歩いてくる。


「ノルン?」

「ここは私の森の中よ。さぁ、この悪人共を森の外へ放り出しなさい」

 ノルンはそう呟くと、両手を地面につけて魔力を込める。すると、突然地面が揺れ始めて、大きな地割れが発生した。そして、黒装束の男達を飲み込んでいく。


「うおっ!?」

「ぎゃゃああっ!」

 男達は悲鳴を上げて、そのまま落ちていった。


「ちょっ……!!」


「これでオッケーよ。心配しないで、一応殺していないわ」


「え、どうみてもアレ、助からないような……」


「死んでないわ。彼らの命はこの森と共にある」


「それって森の養分になったってことでは――」


「さぁ、先を進みましょう。急がないと日が暮れるわ」


 ノルンは僕の言葉を遮るようにそう言い、スタスタと歩き始めた。


「……」

 仲間に視線を向けると、各々が何とも言えない顔をしていた。

 僕達は諦めてノルンの後を付いて行った。

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