第604話 ルナちゃん嫉妬中

【三人称視点:レイ、エミリア、ルナ】

 レベッカ達を見送った後、レイ達は渡された地図を確認しながら王都を街を散策する。


「……とはいえ」

 レイ達はフォシールの街をしばらく歩き回ってみたのだが、他の国と比べると、少し異質な雰囲気があるような気がしていた。民族衣装と言うべきなのか、町を行き来する人はターバンのような被り物と、全身を覆うローブを着用している。


「この国の人達は、肌を露出させない服装が多いみたいですね」

「そうだね。でも別に暑いわけじゃないみたいだし、むしろ涼しいくらいだよ」


 樹木が多いからか、マイナスイオン的な空気の流れを感じる。しかし、顔まで布で覆っているのはやりすぎだろう。これじゃあまるで砂漠の民だ。


「これじゃあ人探しも手間ですね。いくら私似の美人の姉でも顔と髪を隠されると見分けがつきません」


「え、エミリアさん。自信満々ですね……実際、美人だし……羨ましい……」


 ルナはエミリアの自意識過剰な発言を聞いて若干引き気味になる。

 しかし、少し羨ましそうにも聞こえる。


「……うーん、どう探すかなぁ……」


 僕は彼女達の発言を聞き流して頭を回転させる。


「あ、スルーですか」


「サクライくん、冷たくない?」


「いや、だって……エミリアのこの手の発言にはもう慣れたし……」


 昔はもっと奥ゆかしいイメージだったんだけど、いつからこうなったのか……。


「なに、『昔は良かった』みたいな顔してんですか。それ言い出したらレイは揶揄ったらもっと可愛い反応してくれましたよ。全く、無駄に大人になりましたね」


「無駄って……」

 人の成長をそんな風に言うんじゃありません。


「ねぇ、サクライくん。エミリアさんは前は印象違ったの?」


 ルナは僕達の話に興味ありげに質問してくる。


「うん、最初に会った時は普通に可愛いヒロインって感じだったよ。あ、ファンタジーのヒロインって意味で」


「私、ファンタジー小説とか読まないから分かんないけど……」


「……なんかよく分かりませんが、人をどこぞの創作のテンプレに当てはめるのは納得がいきませんね」


 エミリアは不機嫌そうな表情を浮かべる。

 ルナなら通じると思ったんだけど、通じなかったかぁ……。


「レイだって、昔は純真無垢な少年って感じだったじゃないですか」


「僕は今でも純粋です」


「嘘つきなさい。最近は実力が付いたから無駄に強者感出して変なオーラ纏ってるじゃないですか」


「何のオーラだよ」


「『今は笑ってるけど、僕の家族に手を出したら怒るよ?』的なオーラ」


 間違ってはいない。別にオーラは出してないけども。


「……なんか、サクライくんとエミリアさんって本当に仲良いよね……」


「んー、そうですか? まぁ、パーティ組んで二年も経つと色々ありますし」


 エミリアはルナの言葉に、少し照れ臭そうに返す。


「まぁ今はその話は良いよ。それよりもエミリア、セレナさんに何か特徴ないの?」


「私に似てる以外でですか?」


「うん」

 僕が頷くとエミリアは、「うーん」と唸ってから語る。


「流石にセレナを見てから時間が経ってるので、断言できませんが……。セレナは私よりも長く髪を伸ばしていましたね。魔法使いにとって、女の髪は魔力を高める効果があるので」


「へえ、でもエミリアはそこまで長くはないよね」


 僕が言うと、エミリアは自分の胸元辺りまで伸びた髪を手で弄って言った。


「戦闘中に引っかかったりして危ないですし、あんまり長い髪は好きじゃありませんね」


「エミリアさん、綺麗な黒髪なのに伸ばそうと思わないの?」


「んー……まぁ、伸ばした方が似合うっていうなら……(チラッ)」


 エミリアは僕に視線を向けて自分の髪を触りながら呟く。


「……いや、まぁ似合いそうだけどさ」

「……さ、参考にします」


 エミリアは顔を赤く染めてそっぽを向いて答えた。


「(……いいなぁ、エミリアさん)」

 そして、エミリアを羨ましそうに見つめるルナ。


「エミリア、外見以外でセレナさんの特徴はないかな?」


「んー……性格はちょっと気が強いところがありましたね。あとは魔法の研究が好きでした。……後はそうですね、私のこと大好きでしたね。昔から」


 エミリアは得意げに語る。


「なのに、突然旅に出ちゃったんだ……」


「う……あの人、思い立ったら即日行動し出すので……」


「その辺の性格はおそらく変わってないと」


「はい……」


 なんとも言えない表情で俯くエミリア。


「でも、そうなると下手するとこの国からもう去ってる可能性あるよね」


「その場合、諦めるしかありませんね……。セレナが居なくても、空からの捜索が可能なルナと索敵が可能な私がいれば何とかなると思いますけどね……」


 エミリアの言う通り、見つけること自体は可能だろう。

 ただし、その分時間が掛かってタイムリミットが近づいてくる。


「ま、ここで考えても仕方ないですし、片っ端から声掛けましょうか」

「そうだね……誰かが知ってるかもしれないし」


 僕達はそう考えて、通りかかる人に声を掛けることにした。


 ◆◆◆



 それから1時間。僕達は分かれて道行く人に聞き込みを行った。


「どうでしたか?」

 1時間経過したため、僕達は待ち合わせの場所に集合し、お互いの成果を報告し合ったのだが、セレナ本人の情報は得られなかった。


「ダメだね。少し前までセレナって名前の人は居たみたいなんだけど、最近は誰も見てないんだってさ」

「そうですか……」


 エミリアは残念そうに肩を落とす。


「ルナの方はどうでした?」


「ううん……ちょっと走り回ってエミリアさんに似た人を探してたんだけど、みんな民族衣装着てて遠くからじゃ判別も出来なかった。ごめんね……」


「いえ、気にしないでください」

 エミリアは申し訳なさそうに謝るルナに優しく微笑む。


「僕も似たような感じかな。ルナの言うように、ターバンとかローブを着てたら流石に分からないよ」

「こうなると、姉と再会は出来そうにありませんね……」


 エミリアは少し寂しげに言う。


「あ、でもねエミリアさん。二週間くらい前に『セレナ』って人が占い屋をやってたって情報はあったよ。今はもうそこには居ないみたいだけど、一度行ってみる?」


「本当ですか!? 行きます!」

 ルナの提案に、エミリアは表情を明るくする。


「じゃあ決まりだね! 行こう!」

 こうして僕達三人は、ルナの案内の元、目的地へと出発した。


 ◆


 数分後。僕達は目的の場所に向かった。

 そこは、街の西の隅っこにある小さな小屋のような家だった。


「聞いた話によるとここらしいんだけどね。今は、セレナさんは居なくて別の人が住んでるらしいよ」


「そっか……まぁ、でも確認だけはしてみようか」


 そう言って、レイはその小屋の扉を軽くノックしてみる。


「すみません、誰かいらっしゃいますか?」


 すると、中から足音が聞こえて扉の裏で足音がピタリと止まる。

 そして僅かに扉が開き、その隙間から顔だけを出してこちらの様子を伺う少女がいた。


「……どちら様ですか?」


 警戒心剥き出しの少女は、鋭い目つきで僕達に尋ねる。


「えっと、僕達はセレナさんを探してるんだけ――」「帰って」

 一言。

 そして次の瞬間には扉がバタンと閉じられた。


「ちょ、ちょっと待って!」

 レイは慌ててドアノブを掴むが、鍵が掛けられているのか開かない。


「か、鍵閉められちゃったみたい……」

「今の少女……まさか、あの人がセレナさんってわけじゃ……?」

 ルナはエミリアの方を振り返って質問するが、当然、エミリアの答えは「ノー」だった。


「セレナはあんな若くないですよ。目元しか見えませんでしたが、見た感じ10歳くらいじゃないですか」


「だ、だよねぇ……」


 ルナはエミリアの言葉に苦笑する。


「でも困ったな……このままじゃ帰るに帰れないよ……」


「ふむ、こういう時は強硬手段を取るのはどうです?」

 エミリアの強引な提案にレイは、首を横に振って答える。


「それは止めておこう。僕達が無理矢理入ったところで、あの子が素直に教えてくれるとは思えない」


「じゃあどうするんですか?」


 エミリアは呆れて溜息をつく。

「(……子供の警戒を解く方法か……)」


 レイは考える。彼女の信頼を得て、扉を開けてもらう方法は無いだろうか。セレナという言葉を聞いて、すぐにドアを閉めたという事は、彼女は多分何か知っているのだろう。それに、女の子が一人で住んでいるというのも不自然だ。何か理由があるに違いない。


「うーん……」

 僕達は小屋から少し離れた場所で話し合う。


「子供の警戒を解く手段ですか。……甘いお菓子で釣るとか?」

「下手をすると誘拐犯みたいだよ、それ」


「なら……『私達と一緒に遊ぼう!』と言って一緒に遊ぶとか?」

「多分、警戒されてるからそれも難しいかな……」


 彼女の目は明らかに僕達を怪しんでいた。取り付く島もないといった感じだ。


「あ、じゃあ鍵開けの技能でこっそり入るとか?」

「泥棒じゃん……」

 ルナの提案を即座に却下する。


「なら八方塞がりじゃないですか」

「そうだけど……。うん、一旦諦めようか……」

 彼女がセレナの事を知ってるかどうかは不明瞭だ。ちょっと気になるけど、今は他の場所で情報収集に努めた方が良いかもしれない。


「セレナさんの捜索は後回しにして、例の隠れ処に行こう」


 僕は小屋と反対の方向に歩き出す。


「サクライくん、いいの?」


「仕方ないよ。無理に押しかけてもあの子を怖がらせちゃうかもしれないし」


「まぁ、それが無難ですね」

 レイの考えに、エミリアは渋々同意する。


「それじゃあ、行こうか」

 レイの言葉に二人は頷き、そのまま小屋を離れていった。

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