第588話 女神様の扱いに困るレイくん

 倒れたカレンさんを助ける為に、次元の門を通って女神様二人と対面した僕達。しかし、カレンさんの受けた呪いは女神様の力を以ってしても解呪は難しいと言われた。その事実に心が折れ掛けた僕達だったけど、最後にヒントを貰った。


『……すまぬ、其方らの力になりたかったのだが……』


「……いえ、僕も自分を見失っていました。失礼な事をしてごめんなさい」


『よい。では、話しても良いか?』

「はい」


 僕は力強く返事をする。

 そして、二人は静かに語り始めた。


『……まず、其方らがやるべきことは二つ。カレンに掛かっている呪いの元凶を断つ事。そして、この世界の何処かにあると言われる神依木かみよりぎを見つけることである』


「……呪いの元凶」

「それに、神依木かみよりぎ……でございますか?」


 レベッカも困惑気味だ。


『左様。カレンの身体に巣食っている呪いは、彼女の命を奪うものであろう。先程言ったように、余の力ではおそらくカレンには通じぬ。故に、この世界の何処かにある神依木かみよりぎの樹を見つけるのだ。それさえあれば、彼女の身体を癒すことが可能だ』


「その神依木かみよりぎ……は、神様にも効果があるのですか?」


『うむ、というよりは元々は神の為に作られたものである。しかし厄介な事に、大昔に人間同士の戦争により燃えてしまったせいで、神依木かみよりぎは滅んでしまった……と言われておる』


「……? それでは見つけようがないのでは」

 レベッカはミリク様の言葉に首を傾げる。しかし、ミリク様は言った。


『心配せずとも神依木かみよりぎの樹は絶対滅びぬ。あの樹は我ら神が存在する限り、どれだけ弱ろうが、必ずこの世界の何処かに神依木かみよりぎの根が生まれる。そういうシステムになっておるのだ。故に完全にこの世から消えることは無い』


「それって、つまり二人と神依木かみよりぎがリンクしているって事ですか?」


『ふむ、考え方としては間違っておらんぞ。逆に我ら神が死んでしまうような事があれば、神依木かみよりぎは滅びてしまう。まぁ、そのような事は無いだろうが……』


「(フラグ立てないでほしいなぁ……)」

 僕は苦笑する。


『さて、話を続けるぞ。神依木かみよりぎの根はこの世界の何処にあるか今の所は判別が付かぬ。しかし、大まかな位置を把握する手段も無くはない。神依木かみよりぎはこの世界のマナが最も集まる場所に生まれるようになっている。その場所を何としても探し当てるのじゃ』


「……と、言われても……」


 マナが多いと言われても、僕達は特別マナの感知に優れるわけじゃない。

 神依木かみよりぎの根そのものを穴を掘って探すよりは難易度は低そうだけど、どれだけの広さがあるか分からないこの世界で虱潰しに探すのが不可能だ。それこそ1年2年では到底不可能だろう。今のカレンさんがどれだけ持つか分からないのに……。


「レベッカ、知ってる?」

「申し訳ございません……」


 少なくとも、僕達に分かりそうもない。


『……むぅ、時間を掛ければ我らの力である程度絞り込めるが……』


 イリスティリア様は少し困った顔をしていた。

 どうやら、それでも限界があるようで捜索は難しいらしい。

 こちらでも調べる必要があるだろう。


「こっちでも調べてみますけど、もし分からなければお願いします」


『あい、分かった』


『その場合、出来るかぎり早く見つけるように努力ししょう』


「ありがとうございます」


『うむ。では、もう一つの方の説明に移るぞ。神依木かみよりぎを見つけたとしても、魔王の呪いを除去できなければ一時凌ぎにしかならん。故に、其方らには呪いの元凶……旧魔王の完全な討伐を依頼したい』


 その言葉に、僕とレベッカは耳を疑った。


「……旧魔王? ですが、イリスティリア様。カレン様に呪いを掛けた魔王は、以前にわたくしが……」


 と、レベッカは言い掛けたのだが、イリスティリア様は厳しい口調で告げる。


『甘いぞ、ミリクの後継者よ。未だに呪いが解けぬという事は、その魔王は完全に消滅はしておらんはずだ。お主らは、何処かに潜んでいるその旧魔王の魂を確実に浄化せねばならん』

 

