第606話 肉料理が食べたい

【三人称視点:ベルフラウ、レベッカ、サクラ】

 フォレス国王と謁見したものの、結局森の探索許可を貰えなかった三人。

 しかし、有無を言わさない国王の態度に彼女達はどうしようも出来ずに引き下がることしか出来なかった。


「ああああーーーーー!! あんの、わからずやーーーー!!!」

 城を出て兵士たちの目から逃れたと同時に、ベルフラウの我慢していた怒りが爆発し、大声で叫んだ。

「あぁもうっ!! 何が『森に入るのだけは許さん!!』よっ! あんなのただの頑固ジジイじゃない!! 何処をどう見たら私達が邪悪に見えるって言うの!? 本当にムカつくわ!!」 


「べ、ベルフラウ様、気をお沈めくださいまし!」

「兵士さん達に聴こえちゃいますって!」


 レベッカとサクラは、珍しく憤怒する彼女の機嫌を宥める。


「こんな時にカレン先輩がいてくれたらなぁ……」

「そうでございますね……。カレン様ならきっと、こんな状況でも何とかしてくださりそう……」

「……」

「……」


 二人はそう静かに笑い合うが……。


「「……はぁ」」

 そのカレンが今、呪いで倒れてしまっていることを思い出したのか、再び表情が暗くなっていく。


「しかし、どういたしましょうか。あの様子ではまた懇願しに行っても許可を頂けそうにありません」

「でも、引き下がるわけにはいかないよね……!」

 二人はどうにかして解決手段を考えようと話し合うが、いい案が浮かばない。しかし正攻法で解決策を見出そうとする二人と違い、ベルフラウは別の考えを持っていた。


「――ねぇ、ちょっと良いかしら」


「ん? どうかしましたか、ベルフラウ様」


「何か思いついたんですか?」


「うん。この際、国王の許可なんか無視して勝手に森に入りましょう」


「「えぇ!?」」

 思いがけない提案に驚くレベッカとサクラ。


「そ、そんな事したら流石にまずいのではないでしょうか……?」


「わたし達、一応国の代表って事になってるんですよ! 万一バレたら、グラン国王陛下に迷惑が……っていうか、下手すると国際問題になっちゃいます!!」


「バレなきゃ大丈夫よ」


「ええー?」


「べ、ベルフラウ様、お気持ちは理解出来ますが……」

 二人は焦って説得しようとするが、ベルフラウは聞く耳を持たないようにブツブツと何かを呟いている。というより二人よりも深刻に状況を考えていて、時間を掛けている場合ではないと判断していた。


 カレンのだけではなく彼女に生命力を分け与えているレイも危うい。しかし、レベッカとサクラはその事を知らない。それを知るのは本人たちと、レイから話を聞いた自分だけだ。


