第587話 カレンの正体
『……馬鹿な』
『二世代前の……魔王じゃと……何故、そのような存在が復活していたのじゃ!?』
レベッカの説明に驚きの声をあげる女神様二人。
「何故かはわたくしにも説明出来かねますが、魔王軍の幹部と思われる存在が召喚魔法を行使して呼び出したと思われます。……しかし、お二人はご存じなかったのでしょうか?」
『……魔王軍が王都に進軍していたことは察していた。だが、我ら神は地上に直接干渉できぬ。故に危うい状況ならば事細かに観測して、間接的に力を貸し与えようとしていたのだが―――』
イリスティリア様はそう語り、ミリク様に視線を移す。
『儂の方は、その時はこっちにおらんかったからの。何かしら魔王軍が動いていることは察しておったが、詳しい事情は知らぬのじゃ』
「そうでしたか……」
『だが、そんな事態が起こっていたのであれば、もう少し注視しておくべきであった。敵の戦力を把握することと周辺の被害を抑えることに注力して、それ以上の情報収集を怠ってしまった……すまぬ』
「いえ、謝らないでください」
僕達が知らない所で、きっと二人は頑張ってくれていたのだ。
二人が責任を感じる必要は無いだろう。
『……レイよ、質問なのじゃが……。その、【カレン・フレイド・ルミナリア】という者の事をもう少し詳しく教えてくれ』
「……? それは構いませんが……」
僕はミリク様の質問に違和感を覚えながら、知る限りの彼女の情報を教えた。
『なるほど、その【カレン】という名前は本名では無いのか……』
『そしてその者には記憶が無く、人間としてはかけ離れた魔力を持つと……』
二人の女神は、何故かカレンさんの事を妙に詳しく知りたがっていた。
「何故そんなにカレンさんの事を知りたがるんですか?」
「カレン様は何か、‟特別”なのでしょうか?」
僕達は疑問に感じて質問する。女神様二人は僕達に質問されて一瞬だけ顔を強張らせたが、二人は互いを見合ってから順番に口を開いた。
『正直、言っていいものか我らにも判断が付かぬのだが……』
『その
「……?」
「……それってどういうことですか……?」
僕とレベッカは、事情がよく分からずに質問を続ける。
『其方たちの話から推測すると、その者は異世界人か、この世界の何処かの時代からタイムスリップした存在かもしれんのじゃ。
「た、タイムスリップ……?」
「異世界……その場合、レイ様と同じ境遇という事になりますが……」
レベッカは僕を見ながら女神様に質問をする。
『まだどちらかは判別できんが、そのカレンという者は、【聖剣アロンダイト】という剣を扱えていたのだろう?』
「はい……確か、そんな名前の剣でした」
「ですが、カレン様の話によると、調整してようやく使用できるようになったと仰っておりましたが」
『なるほどのう……調整か‥…』
『となると、異世界では無いな。別の時代の未来か、過去……どちらかであろう』
「そ、そうなのですか……?」
『聖剣アロンダイトは其方たちが想像するよりも遥かに強力な武器である。それこそ、勇者であっても扱いきれないほどのな……。それを調整しただけで使えるとなると、異世界の人間ではあり得ない』
「……ですが、レイ様は異世界人ですが、聖剣を扱えておりますよ?」
レベッカに言われて、僕は鞘に納めてあった剣を取り出す。
「
『それとはまた別物じゃな。本来のアロンダイトは神器、我ら神の武器なのだ』
「…………?」
『……その様子だと知らなかったようだの。
少し昔話をしよう。むかし、むかし……といっても、今から50年少し前の話じゃから最近ではあるがの……。聖剣アロンダイトは、今から1世代前の勇者に貸し与えた武器なのだ』
ミリク様は、まるで絵本の昔話をするような口調で話し始めた。
『当時の勇者の名前は、ケイローン。彼は戦士ではなく治療の魔法が得意な魔法使いであった。しかし、当時、他に有望な者が見当たらず、唯一適性のあった彼を儂は『勇者』として選定したのじゃ』
『ちなみに……余も勇者を選定していたのじゃが不作での。下手に魔王討伐に行かせてしまうと国が滅ぶので泣く泣く断念しておったわ』
