第592話 皆で調べもの
僕達が向かったのは王立図書館にある表の図書館ではなく、地下に隠匿された裏側の図書館だった。そこには厳重に封印され、限られた者しか立ち入る事を許されない場所になっている。
「うわ、相変わらず埃っぽい場所ですね……」
「師匠、掃除とかしないんですか?」
地下の図書館の中は相変わらず埃っぽい場所だった。
窓が無い場所なためロクな換気も出来ず、掃除もここ最近やっていないようで、床もテーブルも埃だらけになっており、壁には蜘蛛の巣が張られている。
「こう見えて私は忙しいのです。
サクラが掃除をしてくれるのなら助かるのですが」
「師匠、暇があればいつも本を漁ってるのに、時間が無いんですか?」
「知識を頭に詰め込むのに忙しいんです」
「それを暇と言うんじゃないんですか」
「違います」
サクラちゃんとウィンドさんの二人はそんなやり取りをしながら、どんどん奥へ進んでいく。
「そうだ。陛下と話してたことですけど、誰に何の協力を要請するつもりなんですか?」
「ああ、それですか……」
ウィンドさんは、僕の質問に軽く反応しながら奥の部屋の前に立って、ポケットから沢山の鍵が付いた鍵を取り出した。
「この部屋の中です」
ウィンドさんは鍵の一つを使ってドアの施錠を外し、扉を開ける。
部屋の中は小部屋になっており意外と狭かった。
地下の広間と違い、ここはキチンと掃除されているようで埃もあまり無かった。
「では、調べましょうか」
「(あ、結局僕の質問には答えてくれないんだね)」
僕は心の中でそう呟いた。
―――それから5時間程経過。
「か・み・よ・り・ぎ………あ、レイさん。
ここ見てください、ここに木がどうの書いてありますよっ」
「え、本当?」
サクラちゃんに呼ばれて近寄ると、そこにはそれっぽい内容が書かれていた。
『今より千年ほど昔の話。とある国同士の戦争により、国は滅び森と大地は焼け野原となった。
そこはかつて、この世界の古い神が人間に託宣を告げる為に、高さ百メートルはあろうかという巨大な大樹を作ったという。人々はそれを
「間違いない、これだね」
僕がそう呟くと、他に調べものをしていた仲間達が傍に集まってきた。
「ふむ、続きを読んでみてくださいまし」
「分かった。えっと……」
僕はレベッカに促されて、再び続きを読み始める。
『しかし、その大陸は二つの国が存在し、食料不足で苦しんでいた。
それが理由で国同士で食料を取り合い、遂には戦争が勃発してしまった。その戦争は五十年戦争と呼ばれ、長い戦いの末にどちらの国も滅んでしまったという。しかし、両国の生き残りはおり、今は一つの国として合併して平和に暮らしているようだ。
食料というライフラインを巡る戦いの為、愚かと断じることは筆者には出来なかったが、戦争のせいで「
しかし、
昔、当時の神託を受けた巫女は神の言葉を借りて言った。
「神依木はどのような天災があろうが、人災があろうが完全に滅びることは無い。だが、一度消滅した神依木は他の木々と同じように、小さな芽を出して徐々に成長していく。神依木の根は、元々あった大陸の何処かに必ず存在するが、もし愚かにもまた人間が戦争を始めるようであれば、我はその国の民を見限ることとする。」……と。
残った民たちは、その大陸の何処かにある神依木を守るために戦争を二度と起こさないと誓ったそうだ。その場所はフォレス大陸ではないかとされている。』
僕はそこまで口にしてから、続きを黙読する。
しかし、その大陸の何処に神依木があるかまでは書かれていなかった。
「……うーん、情報はここまでかな」
少なくとも、この本で得られる神依木の話はもう書かれていないようだ。
「フォレス大陸ですか……」
ウィンドさんは興味深そうにその大陸名を呟く。
「あの大陸は、船で西に向かえば数日で行くことは可能ですが、具体的な場所が分からないと捜索は困難ですね」
「そもそも、本当にあるのでしょうか?」
エミリアも神依木について書かれた本を閉じながら、ウィンドさんの意見に賛同するように呟く。
「いえ、あの国は自然を大切にする文化が根付いていたと記憶しています。
