第600話 レイくん、強くなりたい
朝食中――
食事をしながら僕は、悶々とした気持ちでエミリア達を見ていた。
「……」
「レイ、私の顔に何か付いてますか?」
彼女をジロジロ見ていると怪訝な表情で尋ねられる。
「い、いや、なんでもない……」
僕は首を振って誤魔化す。
「そうですか。何故か変な目線で見られてる気が……主に、口元を見られているような……」
「レイくん、エミリアがどうかしたの?」
姉さんに質問されて僕は首を振る。
「いや、本当になんでもない……」
どういうわけか彼女の事が気になって仕方ない。
それと同時に、彼女に対して謎の申し訳なさを感じていた。
「でも、レイさん。部屋から出てきた時、妙に顔が緩んでましたよね」
「……もしや、レイ様……如何わしい春画を読んでいたのでは……?」
レベッカが顔を赤らめながら僕におかしなことを言った。
というか、春画って何?
「サクライくん、えっちな本の事だよ」
「んなっ!?」
呆れた表情で僕を見ていたルナが解説してくれる。
「レベッカ、なんでそんな事知ってるの!?」
「(あ、そっちに反応するんですね……)」
エミリアはお茶を啜りながら呟いていた。
「というか、今更春画も無いでしょう……。レイの事だからベルフラウに頼めばいいわけですし」
「うん、どんとこいだよ!」
姉さんは胸を叩いて自信満々に言った。
「んなこと姉に頼むわけないでしょ!?」
「……えっ、でも私とレイくんは義理の姉弟なのに……」
うちの姉兼女神様は地味にショックを受けていた。
「あれ、そもそもエミリアさんとレイさんってお付き合いしてるんじゃ? 図書館の地下でそんな事言ってましたよね?」
「……」
「……」
サクラちゃんがぽつりと言った一言に、僕とエミリアは無言になる。
「サクラ様……そこはわたくし達が踏み込んではいけません」
「えっ!?」
「お姉ちゃんですら触れないようにしてたのに……」
「ベルフラウさんまで!?」
「……そうなんだ……私、地味に失恋しちゃった」
ルナは僕に聴こえるか聞こえないか微妙なトーンでそんな事を呟いた。
「……というより、私達が居ながら皆どうしてこんな話題を出してるんですかね」
「……マジで勘弁してほしい」
僕はテーブルに突っ伏して顔を隠す。
その後、微妙な雰囲気になった僕達は、無言で食事を終えた。
そして皆が部屋に戻ろうとするタイミングで、僕は考えていた事を切り出した。
「皆、ちょっと待って」
「ん?」
僕が声を掛けると皆がこちらを振り向く。
「どうしたの、レイくん。やっぱり溜まってるからお姉ちゃんの部屋に来る?」
「違うよ! 何とんでもないこと言ってんのさ!」
「冗談だってば」
僕のツッコミに女神様は微笑む。
この女神様、最近色々ぶっちゃけ過ぎじゃなかろうか。
「それで、どうしたんですか?」
「うん、フォレス大陸に着くまでまだ時間があるんだよね。だからちょっと相談があって」
「ふむ、確かに到着は明日の夜くらいと聞いておりますが……」
レベッカは聞いた話を思い出しながら言った。
「……最近、身体が鈍っててさ。また魔物との戦いを考えるなら、今の間にちょっと勘を取り戻しておこうかなって」
「なるほど、そういう事でしたらわたくしもお供致します」
レベッカが真っ先に手を上げた。それに続いてサクラちゃんも手を挙げる。
「あ、ズルい! わたしも参加します!」
「レイにしては珍しいですね。つまり、模擬戦の相手が欲しいと?」
エミリアに問われて僕は頷く。
「うん、エミリアも出来ればお願いできる? あと、姉さんも来てほしい」
「え、私も……? 私じゃレイくんの相手にならないと思うんだけど……」
「大丈夫。別に姉さんと戦おうとは思ってないよ。ただ、船の中で模擬戦しようとするなら、姉さんの防御結界が欲しくて。他の人に迷惑掛かるからね」
「あ、なるほど」
姉さんは納得した表情を見せて、頷いてくれた。