 だけど、レイに口止めされているため、その事を二人に話すことは出来ない。


 故に、今のベルフラウは手段を選ばない。

 仮にグラン国王の面子を潰すことになろうと、レイやカレンの命を助けることを最優先に考える。今のベルフラウは、自分の大切な仲間達以外の事など眼中に無かった。


「……ひとまず、今は宿に戻りましょう。レイくん達に許可が下りなかったことを話さないとね」


 そう話すベルフラウの目に迷いは無かった。レベッカとサクラは、彼女の雰囲気が普段と違う事を肌で感じながらも、彼女の言葉に頷く。



「……はい。分かりました」

「……了解です」

「ありがとう。じゃあ早速行きましょ」


 こうして、三人は急ぎ足で宿屋に戻るのだった。


 ◆◆◆



【三人視点:レイ、エミリア、ルナ】


 ―――一方、その頃。

 レイ達はセレナの事を後回しにして、盗賊に貰った地図を頼りに隠れ処かくれがの場所を探していた。その為に王都の南の方にある大衆食堂へ入る。



「お邪魔します」

「まーす」

「ど、どうも……」


 レイとエミリアは冒険者食堂に入る時のノリで食堂の扉を開ける。

 その二人の後ろからルナが控えめに付いていく。


「いらっしゃいませー」

 カウンターの奥にいた女将のような女性が笑顔で迎えてくれた。


「おや、お客さん達、もしかして他所の国から来た旅人かい?」


「はい、今日着いたばかりなんですよ」


「あら、そうなのかい。なら今日は特別に安くしてあげるよ」


「本当ですか!? ありがとうございます!」


 レイは、その女性に対してあどけない笑顔を向けながら対応する。

 ちなみに、彼は特に意識しているわけでは無い。


「(わー、サクライくん笑顔可愛い……)」

「(こういう時は出会った時と変わらないですねぇ……)」


 レイと女将の会話の様子を見ていた二人は心の中で呟いていた。

 その間、レイはカウンターの女性と応対して注文内容を決めていく。

 そして一通り注文したところで、レイは礼儀正しく頭を下げた。


 女性は注文を聞いた時に何故か目を細めたが、すぐ笑顔に戻っていた。


「――では、お願いします」

「あいよ。少し待ってておくれ」


 女性はそう言って厨房へと戻っていった。

 レイは振り返り二人に声を掛ける。


「お待たせ、それじゃあ席に着こうか」

「はい」

「サクライくん、誰にでもあんな笑顔向けるんだね……」

「え!?」

 ルナの言葉にレイは戸惑った表情を向けるが、三人はひとまず案内されたテーブルに向かい、席に着いた。


 ◆◆◆


 そして、ゆっくり食事を済ませる。


「……しかし、本当にお肉が無いんですね」

 エミリアは全て平らげた後、そう呟いた。


「そうだね。野菜中心の料理が多かったかなぁ……」

 話で聞いていた通り、この国は自然と共に生きることをモットーにしている国だ。その為か、この国の主食はパンのみで肉類は一切無い。その代わり、野菜が豊富なメニューとなっていた。


「自然を大事にする国なのに、野菜は普通に食べるんだね……」

「まぁ、野菜を食べないと死んじゃうし……」


 ルナの言葉にレイは苦笑しながら答える。たまにお肉を禁じている人は居るが、往々にしてそういう人達も野菜はしっかり食べている。この国の人達もそうなのだろう。


「……それで、レイ。ここでゆっくり食事を食べてた理由は何ですか?」

「あ、うん。それなんだけどね……」


 レイは盗賊に貰った麻袋から小さな紙切れを取り出す。


「その紙にはなんて書いてあるんです?」


「えっとねぇ……『南の大衆食堂の女将に、特定のメニューを頼め』って書いてあるよ」


「なんですか、それ。もしかして合言葉的な?」


「それと食事の最後にお店の人を呼んで、『今日は人が空いていますね』って話し掛けるんだって」


「まんま合言葉じゃないですか」


「で、その後、お店の人が『野菜ばかりで飽きちゃったんだろうね』って言葉を返してくれるっぽい」


「それで終わり?」


「ううん、それが最後にこっちが『知ってますか、魔獣のお肉はとっても美味しいんですよ』と言うと、お店の人が地下に案内してくれるそうだよ」


「なるほど。そこに隠れ処があると」

「随分と手が込んでるんだね」


 二人は納得がいったようでウンウンと首を縦に振っている。


「じゃあさっそくお店の人を呼ぶね」


 レイは二人にそう伝えて、テーブルの中心に置かれたベルを振る。すると、カランカランと音がなり、その音を聞きつけたさっきの女将さんがこちらにやってきた。


「はいはい、どうかしたかい? 何か追加で頼むものでもあったのかい」

「ごめんなさい、忙しそうなのに……ええと、ですね」


 そう言いながら、レイは先程と同じように笑顔で女将さんに話しかける。

 そして、書かれた通りの合言葉を口にした。


「それにしても、『今日は人が空いていますね』」

 女将さんがその言葉を聞いた瞬間、冷たい目をした気がする。

 しかし、それも一瞬。次の瞬間には、人の好さそうな笑顔をこちらに向けてくる。


 だが、女将さんは―――


「……ええ、そうだねぇ。もしかしたら、『野菜ばかりで飽きちゃったんだろうね』」


 ……と、合言葉通りの言葉を口にした。


「……『知ってますか、魔獣のお肉はとっても美味しいんですよ』」

 レイは最後の合言葉を口にする。


 すると、女将さんは笑顔を張り付かせたまま、冷たい口調で言った。


「―――ふぅん、坊やのような子供達がこんな言葉を知ってるなんてねぇ……来なよ」

 レイ達はその言葉を聞いて席から立ち上がり、女将さんの後に付いていく。


 案内されたのは、カウンターの裏の勝手口だった。


「ここだよ」

「ありがとうございます」

 レイ達は女将さんに礼を言う。女将さんは、そのまま食堂に戻っていった。


「……さ、じゃあ行こう」

 レイは勝手口の扉を開ける。そこには薄暗い地下へ通じる階段があった。


「……ちょっと怖いね」

「まぁ、この先に向かう場所は、盗賊が足を運ぶような場所ですからね」


 怖がるルナをエミリアは宥めるように言う。

 そして、レイ達はその階段を下りていったのだった。

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