第603話 あ、野生の盗賊がとびだしてきた!!

【視点:レイ】

 僕達はカレンさんを助ける為に、神依木があるとされるフォレス大陸に向かった。船の中で、僕達は自身を鍛え直すために模擬戦を行い、三日目の午後に目的の地へ到着した。


 僕達は船から降りて、港を出る。


「ここがフォレス大陸か……」

 レイは目の前に広がる光景を眺めて呟く。港を出ていくと小さな町と繋がっているようで、宿や食事処など最低限の施設は用意されている。


 海を渡ってきた旅人はここで身体を休めてからフォシールへ向かう。フォシールはここからでもその城の外観が見えるくらいの距離だが急げば1時間程度で着くはず。


「どうしますか、レイ様。ここで一泊なさいますか?」

 レベッカの質問に僕は首を横に振って答える。


「いや、流石にそんな時間は無いかな。このままフォシールまで行こう」

 自由気ままな旅ならともかく今は時間は無い。僕達は相談してすぐに城に向かう事を決める。ちなみに、フォシールはフォレス王国の王都に当たる都市だ。


 僕たちはそのままフォシールに向けて歩き出す。舗装された周囲は深々とした木々がある以外は何も無く、ただ平坦な道を歩いて行った。


 が、途中で木々から二つの影が飛び出してきて、こちらに向かってくる。


「っ!?」

「モンスターですか!?」

 僕達は武器を構えて現れた相手を僕達は警戒して身構える。

 だが、現れた相手は魔物ではなく、二人の人間の男だった。


「へへ、ここを通りたければ有り金置いていきなっ!」

「盗賊なめんなよオラァ!!!」

 現れたのは盗賊のようだった。筋肉質の肉体にいかにもな盗賊ルックの格好をした男達が、ニヤつきながら武器を手にして立ち塞がっていた。


 双子なのか髪の色も顔つきも似ていて、衣装もそっくりだった。


「さ、サクライくん。盗賊だって、怖い!」

 ルナは彼らの雰囲気に怯えて僕の手を握って肩を震わせて身を寄せてきた。


 ただ、僕達の反応は彼女と違っていた。


「なんだ盗賊か」

「人間で安心しましたね」


 僕とサクラちゃんは顔を見合わせてホッとする。


「ええ……?」

 僕とサクラちゃんの反応を見て、ルナはやや引いたような目でこちらを見る。


「お、おい、お前ら何言ってる!?」

「と、盗賊なめんなよオラァ!!」


 僕たちの反応に慌てる盗賊たち。

 どうやら、この手の反応には慣れていないらしい。


「いえ、盗賊など久しぶりに遭遇しまして……」

「あちらの国は舗装された道でも魔物と遭遇しますので……こうして、賊が伸び伸びと活動出来ている辺り、こちらは平和な国なのでしょうね」


「……」

 エミリアとレベッカの言葉に盗賊たちが絶句する。


「それで、何の用でしたっけ?」


「いや聞いとけよ。ここ通りたければ有り金出せって言ってるだろ!」

「盗賊なめんなよオラァ!」


「ああ、そうだった」

 あまりのこちらのマイペースさに思わず男達は若干毒気が抜かれてしまっているようだ。


「(うーん、どうしよっか……)」

 彼らの武装は大したことないし数もこちらの方が圧倒的に優位だ。

 仮に襲って来ても簡単に返り討ちに出来てしまうだろう。


「あのー、盗賊さん。いい?」


 姉さんは手を挙げて彼らに何か質問しようとする。

「私達、ちょっと急いでるの。お金なら少し払うなら通してくれない?」


「は? 何言ってんだておめぇ?」

「盗賊なめんなよオラァ」


 姉さんの提案に男達は困惑するが、要求を突っぱねる。

 片方の盗賊、さっきから同じことしか言ってない気がするんだけど……。


「だからね、平和的に行きましょうってことよ。私達、一刻一秒を無駄にしたくないくらい急いでるの。だからその物騒な物を仕舞ってくれるかしら?」


「……と、言われてもなぁ。どうする、兄弟?」

「……盗賊なめんなよオラァ」


「いや、さっきから片方『盗賊なめんなよオラァ』としか言ってないんだけど……」


 さっきまで僕の手を握って震えていたルナが思わず突っ込む。

 毒気を抜かれた盗賊の一人は、それでも威圧する様に顔を強張らせて武器を構えたまま僕達に言う。


