第590話 作戦会議
胸の痛みが治まった所で僕はカレンさんの部屋を出る。
一階に戻ると、仲間達がテーブルを挟んで心配そうな表情で待っていた。
「――レイ、終わりましたか?」
エミリアが代表して僕に問いかけてきた。
「うん、これで少しは時間が出来たと思う」
「そんな効果のあるおまじないなの……でも、良かった……」
僕の答えに姉さんがホッと息をつく。
「(……ここからはなるべく平静を装わないと……)」
多少の胸の違和感くらいは我慢できるし、僕が顔に出さない限りは問題ない。途中で痛みが酷くなっても、回復魔法が使用できる僕なら多少誤魔化せる。
「(……よし)」
大丈夫、今は痛みが殆ど無い。
時間がある内に彼女達と話を続けないと。
「レイくん。どうかした?」
―――っ!
勘の良い姉さんは、僕が考え込む姿を見て何かに気付いてしまいそうだ。
僕は姉さんの質問に笑顔で答える。
「何でもないよ姉さん。それよりも、今度こそカレンさんを助けよう」
「……そうね、私達が彼女を助けてあげないと」
僕が彼女の呪いの一端を引き受けたという事は言葉にしない。
それを知れば間違いなく彼女達に心配をかけてしまう。
「当然! 先輩は絶対に絶対に助けます!」
僕の言葉に、サクラちゃんが元気よく答えた。
「サクラちゃん、少しは元気取り戻した?」
「うん!」
良かった。彼女が居てくれれば戦力的にも頼もしい。
僕はホッとして、丁度お風呂から戻ってきたリーサさんに話をする。
「リーサさんはカレンさんに付いてあげててください。僕達は今からここで作戦会議をします」
「分かりました。それでは、わたくしはカレンお嬢様のお世話をして参ります」
リーサさんが部屋に戻ったところで、僕はレベッカ以外の皆を見回す。
「じゃあ、僕達が女神様達に聞いた話をするね」
「皆様、少し長い話になると思われます。しばし耳を傾けてくださいまし」
レベッカがそう言うと、全員が静かになった。
「僕達がやらなきゃいけないことは二つ。一つは神依木(かみよりぎ)の捜索、もう一つはカレンさんに呪いを掛けた元凶を今度こそ完全に消滅させる。その二つをクリアすれば今度こそカレンさんを助けられる」
僕は、カレンさんの家に置いてあった小さなマジックボードにペンで文字を書いていく。
「レイくん、先生みたいだね」
「姉さん、これでも僕は先生見習いだよ。それで、何か質問ある?」
僕はペンを片手に皆に質問する。
「じゃあ……はい、レイ先生」
エミリアが手を挙げる。
「いや、乗らなくていいから……」
「元凶……というと、私にはイヤな予感しかしないのですが……まさか……」
エミリアは心当たりがあるのか、恐る恐るといった様子で聞いてきた。
「うん、その予想は合ってるよエミリア。魔王軍が王都に襲撃してきた時、エミリア達が対峙した異形の巨大な魔物……そいつが元凶だ」
「つまり、国王陛下が過去に消滅させた旧魔王が真の敵でございます」
僕の回答を引き継いで答えたのはレベッカだった。
「うわ、マジですか……」
「あの魔物……私達の攻撃が全く通じなかったのよね……」
「……思い出すだけで恐ろしいですぅ……」
三人は当時の事がトラウマになっていたようだ。
「わたし、あんまり覚えてないんですけど、どうやって倒したんでしたっけ?」
サクラちゃんは当時の事は思い出したくないようで記憶が曖昧のようだ。
「ああ、レベッカのお陰ですよ」
「わたくしの切り札で、こう……どーんと無理矢理倒しました」
レベッカは手で机の上を叩く様なジェスチャーを交えながら解説する。
「うへぇ……凄かったんですねぇ……」
「本当に色々と凄かったんですよ。その後、レベッカ気絶しましたし」
「あれはビックリしたわねぇ」
エミリアと姉さんは懐かしそうに話す。
「ところで、どーんって何です?」
「レベッカが隕石を降らせて押し潰しました」
「すごっ!!」
サクラちゃんの問いにエミリアが答えると、彼女は驚いていた。
「でも、次は拠点に乗り込むつもりだからその攻略の仕方は無理かもね。完全に止めをさせたか確認してないから消滅に至らなかったのだろうし、だから呪いが解除されなかったんだと思う」
「で、ございますね……何とか攻略法を見出さねば」
レベッカは僕の言葉に強く頷く。
「レイくん、じゃあ次はお姉ちゃんが質問です。はいっ!!」
姉さんはびしっと手を上に直立させる。
「この授業スタイルずっと続くのかな……はい、姉さん」
「えーっと、拠点に攻め込むって言ってたけど、場所は分かってるの?」
「陛下が勇者やってた頃に旧魔王が拠点にしてた大陸があるらしい。詳しい場所は後で調べなきゃ駄目だけど、多分そこじゃないかって言ってた」
