最終章 家族

第582話 お誕生日会

【視点:レイ】

 決闘から数週間後のある晴れた日。

 僕達は、とある貴族のお屋敷に招待されることになった。


「――では、こちらが招待状になります。当日はよろしくお願いします」


「はい、分かりました。わざわざありがとうございます」


「いえ、レイ先生がおいでになると知れば、お嬢様もとてもお喜びになるでしょう。では、失礼します」

 レイが代表して、お手伝いの女性から手紙を受け取ると、彼女達は馬車に乗って帰っていった。僕は馬車を見送ると、ホッと一息着いてから宿の自室に戻る。


 自室に戻ると、姉さんが僕の部屋のベッドで包まっていた。


「うえへへへへへへ………レイくんの匂いがするぅ……温かい~♪」

「…………」

 僕は無言で近づいて、彼女から布団を剥ぎ取る。


「あぁん! 何するのぉ!!」


「それはこっちのセリフだよ姉さん!! なんで人の部屋で勝手に寝てるのさ!?」


「えー、いいじゃん別にぃー。最近レイくんが私に構ってくれないからムラムラしてたんだからー」


「なにサラッととんでもない発言してんだよ!ていうか、僕が戻ってくるの分かっててここに居たでしょ!?」


「さぁ、何のことかなー?」

「……まったく」


 僕はため息をつく。

 ここしばらく、僕は自室に篭って勉強ばかりしていて暇が無かった。そのせいで皆とあまり顔を合わすことなく、それが理由か姉さんやレベッカがよくこうして遊びに来る。


 それは良いのだけど、姉さんは変態的な奇行が増えた気がする。

 僕が構ってあげないのが理由だろうか。


 この人、一応元女神様なんだけど、最近はただの変態お姉ちゃんにしか見えない。見た目は超絶美人なのに残念過ぎる。100年の恋も冷めるレベルだ。


「ところでレイくん。宿の主人さんに呼ばれてたみたいだけど何かあったの?」


「その時点から見てたんだ……僕に客人が来ててこれを渡された」


 僕は先程貰った手紙を自室の机に置く。


「何それ?」

 姉さんはベッドから起き上がり、僕が置いた手紙を興味深そうに見る。


「招待状だよ」

「招待状?」


 姉さんは手紙を手に取って僕の許可なく読み始める。


「ふむふむ、成る程……『サクライ・レイ様、並びにご家族の方々に、お伝えしたいことがございます。

 この度、お嬢様のお誕生日をお祝いするために、ささやかなパーティーを開きたいと思います。是非とも、当家に足を運んで頂ければ幸いです。お嬢様もレイ様とお会いできるのを楽しみにしていらっしゃいます。皆様方の参加、心よりお待ちしております』……って、これってつまり……」