僕の隣にいるイリスティリア様が補足するように言う。
『まぁ、そういうわけでな。魔王を倒すには聖剣の力が必要なのだが、彼は実戦経験が無く満足に振えない。故に、我ら二柱の女神が考えた結論は、【神器】である【アロンダイト】を人間に扱える程度の力に封印を施して貸し与えることにした』
『力を封印したといっても、その力は絶大での。ケイローンが剣に指示を出せば、勝手に剣が動き回り敵を駆逐する中々に強力な武器であったのう』
僕とレベッカは二人の話を静かに聞いていた。
しかし、勝手に動き回る武器とか想像するだけで不気味なのだけど……。
『……しかし、その剣はケイローン扱えるように事細かに調整を施した武器である。その武器を人間が少々弄ったところでまともに扱えぬはず……なので、我らはその【カレン】という存在をこう推測した』
そして、一拍置いてから告げる。
『カレン・フレイド・ルミナリアは、遠い未来か過去の【女神】ではないか、と』
「!?」
『あるいは、女神が人の子を産んで授かった【女神の子】のどちらかであろう』
「め、女神様と……」
「人の……」
僕達はイリスティリア様の言葉を聞いて驚く。
イリスティリア様は続けて語る。
『女神は、基本的に地上に干渉せぬ。だが、稀に人の子と恋に落ちる女神も存在する。その場合、子は人間の親から生まれ落ちることになる。その子は女神の力を継承し、人間のように成長するようになる。
カレンが何故記憶を無くしているかまでは分からぬが、人間としては余りにも強大な魔力と、アロンダイトをまともに扱えるという二点を考えるならば、おそらくどちらかだろう』
「か、カレンさんが女神だなんて……」
僕は隣のレベッカを見る。
「……?」
レベッカは、何故見られているのか分かっていない。レベッカ自身はまだ自覚は無いが、彼女も【女神】の力を継承しつつある女神の後継者であるのだ。
「(僕の周り、女神様ばっかりなような……?)」
姉さん、レベッカ、カレンさん、僕の近しい人で三人目だ。
……いや、待てよ?
「(……まさか、リーサさんも?)」
リーサさんもカレンさんと同じく記憶が無い。それに、二人とも顔立ちが近くて髪の色も目の色も似ている。だから以前、僕達は彼女たち二人が親子ではないかと推測を立てたことがあった。
「(いや、でもリーサさんは普通に歳を取っているはず)」
仮にリーサさんが女神で、カレンさんがリーサさんと人間の男の人との間に生まれた子供だとする。その場合、人と同じように成長しているカレンさんは【女神の子】として考えるなら辻褄が合う。
だけど、その場合リーサさんは【女神】という事になる。姉さん達から学んだ知識として、女神様はある程度の成人の姿になってからは不老不死の状態になって成長が止まる。
もしリーサさんが女神だった場合、彼女も外見が変わらなくなるはずだ。
しかし、リーサさんは普通に歳を取っている。
「レイ様、何を考えていらっしゃるのですか……?」
「え? いや、思い出したことが……多分気のせいかな‥…」
レベッカに声を掛けられて僕は我に帰る。
しかし、ここまで繋がりがあると、どうしても気になってしまう。
「あの、質問なんですが」
『うむ、言ってみるがよい』
ミリク様は胸を張って大仰に言い放つ。
「一度、神様になった存在が、老化することってあるんですか?」
『……変わった質問するのぅ?』
「いえ、ちょっと……」
僕は言い淀む。
『ふむ、結論から言うと、あり得るぞ』
「!!」
ミリク様は即答した。
『我ら神は、世界の理から外れた存在。通常老化する事などは無い。しかし禁忌を侵して罰を受けた場合は別じゃ』
「……禁忌ってどういうのものが該当するんですか……?」
『地上に生きる人間に過度に干渉し過ぎたり、世界のバランスを崩すような事をしてしまった場合は、それ相応のペナルティが与えられるの。儂らが必要以上に干渉できないのはそれが理由じゃ』
「なるほど……」
それなら、二人が僕達にあまり干渉してこない理由も納得がいく。
