第570話 休日17

 僕とサクラちゃんの手合わせ中。あまりにも気合いが入り過ぎたサクラちゃんは自身の最強の攻撃魔法をぶっぱしてきた。


「レイさん、これで終わりですっ! <天轟く大嵐>サイクロンテンペスト!!!」

「―――っ!!」


 ちょっ!?サクラちゃん、いきなり本気出し過ぎ!!!

 こんな魔法受けてしまえば、僕だけじゃなくレベッカまで巻き込んでしまう!


「レイ様!!」

「分かってる!! <蒼い星>ブルースフィア!!!」

『―――』


 僕は即座に自身の聖剣に指示を出す。蒼い星を構える僕とレベッカを中心に光のバリアが展開する。サクラちゃんの極大魔法に飲み込まれる寸前に、光のバリアによってその風の魔法ギリギリ防ぐ。


 それでも、バリアごと吹き飛ばそうとする極大魔法の威力は絶大で、僕達の周囲の地面と樹木が吹き飛んで空に舞い上がっていく。


「ぐっ………!!!」

 聖剣のバリアを展開するのはかなりの魔力を消費する。

 それでも僕自身を守るだけなら消耗は抑えられるが、今はレベッカを守らなければならない。そうなってくると通常の消費の倍近くの魔力を消耗してしまう。


「れ、レイ様!?」

「大丈夫………!!!」

 彼女を安心させるように言うが、正直、このままでは押し負ける。この状況をどう打破するか考えていると、蒼い星が僕の脳内に語り掛けてくる。


『レイ、このままだとジリ貧。レベッカを抱えて離脱を提案する』


「どうやって?」


『私の意思でバリアを展開し続ける。あなたはその間にレベッカを保護して飛行魔法で上空まで飛んで。バリアを張っていればどうにか脱出できるはず』


「そんな事出来るの!?」


『今の貴方なら可能、どうする?』


「じゃあお願い!」


 僕は剣を右手に持ち替えて、左腕を伸ばしてレベッカを抱き寄せる。

 蒼い星の言う通りに<飛翔>の魔法を使う。


「わわっ、レイ様!?」

「ごめん、ちょっと我慢して!!」


 僕はレベッカを片腕で強く抱きしめると、飛翔の魔法を発動して、彼女の魔法が及ばない空域にまで一気に飛び上がる。


 その途中、上空にいた魔法発動中のサクラちゃんと一瞬目が合う。


「あれ、レイさん!?」

 サクラちゃんは、僕達がいとも簡単に脱出したことに驚いているようだ。

 彼女には色々言いたいことはあるけど、今はこう言っておこう。


「サクラちゃん、やりすぎ。後で覚えてなよっ!」

「ふえっ!?」


 僕は彼女を叱りつけてから、僕はそのまま彼女よりも更に上空へ飛んでいく。そして、大体上空100メートル程度の距離まで飛んだところで動きを止めて下を見ると、僕達が居た場所がサクラちゃんの極大魔法により吹き飛ばされていた。