「盗賊業はそんな甘いもんじゃねーぞ!! 最近は大陸の外からやってくる旅人も少ないから俺らの収入も殆どねーんだ!」

「盗賊なめんなよオラァ」


「あ、もうそれ止めていいから」


「……。とにかく、こっちも生活がかかってるんでなぁ。悪いが、吹っ掛けさせてもらうぞオラァ」

「盗賊なめんなよオラァ」


「……」

 盗賊の片割れのセリフに、エミリアが無表情のまま額に青筋を浮かべ始めた。


「ああ、もう面倒ですね……!!」

 そう言うと、エミリアが前に出て、指をパチンッ! と鳴らす。

 その瞬間、彼女に目の前に一瞬炎が発生し、盗賊たちはそれを見て怯む。


「いい加減にしてくださいね。こちらは譲歩してるのです。これ以上その『盗賊なめんなよオラァ』とか言って要求突っぱねるのなら実力行使に出ますよ」


 エミリアは二人の盗賊に手をかざして強く威圧する。


「……ど、どうする?」

「……盗賊なめん………いや、もう言わねえよ」

 

 エミリアの気迫に押されて、流石に盗賊たちも大人しくなった。


「……盗賊さん、それで引いてくれますか?」


 僕は前に出て改めて二人に質問する。


「ああ、アンタら悪い奴じゃなさそうだし、そこの嬢ちゃんの要求を呑むぜ」


 悪い奴はアンタらだろと突っ込みたくなったが触れないでおく。


「ただ、金は要らねえよ。代わりに、今ある食糧と水をくれ。それともう一つ、この先のフォシールの隠れ処かくれがにある肉を調達してきてくれ」


 彼らの要求に、僕は思わず首を傾げる。


「それは構わないけど、何故にそんなものが必要なの?」


「見て分かる通り俺らは盗賊だ。フォシールに入ればお尋ね者として捕まっちまう。下手に金銭貰うよりも食料の都合が良いんだよ」


「あと、この国で肉を食おうと思ったらその隠れ処に行かないと無理だからな。普段は夜こっそりフォシールに侵入して自分達で調達しに行くんだが、アンタ達に頼んだ方がリスクが少ない」


「成程ね……」

 つまり、彼らは犯罪者として国から追われている身なので、堂々と街中に入ることは出来ない。そこで僕達を利用して食料を確保しようという訳か。


「呆れたものでございますね。それなら普通に働けばいいではありませんか」

 レベッカはため息を吐いて彼らを睨み付ける。


「……そうしたいところだが、俺らも慣れ合えねえ理由があるんだよ」


「理由?」


「悪いがそれは言えねぇ。が、要求を呑んでくれるなら俺たちは大人しく武器を収めるぜ。隠れ処の場所は教えるから夜中にでも持ってきてくれ」


「分かった」

 こちらとしても、レイの食事処の場所を知りたかったから悪い話じゃない。

 僕達が承諾すると、二人は安堵したように武器を仕舞った。


「よし、取引成立だ」

 そして男は小さな麻袋をこちらに投げ渡してくる。

 中にはいくらかの金貨と王都の見取り図の紙が小さく畳まれて入っていた。


「これは?」


「そこに例の食事処の場所が書いてある。俺たちは、王都から少し離れた林に待機してるから肉の確保が出来たら夜にでも持ってきてくれ。叫んでくれりゃあすぐ出ていくよ。あ、あと絶対警備兵連れてくんなよ!?」


「分かった。約束するよ」

 僕は彼らに手持ちの食料と水をいくらか渡し、男達は安心したような顔で去っていった。


 ◆◆◆


 盗賊たちと別れて歩き始めてから三十分経過した頃。


「ねえサクライくん、さっきの盗賊たち逃がしても良かったの?」


 僕の隣を歩くルナは納得いかなそうな顔で僕に質問をする。


「あー、何かされたわけじゃないし構わないよ」


「そうかもしれないけど……」


「もし彼らが攻撃して来たらそのときは容赦しなかったけどね」


「レイは甘いですねー。私に任せておけば、あいつらを追い払って面倒事も引き受けなくて済んだのに」


 エミリアは僕の前を歩いていたのだが、振り向いて僕の顔をジト目で見る。


「エミリアがやり過ぎると後々問題になるから止めて欲しいんだけど……前だっていきなり上級獄炎魔法ぶっ放してたじゃん」


「悪党に容赦しなくていいんですよ。今まで旅人を襲ってたんでしょう?

