第613話 お姉ちゃん大好きっ子
一時間後―――
五人は時間通りに僕の部屋にを訪ねてきた。そして全員集まったところで、僕はベッドに腰掛けて先程の兵士がくれた資料を読み始める。
エミリアとルナはソファーに座って他の皆は床に座っている形だ。
『セレナ・カトレット、年齢24才。出身国ゼロエンドで本来の職業は冒険者。1年前にこちらの国に船に渡って、王都フォシールで占い師として生計を立てていた。見た目は黒髪黒目の珍しい外見である。』
「黒髪黒目って、この世界だと珍しいんだ……?」
ルナは隣に座っているエミリアの方を向いて質問する。すると、エミリアは自身の黒髪を弄りながら言った。
「言われてみれば少し珍しいかもですね。私の家族は皆黒髪だったのですが……」
「美しい黒髪で、わたくし憧れてしまいます」
「私としてはレベッカの輝く様な銀色の髪の方が素敵だと思うんですけどね……」
エミリアはレベッカの言葉に照れて仄かに顔を赤く染める。
「……続けるよ」
「あ、どうぞ」
エミリアの了解を得て、僕は再び資料を読み上げる。
『占いの的中率は九割以上と非常に高い。性格は普段は温和だが、お金の事になると少々がめついところがある。
見た目の美しさと端正な顔立ちが相まってクールな印象に見えるが、実は意外と怒りっぽく占い料が高いと文句を言われただけで、突然怒りだして客を追い出したなどの例もある。』
全員の視線がエミリアに集中する。
「……なんですか?」
「いや、誰かさんに凄く似てるなぁって……」
「わ、私そんなにがめつくないですよ!」
昨日の隠れ処の店主の対応を思い出すととても言い訳出来ないと思う。
「流石エミリアさんのお姉ちゃんですね♪」
「エミリア様と同じく芯の強そうな女性でございますね」
「こら、そこの二名。暗に私ががめつくて切れやすいと言っているでしょう」
「そ、そこまでは言ってませんよぉ~……」
サクラちゃんはエミリアの剣幕に軽く押されて、語尾を小さくしていく。
「ま、まぁそれは置いておいて、次を見ようよ」
「ふふ、どのような方なのか楽しみでございます♪」
レベッカは楽しそうに言う。
「……じゃあ、続き読むね」
僕は皆の会話は途切れたところで再度読み始める。
『更に、王都に到着するまでの街道では、民族衣装に着替えて顔を隠して道行く旅人に声を掛けて、「そこの貴方、運気が乱れています。これを部屋に飾ればきっと良い事が起きるでしょう」と言っては通行人に変な置物を売りつけている姿が目撃されている。
ちなみに、その商品は売った後に、何の効果も無いガラクタだと気付いて、買わされた旅人が彼女の元に押しかけて文句を言いに行ったところ、『それは私ではありません、別人です』とすっとぼけた発言をしたそうだ。
彼女は衣服を変えて顔を隠していたの断定出来る証拠が無く、旅人は泣き寝入りすることになったという情報もある。』
「「「「「………」」」」」
全員が黙ってエミリアを見る。
「私じゃないですよっ!!」
「い、いや、でもセレナさんはエミリアちゃんのお姉さんだし……」
姉さんは言い辛そうにエミリアに言葉を返す。
「す、素敵なお姉ちゃんだね!」
「……ルナ、無理矢理擁護しなくていいですから……」
エミリアは目を伏せて隣に座っているルナの頭を撫でる。
「と、とりあえずこの事は忘れて次のページに行こうよ! えーと、次は……セレナさんの占い結果について書かれているみたいだよ」
僕は話を逸らす様に、慌てて資料を捲る。
『セレナの占いの的中率の高さが話題になり、フォレス国王に直々に何度も城に招かれたこともある。
フォレス国王は国の行く末を占って貰ったり、後継ぎを誰にするかなど、様々な悩みを相談していたが、セレナは全て完璧に答えていた。
しかし相手が国王ということでセレナは大人しく言う事を聞いていたが、次第に依頼料を跳ね上げていくため、フォレス国王も困っていた。
そして国の祭典の際、フォレス国王にゲストとして呼ばれた時に『この国の人達は金払いが悪い』と漏らしてしまい、それが理由で国民達の反感を買ってしまい、フォレス国王は仕方なく彼女に城への出入り禁止と、一カ月間の業務停止命令を言い渡した。
彼女はそれを聞いて憤慨して、その日の夜。酒場で悪酔いして絡んできた他の客と騒動を起こして、店に置いてあった家具や商売道具を荒らし、怒った主人に多額の損害賠償を請求され、彼女はしばらく大人しくなったという。』
「「「「「………」」」」」
資料の内容を読んだ仲間達は、セレナという人物の自由奔放っぷりに呆れて静まりかえっていた。
「い、意外とやんちゃなんだねぇ……」
「わたくし、セレナ様の印象が変わりました……」
「……私は昔からセレナにはお酒飲ませないようにしてたんですよ……」
エミリアはどこか遠い目をしながら呟いた。
「……えと、ここまでのセレナさんの事を纏めると。
セレナさんは占い師としては超一流だけど、それ以外の部分は自由奔放で我が強い性格。
しかもお金にがめつくて、姿を隠して詐欺行為を働いてバレそうになってもシラを切り続ける無敵の人で、しかも酒癖が悪くて切れやすい、控えめに言ってもトラブルメーカー。悪く言えば、シンプルに性格の悪い人ってことでオッケーかな」
「妹の私の前で、そこまで言わなくてもいいでしょう!?」