「うん……エルデ家の誕生日会に招待されちゃった」


 僕はちょっと照れながら言った。


「わぁ、凄いじゃないレイくん! ……エルデ家……って誰?」


「姉さん……エルデ家って一応、この王都の有力な貴族なんだけど……」


「そ、そうだったの……?」

 僕は姉さんにちょっと呆れて、姉さんに説明をした。


「なるほど、私達が以前廃屋敷で助けたあの子……」

「うん、リリエルちゃん」


 あの子は僕が教えてた子供達の中でも特に懐いてくれていた。こうやって、僕が先生を辞めてからも交流を続けてくれるのはとてもありがたい。


「ど、ドレスを用意しなくちゃ……!」

「そんな慌てなくても……」

 僕は、貴族のお姫様に招待されて慌てる女神様という構図を想像して苦笑した。


 ―――数日後。


 僕達は迎えの馬車に乗って、招待されたお屋敷に向かっていた。


「それにしても、私も一緒に行っていいのかしら?」

「わたし、良いのかな……?」


 カレンさんとサクラちゃんは、若干心配そうに言った。


「大丈夫でございますよ。手紙には『レイ様のご家族の方も全員ご招待いたします』って書かれておりましたので」


 レベッカは、二人を安心させるようにそう言った。


「そ、それだと余計にわたしは駄目な気がするんですけどー」

 サクラちゃんは彼女にしては珍しく弱音を吐く。


「ふふ、気にしなくてもいいのよ。サクラちゃんも家族だから」

「ベルフラウさん、優しい!」


 サクラちゃんは姉さんのその優し気な言葉に感激している。僕の前では女神様の威厳が欠片も無い姉さんも、他の人の前ではしっかりしている。


 一体どっちが素なのだろうか。うん、前者だろうね。


「しかし、驚きましたね……しかしあの子はレイに懐いているとはいえ、屋敷にお呼ばれされるとは」


「うん、でも慕ってくれて嬉しいよ」

「手紙の中には私の名前も入ってましたし、まぁ悪い気はしませんね」


 エミリアも悪い気分じゃなかったようで、僕の言葉に同意する。

 僕達は話していると、僕達を運んでいた馬車の動きが止まる。


 そして、馬車の出口から声が掛かる。


「皆様、大変長らくお待たせしました。今しがた到着致しました」

「分かりました。ありがとうございます」


 僕は御者さんに感謝を伝えて馬車から降りる。

 すると、目の前に大きな屋敷が見えた。


「では皆様、案内いたします」


 そして、御者さんに別れを告げた後に、僕達は案内されて屋敷の門を潜り、中に足を踏み入れた。まずは中庭の庭園に案内され、色々なお話を聞いた後、いよいよ僕達は屋敷の中に入る。

 僕達が屋敷内に入ると、待ち構えていたメイドさん達と、執事の恰好をした渋い壮年の男性が礼儀正しく出迎えてくれた。


「ようこそおいで下さいました。アデルという者でございます。以後、お見知りおきください」


「よろしくお願いします。サクライ・レイと言います。今日はお招きいただき、ありがとうございます」


 僕は彼と同じように失礼の内容に頭を下げながら話す。


「奥のお部屋でリリエルお嬢様とそのご学友の方々がお待ちでございます。さぁ、こちらへどうぞ」


「はい、わかりました」


 そしてアデルさんに案内されること数分、僕達は広い部屋に通された。そこには、僕の知っている教え子たちの姿があった。どうやらパーティ会場のようで子供達は思いのままに話をしている。


 そして、一人の女の子が僕が来たことに気付いた。


「レイお兄様ー!!」

 真っ先に反応したのはエルデ家の次女である少女。リリエルちゃんだった。


 彼女は以前と同じように可愛らしい金髪のツーテールと可愛らしい猫のぬいぐるみを抱きかかえていた。以前と違うのは、ぬいぐるみの種類が変わっていることと、魔法学校の時と比べてより可愛らしいドレスで着飾っていることだ。


 リリエルちゃんは僕を見ると嬉しそうにトコトコと駆けてくる。

 そして、猫のぬいぐるみを抱きかかえたまま、僕に向かって軽くジャンプをして、僕の胸の中に飛び込んできた。


「レイお兄様!会いたかったです!」

「うわっ!?」


 僕は彼女が怪我をしないように、彼女を正面から抱きとめる。


「……って、もう……相変わらずだねリリエルちゃん」


「お兄様ー♪」

 僕に甘えるように頬ずりをする彼女を見て、僕は思わず頬を緩める。


「その子がリリエルちゃんだっけ?」

「うん、そうだよ姉さん」

 僕が姉さんの質問に答えると、頬ずりしていたリリエルちゃんがハッとした表情になって僕から一歩離れる。


 そして、自身のスカートの両端を両手で軽く持ち上げて、優雅に挨拶した。


「お久しぶりです。皆様、リリエル・エルデと申します。今日は、わたくしのお誕生日パーティに参加して頂き、本当にありがとうございます」


 リリエルちゃんは先程までの甘えん坊な姿とは打って変わって、お淑やかな態度を取る。

 流石貴族令嬢といったところだろう。


「あら、しっかりした子じゃない。誕生日おめでとうリリエルちゃん。私のこと覚えてる?」


 姉さんはリリエルちゃんの背丈に合わせて足を屈め、微笑みかける。


「は、はい……覚えています………」

「そっか、よかった。元気にしてた?」

「は、はい……とても……」


 リリエルちゃんは少し恥ずかしそうに俯いて答えた。


「リリエル様お久しぶりです。お誕生日おめでとうございます」

「ちゃんと魔法の勉強してましたか?」


 続いて、レベッカとエミリアが彼女に声を掛ける。


「あ、レベッカさん!それにエミリア先生も!

