第605話 お姉ちゃん>王様

【三人称視点:ベルフラウ、レベッカ、サクラ】


 レイ達がエミリアの姉のセレナを探している頃、三人は国王に会うために城の城内を歩いていた。道中、すれ違う人々は皆、レベッカ達に好奇の眼差しを向ける。


「なんか、見られてる気がするわ……」


「ふむ、ここの方々は民族的な衣装を身に纏ってらっしゃいますからね……我々のような異国の衣装は珍しいのでしょう」


 ベルフラウの言葉にレベッカはそう推測して答える。


「(……レベッカさんも大概変わった格好なんだけどなぁ……)」


 サクラは彼女の身に纏う衣装をまじまじと観察しながら考える。


 彼女の言う通りこの国の人達はターバンのような帽子を皆頭に被っており、妙に布面積の多いローブを身に纏っている。


 だけどレベッカの着ている露出多めの薄布巫女服もかなり異質だ。それにベルフラウさんのドレスも結構露出が多くてアダルトな雰囲気がある。


 この国の人達から破廉恥だと思われていないだろうか?

 と、心配になるサクラだった。


 だが、サクラも胸元の露出が目立つ軽鎧を纏っている。彼女本人も自分が目立ってる事を自覚しておらず、自身を微妙に客観視出来ていなかった。


 三人が奥に進むと、謁見の間の扉の前まで辿り着いた。扉の前には剣を携えた兵士二人が立っていて、レベッカ達の姿を見て話しかけてくる。


「止まれ! お前達は何者だ!」

 兵士たちは彼女達を見て、険しい表情をして睨み付ける。自分達があまり良い印象を与えられていないと感じたベルフラウは、代表して前に出て、毅然とした態度で言い放つ。


「私はサクライ・ベルフラウ。グラン・ウェルナード・ファストゲート国王陛下の命により、ファストゲート大陸からこの地に参上致しました」


「何? ……あの名君と名高いグラン国王の使いの者だと?」


「はい、これが書状です。国王様にお目通り願えないでしょうか?」


 ベルフラウは事前に受け取っておいた書状の入った筒を兵士に手渡す。


「……」

 書状を手渡された兵士二人は、顔を見合わせて頷きこちらに向き直った。


「……しばし待て、国王様に伺ってくる」

「はい」

 そう言って、一人の兵士は中に入っていく。上手くいったようだと、ホッとしたベルフラウ達だが、もう一人残った兵士達にこう言われた。


「貴殿達がファストゲートの使いの者なのは理解した。

 しかし、その衣装は何だ。この国では国王と謁見する際は、民族衣装を羽織って出なければならないという決まりがある。他国の者にそれを強要するのは些か憚られるが、せめてその不埒な衣装だけは変えてもらわねば困る」


「……えっ? 初耳なのだけど……」


「貴殿らの国の伝統を蔑ろにする気はないが、郷に入りては郷に従えという言葉もある。その衣装を外して、別の服を着てもらいたい」


「そう言われましても……」


 レベッカは困惑して、ベルフラウを見る。


「私達、これ以外持ってきた服装は似た様な物しか無くて……」


「ならば仕方ない……」


 兵士はそう言ってため息を吐き、近くに通り掛かった別の兵士を呼び留める。


「おい、悪いがこの三人に身体を隠すためのマントと、顔を隠す布を持ってきてやってくれないか?」

「あぁ、わかった」


 そうして、兵士が立ち去った後、数分後に戻ってきた。


「待たせたな。ほら、これを羽織りなさい」

「わざわざ申し訳ありません」

 レベッカは礼を言いながら、兵士から渡された布を肩に掛けてその身体を覆い隠す。そして、もう一つの小さな布で目元から下を隠した。


「これで良し。さ、入るが良い」

 兵士がそう言うと、扉が開かれた。


「ありがとうございます」

 そして、三人は謁見の間へと足を踏み入れた。


 ◆◆◆


 ベルフラウ達は謁見の間に入り、玉座に腰掛ける王の前で膝をつく。すると、ベルフラウ達に向けて年老いた老人の声が掛かる。


「旅人よ、面を上げよ」


「……はい」

「お言葉のままに……」

「はーい」


 三人はそう返事を返し、ゆっくりと頭を上げる。

 そこには、王座に腰掛けたの一人の老人の姿があった。


「遠路はるばる御苦労であった。

 我が名は、アウスト・フォレス・クーザリオン。この国の王である」


 国王は厳かに言った。


「サクライ・ベルフラウと申します。お会いできて光栄ですわ、フォレス国王様」

「わたくしはレベッカでございます」

「サクラ・リゼットです」


 ベルフラウ達が自己紹介を終えると、続いて国王は言った。


「うむ、此方こそ会えて嬉しいぞ。さて其方らはあの英雄王の使いの者と聞いておる。書状の内容は先程目にしたが……改めて問う。そなた等は何故、この大陸にやって来たのだ?」


「はい、説明いたしますわ……」


 ベルフラウはこれまでの経緯を話し始める。自分達は現代に蘇ったかつての魔王を討伐する為に行動しているという事を。


 そしてその魔王の呪いに侵された大切な仲間を助ける為に、この大陸の何処かにあるとされる神依木かみよりぎを探しているという事。


 その為に、このフォレス大陸の森の中の探索許可が欲しいという旨を伝えた。


「ふぅん……成程。事情は理解した」

 話を聞いた国王は、腕を組んで目を閉じて何かを考え込むように呟いた。


「だが、我が国としては残念ながら森への立ち入りは禁止せざるを得ない」


「そんな!」


「神依木は我らフォレスの民にとっても一刻も早く探し出しておきたい。

 だが、それを我らフォレスの民以外の者に探させるわけにはいかぬ。大昔の伝承のように神依木が人間の手によって傷付けば、今度こそ我らの国は神に見捨てられよう。済まぬが、どうか諦めて貰いたい」


「……」

 断られると思っていなかった為、国王の言葉にベルフラウは絶句する。

 だが、ここで諦めるわけにはいかない。

 温厚なベルフラウもこの時だけは真剣な表情で声を高くして国王に意見する。


「なら国王様! 私達だけでは信用ならないと仰るなら、フォレスの兵士様達を監視に付けてもらっても構いません!」


「ならぬ。他所の国の人間が森に入ること自体が問題なのだ。それに、もし其方らが万が一にも悪しき心を持っていた場合どうなる? この大陸の森は神聖なる地。そこに立ち入りを許して何かあった場合、我らはついに神に見放されてしまう」


「そんなことは致しません!!

 私達は大切な仲間を救うためにここまで来たんですっ!!」


「フォレスの国王様、ベルフラウ様の仰る通りでございます。わたくし達はこの国に危害を加えることはございませんし、神依木もあくまで仲間を救うために探しているだけでございます」


「二人の言う通りです!! お願いします、わたし達を信じてください!! わたし達は、大事な人……カレン先輩を救いたいだけなんです……お願いします……!!!」


 ベルフラウの言葉に、レベッカとサクラが加わり王様を三人で説得する。

 だが、フォレス国王は信じられないほど堅物だった。


「……気持ちは分かる。だがダメだ。森に入るのだけは許さぬ!」


「どうして!?」


「どうしても何もない。これは国の方針だ。

たとえ英雄王の使いと言えども例外は無しじゃ。諦めてくれ」


頑として聞き入れようとしない。

そんな堅物に、我らが元女神様……ベルフラウは切れた。


 ベルフラウは巻かれていた布切れとマントを脱ぎ捨てて叫んだ。


「いい加減にしてください!!あなたそれでも一国の王なんですか!?」

「な、何だと!?」


 突然の事に驚く国王。


「べ、ベルフラウ様!?」


「あわわ、落ち着いてベルフラウさん。相手は王様ですよっ!」


 レベッカとサクラは、突然切れたベルフラウをなだめようと声を掛けるが、今のベルフラウには聞こえていない。


「だいたい、あなたは何を言っているのですか!?

 フォレスの国民でもない人達が勝手に森に入ろうとしても駄目だって!?

 ならフォレスの国民以外はどうなっても良いって事ですか!!!」


「貴様、我が国王と分かってそのような暴言を吐いているのか!!」


「えぇ、そうですともっ! そもそも、こんなに頼んでるのに神依木の捜索を許可してくれない時点で、国王は頭が固いんですよっ!!」


「言わせておけば……!! おい、この無礼者を捕らえて牢屋送りにしろ!!!」

「ハッ!!」


 国王の命により、三人の少女の周りにフォシールの兵士たちは取り囲み、武器を構える。


「ちょ、これヤバいですって!」


「ベルフラウ様、ここは一旦逃げましょう!!」


 サクラとレベッカが慌ててベルフラウに声を掛ける。彼女であれば、例え兵士に取り囲まれたとしても一瞬で脱出が可能だ。

 交渉は失敗してしまったが、この場で私達が捕まってしまっては、私達を信頼して任せてくれたレイ達に申し訳ない。

 ならば、この場をどうにかして切り抜けなければ。


 ――しかし、ベルフラウは逃げずに毅然と言った。


「―――アウスト・フォレス・クーザリオン。貴方は勘違いしている!

 神依木はこの国だけじゃなくて、全ての人間を導くために神が身を削って作り出した聖木。フォレスの民であろうがなかろうが関係無い。例えこの国がフォレスの民だけのものであっても、フォレスの民以外が触れてはならないなんて事は無い!!」


「な、何を偉そうに……!! 貴様に何が分かるというのだ!!」


 フォレス国王は、ベルフラウの謎めいた威圧感に気圧されながら言い返す。


「―――分かるわ! 私も、その神依木を作ったことがあるもの。神がどういう気持ちを込めて人間界にそれを送ったのか、全て理解しているつもりよ!!」


「……ッ!!?」

 その言葉に、国王は絶句した。


「ま、まさか、其方……自身を神だとでも言うつもりか!」


「……さぁ、どうかしらね。でも、私が神様の立場ならこう言うわ。『儂は、全ての人間の為に神様として頑張っとるんじゃ! お主らだけ特別扱いなぞせんわ!』ってね!!!」


 ベルフラウは威圧的な笑みを浮かべて言い放った。


「……ベルフラウ様、それはミリク様の真似では」

「細かいことなしよ、レベッカちゃん」


 ベルフラウはレベッカに向かって軽くウィンクをする。


「生意気な……だが、何故だ。

 其方の言う事に、何故か納得してしまう我が居る……何故」

 フォレス国王はブツブツ言いながらベルフラウ達を睨み付ける。だが周囲の兵士は、国王からの命令が途切れた為か困惑の色を隠せないようだった。


「こ、国王様……一体どうすれば………!!」


「この者達を牢獄に連れていけば良いのでしょうか……?」


「うむぅ、どうしたものか……!!」

 国王は悩んだ末、兵士達に命令を下す。


「……下がれ。先程の命令はこの際破棄する」


「……は?」


「二度は言わぬぞ」


 国王の言葉に、兵士は疑問符を浮かべながらもベルフラウ達の周りから離れていった。


「国王様……!?」


「国王様、よろしいのですか!?」


「……構わん」


 すると、兵士達に動揺が収まり、武器を収めて元の位置に戻っていった。


「……ほっ」

 先程までの緊張がようやく解けたサクラはホッと一息付いて胸を撫で下ろす。


「……旅人よ。其方らの言葉をそのまま鵜呑みにしたわけではないが、今回の件は不問に処す。だが、次はないと思え。そして、神依木については諦めてくれ」


「……えぇ、分かったわ」

「……分かりました」

「……はい」


 ベルフラウ達は半ば追放されたような形となり謁見の間を出ることになった。

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