エミリアは僕の言葉に半ギレして言い返してくる。
「い、いや……でもこの資料を読むとそうとしか思えないし……」
エミリアの姉という事で、僕はエミリアをそのまま大人にしたような美人でカッコよくて強い女性を期待していた。
しかし、現実は非情である。
強いことは強いが、むしろ
「ち、違うんですよ……セレナは身内の私には凄く優しかったんです。相談すればなんでも答えてくれるし、欲しい本はすぐに買ってくれたし、私が何度魔法を失敗しても夜遅くまで指導してくれたし……ただ、ちょっとばかりお金が好きでお酒に弱くて……それに……セレナは……」
エミリアは俯いて肩を震わせながら話す。
「……エミリアちゃん?」
「エミリア様?」
「……セレナは、私の事を大好きだと言ってくれたんです。……だから、私は―――!!」
色々な感情が込められた彼女の一言。
その言葉を聞いて、僕達はセレナさんを疑う事を止めた。
「……エミリアがそこまで言うなら良い人なんだろうね」
彼女の言葉は、僕がセレナさんに描いていたイメージと変わらない。
「ふふ、そうでございますね。エミリア様の言葉なら間違いありません」
レベッカは彼女に優しく微笑んで言った。
「そうねぇ、セレナさんに会いたくなったわ」
「エミリアさんのお姉ちゃんは素敵な人だったんだね♪」
「……はい、自慢のお姉ちゃんでした」
三人の少女達の言葉に、エミリアは顔を上げて涙を拭く。
「でも今の所、肝心の居場所が分かる情報が無いですねー」
「うん、ちょっとページ飛ばそうか」
僕はサクラちゃんに頷いて、ペラリと資料を捲る
『セレナの占いの的中率は、彼女が王都に滞在している間に飛躍的に高まっていった。占い料は高額になっていったが、それでも占って貰う人が後を絶たなかった。
しかし、ある日を境に占いを休業することが多くなり、外出することが多くなった。そして、今から二週間ほど前に突然失踪した。』
「……これは」
「セレナさんの身に何かが起こったのかしらね」
僕達の視線がエミリアに集中する。
「……セレナの事なら多分大丈夫ですよ。元々放浪癖がありましたし、フラリと何処かに旅立っただけだと思います」
エミリアは苦笑しながら言う。
どうやらそれほど心配はしていないらしい。
「じゃあ、セレナさんの行方は結局分からずじまいなのかな……」
僕はそう呟いて、ページを更に捲る。しかしそこで目に付いた一文があった。
『彼女が失踪する数日前、どうやらセレナは無許可で森に入ったところを数人に目撃されている。その時、彼女は小さな女の子を連れていたようだ。
そしてどういう経緯かは不明だが、今、その少女は彼女が住んでいた家に住んでいるらしい。確かめる為にその家に向かったのだが、鍵が掛かっており事実確認が出来なかった。』
これは………!?
「女の子ってまさか……!!」
「あの家に籠ってた子だよね、サクライくん!」
ルナの言葉に、僕は強く頷く。
「……なるほど、ここでようやくあの子供とセレナが繋がるんですね」
エミリアは納得したような表情を浮かべる。
しかし、他の三人は何のことか分からず困惑させている。
「三人共、知ってるの?」
「わたくし達は、その資料に書かれている少女の事を知らないのですが……」
「もしかして、レイさん達会ったことがあるんですか?」
姉さん、レベッカ、サクラちゃんがそれぞれ訊いてくる。
「実は……」
セレナさんの情報を得る為に街を駆け回っていた時に、セレナさんが元々住んでいた場所の情報を得て確認しに行ったところ、謎の少女が住み着いていたことを確認したことを伝える。
また、その少女は街の住人には
「……ふむ」
僕達の話を聞いた三人の反応はそれぞれだった。
「つまり、その女の子の正体を探ることが、セレナ様の居場所を推測する手がかりになると……」
「……森を探索してて、その少女を連れてきた……つまり、その子は……」
「森に棲んでたってこと……じゃ、無いですよね、流石に……」
三人とも自分の考えを口にして、僕の話を聞いていくうちにどんどん顔を強張らせていく。記述の通りに考えていくとセレナさんは何か理由があって森へ向かい、そこで少女と出会って街に連れ帰ったということになる。
セレナさんの居場所も気になるが、まずその少女の正体が謎すぎる。その少女に話を聞けば、セレナさんの居場所を突き止められるかもしれないが……。
「一度少女と話そうとしたんだけど門前払い喰らったんだよね」
「いきなり『帰って』と言われて、家の鍵を掛けられてしまいました」
「私なんて殆ど姿も見れなかったよ……」
僕の言葉に、一緒に彼女の家を訪れていたエミリアとルナも同調する。
「ならば、今度はわたくしたち全員で向かいましょう」
「でも子供に懐かれやすいレイくんでもそれなら大変かもねぇ」
姉さんはそう言って困った顔をする。
「あ、わたしに任せてください、わたしも子供の相手をするのは得意ですから♪」
サクラちゃんはそう言って元気よく挙手する。
「うん、なら今回は皆で行ってみよう」
「はい! 任せてください!」
サクラちゃんは嬉しそうに大きく返事をした。
外を見ると既に日が傾き始めていたが、僕達は行動を開始した。
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