すると、迷ってたような素振りを見せた後に、ルナが僕の近くまで歩いてくる。
「どうしたの、ルナ」
僕が質問すると、ルナは少し遠慮気味に言った。
「サクライくん、見学してていい?」
「良いけど、ちょっと危ないかもだよ?」
「私はドラゴンにならないと戦えないけど、足手まといにならないように少し皆の戦いを見ておこうかなって……」
「そう言う事なら良いよ」
「ありがとう、サクライくん」
そう言って彼女は微笑んだ。
そして、場所を移して、僕達は船の甲板に出る。
「じゃあ姉さんお願い」
「はいはーい。それじゃあちょっと大きめの規模の魔法陣を作り上げちゃうね」
「私も手伝います」
姉さんとエミリアが手早く甲板全体に防御結界を敷いて発動させる。
「これでオッケーだよ。弱めの魔法くらいなら発動しても問題なし!」
「ただし、強力な攻撃は使わないでくださいね。結界が破れて下手すると船が沈みますよ」
「分かってる」
僕達の準備が整ったところで、レベッカが僕に近寄ってきた。
「では、まずわたくしとレイ様から始めましょうか」
「ん?」
僕はレベッカの言葉に頭を横に傾ける。
「……模擬戦をしようという意味で言ったのですが……」
「あ、そういう事だったか」
僕は彼女の言葉で、自分が言葉足らずだったことを自覚する。
「今回の模擬戦は一対一じゃなくて、三人同時に来てほしいんだ」
「えっ……?」
レベッカは驚きの声を上げる。そして、他の二人に目を向ける。
「それって、レイさん一人でわたし達三人を相手にするってことですか?」
サクラちゃんは自分を指差しながら言った。
「それは流石に無茶では……?」
エミリアの「無謀な」と言いたげな視線を向けられてしまう。
「うん、無茶は承知だけど……」
僕は微かに痛む胸を抑えながら言葉を続ける。
「今のままの僕じゃダメなんだよ。だから、せめて少しでも強くならないと」
「レイ様……」
レベッカが心配そうな声音で僕の名前を呼ぶ。
「まぁ、僕なりに考えての事だから、気にしないで」
「……分かりました」
レベッカは僕の意志の強さを感じ取ったのか、それ以上何も言わなかった。
◆◆◆
レイの望み通り、模擬戦が始まる。
しかし、エミリアが彼に言った通り、レイの提案は無謀で、勇者の力を得ている彼でも彼女達三人と同時に戦うのは力不足だった。
最初の方は真っ当に剣と魔法を使いながら正々堂々と戦っていたレイだったが、誰かに接近されてインファイトを挑まれると視野が極端に狭くなり、残り二人の攻撃魔法や死角からの攻撃に対処しきれなくなってしまい。
結果、午前の間だけでも5回くらいフルボッコにされて、その度にベルフラウの回復魔法で治療されるという流れを繰り返していた。
「………はぁ………はぁ………」
「……流石に、休憩にしましょうか」
疲労がピークに達して立つのもやっとなレイを心配そうに見ながら言った。
「……だ、大丈夫。まだやれるから……」
「レイ様が焦る気持ちは理解出来ますが、今の状態では……一度休憩を挟んで体力を回復させてくださいまし」
「それに、無理し過ぎて後で疲れが残っちゃいます。わたしもエミリアさんの言う通り休んだ方が良いと思いますよー?」
レベッカとサクラは、エミリアの提案に同意して、レイを諭すように言った。
「で、でも僕がもっと強くならないと、カレンさんが……」
「レイさん。あんまりわがまま言うとわたしが拳で分からせないといけなくなりますよ?」
サクラちゃんは笑顔で拳を握って僕に見せつける。これ以上言うなら、殴って気絶させて無理矢理中断させるという意思表示だ。普通に怖い。
「……休憩します」
「よろしい♪」
結局、サクラの圧力には勝てず、レイはその場で腰を下ろして休むことにした。
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