「……はぁ、何とかなったか……」

「流石サクラ様……凄まじい威力の魔法でございましたね……」


 僕の抱えられたレベッカは、地上の様子に唖然としながらも彼女の魔法の力に驚嘆していた。


「ありがとう、蒼い星ブルースフィア。キミの機転で助かった」

『……仕方ない。こんな馬鹿馬鹿しい戦いで、貴方を失うわけにはいかない』

 その声色は若干呆れていた。


「ひとまず地上に降りよう。さっきサクラちゃんに叱っておいたから、追撃されることは無いと思う」


「サクラ様にお説教なさったんですか……? それはまた珍しい光景ですね……」


「まぁ、僕だって怒ることはあるよ」


 悪気はないとはいえ、彼女の攻撃は手合わせの度が過ぎていた。仲間だから遠慮無用な部分もあるとはいえ、極大魔法はどう考えても過剰過ぎる。


「……サクラちゃんとは一度しっかり話をしないとね」

 僕はため息を吐きながら話す。


「レイさん、レベッカさん! ごめんなさい、無事ですかっ!?」


 すると、地上からサクラちゃんの声が聞こえてきた。

 僕は地上にいる彼女に目を向けると、こちらに向かって手を振っていた。

 僕は彼女に聴こえるように降下しながら大声で返事を返す。


「平気だよ! でもサクラちゃん。ちょっとそこから動かないでね!!!」

「へ? あ、はい!!!」


 困惑した様子でサクラちゃんは僕に返事を返す。

 その様子に、僕は苦笑しながら二人に話しかける。


「さて降りよっか、蒼い星、レベッカ。降りたらサクラちゃんに説教だね」


『……そうね』

「承知しました、レイ様」


 僕達はサクラちゃんに声を掛けた後、ゆっくりと地上へと降りた。


 ◆◆◆


 僕達が地面に降りると、サクラちゃんは僕達の下に駆け寄ってきた。


「レイさん、大丈夫でしたか!?

 ごめんなさい、手合わせに夢中になって加減を忘れちゃいました!!」


「うん、大丈夫。……だけど、ちょっとそこで正座ね?」

「うぇ!?」


 僕は笑顔でサクラちゃんに伝えると、彼女は戸惑いながらも素直に従ってくれた。

 その後、サクラちゃんを正座させたまま、彼女に注意する。


 ―――三分後。


「……ごめんなさい。うぅ、足が痺れたよぅ……」


 サクラちゃんは謝罪の言葉を言いながら、正座した足を崩す。

 ちなみに、レベッカは離れた場所で待機している。


「全く、反省してよね?」

「はい……やり過ぎました……」


 こんな所で良いだろうか。彼女も反省したようだし、これ以上説教を引き伸ばすのも可哀想だ。


「……うん、反省したならもういいよ。だけど、今度こういう事したら二度と手合わせしないからね」

「!!」


 僕がそういうと、サクラちゃんは涙目になりながら僕を見つめる。


「そんな悲しそうな顔をしてもダメ」

「……はい」


 僕の言葉に、サクラちゃんは俯いてシュンとする。


「話は終わったからサクラちゃんも立っていいよ。

 それにもう結構時間も経っちゃったし、いい加減帰ろう」

「……えー?」


 僕がそういうとサクラちゃんは立ち上がってちょっと不満そうな顔をする。


「ん、何かあるの?」


「だって、手合わせの最中だったのにぃ」


「それはサクラちゃんがやり過ぎて中断になったからでしょ」


「むぅ~……」


 僕の指摘に、サクラちゃんは頬を膨らませて拗ねる。

 どうやら本気で手合わせの続きをしたかったらしい。


「(はぁー、この子も妹っぽく思えてきた……)」

 レベッカと違って、手の掛かる妹って感じ。これはこれで可愛らしくはあるのだけど。


「また今度にしよう、次はこういうの無しだよ? 」

「はーい」


 サクラちゃんは渋々といった表情で返事を返した。その様子は、魔法学校で子供達が先生に怒られた時の子供達の反応そっくりで、つい笑ってしまった。


「むー、何が可笑しいんですか?」


「サクラちゃん、子供っぽい」


「子供じゃないですー、大人ですー」


「はいはい」


 サクラちゃんは少しムッとした様子で反論してくる。僕はそれを軽く受け流して、レベッカの下へ向かう。


「それじゃあ行こうか、レベッカ」

「畏まりました」

「あ、待ってくださいよぉ!!」


 僕とレベッカの後を追って、サクラちゃんは掛けてくる。


「(……やれやれ)」


 しかし、今回はサクラちゃんとの手合わせは中断という事になったけど、ある意味行幸だったかもしれない。今真剣勝負しても、身体が鈍っていた僕の方がおそらく負けていただろう。


「……鍛え直さないとなぁ」


「レイ様、何か仰いましたか?」


「……何でもない。さ、キャンプに戻ろう」

 レベッカに聞かれたけど誤魔化して、僕達はキャンプ地に戻ることにした。

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