 えっへん、リリエルはこれでも毎日コレットと勉強してるからバッチリです!」


 リリエルちゃんは自慢げに話す。


「それって、コレットに勉強教わってるだけでは……」

 エミリアは彼女の言葉に突っ込む。


 そこに、リリエルちゃんに似た外見の女性がこちらにやってきた。

 その女性は、朗らかな笑顔を浮かべて僕達に一礼をしながら言った。


「初めまして、リリエルがお世話になっています」

「あ、は、初めまして……レイです」


 僕は慌てて挨拶する。


「(だ、誰だろうこの綺麗な人……? リリエルちゃんのお姉さんかな?)」

 その女性は、まさにリリエルちゃんを成長させたような姿の女性で、綺麗な長い金髪の髪を後ろで纏めて結っており、瞳の色は同じで、顔立ちもよく似ている。


 一言でいえば、凄く綺麗で可愛い人だ。

 年齢は……僕よりも少し年上くらいだろうか?


「あ、あの……リリエルちゃんのお姉さんですか?」

 そう予想したのだけど……。


 その女性は、僕の言葉に少しポカンとした表情を見えた後、嬉しそうに微笑んだ。


「ふふ、お姉さんって……もう、レイ先生ってば冗談がお好きですわ。私は、リリエルの母のララございます」


「お、お母さんっ!?」

 僕は驚きの声を上げた。


「こ、この外見でですか……」


「……普通に私と同年代だと思ったわ」


「可愛いお母さんですねー」


 エミリアとカレンさんは少し驚いたような顔をする。


「うふふ、ありがとうございます。先生の事はリリエルから沢山聞かされています。今日は娘共々よろしくお願いしますね、レイ先生」


 と、言いながらララさんは手を差し出して握手を求めてくる。


「あ、はい……こちらこそ……」

 僕は緊張しながらも彼女と握手を交わす。すると、今度はリリエルちゃんが僕の傍まで来て、僕の手をギュッと握った。


「レイお兄様、今日は楽しんでいってくださいね!」

「うん、リリエルちゃん」


 僕はリリエルちゃんの頭を撫でながら返事をする。


「ところで、そこの方……もしかして、フレイド家のカレンお嬢様でしょうか……?」


 リリエルちゃんのお母さんのララさんは僕の後ろに視線を移す。

 そこにはカレンさんが立っていた。


「私の事を知っているのですか?」


「ええ、ルイズ様と交流があった時期がありまして……その時に娘が居ると言っておられたので……」


「まぁ……私のお母様が?」


「申し訳ございません。まさか娘の誕生日会にフレイド家の方が来られるとは思っていなかったので……」


「いえ、気にしないでください。今日はレイ君……いえ、レイ先生の友人として招待されただけなので」


「そう言って頂けるとありがたいです……」

「……」


 そんな二人の会話を聞いていた僕は、何か違和感を感じた。


「(あれ、なんだろう。この感じ……)」


 どうも、ララさんの方がカレンさんに遠慮してる気がする。

 立場的に伯爵家であるフレイド家の方が、エルデ家よりも爵位が高いからだろうか?


 僕は不思議に思いながらも、リリエルちゃんに手を引かれる。


「レイ様、お席に案内しますね♪」

「うん、分かった。それじゃあみんな、ここからは自由行動って事で」


 僕は仲間達に向かって言う。


「了解です」

「じゃあお姉ちゃんは、美味しそうに用意されてる食事を楽しんでくるねー」

「では、ベルフラウ様。わたくしもお供します」


 3人はテーブルの方に歩いて行った。


「カレンさんとサクラちゃんはどうする?」


「私は、ララさんと少し話をしたいかしら……サクラはどうする?」


「わたしは子供達の所に行って挨拶してきますね。レイさんの教え子たちに興味があります♪」


 僕はそれを見送った後、リリエルちゃんの後について行く。




 ◆ここからは本編とは関係ない筆者のコメントです♪◆


「女神様といっしょ」を読んでくれてありがとうございます!


 この話から、割とマジで最終章に突入します!!!

 いやぁ……長かった……!


 まだ、どれくらいの話数が必要になるか自分で見当は付いていませんが、あと少しだけお付き合いしてくれると嬉しいです!!!


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 誤字修正や感想も随時受け付けております!!それでは!!

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