 あの盗賊を捕まえて王都に無理矢理連れて行けば、私達感謝されたかもしれません。上手くいけば森の探索許可も快く受け入れてくれたかもしれませんよ?」


 エミリアはもっともらしいことを言う。

 だが、僕は気付いている。彼女がそこまで考えてないことに。


「嘘だ、絶対そんなこと考えてなかったでしょ?」


 僕はエミリアに言い返す。


「……まぁ、今考えましたけど」


「やっぱり」


「……とはいえ、確かにエミリア様の言うことも一理ありますね」


「レイさん優しいからねー。あ、でも今回はベルフラウさんの提案ですよね?」


 サクラちゃんは僕と姉さんを交互に見つめて言った。


「……まぁ、わざわざ波風起こす必要ないじゃない?」

「うん、姉さんの言う通り」


 僕は姉さんに同調する様に頷く。

 本当の所、面倒事を避けたいから姉さんはああ言ったのだろう。とはいえ、逆に手間を増やしてしまった可能性も否めないところだけど……。

 

「それより、ようやく着いたみたいだよ」


 僕達は足を止めて正面を見泡足す。

 そこにはレンガのような赤石によって構成された壁と門があった。


 門の外には、独特の鎧を被った兵士が一人立っている。兵士はこちらをちらりと見て、頭の兜を外す。兵士は二十代後半くらいの青年だった。


「ようこそ、フォシールへ。キミ達は船でこの大陸に来た旅人かな?」


「はい、そうです」


「では、入国審査をするので付いて来てくれ。荷物は一旦こちらで預かろう」


 彼は僕らに背を向けると、門の中へと歩き出す。門の中は綺麗に整備された石造りの街が広がっていた。遠くに見える王宮は、白を基調とした巨大な城で、その周りを囲むように城壁があり、街の外側をぐるっと囲っているようだ。


「ここがフォシールかぁ……なんか、ゲームとかに出てくる中世のヨーロッパみたいな街並みだ」


「ヨーロッパ……ふむ、レイ様の以前居た世界のお話ですか?」


「うん、実際に見たわけじゃないから想像だけどね」


 僕は初めて訪れた異国の景色を見て、思わず感嘆の声を上げる。


「レイはどこに行っても目を輝かせて感動しているわね」

「そう? ……でも、今は街の情景をゆっくり眺めてるわけにはいかないね」

 僕は少し気を引き締める。


「では、こっちに来てくれ」

「はい」

 僕は代表して、兵士さんの居る場所に連れていかれる。

 それから十分ほどの時間、僕は兵士さんの質問に答えた。


「ふむ、荷物も不審なものはないしいたって普通の旅人だ。では質問を終わらせてもらおう。これで自由に王都を歩いて構わない。預かっていた荷物も返そう」


「ありがとうございます」


「いやいや、これも仕事だからな」


「それで質問ですけど、この街の宿屋ってどこにありますか?」


「それならここからまっすぐ行って、右に曲がればすぐ分かるよ」


「分かりました、ありがとうございます」


 僕はお礼を言って、兵士さんと別れた。


「お待たせ皆、宿の場所を聞いたからまず宿屋に行こう」

 僕たちは兵士さんに教えてもらった道を辿って宿に到着して中に入る。その後、ロビーで全員分の部屋を数日分借りて、部屋に荷物を置いてから再び集合した。


「さて、これからだけど……」

 僕は集まった皆を見て話を切り出す。


「まず、フォシールの国王様に森の探索許可を取ること」

「レイ様、約束通りそちらはわたくし達にお任せくださいまし」


 僕がレベッカの方に視線を移すと、レベッカは笑顔で頷いた。


「良いの?」

「はい、わたくしとサクラ様とベルフラウ様で国王陛下に挨拶して参ります」


 レベッカは二人に視線を移す。


「任せてください! レイさん♪」

「ま、こういう時はお姉ちゃんに頼ってくれると嬉しいかな?」


 二人も快く引き受けてくれた。サクラちゃんがちょっと心配だけど、いざという時に丁寧な対応が出来る二人がいれば大丈夫だろう。


「では、レイ様達はその間どうなさいますか?」

「うん、まずエミリアのお姉さんを探さないとだけど……」

 アドレーさんの情報によると、一年前にエミリアの姉であるセレナがこの大陸に向かったという。


 しかし、今もまだ滞在してるかは不明だ。

 だが、彼女の力を借りればこの大陸の神依木を探し出せるかもしれない。


「エミリアさんがいればセレナさんは簡単に見つかりますよね?」


 ルナはエミリアにそう質問するが、エミリアは苦笑して答える。


「どうでしょうね。あの姉、私でも行動が読めないところがありますから……」


「じゃあ僕達は三人でセレナさんを探そう。それと例の隠れ処かくれがかな。そっちは、地図を貰ってるから時間は掛からないと思う」


 僕は盗賊から貰った麻袋を取り出して皆に見せる。


「なるほど、ではここで一旦解散という事で」


「うん、じゃあよろしくね。レベッカ、サクラちゃん、姉さん」


「承知しました」


「了解~♪ レイさん達も気を付けてくださいね」


「そっちは任せるね。レイくん」


 三人は僕達に手を振って、城の方へ向かって行く。僕達は彼女達を見送った後、渡された地図を確認しながら王都を街を散策することになった。

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