理由は分かりませんが、木々の伐採などが最低限しか行われておらず、大陸の八割が深い森に覆われているそうです。もしさっきの書物の内容が事実とするなら、 神依木を信仰している人達がいる可能性は十分高いと思いますよ」
「とすると神依木を保護するため伐採を控えているという事でしょうか」
「おそらく……」
「ちなみに、そのフォレス大陸は広いんですか?」
僕はウィンドさんに質問する。
「大陸自体はさほど広くありません。ですが、さっき言ったように大陸の大半が森ですからね。その中の何処かに神依木があったとして、それをどうやって探せばいいのかという問題があります。あの大陸にはフォシールという国があるはずなのでそこで情報収集するしかありませんね」
「もう少し、何か明確なヒントが欲しいな……」
僕達は何とか方法が無いか話し合う。
「確か、神依木はマナが多い場所に生えてるんですよね?」
「イリスティリア様はそう言ってたよ」
「では、その辺りを虱潰しに探るしか無さそうですね……」
その言葉で僕は案を思い付いた。
「なら、マナに詳しい専門家とかを連れてって、その人と一緒に森の中を探せばいいんじゃないかな?」
神依木は判別出来なくても、これならある程度範囲を絞れるはずだ。ナイスアイディアだと思ったのだけど、次のサクラちゃんの一言で現実に戻される。
「レイさんレイさん、マナの専門家が知り合いに居るんですか?」
「……」
サクラちゃんに言われて気付いた。
そういえば、そんな知り合い居なかったなぁ……。
「マナの専門家……」
すると、エミリアが意味深に呟いて、何かブツブツ話し始めた。
「エミリアちゃん、もしかして誰か知ってるの?」
姉さんはエミリアに質問する。しかし、エミリアは困り顔で言った。
「……いや、まぁ知っているといえば知ってるんですが……。その人が今何処にいるか分からないんですよね」
「それ、誰のこと?」
僕が尋ねると、エミリアは表情を固くして言った。
「私の姉のセレナですよ。私自身も彼女を探しているんですが行方不明で……」
「あ……そっか」
旅の途中で、エミリアはセレナという姉が居ることを何度か口にしていた。
ただ、結局今まで一度も会ったことが無い。
「エミリア、お姉さんと最後に会ったのはいつなの?」
「確か……私が魔法学校に在籍中の頃、突然、『エミリア、私、旅に出るわ』とか言われまして、それから一度も家に帰ってきませんでした」
「えぇ!? じゃあ、まだ生きてるかも怪しいんじゃ……」
「私としてはセレナが無事で居ることを祈りたいのですが……」
エミリアは困ったような表情をする。
「エミリアさんのお姉さん……どんな人なんですか?」
サクラちゃんは楽しそうにエミリアに質問する。
「どんな人……そうですね……」
エミリアは頭の中で少し考えてから、皆の方を向いて答える。
「出ていった頃のセレナは今の私に似てましたね。まぁ要するに美人です」
「「「「「………」」」」」
一瞬の間。
「黙らないでください」
「いやそうじゃなくて、他の特徴とか無いのかなって」
エミリアが美人な事は否定しないが、それだけでは何の手掛かりにもならない。
「エミリアさん、貴女、自己評価高いんですね」
ウィンドさんは真顔で言った。
「は? 別に高くないですけど?」
「……」
「だから黙らないで下さい!」
「女性は、もっと謙虚な方が人に好かれますよ?」
「は? 私は十分謙虚ですよ?」
「(いや、何処がだよ……)」
「(自覚無いのね、エミリアちゃん)」
僕と姉さんは彼女の態度を見て心の中でそう思った。
「レイ、私謙虚ですよね、美人ですよね?」
「……………うん」
僕はエミリアの圧に押されて思わず肯定してしまう。
すると、エミリアは驚愕した表情で言った。
「え、何その態度……。前に私に告白した男の態度とは思えませんね」
「いや、唐突に告白したことをバラすな!」
隠すつもりはないけどそういうのは二人だけの秘密にしてほしかった。
「惚気話はその辺にしてもらえます?」
ウィンドさんが呆れた様子で口を挟む。
