第573話 学校27
王都のとある高級料理店にて―――
「えー、ではレイの将来の道について話し合おうの会を始めます」
「「「いえーい」」」
エミリアが音頭を取り、三人の少女達はパチパチと拍手をした。
ちなみに僕のもう一人のお姉さんことカレンさんも今回は同席している。
「……いや、これ何?」
「レイの保護者達が集まって一緒に進路相談をしましょうという会ですが」
「………うぅ」
僕は恥ずかしくなってレストランのテーブルの上に項垂れる。少々高級指向のお店な為か、他の客数は少ない。しかし、それでもこんなプライベートな話をする場としては似つかわしくない。
「お姉ちゃんはレイくんがきちんと将来の事で悩むようになってくれて嬉しいよ」
「レイ様の妹として、兄が立派になっていく姿を見届けるのは当然のことでございます」
「レイ君の進路相談と聞いて」
三人は話をしながら、テーブルの上に出された食事に手を付けている。
「よりによってこんな所でやらなくても……」
「今回あまり来ない店を選んでますし、私達全員に認識阻害の魔法を掛けてますからレイの正体もバレませんよ。良かったですね」
「全然良くないよ」
そしてここでやる意味の説明になってない件について。
「さて、それじゃ早速ですが、皆の意見を聞きたいのですが、何かありますか?」
エミリアはそう言って3人に意見を求める。するとレベッカが真っ先に手を挙げる。
「レイ様に最初にお聞きしたいのですが……」
「うん」
僕は相槌を打ってレベッカの言葉を待つ。
「レイ様は騎士のお仕事と、魔法学校でのお仕事、どちらの方が自分に合っていると思いましたか?」
「え、えーと……」
合っているかと聞かれると、正直どっちも合ってない気がする。
「では私の質問ね。今の素直な気持ちを教えてほしいの。レイ君、あなたは今どういう気持ち?」
「皆に謎の面接を受けて超緊張してます」
「真面目に答えて、単純にレイ君がどうしたいのか訊きたいのよ」
「……はい」
カレンさんの真剣な眼差しに僕は思わず背筋を伸ばして答える。
「……本音を言うと、僕は今の子供達と一緒に居たいと思ってる」
僕がそういうと、カレンさんはポカンとした表情をした後に、少し困った顔をしながら笑う。
「ふふっ……なんだ、レイ君。もう気持ちは決まってるんじゃない」
「……うん」
「だったら、私達が言うことは一つだけ」
そう言ってカレンさんは僕に人差し指を立てて言った。
「やりたいことをやりなさい。それが一番貴方の為になるわ」
「……だけど、僕に先生なんて出来るのかなって」
僕は自身の不安を打ち明ける。
今までは、ハイネリア先生やエミリアのサポートがあったのと、そもそも生徒達が僕を慕ってくれていたから問題は無かったけど、今度は違う。
自分で自分を認めないといけない。それに、上手くやれるか自信が無い。
すると姉さんは、呆れたように言った。
「あのね、レイくん。私が何年貴方の母親代わりをしてきたと思うの?」
「……ちょっと待って姉さん。いつ姉さんは僕の母親代わりしてたの?」
そもそもあなたは僕の姉代わりでしょうに。
「お姉ちゃんはレイくんの姉代わりにして母親代わりなの、今決めたの」
「女神様が自分のお母さんとか言い出してこっちは驚愕してるんだけど」
「大丈夫、お姉ちゃんは女神だから、レイくんの事はなんでも分かるの。実はレイくんは私の事をお母さんのように思ってるって事も知ってるから」
「いや、思ってないけど」
「またまたぁ~」
「いや、マジで」
「照れなくても良いんだよ? ほら、この胸に飛び込んでおいで」
「嫌だよ」
「レイ様、ではわたくしの胸に飛び込んでくださいまし」
レベッカまで乗ってきた。
二人は手を広げて僕を抱きとめるかのように笑顔で待ち構えている。
「あ、今日の二人はそういうノリなんですか、じゃあ私も」
エミリアはそう言いながら、二人と同じように両手を広げる。
「レイくーん、はーいママですよー」
「わたくしはレイ様の妹ですが、レイ様のママになっても良いと思っております」
「私はただの悪ノリなので本気にしないでくださいね。ママですよー」
三人がふざけて僕を迎え入れる体勢に入る。
「……えぇー」
「……止めなさい、三人共。周囲の目線が痛いわ……」
カレンさんはため息を吐きながら三人を嗜める。
エミリアはカレンの言葉に不満そうな表情をしながら言った。
「良いじゃないですか。カレンもレイのママごっこに参加しませんか?」
「結構よ。っていうか、レイ君の進路相談の話は何処に行ったのよ」
「それも大事ですが、私達はレイの保護者面したいんですよ」
「……はぁ、まったく。しょうがない子達ね……仕方ないわ」
カレンさんは呆れた表情を浮かべる。
そして僕の方に向き直り、真面目な表情で言った。
「……というわけで、レイ君。私もママよ。なんでも言ってね」
「なんでカレンさんも乗ってるの!?」
カレンさんがそっち側に行くと止める人がもう居ないんだけど!?