「つまり、そこを攻め込むって事なの?」
「うん、とはいっても何の準備なしだと厳しいだろうけどね」
その大陸にはこの辺の魔物よりも凶暴な魔物が蔓延っているらしい。少なくとも、僕達五人だけでは数が足りない。グラン陛下にお願いして、おそらく兵を出してもらう必要が出てくるだろうが……。
「はい、質問です!!」
次はサクラちゃんが手を挙げる。
「はい、サクラちゃん」
「攻めるのは分かったんですが、そもそもその大陸までどうやって行くつもりなんですか? 船とかで海を渡るにしても、結構な距離ありそうですし……」
「そこなんだよね。僕達だけならカエデがいればどうにかなるけど……」
話によるとその大陸はかなりの距離があるらしい。
陸路は論外だが、仮に海の航路を使ったとしても時間が掛かり過ぎる。
「(飛空艇みたいなものがあればなぁ……)」
飛空艇というのはファンタジー小説などに登場する空飛ぶ乗り物だ。それさえあれば、海路を通らないためかなり短縮できそうだが、残念ながらこの世界で見たことがない。
「これはグラン陛下に相談案件かなぁ」
少なくとも、今すぐ答えを出せる話じゃない。
「……では、レイ様、次の議題に移りますか?」
「そうだね……よし、じゃあ次行こう」
僕はレベッカに促されて、次の話題へと移った。
「次の議題ってなんです?」
「
僕がそう伝えると、エミリアとサクラちゃんの頭に疑問符が浮かぶ。
「なんですか、それ?」
「か、かみよりぎ……?」
聞き覚えのない単語に、二人は首を傾げる。
どう説明しようかと考えていると、姉さんが二人に言った。
「
流石姉さん、自分も元神様だから神関連の話は詳しいようだ。
「その、カミヨリギを見つければカレン先輩を助けられるって事ですか?」
「旧魔王の撃破が前提条件になるけど、そうだよ。その木は、大昔の戦争で滅んじゃって場所が分からなくなってるみたいだけどね……」
「しかし、それが何処にあるか、どのような見た目をしてるのかまでは今の所不明でございます」
「成程……その
エミリアが納得したように言う。
「何かヒントは無いんですか、レイさん?」
サクラちゃんの質問に、僕は女神様に言われたことを思い出して言った。
「……マナが豊富な場所って言ってたような」
「え、ヒントそれだけ?」
「ごめん、これしか聞いてない」
「……まあ、でも確かにそれはヒントかもね。
とはいえ、この世界がどれだけ広いか私達は把握しきれてないのよねぇ」
姉さんは困った笑みを浮かべながら言った。
「レベッカとサクラちゃん。二人に質問するけど、マナってどういう場所が一番集まるの?」
僕はメンバーの中でとりわけマナの扱いが得意な二人に質問する。
彼女達二人は<精霊魔法>というマナを専門的に扱う技術に長けている。
この二人ならもっとも正解に近い場所を推測できるはずだ。
「ふむ……マナが集まる場所といえば、おそらく精霊様が沢山集まる場所かと思いますが……」
「となると、自然が多い場所……かなぁ?」
レベッカとサクラちゃんは考え込む。
「となると、森、草原、火山、天然の洞窟、等々が挙げられますが……」
エミリアは彼女達の言葉から推測して、例を挙げていく。
「神木は木だから、その中なら森か草原でしょうね」
「でも、それだと候補があり過ぎて特定できないですよぉ……」
姉さんの言葉にサクラちゃんが返す。
「うーん……地道に探すしかないんじゃないかしら」
「いや、流石にそれは時間が無さ過ぎる。どうにかして場所を絞らないと……」
姉さんの案に、僕は反論する。だけど、誰もこれ以上具体的な案が出せない。
なので、こちらもさっきと同じ結論を出した。
「諦めましょう……という事ですか?」
「いや、そうじゃなくて……」
「国王陛下に相談して解決策を絞り出そう……という事でございますよね?」
「そう、それ。……エミリア、分かってて言ったでしょ?」
僕がジト目を向けると、エミリアは悪戯っぽく舌を出して笑う。
「ジョークの一つでも言わないと、私達も挫けそうな状況ですからね。多少は許してください」
「気持ちは分かるけどね。とにかく、僕達だけで考えてても仕方ないし、まずはグラン陛下に報告だね」
僕達だけでは解決できない問題もあるだろう。現状の報告と、情報を得る為にも、国王陛下にカレンさんの事と今後の活動を伝えないといけない。
「では、今から?」
「うん、作戦会議はこれで終わり。今から王宮に向かうよ」
僕達は外出の準備を整えてから王宮に向かう事にした。
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