「(魔王ナイアーラは倒したのに、まだそんな相手と……)」


 正直、勝てる自信が無い。

 だが、そんな弱気な感情が女神様にも伝わったのだろう。


『……勝たなければ、其方の大切な仲間の命は無いぞ』

「ッ!?」


 僕は、イリスティリア様の指摘に言葉を詰まらせた。

 確かに、このままではカレンさんの命が危ないのは事実だ。

 それなら、やるしかない。


「分かりました。でも、その旧魔王は一体何処に……?」


「ふむ……以前、あの旧魔王を操っていたアカメを探せば、あるいはヒントになるやもしれませんが……」


 レベッカは思案しながらそう語る。


『……アカメ? 聞かぬ名前であるな?』

『儂も知らんな、そやつは何者じゃ?』


 意外な事に、女神様二人ともアカメの存在を認知していなかったようだ。

 僕達は彼女の事を二人に説明する。


『ほぉ、そのような者が居ったとはな。だが、そやつを探すより手っ取り早く済みそうなアテがあるぞ』


「本当ですか!?」


『うむ……かつて、あの魔王が住処にしていた大陸が現存しておる。あるいはそこには旧魔王軍の残党も残っておるやもしれんが、何にせよ行ってみる価値はある』


「その場所は分かりますか?」


『北の果てと呼ばれる場所であるな。火山地帯になっていて常に炎が噴き出ておる危険地帯であるぞ。魔物も他の地域よりも強力と噂されておる。もし行くのであれば、十分に注意するのだぞ』


 その後、僕達はいくつかのアドバイスを貰って、帰還の為に次元の門を開いてもらった。


「それでは、イリスティリア様、ミリク様、わたくし達は行かせて頂きます」


 レベッカはペコリと頭を下げて、次元の門の渦へと飛び込んでいった。


「じゃあ、僕も……」


『待つのじゃ、レイよ』

 僕がレベッカの後に続こうとすると、ミリク様に声を掛けられる。


「なんですか?」


『カレンの事じゃ。探索するのは良いが、そのままでは長く持たない可能性がある。儂が知っておる対策を授けておこうかと思っての』


「……そんな事、可能なんですか?」


『うむ。本来は準備の必要な儀式術であるが、これで呪いの進行を抑えられるじゃろう。ただし、あくまで一時凌ぎじゃ。それにお主にもリスクがあるが……』


「……いえ、それでも方法があるなら試したいです」


『うむ……よく言った。して、その方法であるが……ちと、耳を貸せ』

「???」


 僕は言われた通りに、ミリク様の傍に寄って彼女の口元に自身の耳を近づける。


『ごにょごにょごにょ―――』

「……!?」


 ミリク様のその術式の内容を聞いて、僕は思わず真顔で彼女の顔を見る。


「あの、それ冗談じゃないですよね? このタイミングで冗談言ったら流石に僕も怒りますよ」

 

『冗談では無い』


「で、でもそんなやり方……。

 ミリク様にも負担が掛かるでしょうし、それに―――」


『お主、その女子の事を少なからず想うておるのだろ?』


「……はい」


『ならば、躊躇するでない。それに儂だけではなくお主も負担が掛かるのじゃ、おあいこじゃろ?』


 ミリク様のその言葉に、僕は言い返そうと思った。しかし、ほわほわした普段の彼女の態度と比べて、今のミリク様は真剣な表情をしていた。


 ミリク様は本気で僕達の事を考えてくれている。

 なら、僕もしっかり覚悟を決めないといけない。

 

「……分かりました」


『……うむ。では準備を行うぞ。目を瞑るがよい』


「え、今ですか?」


『うむ。これから行う儀式は集中力が必要なのじゃ。

 故に、周りが見えていると気が散ってしまうかもしれんからのぅ』


「は、はぁ……」

 よく分からないけど、とりあえず言う通りに従う事にした。


 そして目を閉じると、僕の唇に柔らかい何か――――


「――――っっ!!!!」

 その瞬間、確信した。ミリク様は今、僕に口づけをしている。一瞬、殴り飛ばそうと思ったが、先程の覚悟したばかりなので、僕は抵抗せずに我慢して受け入れる。


「………っ!!」

『……ぷはぁ………もうよいぞ』


 しばらくすると、ようやく終わったようで僕はゆっくりと瞼を開く。

「……はぁ……はぁ……な、なにをしたんですか?」


 僕は息を整えながら、質問する。


『今のでお主に魔法を掛けた。あとは今から教える詠唱を覚えよ。良いな?』


「はい……」

 そして、僕は少し時間を貰ってから詠唱文を頭に叩き込む。


「でも、ミリク様。寝ている女の子にその方法は……何か別のアプローチは無いんですか?」


『まーだ、そんな事言っとるのか。これでもお主に相当譲歩したのじゃぞ。やろうと思えば、もっと違う方法で効率的な方法も存在するが、聞くか?』


「い、一応……」


『お主、房中術って知っとるか』


「却下!!」


『即答か。まぁ、別に構わんが』


「当たり前です!!」


 この人は僕達が未成年だという事を分かっているのだろうか。


『ならば、後はお主次第じゃ。やれるだけの事はやってみるがいい』


「……分かりました。ありがとうございます」


『うむ、では健闘を祈る』


『……ふむ、終わったか。レベッカが待ちくたびれておるぞ』


 呆れて見ていたイリスティリア様は『はよう行け』と言いたげに、手の平をヒラヒラさせる。


「あ、そうですね。それじゃあ、また!」

 僕は最後に二人に頭を下げてから、次元の門に飛び込んだ。

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