第571話 学校25
キャンプ地に戻ると仲間は既に目を醒ましていた。僕達の姿を見ると、仲間達は少し焦った様子で駆けてくる。話を聞いてみると、森の入り口の方で大きな音がしたため、僕達に何かあったのか心配していたようだ。
勿論これはサクラちゃんの魔法が理由である。
「何があったんですか、レイ? ……まさか、魔王軍の残党に襲われたとか?」
「そうだね。一体何があったんだろうね、サクラちゃん?」
僕は苦笑しながら、若干居た堪れなそうな顔をしていたサクラちゃんに話を振る。
「うぅ、ごめんなさい……」
「???」
彼女のその反応に、仲間達はクエスチョンを浮かべていた。
反省しているようだし、これ以上意地悪な事は言わないであげよう。
そして、僕達は朝食を摂って、テントを畳んで後始末を終えて、森を後にする。
これで今回の僕の休日は終わりだ。
色々と醜態を晒したりハプニングこそあったけど充実した一日を過ごせた。
◆◆◆
その帰宅中にて。
「皆様、わたくしはレイ様の妹になりました。よろしくお願いします」
レベッカは皆の前でそう言って丁寧に頭を下げる。
彼女なりに自身の転機として考え、皆に認めてもらうつもりで言ったのだろう。
が、しかし……。
「……?」
「んん、どういうこと?」
「今までと何か違うんですか?」
事情を知らない三人はレベッカの発言を謎の宣言としか捉えていなかった。
その反応で逆にレベッカが戸惑い、向いて焦った様子で僕に話しかけてきた。
「レイ様、皆様が認めて下さいません!」
「うん、落ち着こう」
そもそも、皆にとって彼女は、ずっと僕の妹ポジション兼マスコットなのだ。
僕がそう説明すると、レベッカは唖然とした表情をしていた。
「なんと……! わたくしはずっと妹して認められていたのですね」
「(逆になんでそう思われてないと思ったんだろう……)」
彼女の精神は幼いようで達観してて、精神が成熟しているように見えて実は子供なのだろう。考えて言葉にしたら余計意味分からなくなって混乱してきた。
「と、ともかく、わたくしとレイ様は
「まぁそういう事で……」
僕とレベッカの発表に、三人は全員ポカンとした様子だった。
ちなみにさっきからサクラちゃんはずっと笑ってた。
◆◆◆
その日の午後……。
僕達は王都に帰宅し、軽く二度寝をしてから僕とエミリアは学校に到着した。
しかし、僕は諸々の理由で学校に向かう足取りが重かった。
「ああ、憂鬱……」
僕は魔法学校の校舎を見上げてポツリと言葉を漏らす。
すると、隣を歩いていたエミリアが言った。
「休日終わって鬱になるシャカイジンみたいなこと言い出しましたね」
「突然核心を突くの止めてくれるかな、エミリア」
あとシャカイジンなんて言葉はこの世界には無いはずなんだけど、どこで知ったんだ。
「何故そこまで憂鬱なんですか。特別新生学科はレイの大好きなロリっ子とショタっ子の宝庫ですよ」
「人を歪んだ性犯罪者みたいな言い方すんな!」
「……では、その溜息は一体何ですか?」
「……はぁ」
僕は小さく溜め息をつく。
「……だって、子供達に女装を見られたし……」
「……成る程、そういう事ですか」
「もし、学校で噂になってたら………ああ、過去のトラウマが……」
僕はその場で頭を抱えてしゃがみ込む。
「昔、学校で何があったんですか?」
「……色々、髪の色が理由で苛められたり、席に座ろうとしたら後ろから席を引かれて転んだりとか……」
「あー、前に子供達のイジメに随分と怒っていたのは、自身の経験に基づくモノだったんですね」
「……うん」
僕は立ち上がり、歩き出す。
「……もういいや、とりあえず教室行こう」
「切り替え早いですね」
「いつまでも引き摺っても仕方ないしね」
「それもそうですね。そもそも、あなた今の立場先生ですし」
「うん」
「女装が可愛い先生って事で人気者になるかもしれません」
「やっぱ帰ろう」
僕は踵を返す。が、即座にエミリアに手を掴まれる。
「ダメです。レイもいつまでも子供じゃないんですから割り切りましょう」
「うぅ……」
正論で返されて僕は何も言えなくなり、大人しく教室に向かった。
◆◆◆
「わー、レイ先生だー」
「エミリアせんせー、こんにちはー」
「レイ先生~」
「こ、こんにちは」
教室に入ると一斉に駆け寄ってくる生徒達。
皆、僕達に会えて嬉しそうだった。
「(良かった……噂にはなってないみたいだ……)」
僕だと気付いていたのはメアリーちゃんだけだったし、彼女が言わなければ大丈夫だろう。そのメアリーちゃんが僕と目が合うと、笑顔で手を振ってくれたので僕も手を振って返事をする。
「せんせーたち、今日は休みって聞いてたけど?」
変な噂が立ってないか心配で来ました。
「あ、うん。そうなんだけど、皆に会いたくてさ、あはは……」
「そうなんだー」
「……女装がバレてなくて良かったですね」「おいやめろ」
エミリアが小声で余計な事を言ってきた。
子供達がキョトンとしているじゃないか。
「ねぇレイ先生」
「うん? どうしたのかな、セラちゃん」
生徒の一人のセラちゃんが声を掛けてきた。
「せんせー、昨日、商店街の衣服店に来てませんでした?」
「ぎくぅ!?」
「やっぱり!」
僕が動揺して声を上げると、それを肯定と捉えたのか、セラちゃんは笑顔になった。
「あのお店は私のお父さんが経営してるお店なんですよー。その時、お父さんと私ががたまたま店に顔を出してて、その時にレイ先生に似た人が試着室に入っていって―――」
「あ、僕用事を思い出したから帰るね。エミリア先生、後は任せた」
「おい逃げんなですよ」
「ぐぇ」
僕が逃走を図ろうとすると、エミリアに襟首を掴まれた。
そして、僕は他の子達にも囲まれて質問攻めにあった。
「せんせー、今度お店に遊びに来てねー。可愛いお洋服用意して待ってるから♪」
セラちゃんはとびきりの笑顔でそう言った。
「う、うん、機会があればね……」
絶対行かないと心に決めつつ、僕は苦笑いを浮かべながら答えた。
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