「いや、私はそんなつもりは……こほん、姉の特徴の話でしたね。髪も瞳の色も私とあんまり変わりません。私の趣味の魔道具蒐集も姉の影響を受けて始めたことですし、そのまま私を大人にしたような感じですかね……」
「へー、姉妹揃って凄いんですね!会ってみたいです!」
サクラちゃんは無邪気に言う。
「そうですね、サクラ達ならきっと仲良くなれそうです。ただ、その肝心な姉が何処に居るのか……」
「そのセレナさんはマナの事に詳しいの?」
「ええ、詳しいですよ。それに、マナを使った占いが得意で、もの探しが得意だと言ってました」
「ふむ……ならば、セレナ様の協力が有れば、神依木の場所が分かるかもしれませんね」
「私もそう思うんですけど……」
肝心な人物が何処に居るか分からないのであればどうしようもない。
神依木を探す前にセレナさんを探していては流石時間が掛かり過ぎてしまう。
「ねえねえエミリアちゃん、そのセレナさんの友達とか居ないの? もしかしたらセレナさんの居場所を知ってるかもしれないわよ?」
姉さんはエミリアにそうアドバイスをする。
「う、うーん……姉の知り合いですか……」
エミリアは頭を悩ませる。僕も一緒に考えるが……少しして、僕とエミリアは同時に閃いた。
「あ」「あ!」
同時に声を上げた僕とエミリアが顔を向け合う。
「そうだよ、セレナさん知ってる人居たよ!」
「あの人なら知ってるかもしれません!」
僕とエミリアは頷き合う。すると、姉さんは他の皆と同じくキョトンとした表情をしていたがすぐに思い出した。
「――あ、もしかして、アドレーさん!?」
姉さんはそう声に出して言った。僕とエミリアはそれに頷く。
「ふむ、思い当たる人物がいるようですね」
「レイ様、そのアドレーという方はどういった人物なのでしょうか?」
レベッカは興味深そうに言った。
「あ、そっか……レベッカと出会ったのはあの人と別れてからだもんね……」
僕は当時を懐かしむように言った。
「僕が転生したばかりの頃にお世話になった人でね。僕に剣と魔物との戦い方を教えてくれた凄く立派な男の人だよ、今も元気かなぁ……」
「そのアドレ―って人は、昔、セレナ姉さんと一緒に冒険者をやってた旧知の知り合いなんです。彼を尋ねればもしかしたらセレナの居場所が分かるかもしれません」
エミリアは希望を見出したような明るい口調で言う。
「なるほど、確かにそれはあり得そうな可能性ではありますね」
ウィンドさんも納得した表情で呟く。
「ではその人物を尋ねましょう。何処に住んでいるのですか?」
「えっと……ゼロタウンの近くの村なんですけど……」
「……徒歩で向かえば数ヶ月は掛かりそうですね。ですが、問題ありませんよ」
ウィンドさんはそう言ってフッと笑う。
―――それから三十分後、僕達は王立図書館を出て広場に向かった。
「―――出来ました。これで直接その場所に移動できますよ」
ウィンドさんは杖を使って地面に魔法陣を形成する。
彼女の得意な設置型の転移魔法陣だ。
「ありがとうございます。それじゃあ僕達は行ってきますね」
僕達五人はウィンドさんにお礼を言ってからその魔法陣の中に入る。
「サクラ、向こうに着いたらやることは分かりますよね?」
「こっちの魔法陣とリンクさせるって事ですよね……うう、面倒くさい」
「文句言わないでください。これもカレンを救う為です」
「はーい、それ言われたら頑張らないとですね!」
「では皆さん、上手く情報を得られることを祈っていますよ」
僕達を見送りながら、ウィンドさんは小さく手を振った。
そして、次の瞬間――
僕達の目の前には、かつて訪れた小さな村があった。
「おー、懐かしい」
「空間転移は無事に成功したみたいですね……やれやれ……」
エミリアは大きく息をつく。
「でも凄いわねぇ、こんな簡単に移動できるなんて」
姉さんは感嘆の声を上げる。
「よし、それじゃあアドレ―さんに会いに行こう」
僕はそう言って村の中を歩きだした。
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