「だ、だって……何だか三人共楽しそうなんだもん……。
私もフリで良いから少しそんな気分を味わってみたくなって……」
「いや、そんな顔を赤らめてこっちの顔色を窺いながら言われても困るんだけど……」
カレンさんも何気にこういう事やってみたかったのか……。
「さぁ、レイ。私達の胸に飛び込みましょう。飛び込むのです」
「レイ様、妹である私に甘えても良いのですよ?」
「さぁさぁ、レイくーん」
「ちょ、ちょっとだけよ……今は人前だからほんの少しだけ……」
「ねぇ4人は馬鹿なの!? 僕の進路相談の件マジでどうなったの!?」
この後、食事が終わった後もずっとこんな感じだった。
それから30分後――――
「……結局、レイくんは全然甘えてくれなかったわ」
「ふむ、やはり人前で言い出すのは悪手だったのかと、ベルフラウ様」
「あはは、もしレイが本気で甘えてきたらそれはそれで面白かったですね」
「三人共……レイ君が冷たい目して私達を見てるからその辺にしときましょうよ……」
カレンさんの言う通り、僕は三人を白い目で見ていた。
「はい、それじゃ次の議題に移ります」
「まだやるの!?」
エミリアのすっとぼけた発言に僕は突っ込む。
「ズバリ言いますが、レイは誰にママになってほしいですか」「おい」
「ちなみに、私とベルフラウとレベッカとカレンの四択です」
「この話まだ引っ張るの?」
「ふふ、レベッカほどでは無いですが、この私エミリアもレイの多少の気持ちの揺らぎが分かりますよ。レイは甘えたい願望があるでしょう? この際、自身の性欲……じゃなくて、願望のままにこの中の誰かに甘えてみてはどうです……ママだけに」
「もうやめて、マジで」
エミリアは真剣な眼差しで言う。もう本当にやめてほしい。僕にこれ以上変な属性付けようとしないで。
「冗談は置いておいて、レイにはもっと自分を押し殺さないで欲しいのですよ」
「どういうこと?」
「レイ、あなたは素直な本音は言ってくれますが遠慮し過ぎです。この際、上手く行くかは気にしないでください。レイは今、子供達の先生を続けたいと思っている。それは騎士団の仕事や勇者としての使命よりも気持ちが上なのでしょう?」
「……そ、それは……」
僕はチラリとカレンさんの方を見る。
今の僕の立場、自由騎士団副団長の地位は、カレンさんから引き継いだものだ。だけど、ここでエミリアの言葉を肯定してしまうと、カレンさんに対して申し訳ない気がする。
僕の視線に気づいたのか、カレンさんは僕に諭すように言った。
「……レイ君は、今の生活が気に入っているんでしょう?」
「……うん」
「なら、それを貫けばいいと思うわ。レイ君は私が不在な間、十分立派に騎士の勤めを果たしてくれたわ。今のレイ君に、騎士の立場が重荷になっているので遠慮せずに言って。私は貴方を笑顔で送り出してあげるわ……だから気にしないで」
「……カレンさん」
「……私からも一つだけ言わせて頂戴」
僕とカレンさんが話をしていると姉さんが話しかけてくる。
「何? 姉さん」
「あのね、私は別に教師になりたいとか、そういうのを否定はしないけど、無理はしないでね。やりたい事があるのなら、私は応援してあげたいし、もし何かあった時はお姉ちゃんが助けてあげる」
「……ありがとう、二人共」
二人の言葉を聞いて、僕は思わず泣きそうになる。
「……ふふ、レイ君は涙脆いわね」
「それがレイくんの良いところなのよ、カレンさん」
二人はそう言いながら僕を抱きしめた。二人に抱きしめられた僕はしばし時間を忘れて、二人の温かさに身を委ねるのだった。
◆◆◆
「……結局、何だかんだでこの二人のママ適正高そうですね……」
「むむ……わたくしもレイ様のママになってあげたいです」
「レベッカは妹ポジションで満足したんじゃなかったんですか……?」
「わたくしはレイ様にとっての妹であり、姉であり、ママであり、恋人であり、よき家族になりたいと思っております」
「いや、欲張り過ぎでは……」
「ですが、レイ様にママは何人いても問題ないと思いませんか?」
「…………」
「どうしましたエミリア様、何故黙り込んでしまうのです」
「……いえ、確かにママが何人いてもいいとは思いますが……その、妹と母は両立するのかなと思いまして」
「わたくしの愛読書の一節にこういう言葉があります。
『男性が女性に求めるものは、愛嬌と母性であり、男性は皆女性に癒しを求めている……』と。
つまり、愛嬌の象徴である『妹』と母性の象徴である『母』は両立するのです」
「(とんでもない超理論言い出しましたね、この子)」
レイが母性溢れる姉二人に癒されている間、エミリアはレベッカのトンデモ論理に戦慄していた。
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