『それ以外にもあるぞ。例えば、先程の例じゃな。
女神の立場を忘れ、人間に恋をした場合も該当するの。その場合、もし主神の耳に入れば、罰を受けて地上、または何処かの異世界、あるいは別の時空に追放され、同時に女神として力を奪われてしまうじゃろうな」
「…………な、なるほど」
まさかの、自分の推測が的中してしまった。
これで完全に点と点が繋がる。
ここからは完全に僕の予想だが、おそらくほぼ正解だろう。
まず、リーサさんは間違いなく【女神】である。
過去か未来のどちらかは分からないけど、その時代の人間と恋をした。
二人は愛を育んで、リーサさんはお腹にその男性の子を宿した。
結果、生まれたのがカレンさん。
つまりカレンさんは【女神の子】という事になる。
二人は愛し合っていて、親子三人で幸福な生活を送っていた。
だけどリーサさんが人間の男性と恋仲になったことが主神にバレてしまった。
それに怒った主神は三人に罰を与えた。
主神がリーサさん達に与えた罰の内容はおそらく二つ。
リーサさんへの罰として【女神の権能をはく奪】。
そして、三人を別の時代に【タイムスリップ】させたのだと思う。
三人は、僕達がいるこの時代に追放され、地上に落とされた。リーサさんとカレンさんが記憶を無くしているのは、地上に落とされたショックだろう。人間の男性はどうなったのか不明だが、地上に落とされた時に死亡した可能性が高い。
しかし、これで完全に全ての辻褄が合ってしまった。
「……レイ様、本当にどうされたのですか? 先程のように落ち込んでいるというよりは、今は何かに驚いているように見えるのですが」
レベッカが心配そうに僕の顔を覗き込んでくる。
「……うん、ちょっとね……後で話すよ」
「……?」
僕は苦笑しながら、その場では一旦先送りしておく。
『そして、何故カレンを救えないかという話に戻るのであるが……』
「……!」「……」
イリスティリア様の言葉に、僕とレベッカが強く反応する。
『理由は主に二つある。一つ目は、彼女に掛かった呪いが凶悪過ぎること。魔王の呪いというのは、恐ろしく強固で解呪が神の力を以ってしても難しい』
「な……!」
レベッカが、その言葉に驚愕する。
しかし、僕はその言葉に誤りがあると感じて、イリスティリア様に異を唱えた。
「いや、イリスティリア様、それはおかしいです!」
『ん?』
「僕はグラン陛下……二世代前の勇者と話をしました。その時、彼は『魔王の呪いを受けて死に掛けたが、イリスティリアという女神に助けられた』と言っていました!
グラン陛下が戦ったのは、今回の魔王と同じ存在なはずです! なら、解呪出来るはず!」
僕は、イリスティリア様が嘘を付いていると確信し、強気にそう答えた。
しかし、イリスティリア様は言った。
『ふむ……あの時の勇者は、今の国王であったな。
確かに其方の言う通り、あの者の呪いを解いたのは余に違いない。彼の願いを叶えることと引き換えに、彼の呪いを解いた……副作用で、彼は不老不死になってしまったが』
「――なら!」
『……落ち着け、まだ一つ目と言ったであろう?
彼女が【女神】または【女神の娘】であると仮定すると、我ら女神と同等の存在という事になる。その場合、我らと同等の力をもつ彼女に対して、我らの力が通用せぬ。
これが二つ目の理由であり、こちらが邪魔するせいで解呪が行えぬのだ。カレンが女神だった場合、下手に手を出せば、魔王の力を暴走させるだけの結果に終わってしまうかもしれぬ。そうなればカレンの命をより縮めてしまうため迂闊に同じ手は使えない』
「……!!」
「そんな……!?」
『……だが、可能性は残されているぞ。彼女が女神であるなら全く別の手段で救う方法がある』
「……え?」
『心して聞くがよい。そして、我らが話すことを仲間に伝えるのだ』
イリスティリア様とミリク様は、互いに顔を見合わせてから、僕達に告げた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます